レプチンの発見:仮説と検証
Douglas Coleman is recognized as the researcher who raised the hypothesis and predicted that a circulating satiety factor was lacking in the ob/ob mouse, and predicted that this factor acted at the hypothalamic level to modulate food intake. After three decades, in an attempt to identify the genes that were mutated in the ob/ob mouse, Jeffrey Friedman found that the ob gene encodes a protein hormone that reverses obesity and other abnormalities of this genetic rodent model of obesity.
From the conceptual basis to the discovery of leptin Biochimie Volume 94, Issue 10, October 2012, Pages 2065-2068 Biochimie Mini-review https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0300908412002635
obマウスとdbマウス
In the 1960s, Dad became interested in two strains of obese mice that arose out of The Jackson Laboratory breeding stocks: ob/ob and db/db. While both of these mice strains are always hungry (hyperphagia) and consequently massively obese, the ob and db mutations are located on different chromosomes.
Douglas L. Coleman, 1931–2014 Thomas R Coleman Diabetologia. 2014 Oct 7;57(12):2429–2430. doi: 10.1007/s00125-014-3393-7
ob/obマウスと健常マウスとの血液を共有をさせた実験
ob/obマウスと健常マウスが血液を共有できるように手術してやると、ob/obマウスは摂食量が正常なレベルまで減少しました。この実験結果は、健常マウスには「もうご飯は十分食べたからこれ以上食べなくていいよ」という「満腹シグナル」が含まれていると考えられました。そしてob/obマウスにはこの「満腹シグナル」が存在していないが、「満腹シグナル」に対して応答することはできると思われます。
- One such means to link blood supplies involved surgically joining two mice by skin-to-skin anastomosis—a technique termed parabiosis.
- pairing ob/ob with normal mice caused the ob/ob mice to reduce their food intake to that observed in the normal–normal pairing [5].
- This result suggested that the normal mice produce a blood-borne ‘satiety factor’ that could control obesity and that the ob/ob mice recognised and responded to this satiety factor.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4218972/
- Effects of parabiosis of obese with diabetes and normal mice. Coleman DL. Diabetologia. 1973;9:294–298. doi: 10.1007/BF01221857. [DOI] [PubMed] [Google Scholar]
db/dbマウスと健常マウスとの血液を共有をさせた実験
ob/obマウスを用いた実験とは全く異なる結果が、db/dbマウスの実験では得られました。db/dbマウスと健常マウスの血液を共有させてやったところ、db/dbマウスの食欲は落ちずに食べ過ぎて肥満のままだったのに対して、なぜか健常マウスのほうが食べるのをやめて餓死してしまったのです。これはどう解釈すればよいのでしょうか。実験したコールマンの解釈はこうでした。db/dbマウスでは「満腹シグナル」すなわちもう食べるのを止めなさいというシグナルは出ているが、それに対して応答することができなくなっている。なので、血液を共有した健常マウスは「もう食べるのを止めなさいという「満腹シグナル」を貰い続ける状態に陥った結果、食べなくなって餓死したというわけです。
When paired with normal mice, the db/db partners continued to gain weight, while the normal mice in each pair consistently died [6]. At necropsy, the normal mice lacked any food in their stomachs and had no glycogen in their livers: they had starved to death. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4218972/
- Effects of parabiosis of normal with genetically diabetic mice. Coleman DL, Hummel KP. Am J Physiol. 1969;217:1298–1304. doi: 10.1152/ajplegacy.1969.217.5.1298. [DOI] [PubMed] [Google Scholar]
レビュー論文
- From the conceptual basis to the discovery of leptin Biochimie Volume 94, Issue 10, October 2012, Pages 2065-2068 Biochimie Mini-review https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0300908412002635
- A historical perspective on leptin Douglas L Coleman https://laskerfoundation.org/wp-content/uploads/2021/01/2010_b_coleman.pdf 変異マウスや健常マウスの皮膚を縫い合わせて血流を共有させた実験結果のまとめの図がわかりやすい。
- Lasker Lauds Leptin Jeffrey S. Flier1,2 jeffrey_flier@hms.harvard.edu ∙ Eleftheria Maratos-Flier2 emaratos@bidmc.harvard.edu Cell BenchMarksVolume 143, Issue 1p9-12October 01, 2010 https://www.cell.com/fulltext/S0092-8674(10)01069-X
原著論文
- Leptin and the regulation of body weight in mammals J M Friedman 1, J L Halaas Affiliations Expand PMID: 9796811 DOI: 10.1038/27376 Nature . 1998 Oct 22;395(6704):763-70. doi: 10.1038/27376.
