科研費の申請書がうまく書けない理由:やりたいことが頭の中で整理されていない
やりたいことが頭の中で整理されていない状態で科研費の申請書を書いていても、うまく書けるわけがありません。紙面を埋めることができたとしても、論理展開が不明瞭で、同じようなことを繰り返し述べているだけだったり、無関係なことを書いてしまっていたりしています。
研究計画調書を書き始める前に一番大事なことは、研究計画のあらすじをたてておくことです。JSPSからダウンロードしてきた様式の空白のページにいきなり文章を書きだしてはいけません。
まずは、計画の全体像を、箇条書きにしてみましょう。何をしりたいので、何をする。どういう方法でそれをする。という論理的な構成が大事です。
研究のデザインをするためには、知りたいこと、ある生命現象のメカニズムに関する作業仮説をしっかりと立てることです。それを、一枚の図(俗に言うポンチ絵)にまとめることが大事です。作業仮説の図を申請書に掲載するかしないかで、審査委員の労力が劇的にかわります。
作業仮説の図が書けないということは、研究のアイデアが十分にクリアにはなっていないということです。申請書作成の大部分の時間は、作業仮説のわかりやすい図の作成に費やされるべきなのです。作業仮説の図が完成すれれば、それを見ながら文章を書いていけば、楽に書けます。審査委員はそれを見ながら文章を読んでいけば、楽に理解ができます。
あなたが書いた申請書に、作業仮説の図や、実験構想の図がありますか?もし、まだなければ、今すぐ作りましょう。
ダメな科研費申請書を書いてしまったことを知るためのセルフチェック方法
科研費申請書(研究計画調書)は、自分で書いていると、不備に自分では気づけません。自分の頭の中には全てが常識として入っていて、自分の中ではしっかりつながっているからです。しかしながら、自分が書いた申請書の日本語の文章がきちんと論理的につながっているとは限りません。分野買いの人が読んだときに、適切な順番で情報が与えられていないと、理解できないということになります。自分では気づけない、上手く書けていないことを知るためのセルフチェック方法をご紹介いたします。
背景のセクションに引用論文がありますか?
背景と問いを書きなさいというセクションを書く目的は、立てた問いが問うに値する重要性を持っていることを審査委員に納得させるためです。そのためには客観的に議論を進める必要があります。客観性=発表論文です。一つも論文を引用していないで背景を書いていたとしたら、それは審査委員を納得させるには不十分ということになります。
背景と問いのセクションに「問い」が明示されていますか?
非常に多くの人が、本研究の学術的な問いは~である。という書き方をしていません。しかし、審査委員は評価ポイントとして問いの重要性を評価しなければならないため、問いはどこに書いてあるんだろうと思って読みます。このセクションを最後まで読んだのに、何が問いだかわからなかったとしたら、問いが不明確という判断を下されてしまうでしょう。
独自性・創造性
論文報告がないのでこの研究には独自性があると言える。と書いていませんか?論文報告がないのでこの研究には独自性があるとは、言えません。取るに足らないことなので誰もやっていないだけなんじゃない?と突っ込みをいれられたら、どう答えますか?その答えこそ、ここに書くべきことなのです。
国内外の研究動向と位置付け
国内外の研究動向というからには、しっかりと他人の論文を引用して議論をしていないといけません。このセクションで論文がひとつも引用されていないとしたら、それは、このセクションをうまく書けていない証拠になります。
研究動向の研究って、なんの研究だかわかりますか?当たり前のことですが、それは研究目的に書いたような研究、あるいは学術的な問いとして書いたようなことを目指す研究です。全然違う研究の紹介をしてしまっていませんか?
研究計画
解析する。どうやって?検討する。どうやって?比較する。どうやって?どんな統計学的手法を用いて解析するのかは書かれていますか?多変量解析すると書いた場合に、独立変数は何と何で、従属変数は何でしょうか?多変量解析ができるほどに十分な例数がありますか?独立変数の数と、必要な症例数の数との関係を知っていますか?
