医学用語」カテゴリーアーカイブ

医学用語 滲出(しんしゅつ)exudation

滲出の読み方は、「しんしゅつ」で、英語はexudation。医学でよく使われる意味は、 炎症の際に血液や組織液が血管の外にしみ出ることです。一般的な意味として、液体が外に滲み出る(にじみでる)ことを滲出と言います。

参考:コトバンク

使用例

肺胞組織が広範に傷害され、血漿成分が滲出し硝子膜が3~7日程度かけて形成される。https://medical-tribune.co.jp/news/2022/0415545253/

allograft(同種移植)、xenograft(異種移植)、isograft(同系移植)

allograft(同種移植)は同じ動物種間での臓器移植のこと。例えば、他人の腎臓を誰かに移植するなど。

enograft(異種移植)は異なる動物種間の臓器移植のこと。例えば、ブタの心臓を人に移植するなど。

isograft(同系移植)は遺伝学的なバックグラウンドが同一の個体間での移植のこと。例えば一卵性双生児の間での移植など。

Isografts are allografts in which organs or tissues are transplanted from a donor to a genetically identical recipient (e.g. an identical twin).

https://www.sciencedirect.com/topics/immunology-and-microbiology/isograft

歴史的には、isograftという単語は同種移植の意味で用いられたこともあるようです。

Transplants are classified as (1) autogenous transplants—tissue completely separated from its original site and implanted in another location in the same individual—and (2) heterogenous transplants—tissue taken from other individuals. The second class may be subdivided into (a) homogenous grafts (known as isografts)—tissue from the body of an individual of the same species—and (b) zoografts—tissue from animals of different species.

https://jamanetwork.com/journals/jamaotolaryngology/fullarticle/575670

 

Youglish.comで使用例を聴く

xenograft (26件)

allograft (39件)

isograft (0件)

 

上級医とは

医師の方とメールのやり取りをしていたら、「上級医から、これこれしかじかのアドバイスを受けました。」という文言があり、上級医って先輩の医師のことかなと考えてしまいました。

上級医とは,「臨床研修医に対する指導を行うために 2年以上の臨床経験および能力を有している者で,指導医の要件を満たしていない医師のこと」をいうのだそうです。厳密に定義された言葉なんですね。

立場としては、指導医と研修医との中間に位置するようです。

  1. 指導医・主治医・上級医・担当医の定義と役割(学校法人 慈恵大学)

上級医とは

 

研修医の責任・上級医の責任

 

「特発性」(idiopathic)とは? その疾患の発症の原因が特定できないという意味【医学用語】

病気の名前で、特発性(idiopathic)~という言い方を良く見かけます。通常の日本語の国語辞典的な意味とは異なる、独特な医学用語です。「特発性」(idiopathic)とは その疾患の発症の原因が特定できないという意味になります。

例えば、「流涙症」という病気の原因の一つに「鼻涙管排泄の減少」があり、鼻涙管排泄が減少する原因として加齢に伴う特発性の鼻涙管狭窄が挙げられます。

特発性に似た用語に「孤発性」(sporadic)というものもあります。これは遺伝する病気はなくて、散発的に個人に発症する病気の場合の言い方です。

  1. IPF(特発性肺線維症)ってどんな病気?  IFP.jp
  2. 用語:孤発性 (こはつせい) 難病センター
  3. 流涙 MSDマニュアルプロフェッショナル版

AUCとは?ROC曲線とは?感度(sensitivity)とは?特異度(specificity)とは?

AUCという言葉は医療系あるいは機械学習の世界では頻出で、何の説明もなくAUCはいくらいくらでしたといった使われ方をします。初めてこの世界に来た人にしてみれば、「?」です。AUCとは何かを調べるとROCが出てきて、それ何?と思って調べると、TPFやFPFが出てきて、最初から理解するしかありません。

AUC:ROC曲線のグラフの下の部分の面積(‘Area Under the Curve)の略語

ROC:ROC曲線とは、Receiver Operating Characteristic curveのこと。検査や診断において、陽性か陰性かを判別するカットオフ(選別点)を動かした場合の、偽陽性率(=FPF)を横軸に、真陽性率(=TPF)を縦軸にとって、線で結んだグラフ。