- Identification and expression cloning of a leptin receptor, OB-R. Cell 83, 1263–1271 (1995). Tartaglia, L. A. et al. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0092867495901515?via%3Dihub
参考記事など
- 2012年ノーベル賞を予想する!~生理学医学賞その1~ 2012年09月16日 日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ 糖尿病マウスと普通のマウスの血管を繋ぐ実験をしました。この方法では2匹のマウスの血液がお互いの体を流れるので、血液中に「何か」があれば、どちらかのマウスに何かしらの影響が出ると考えられます。Colemanさんは糖尿病マウスの症状が良くなるかどうかを調べようとしたのですが、予想外なことに普通のマウスは食べるのをやめてしまい、やせ細って死んでしまいました。
レプチンは満腹シグナルだったのか?
Colemanは後にレプチンと同定された血液中の因子のことを満腹因子 satiety factorと呼んでいました。優れた洞察力で数々の仮説を正しく立てていたColemanでしたが、レプチンが満腹因子であるということに関してはどうやら修正が必要なようです。結論を先に言えば、レプチンは決して、ご飯を食べている最中に、もうお腹いっぱいだから食べるのを止めようという指令として働くホルモンではありません。そういう意味で満腹シグナルという見方は正しくないのです。そのあたりをChatGPTに整理してもらいましょう。
ChatGPT 4o:
インスリン分泌におけるATP/ADP比の上昇が引き金となるβ細胞の機構と比較して、脂肪細胞からのレプチン分泌はより複雑で多因子的な制御を受けています。以下に、レプチン分泌の分子メカニズムについて、現時点で明らかになっている主な要素を整理します。
🧬 レプチン分泌の分子メカニズム:ATP/ADP比に相当するシグナルは?
脂肪細胞におけるレプチン分泌は、以下のような代謝状態やシグナル分子によって調節されています
1. インスリンとグルコース代謝
-インスリンは脂肪細胞のグルコース取り込みを促進し、これによりレプチンのmRNA発現と分泌が増加します
-グルコース代謝産物(例:グルコース-6-リン酸、脂肪酸合成中間体)がレプチン遺伝子の転写や翻訳を促進する可能性があります
-ただし、ATP/ADP比の変化が直接的なトリガーとなる明確な証拠は現時点では示されていません
2. mTOR経路
-mTOR(mechanistic Target of Rapamycin)は栄養状態やエネルギー状態を感知するセンサーであり、レプチン分泌の調節に関与しています
-mTORの活性化は、レプチンの翻訳や分泌を促進する可能性があります
3. cAMPとカルシウム
-cAMP(cyclic Adenosine Monophosphate)は、レプチン分泌を抑制する方向に働くことが報告されています
-カルシウムイオン(Ca²⁺)は、インスリン分泌においては重要な役割を果たしますが、レプチン分泌においてはその役割は明確ではなく、異なるメカニズムが関与している可能性があります
4. 脂肪酸とマロニルCoA
-脂肪酸合成の中間体であるマロニルCoAや脂肪酸自体が、レプチンの合成と分泌を調節する可能性があります
-これらの代謝産物は、脂肪細胞のエネルギー状態や栄養状態を反映する指標として機能する可能性があります
🔍 まとめ:レプチン分泌の特徴
- *多因子的制御:レプチン分泌は、インスリン、グルコース代謝産物、mTOR経路、cAMP、カルシウム、脂肪酸など、複数の要因によって調節されま。
- *ATP/ADP比の直接的な関与は不明:インスリン分泌におけるようなATP/ADP比の変化が、レプチン分泌の直接的なトリガーとなる明確な証拠は現時点では示されていませ。
- *分泌様式の違い:インスリンは刺激依存的な分泌(例:食後の急激な分泌)を示すのに対し、レプチンは脂肪量に比例した持続的な分泌を行いま。
📚 参考文献
—
レプチン分泌のメカニズムは、インスリン分泌とは異なり、より複雑で多様なシグナルによって調節されてい。今後の研究により、さらに詳細な分子機構が解明されることが期待されす。
結論から言うと──
🔍 「レプチン分泌の正確な分子スイッチ(ATP/ADP比に相当するもの)」は、まだ完全には解明されていません。
でも、「脂肪酸が関わってるんじゃないか?」という推測は、非常に有力な仮説の一つとして、実際に研究が進んでいます!