研究計画に書いた実験がすべて期待した通りの結果となったときに、その結果から導きだされる結論=研究目的の関係になっていますか?そうなっていない研究計画調書を書いてしまっている人がたくさんいます。同じ落とし穴にかからないようにしましょう。
研究分担者を置いた場合には、彼らはどんな実験を担当するのでしょうか?教授を研究分担者にしておいて、教授の役割=研究の指導なんて書いてしまっていませんか?教授に指導していただくと書く初心者さんが多数いますが、そう書いた瞬間に、則、不採択です。
科研費申請書の書き方:業績欄をどう書くか
科研費の基盤Cや若手研究は、業績欄が2ページあります。研究者の遂行能力と研究環境を書きなさいというセクションです。2つ書くから1ページずつ、じゃあありません。遂行能力と研究環境のどっちが審査委員にとって重要かといえば、もちろん遂行能力(=過去の業績)なわけですから、分量としては、1.5ページ以上を業績の記述に割き、半ページ~4分の1ページ程度、環境について書くくらいが適当なバランスだと思います。
臨床系の人は、原著論文と、症例報告と、総説その他エディトリアルなどをごちゃまぜに書く人がいますが、それは全くお勧めしません。なぜなら、原著論文こそが最重要であって、それ以外は、さほど重みがないからです。審査委員がこのセクションで知りたいことは、ファーストオーサーの論文が何本あるのか、どのジャーナルに出しているのか(トップジャーナルに出しているか)、最近の仕事かどうかです。それが瞬時にわかるように書かないと、意味がないのです。古い先生は昔と同様に論文リストを書いてお終いにする人が多いのですが、それだけだとアピール不足。やはり、過去の論文のどれが、どんなふうに今回の研究計画に関連するのかをしっかり日本語の文章でも書いたほうが良いです。科研費の採択は、他人の書いた申請書と比べられて決まるわけですから、楽して書いたものと精魂込めて丁寧に書かれたものとが比べられたときに、どちらが好印象を残すかは明らかでしょう。
審査委員目線で自分が書いた申請書をチェックできる客観性を備えた人のほうが、採択される可能性は高いといえます。
論文業績が無い場合の書き方
博士号を持っていないため基盤研究(C)に出すのだが、英文の原著論文が筆頭では一方もないとか、若手研究に出すのだが博士論文の一報しか発表論文がないとか、業績が少なくて困っている人は、どう業績欄を埋めればいいのでしょうか。
まず大事なことは、業績がなくても業績欄の2ページは最後の行まで書ききることです。業績はなくても誠意、熱意があることを示しましょう。で、何を書くかですが、一報でも論文があるのなら、その論文の紹介を図なども交えてしましょう。研究計画と関連性が薄くても構いません。研究遂行能力、計画の実現可能性を示すことが、このセクションを書く目的だからです。論文がないなら学会発表の内容でもいいので、とにかく書きましょう。論文になっていないけれどもデータが何かあるのなら、その図を載せて解説しましょう。臨床経験しかないのなら、日常の臨床業務のことでも書いたほうが、余白を残すよりはましです。基盤研究(C)で研究分担者を置いている場合は、もちろん研究分担者の業績も書きます。ただし、研究代表者よりも多くのスペースを割くのはバランスが悪いので気を付けましょう。
科研費申請書の書き方:勝てないケンカはしない
書き方というよりも、採択されるための戦略の話なのですが。どんなに頑張って科研費の申請書を書いても、しょせん科研費にはライバルが存在しており、相対的な評価で序列が付けられて採否が決まります。研究テーマや研究計画が十分練られた研究計画調書が集まってくると、最後は業績の良し悪しが効いてきます。つまり、どれほど申請書の完成度を上げたとしても、かなわないときにはかなわないのです。
自分は神経内科医だから神経内科学関連、自分は循環器医だから循環器内科学関連などと、科研費を応募する審査種目を決めつけてしまってはいませんか?自分の研究計画のキーワードを用いて、KAKENを検索してみてください。類似した研究テーマは実はいろいろな審査種目で採択されていることがあります。
そして採択課題、研究代表者、リサーチマップ(もしリンクがなければグーグル検索)、あるいはその研究者の所属する大学の教員データベースなどを調べて、どれくらい業績のある人がその審査種目で採択されているかを眺めてみましょう。もちろん、ここでのポイントは、どれくらい業績が無い人でも採択されているのか?です。
審査種目の競合の強さを調べて、ここなら自分の業績でも太刀打ちできると思えるような、勝てる土俵で勝負しましょう。科研費は参加することに意義があるオリンピックではないのです。応募して採択されてナンボです。
同じような申請書を、不採択になった翌年、審査種目を変えて出しただけで採択されたという例があることは、皆さんも聞いたことがあるはず。世の中は、不均一にできているのです。
科研費申請書の書き方
- 科研費の申請書がうまく書けない理由:やりたいことが頭の中で整理されていない
- ダメな科研費申請書を書いてしまったことを知るためのセルフチェック方法
- 科研費申請書の書き方:業績欄をどう書くか
- 科研費申請書の書き方:勝てないケンカはしない
- 科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!
