nevertheless (それにも関わらず)という副詞は、論文執筆において多用されますが、文法的には正しい使いかたをしていても、つまり英語のネイティブによる英文校正を受けて、雑誌社に受理されて発表された論文であっても、しっくりこない文章を良くみかけます。しっくりこない原因は、文章の中の論理構成とneverthelessが持つ本来の役割とが一致していないからです。
Nevertheless は、「雨が降っている。それにもかかわらず、彼は外に出た」のように、前の内容から予想される結果を裏切るときに使います。 Nevertheless(それにもかかわらず)は、譲歩の論理です。
例:「彼は重い病気だった。それにもかかわらず、完走した。」(病気=走れないはず、という前提を覆す)
論理的対立が不在のときにneverthelessを用いるのは、文法的には正しくても、英語としては不自然です。Nevertheless を使いこなすための鍵は、「一見すると、Aという事実からBという結果が導き出されそうだが、実際にはそれを撥ね退けてCという事態が起きている」という、反証(Counter-argument)の論理を際立たせることにあります。
安易な「逆接(but / however)」の代用ではなく、「前の事実を認めた上で(Concession)、それでもなお動かない事実」を提示する際の例文を3つ以下で示します。
1. 期待される結果に反する「実証データの提示」
先行研究や一般論から予想される結果を、実験データが裏切った際に使うパターンです。
“The experimental results showed a significant reduction in error rates during the initial phase. Nevertheless, the long-term error stability remained unchanged, suggesting that the initial gains were transient.”
論理構造:
事実A:初期段階でエラー率が激減した(普通なら、長期的にも安定すると期待される)。
Nevertheless:それにもかかわらず(その期待に反して)、長期的な安定性は変わらなかった。
2. 困難な状況下での「目的の遂行・成立」
不利な条件や反論が存在することを認めつつ、結論の妥当性を主張する際に使う、非常に「論文らしい」パターンです。
“Integrating these disparate datasets presents substantial computational challenges. Nevertheless, such an approach is indispensable for achieving a holistic understanding of the phenomenon.”
論理構造:
事実A:データの統合には多大な計算上の困難がある(普通なら、避けるべき手法である)。
Nevertheless:それにもかかわらず、その手法は不可欠である(困難というマイナス要因を、必要性というプラス要因が上回る)。
3. 共通認識を認めた上での「独自の主張」
一般的に信じられている理論や定説を「一理ある」と譲歩しつつ、自分の視点の重要性を強調するパターンです。
“Some critics argue that digital transformation leads to social isolation among the elderly. Nevertheless, empirical evidence indicates that digital literacy significantly enhances their access to essential community services.”
論理構造:
事実A:デジタル化は高齢者を孤立させるという批判がある(一理ある説として提示)。
Nevertheless:それにもかかわらず、実証的な証拠は「アクセス向上(恩恵)」を示している。
「譲歩(Concession)」の重み: Nevertheless の前には、強力な「Aという事実」が必要です。Aを軽んじるのではなく、「Aの事実は重々承知している。だが、それを踏まえた上でもなお、この結論は揺るがない」という、執筆者の強い論理的意志を示す言葉です。
文頭での配置: セミコロン(;)でつなぐことも可能ですが、文頭に置き、直後にコンマ(,)を打つことで、読み手に「ここから反証が始まる」という心理的な準備をさせることができます。
Howeverとの使い分け: However は単なる情報の切り替えや対照にも使えますが、Nevertheless は「前の内容による制約や影響を受けない」というニュアンスが強くなります。
「先行する文脈からの論理的帰結を拒絶する力」がneverthelessにはあり、そのような文脈において用いられれば、読んでいて自然な英語の文章になると言えます。
(参考:Gemini)