偽陽性率=1-特異度

陽性率=感度

特異度

まだ何のこっちゃ?ですが、ROCを理解するための重要の前提は、「検査や診断は白か黒かにハッキリ分けられることは普通はない」という事実です。つまりあるマーカーの値で病気か病気でないかを判断しましょうと言ったときに、「病気か病気でないかを判別するカットオフ値をどう設定するか」という恣意的な操作が入っているのです。とある「簡易うつ病診断テスト」で質問項目20個に答えてもらった場合に、各項目1点として、15点を超えた人をうつ病と判断するのか、12点を超えた場合にうつ病とみなすのか、というわけです。12点だった人の場合でも実はうつ病の人と、実はうつ病ではない人が混じっているわけです。この場合、うつ病かどうかの診断が別の方法で確定できるという前提で話しています。つまりもともとうつっぽい性格なんだけど全然うつ病ではない人がいたときに、その人は、「擬陽性」(うつでないのにうつと判断されてしまう)になるというわけです。

別の例で説明すると、がん患者の集団とがんでない人の集団があったとして、あるがんマーカーの値を調べたとします。仮にがんマーカーの値が0から100までの値をとれるとします。がん患者の集団はおおよそ80くらいの値に集中していて、がんではない人のマーカーの値は20くらいに集中していたとします。がんマーカーの値が50の場合に、がんの人もいればがんでない人もいて入り混じった状態です。このような状況だと、このがんマーカーでがんかどうかを判別することは、「ある程度」の正確さでしかできず、カットオフの値をどう設定するかで、がん(の疑い)かどうかの判断が変わってくるということになります。そこで、カットオフの値を動かしたときに、偽陽性率(=FPF)を横軸に、真陽性率(=TPF)(感度とも呼ばれる)を縦軸にとってグラフが書けるということになります。このグラフがROC曲線と呼ばれ、その下側の面積がAUCと呼ばれます。

pythonで試してみます。健常者4000人のがんマーカー値の平均が40、標準偏差12、また、がん患者1000人のがんマーカー値の平均値が70、標準偏差12だったとします(pythonで、そうなるように乱数を発生させた)。すると、マーカー値の分布をプロットして、ROC曲線を描いてみると、

となりました。AUCは96%みたいです。今度は試しに、健常者4000人のがんマーカー値の平均が45、標準偏差12、また、がん患者1000人のがんマーカー値の平均値が45、標準偏差12だったとします。すると、描画したら

となり、AUCは50%でした。これはつまり、このがんマーカーは健常者とがん患者とを全く区別できていないという、極端な条件です。

こんどは、健常者40人、がんマーカー値の平均値40、標準偏差20、がん患者の人数を5人、平均値を60、標準編偏差20としてみます。すると、

で、AUCを計算する70.5%になりました。

今度は、健常者400人、平均40、標準偏差20、がん患者50人、平均60、標準偏差10にしてみます。

これのAUDは80.7%。上のヒストグラムから明らかなように、今の場合がん患者の分布はほとんど健常者の分布の内部にあります。するとROC曲線をみてわかるように、偽陰性率を上げないと感度も上がらないわけですね。いいマーカーは直線関係よりもできるだけ上に膨らんで欲しいのですが、今の場合は直線的に上昇しているだけで、あまり良いマーカーでないことがわかります。

最後に、健常者45人、がんマーカー平均値40、標準偏差10、がん患者5人、がんマーカー平均値70、標準偏差10でランダムに分布を得ました。

今の場合、偶然ですが、健常者とがん患者の重なりはゼロです。すると偽陽性率0のカットオフがあるので、感度は100%になります。AUCは100%。例数が少ない場合に実験データからROC曲線やAUCを求めると、こういうことも起こるようです。

参考図書

  1. 森本 剛『医学論文のための 研究デザインと統計解析』(中山書店2017年)146ページ 診断特性 Topic マーカー研究と診断特性pp144-157 この本は臨床研究実践のための教科書としては最強の部類に入ります。

AUCとは

ROC曲線は、診断法がどれぐらい有用なのかを知るときに使われ、曲線下の面積(AUC)によって定量化されます。(医療統計コラム File 2. ROC曲線は、こんなふうに描かれます jmp

ROC曲線とは

  • 与えられた値から,真(TRUE)か偽(FALSE)かを判断したい
  • 与えられた値をどこで切っても,TとFは完全には分離できません
  • 区切る値(閾値,カットオフポイント)をいろいろ変えて,横軸にfalse positiveの割合,縦軸にtrue positiveの割合をとってプロットしたものが,ROC曲線
  • ROCはReceiver Operating Characteristicの略で,第2次大戦のときに米国のレーダーの研究から生まれた概念

ROC曲線 edu.mie-u.ac.jp

  1. ROC curve analysis  MedCalc

血中薬物濃度-時間曲線下面積(AUC)とは?