- 科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事
- 科研費が採択されない理由:申請書作成でやりがちな8つの失敗
- 科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いてライバルに競り勝て!
- 絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴
- 科研費計画調書「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」欄の書き方
- 科研費申請書の研究計画欄に纏わる混乱「何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」には何をどのように書けばよいのか?
- 科研費申請書のお手本をKAKENやプロジェクトウェブサイトで見つけて真似しよう
科研費の教科書
科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!
科研費が採択されるために必要な要素は、人によって考えかたがいろいろでしょうが、業績が大事だということに異論を唱える人はいません。じゃあ、業績があれば採択されるのかというと、そうでもないのです。業績があることが伝わって初めて採択に近づきます。業績欄のページに業績リストを載せて安心していませんか?
業績欄は、科研費の申請書の後ろのほうにあります。審査委員によっては業績を気にせずに最初のページから順番に読んでいく人も結構います。そして、途中まで読んで良い印象を持たなかった場合には、業績のページに到達する前に「不採択」の判断を下してしまっているかもしれません。ページをめくって業績が多少あることに気付いたとしても、一度決めた決定を覆すのは難しいでしょう。
今どきの科研費は業績だけ見せれば通るほど甘くはないのです。研究目的や研究計画がきちんと説明できていない研究者にたとえ業績が多少あったとしても、それは指導者が論文を書いてあげていただけなんじゃないの?と勘繰られます。論理的な文章を書けない人に論文業績だけあるのは不自然だからです。
そんなわけで、業績がありますアピールは、申請書の最初のほうからしておく必要があります。どのくらい最初かというと、概要でもいいです。市販されている科研費の教科書を読むと、概要では文献の引用はしないと教えているものもありますが、それは別に絶対的なルールではありません。絶対に見落とされたくない素晴らしい論文を最近出したのであれば、概要で(もちろん本文でも)示してあげて、業績アピールしても全然かまいません。あとは、背景、着想に至った経緯、独自・創造性、国内外の研究動向と本研究の位置づけ、研究計画、準備状況、どこでも構いません。自分の論文業績を引用できそうなところで、どんどん引用してアピールしましょう。
謙虚な性格な人は、そんなにアピールしたら審査委員が反感をもったり嫌悪感を持ったりするのではないかと心配してしまうかもしれません。まあ、日常生活や学会で会って話をしているときに、最近論文を出しましたアピールをすると、場合によっては嫌な感じと思われるかもです。しかし、科研費の申請書というのは特別な場所です。どれだけ自分の業績をアピールしても、それが嫌味になることはありません。審査委員が審査するのを楽にしてあげるだけのことです。
業績欄に、最近出した素晴らしい論文や、総説や、症例報告が入り混じった十数報のリストがあったとして、審査委員がその中からパッとトップジャーナルの論文を見つけ出してくれるでしょうか?審査委員は審査の作業でくたくたに疲れているので、おそらく、なんだ臨床報告のリストかと思って素通りするだけでしょう。審査委員の興味はファーストオーサーでトップジャーナルもしくはその研究領域で認められているジャーナルに最近論文がどのくらい出ているのかです。それが一瞬でわかるような業績リストでなければ、業績リストを載せた効果はあまりありません。査読付き原著論文と総説と症例報告は、分けて、別々のリストとして表示しましょう。
科研費の教科書
科研費申請書の書き方
- 科研費の申請書がうまく書けない理由:やりたいことが頭の中で整理されていない