✅ レプチン分泌と脂肪酸の関係:何が分かってる?
🧪 脂肪酸合成・分解の中間体が、レプチン分泌を制御している可能性
特に注目されているのが:
分子 |
作用 |
マロニルCoA(malonyl-CoA) |
レプチンの発現・分泌を増加させる(とされている) |
長鎖脂肪酸(LCFAs) |
栄養過多時の代謝シグナルとして関与 |
シトレートやアセチルCoA |
栄養状態に応じて転写制御因子を活性化? |
📖 実際の研究例(引用あり)
1. Rossetti et al., 1997 – PNAS
レプチンmRNAと分泌量は、脂肪酸合成経路の中間体(特にマロニルCoA)の細胞内濃度に比例して増加する。
🔗 Rossetti L. et al., PNAS 1997
2. Muñoz et al., JBC 2002
インスリンやグルコース投与後、脂肪酸のde novo合成が促進され、レプチン分泌も上昇。脂肪酸経路がシグナルになっていることを示唆。
✅ なぜATP/ADP比じゃないのか?
- インスリン分泌は「急速でオンオフ型の反応」(例:血糖上昇時にすぐ分泌)。
- レプチン分泌は「脂肪量に応じた“定常的な出力”」に近く、ATP/ADP比のような“短期的なスイッチ”よりも、栄養ストレージ(脂肪酸の蓄積)に連動する形で制御されていると考えられています。
✅ まとめ:脂肪酸は「ある意味、β細胞におけるATP/ADP比に相当」
β細胞 |
脂肪細胞 |
ATP/ADP比↑ → Ca²⁺↑ → インスリン分泌 |
脂肪酸合成↑(マロニルCoA↑) → レプチン発現・分泌↑ |
💡とはいえ…
- 正確な**「鍵となる分子スイッチ」**はまだ解明途上です。
- 脂肪酸だけでなく、mTOR、AMPK、インスリン、グルコース、cAMPなどが複雑に絡み合って制御していると考えられています。
✅ 問題提起:
「レプチンは満腹シグナルなら、食後すぐに出ないと意味ない。遺伝子発現ベースで何時間もかかるようじゃ遅いんじゃない?」
→ その通りで、実際、**レプチンは“即時型の満腹シグナル”というより、“長期的なエネルギー蓄積のモニター”**としての役割が強い、というのが現在の主流の考えです。
🧠 重要ポイント:
シグナル |
タイミング |
担当ホルモン |
🍚 短期的(数分〜30分) |
食事の最中〜直後 |
インスリン、GLP-1、CCK、PYY |
🍟 長期的(数時間〜日単位) |
脂肪蓄積量の変化 |
レプチン |
✅ レプチンの“遅さ”は事実
- 食後の数分〜数十分では、血中レプチン濃度はほぼ変化しません。
- 実際の研究でも、食事誘発性の急激なレプチン分泌は確認されていません。
- レプチンmRNAや血中濃度の変化は、数時間〜数日かけて起きるとされています。
🔬 例:Kolaczynski et al., NEJM 1996
高脂肪食摂取後、血中レプチン濃度は 24〜48時間後に上昇。
🍽️ じゃあ、食事中の満腹シグナルはどこから来るの?
