1969年頃、糖尿病の原因は単一ではなく、特に**若年性(現在の1型)と成人型(現在の2型)**で異なるメカニズムが考えられ始めていました。当時の有力な仮説は、ご提示の「膵臓の局所的異常」説と「全身循環因子の異常」説の双方が、それぞれの病型に関連して議論されていました。
## 膵臓の局所的異常説
この説は、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞が破壊されたり、機能が低下したりすることで、インスリンの分泌が絶対的に不足するという考え方です。
- 当時の位置づけ: こちらは古くからの伝統的な説であり、特にインスリンが発見された1921年以降、糖尿病の基本的な原因として広く受け入れられていました。
- 主な対象: 特に、若くして発症し、インスリン注射が必須となる**若年性糖尿病(現在の1型糖尿病)**の主な原因だと考えられていました。剖検などにより、若年性糖尿病患者の膵臓ではβ細胞が著しく減少していることが確認されており、この説の強力な根拠となっていました。
## 全身循環因子の異常説
この説は、インスリンの分泌は保たれている、あるいはむしろ過剰であるにもかかわらず、血液中にインスリンの働きを阻害する何らかの因子(インスリン拮抗物質など)が存在するために高血糖が引き起こされるという考え方です。
- 当時の位置づけ: 1960年代に入り、インスリン濃度を血液中から直接測定できる「ラジオイムノアッセイ(RIA法)」が開発されたことで、この説が非常に有力となりました。この技術により、肥満を伴う成人型糖尿病患者の多くで、血中インスリン濃度が低下していない、むしろ健常者よりも高い場合があることが発見されたのです。
- 主な対象: この発見は、インスリンの「量」の問題ではなく「質」や「作用」の問題に研究者の目を向けさせ、**成人型糖尿病(現在の2型糖尿病)**の原因を説明する仮説として注目を集めました。
- 考えられた因子: 当時、インスリンの働きを妨げる可能性のある因子として、以下のようなものが研究されていました。
- インスリン抗体: インスリン治療を受けている患者で確認。
- インスリンを分解する酵素
- ホルモン: 成長ホルモンやグルココルチコイドなど。
- 血清中のタンパク質や脂質
## その他の仮説と当時の状況
上記二つが主要な仮説でしたが、関連して「末梢組織でのインスリン抵抗性」という考え方も登場し始めていました。これは、インスリンが作用する筋肉や脂肪細胞といった標的組織の側で、インスリンに対する感受性が鈍くなっている(効きにくくなっている)のではないか、という考え方です。
この「インスリン抵抗性」の概念は、「全身循環因子の異常」説と密接に関連しながら、後の研究で2型糖尿病の核心的な病態として確立されていくことになります。
## 結論
1969年頃は、糖尿病研究における大きな転換期でした。若年性糖尿病(1型)については**「膵臓の局所的異常(インスリン欠乏)」説が確立されていましたが、成人型糖尿病(2型)については、測定技術の進歩によって「全身循環因子の異常」説や、それに続く「インスリン抵抗性」の概念が非常に有力な仮説として浮上してきた時代**と言えます。
(Gemini 2.5 Pro)