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- 科研費計画調書「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」欄の書き方
科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事
科研費申請書(研究計画調書)の書き方のセミナーを毎年開催する大学が多いですが、ネット上に公開されているセミナースライドをまとめておきます。
科研費セミナースライド
- 岡山大学 科学研究費獲得法2020 Essential版 科学研究費申請スキル強化書︓2021申請に向けて 科研費講演会2020年8月19日 研究協⼒部⻑⽇本危機管理⼠機構員危機管理⼠1級DRII認定ABCP(事業継続プロフェッショナル)⼭﨑淳⼀郎 (スライド80枚)
- 信州大学 K3茶論第15回 科研費申請書作成のポイント 加藤鉱三 信州大学高等教育システム開発部 審査員を知れ 450字の審査意見を書く 審査員は審査しなければならない⇒審査ポイントがどこに書いてあるのか一発で分かるように⇒審査意見は「写すだけ」にしてあげる
科研費の書き方・ノウハウ(ウェブ記事)
- 羊土社 科研費獲得の方法とコツ 科研費申請応援サイト
- 科研費.COM
- 「科研費が採択されない人」が陥りがちなNG思考 2022.02.02 (Wed) 分析計測ジャーナル 専門用語ばかりで論理的でない文章、写真や図の挿入もなし、あってもわかりにくい 同じ専門分野同士でもわかってもらえていないことのほうが圧倒的に多い 読み手のことを想像しながら、わかりやすく理屈をたてて順番に書いていく 内容がすばらしいかどうかの前に、読んでわかるかどうか 自分がわかりにくい文章を書いていることに気づかずに「これでいい」と思っている 必要に応じて言葉を変える
科研費応募書類の書き方(書籍)
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- 狙って獲りにいく! 科研費 採択される申請書のまとめ方 2022/8/20 すばる舎
- 科研費獲得の方法とコツ 改訂第8版〜実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略 2022/7/14 児島将康 羊土社
- 科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック 第2版 2019/7/28 児島将康 羊土社
- 科研費 採択される3要素: アイデア・業績・見栄え 第2版2017/7/3 郡 健二郎 医学書院
- 科研費改革と研究計画書の深化―新審査の要点と留意点/研究PDCA/新調書のチェックと進化策 (高等教育ハンドブック) 2018/10/15 牛尾 則文, 長澤 公洋, 大澤 清二, 岡野 恵子 地域科学研究会
科研費申請書の書き方
- 科研費の申請書がうまく書けない理由:やりたいことが頭の中で整理されていない
- ダメな科研費申請書を書いてしまったことを知るためのセルフチェック方法
- 科研費申請書の書き方:業績欄をどう書くか
- 科研費申請書の書き方:勝てないケンカはしない
- 科研費申請書の書き方:業績をアピールせよ!
- 科研費申請書(研究計画調書)の書き方セミナースライド集・ノウハウ記事
- 科研費が採択されない理由:申請書作成でやりがちな8つの失敗
- 科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いてライバルに競り勝て!
- 絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴
- 科研費計画調書「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」欄の書き方
- 科研費申請書の研究計画欄に纏わる混乱「何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」には何をどのように書けばよいのか?