ホルモン |
分泌細胞 |
分泌タイミング |
作用 |
CCK |
小腸I細胞 |
食事5〜15分後 |
胃排出抑制、満腹中枢刺激 |
GLP-1 |
回腸L細胞 |
食後すぐ |
インスリン分泌促進、食欲抑制 |
PYY |
回腸L細胞 |
食後15〜30分 |
食欲低下 |
インスリン |
膵β細胞 |
食直後 |
血糖調整+視床下部に作用 |
つまり:
🧠 短期的な満腹感は、主に腸からのホルモン+インスリンが担い、レプチンは“太ったかどうか”を脳に伝えるセンサーとして機能している
✅ じゃあ、レプチンの分泌って何のため?
働き |
内容 |
📉 エネルギー摂取の抑制 |
脳に「脂肪が十分あるよ!」と伝える(視床下部のPOMCニューロン刺激) |
🧬 生殖・免疫・代謝の制御 |
栄養が足りないとき(=レプチン低値)に妊娠や成長を一時停止するシグナルにも |
✅ まとめ
ポイント |
レプチン |
食後すぐに出る? |
❌ ほぼ出ない(分泌は遅い) |
満腹感の主役? |
❌ 短期的には腸ホルモン・インスリンが主役 |
いつ効く? |
✅ 中長期的に、脂肪量と摂食行動をリンクさせる |
🧠 最後にひとこと:
レプチンは「1食ごとの満腹」じゃなくて、「最近ちょっと食べすぎてるよ」を知らせるホルモン。
「え、じゃあ、Colemanが“satiety factor(満腹因子)”と呼んだレプチンは、実際には短期的な満腹感を司る物質じゃなかったってこと?彼の仮説、間違ってたの?」
そう、まさにそこが歴史的に超おもしろいポイントなんです!
✅ Coleman の「satiety factor」仮説(1970年代)
- Coleman(Douglas Coleman)は、**ob/obマウスに野生型マウスの血液を循環させる実験(パラビオーシス)**を通じて、 → 「ob/obマウスには満腹を伝える“何かの因子”が欠けている」と推定。
- 彼はそれを**”satiety factor(満腹因子)”**と呼んだ。
- のちにそれが1994年にレプチン(leptin)としてクローニングされた(Zhang et al., Nature)。
🤔 でも、実際のレプチンの働きは?
✨ 「今すぐ満腹だから食べるのをやめろ」ではなく、
✨ 「最近エネルギー溜まりすぎてるから、そろそろ減らそうか」
という、中長期的なエネルギーバランスの調整シグナル。
✅ 結論:Coleman の仮説は間違ってはいなかったけど…
視点 |
評価 |
科学的洞察 |
✅ 「血中に“食欲を抑える因子”がある」は正しかった |
時間スケールの誤認 |
⚠️ “satiety”を「即時的な満腹」と解釈するとミスリード |
概念の進化 |
✅ Colemanの“satiety factor”の概念は、後に「adiposity signal(脂肪量シグナル)」に進化した |
🧠 現代的な用語で言うと…
レプチンは satiety hormone(満腹ホルモン) ではなく、
adiposity hormone(脂肪量に応じた摂食調節ホルモン)
📚 引用したい文献
- Coleman, D. L. (1973). Effects of parabiosis of obese with diabetes and normal mice. Diabetologia.
- Zhang, Y. et al. (1994). Positional cloning of the mouse obese gene and its human homologue. Nature, 372(6505), 425–432.
- Schwartz MW et al. (2000). Central nervous system control of food intake. Nature, 404(6778), 661–671.
なので──
🧪 Colemanの洞察は「本質的には正解」。ただし、それを**“即時の満腹ホルモン”だと解釈するのは現在では修正されている**、というのが正しい評価です。