- 科研費申請書のお手本をKAKENやプロジェクトウェブサイトで見つけて真似しよう
科研費の教科書
科研費が採択されない理由:申請書作成でやりがちな8つの失敗
科研費に申請してもなかなか採択されない、あるいは、科研費に申請するのは今回が初めてという人が書いた研究計画調書を読ませていただくと、いろいろと「落とし穴」にはまっていることが多いようです。
自分では気付きにくい、申請書作成で失敗するポイントを挙げてみます。書き上げたあとのチェックリストとしてご活用ください。
研究テーマが科研費向きではない
個人の趣味だったり、製品の性能比較だったり、手技の比較だったり、手技の開発のための練習だったり、学術的な要素が無いもしくは少ないと採択されません。
解決方法:学術的な要素を入れる。プラスアルファの分析ができないか。ダメならテーマを変える。研究助成が必要ならば、科研費以外の研究助成を考える。テーマが科研費の趣旨にそぐわない場合は、いくら業績があっても、いくら申請書が良くかけていても採択されません。
研究目的が大きすぎる・小さすぎる
若手研究や基盤研究(C)の計画調書に、研究目的は「発がんのメカニズムを解明する」ことなどと書くと、大きすぎます。研究テーマは、論文というアウトプットを考えて、論文のタイトルになる程度の具体性、適度な大きさが必要です。実験内容がシンプル過ぎてテーマとして小さすぎるということはありがちなのですが、逆に、やりたいことが多すぎて実験課題を詰め込み過ぎという人もいます。研究内容が多すぎても、何を本当にやりたいのかがぼやけてしまったり、高々3年程度でそれ全部やって結果出すのは無理だよねという判断になります。
解決方法:アウトプットである論文の形をイメージして、論文タイトルと同等の大きさの研究課題名、研究目的とする。
研究目的と研究計画の不一致
研究目的が実験結果にサポートされないのに、書いた本人が気づけていないということがしばしば起こります。これは論文の査読ポイントと同じです。論文著者の主張は実験データによりサポートされているかどうかを査読者は見ます。同様に、研究計画が実施されて得られるであろう実験結果から、研究目的に書いた主張が言えるのかどうか。そこに乖離があると、即不採択です。どんなに業績のあるベテラン研究者だろうと、矛盾した計画書を書いていれば不採択にされるでしょう。
解決方法:計画欄に書いた実験結果から、最大限言える主張は何か?その主張が研究目的として書かれているかを自分でチェックする。研究目的を変えたくないのであれば、その目的が実現できるだけの実験を追加する。実験できることに限りがありそれ以上の実験をするつもりがないのであれば、研究目的に書いた主張を弱めるなりする。そのどちらかで対処するしかありません。
背景がダラダラ書かれている
ある疾患に関する科研費研究だった場合に、背景説明で、疾患の一般的な説明をしてしまうということはよくあります。しかし科研費の申請書は医学の教科書ではありませんし、その疾患のレビュー論文でもありません。漠然と背景を書いてはいけません。読んでいてどこに向かっているのかわからないような文章はNGです。
解決法:背景はそもそも何のためにあるのかという、原点に立ち返って考えてみましょう。論文の背景は、その論文で示す研究成果の「作業仮説」を導くために書かれます。同様に、科研費申請書においても、作業仮説や研究目的、学術的な問いを導くために書きます。科研費の様式では、背景と学術的な問いとを書けという指示がありますので、学術的な問いを導くように書くのが一番自然な流れになるでしょう。自分の書いた文章に方向性があるか?と自問しながら読み返してチェックしてみましょう。
先まで読まないと理解できない文章になっている
申請書は予備知識ゼロの審査委員が頭から読んだときに、既に読んだところと今読んでいるところに書いてある情報だけで意味を成さなければなりません。説明抜きで新しいことを書くと読んでも理解されません。先のほうまで読んで初めてさっき出てきた語句の説明が与えられるというのではいけません。
解決方法:応募者の頭の中には研究計画に関するあらゆる知識が詰まっているので、情報がどんな順番で紙に書いていても理解に困りません。しかし、その文章を初めて読む分野外の読者にしてみれば、書かれていることと書かれていたことだけしか手掛かりがありません。先のほうに書かれていることはまだ読んでいないので、理解の手助けにならないのです。当たり前すぎることですが、申請書を書いている本人にはなかなか気づけないものです。なので、その矛盾に気付くためには誰か専門外の人に読んでもらうしかありません。専門分野が離れた友達や家族に読んでもらって指摘してもらいましょう。
ページの下に余白がある
余白がある=書くことがない=熱意がない、よく練られた計画ではない という印象を与えてしまいます。業績欄のページの下に余白があると、業績が足りない人だと思われます。研究計画欄のページの下に余白があると、実験が少ないと思われます。
解決方法:余白を埋めるために、言葉遣いを冗長にするのはいけません。あくまで内容をしっかり書き込みましょう。ページの最下行まで書き切ることが大事です。最初に申請書のページに収まりきれなくらいの量を書いておいて、無駄な表現を削りに削ってページギリギリに収めると、応募者の熱意ややる気、研究の凄みが伝わります。
業績リストが分かりにくい
審査委員が業績を見るときに気にするのは、その応募者が最近、ファーストオーサーで論文をどれくらい出しているのか、応募者の論文がどの雑誌に掲載されているのかということです。それが一瞬で伝わるようなフォーマットで業績リストを見せるのが効果的です。
解決方法:論文タイトルの後に論文著者を書くのではなく、行の始めに論文著者を書くようにします。そうすれば、ファーストオーサーの論文がいくつもあれば、応募者の名前が一番左にきれいに揃うので、パッと見た瞬間に筆頭著者論文がどれか、いくつあるかがわかります。雑誌名も重要なので、太字にして斜体にするなど、周囲の文字から浮き立って見えるようにしましょう。
また、症例報告と総説と原著論文をごちゃまぜにする人がいますが、審査委員が一番知りたいのは原著論文の数とオーサー順、雑誌名、年です。審査委員が知りたいことが一瞬でわかるように書いていない申請書は、審査委員をイラっとさせます。イラっとした審査委員があなたの申請書に良い評価を与えてくれるでしょうか?結果は自明ですよね。
教授に指導していただく
応募者(研究代表者)が助教や講師、准教授で、研究分担者に教授を入れている場合に、教授の役割として、研究の指導、論文作成の指導などと書いてしまう人がいます。しかし、審査委員の立場からすると、独立した研究者になっていない人にあげるお金なんてありません。実際にはラボで指導を受けているとしても、申請書の上では研究リーダーは応募者その人なのです。研究代表者が研究分担者を従えて研究体制を構築しているというスタンスを崩してはいけません。
解決方法:人に指導して頂くという書き方は削除し、役割分担は敬語表現を使わずにニュートラルな記述にする。**は、***を行う、 **は***を担当する。などと書く。
科研費申請書の書き方
- 科研費の申請書がうまく書けない理由:やりたいことが頭の中で整理されていない
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科研費の教科書
科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いてライバルに競り勝て!
採択されるための科研費申請書の書き方のコツですが、簡単にライバルの応募書類との差をつける方法があります。
それは、学術的な問いをしっかり書くこと。「学術的な問いが明確か?」は、審査のポイントの一つであるにもかかわらず、そしてまた申請書を作成している本人が「研究の背景および核心をなす学術的な問い」というセクションタイトルをわざわざ書いているにも関わらず、学術的な問いが何であるのかを書いていない計画調書が多数あります。審査委員に「読み取れよ」と言うつもりなのでしょうか?なんて傲慢な態度だこと!審査委員に対してリスペクトがない申請書が高い評価を得られるでしょうか?
実際のところ、審査委員一人に割り当てられる申請書の数は100件程度もあるのだそうで、しかも、申請書の大部分は当落線上に並んでしまうそうです。つまり、多くの場合、紙一重の差で採否が決まるのです。評価が甲乙つけがたい申請書を振り分けるために、審査委員(によって)は不採択にする理由がないかどうか探し始めるのだそうです。最近読んだ科研費の教科書「狙って獲りに行く!科研費」に、審査委の実情が説明されていました。
学術的な問いがちゃんと書いてある申請書と、学術的な問いが文章中に埋め込まれていて容易には読み取れない申請書とが、全体的な評価は五分五分だったとして、審査委員はそれらを「採択」と「不採択」に振り分けなければなりません。「様式の指示に従っていない」ことは、マイナスに評価するための格好の理由になります。
様式の指示に忠実に従って、学術的な問いはきちんと書きましょう。「本研究の学術的な問いは、~である」と書いたり、「本研究では、~を学術的な問いとする。」などと書けばよいでしょう。
科研費申請書の書き方
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科研費の教科書
絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴
科研費の季節なので、絶対に採択されない科研費計画調書(申請書)の特徴について考察してみたいと思います。
まず、余白が目立つもの、スカスカな印象を受けるもの、これは大抵読んでみても中身が薄いです。ページ数が多すぎてスペースを埋めるのに苦労しているようでは、採択はおぼつきません。書きたいことがありすぎてスペースが足りないので、無駄な表現を削って、削って、ギューッと濃縮して仕上げましたという申請書にするのがベスト。そういう計画調書って、読んだときにその濃縮度が読み手に伝わります。それくらいに濃縮度が高いにも関わらず、適度な余白があるので読み易い、そんな計画調書が理想です。
あと、本人がなぜ自分が落ちるのかわからないというタイプの採択調書の特徴は、研究目的が不明瞭なもの、つまり何をやりたいのかが読者に伝わらない調書です。研究目的のセクションには確かに、本研究目的はなになにしかじかですと書いてあります。しかし、だからといって目的が明確かというとそういうものでもないのです。研究目的の明確さは、申請書の隅々まで、一貫した主張になっているかどうかで決まります。研究目的の欄には〇〇をしますと書いていたのに、研究計画・方法のセクションを見ると、××をしますなどと、違うことを平気で書いていた李するのです下手すると、研究課題名に書いた内容が、計画欄には書かれていないということもあります。このように、研究課題名、研究目的、研究計画に書かれて内容が首尾一貫していない申請書、これが実に数多くあるのですが、こういったものは確実に不採択になると思います。別に自分は審査委員をやったことはないのですが、もし自分審査したら一発で落とすだろうと思いますし、きっと他の先生方も同じことを考えるでしょう。
科研費の書き方に関する記事
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科研費計画調書「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」欄の書き方
科研費申請書(研究計画調書)の「1研究目的、研究方法など」の(3)として、「本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」を書く欄があります。(3)は2つに分けて、「本研究の着想に至った経緯」、「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」のそれぞれの項目を立てたほうが、審査委員にとって読みやすくなることでしょう。
さて、その「関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」をどう書くかについてですが、失敗例から考えるのがわかりやすいです。一番初歩的なミスは、文献の引用が全く行われていないというもの。研究動向を説明する以上、発表論文の紹介がゼロというのはあり得ません。次にありがちなのが、関連する論文の紹介の羅列になっているもの。~という報告がある。~という報告もある。と言った感じです。
このセクションを書き始める前に考えるべきことは、一体関連論文というのは何に関連した論文ということか?ということです。おわかりでしょうか?言うまでもないですね。それはもちろん、申請者の提案する研究計画に関連した論文です。言い換えると、申請者の研究目的と同じ研究目的をもった世界中の人たちは、どんな研究論文を発表しているのか、そんな中にあって申請者の提案する研究はどう位置づけられるのかを書かないといけないのです。競争がない研究というものはあまりありません。大抵の場合、世界中でみんなが同じようなことを考えて、同じような目標に向かって思い思いのアプローチで研究を進めているわけです。ですから、そういった他人の研究のアプローチの限界や弱点を指摘して、自分の研究アプローチの利点を明確に述べることによって自分の位置づけを明確にすることが求められているのです。。別に他人をディスれと言っているのではありません。他のアプローチの限界点を示し、自分がその限界をどう突破する研究方法を使うのかを書きなさいということです。
関連する国内外の研究動向は、研究のゴールを意識していないと書けません。そしてここでいう「研究のゴール」の捉え方は、広くもとれるし、狭くもとれます。例えば、がんの遺伝子治療に関する科研費テーマで申請書を書いているとします。そのとき研究のゴールは、「がんの治療」と大きくとらえることもできますし、「がんの遺伝子治療」と狭めることもできます。さらに自分の計画が遺伝子治療の中でもウイルスベクターを用いるものなのであれば「ウイルスベクターを用いたがんの遺伝子治療」にまで狭めることもできます。ゴール設定の大きさによって、紹介すべき関連論文も変わってきます。
このセクションの書き方でよくある失敗として、もう一つあげるなら、それは研究のゴールがちょっとズレた内容に関して書いてしまっているというもの。書いている本人は、関連した内容を書いているので案外気付かないのです。例えば、がんの遺伝子治療について書かないといけないのに、なぜか、がんの疫学的研究を紹介しているといった具合です。フォーカスする内容がちょっとズレるだけで、説得力が激減するので要注意です。
科研費申請書の書き方
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