AUCは体循環血液中に入った薬物量比例します。(薬物血中濃度-時間曲線下面積(AUC) 治験ナビ)

Area Under the Curve One of the most important pharmacokinetic parameters is the area under the drug concentration versus time curve within the dosing interval (AUC) because AUC relates dose to exposure. Because the dosing interval is typically once daily or every 24 h on safety studies, the reported AUC is typically AUC0–24 h. AUC is the quantitative measure of the apparent amount of compound at the site from which samples were collected and concentrations measured, which in most cases is the systemic circulation. When sampling occurs from the systemic circulation, it is often an indication of systemic exposure. The simplest method for calculating AUC is the linear trapezoidal rule (Gibaldi and Perrier 1982). (sciencedirect.com)

参考ウェブサイト

  1. 機械学習の評価指標 – ROC曲線とAUC TECH BLOG by GMO

特異度、感度、陽性的中率とは

医療ベンチャー企業の起業に関するプレスリリースを見ていたら、ある細菌の有無でがんのリスクを調べるという説明がありました。そのがんに罹患している人の70%がその最近の保有者だからがんのリスクの検査に使えるという説明です。ここでいう70%は感度ということになります。検査が陽性だった人の何パーセントがその病気を罹患しているかという数字が70%だというわけです。

この説明を読んで、これって全然説明になっていないのでないかと思いました。がんではない人の場合、何パーセントがそのテストで陽性になるのか(今の場合、その菌の保菌者なのか)が書いていなかったからです。極端な場合、がんじゃない人でも70%の人がその菌の保有者かもしれませんん。

医学における検査では、感度、特異度、陽性的中率といった数字を見る必要があります。

がん 無し がん 有り(8.3%) 小計
菌 有り 98人(20%) 70人(70%) 168人
菌 無し 390人 30人 420人
小計 488人 100人 合計:588人

上の場合、

感度=検査陽性/疾患有り = 70/100=70%

特異度=検査陰性かつ疾患なし/検査陰性 = 390/488=80%

陽性的中度=疾患あり/検査陽性 = 70/168=42%

となります。陽性的中度はどの程度の数字ならOKと言えるのかは、その病気の深刻さにもよるでしょう。手遅れになったら必ず死ぬ病気の場合は、陽性的中率10%の低さでも、陽性になったら精密検査を受けて白黒はっきりさせたいと思うでしょう。

 

特異度とは

特異度というのは、検査で「陰性」のものを正しく「陰性」と判断できる割合のことです。式で書けば、

特異度 = 実際に陰性でしかも検査でも陰性と判断された人の数 / 実際に陰性の人の数 

ちなみに、

実際に陰性の人の数 = 実際に陰性で、検査でも陰性と判断された人の数 + 実際は陰性なのに陽性と判断された人の数

もっとすっきりと書けば、

陰性の数 = 真陰性の数 + 偽陽性の数

特異度 = 真陰性の数 / (真陰性の数 + 偽陽性の数)

  1. 特異度(ウィキペディア)

感度とは

感度というのは、陽性の人の内、正しく陽性と判断できた割合のことです。式で書けば、

感度 = 実際に陽性で検査でも陽性と判定された人の数 / 実際に陽性の人の数

ちなみに、

実際の陽性の人の数 = 陽性と判定された人の数 + 間違って陰性と判定された人の数

もっと簡潔に書けば、

陽性 = 真陽性 + 偽陰性

感度 = 真陽性/ (真陽性 + 偽陰性)

とも言えます。

  1. 特異度(ウィキペディア)

疾患概念とは

初めて疾患概念なる語句を見た時、なぜ単に疾患と言わずに疾患概念というのか疑問でしたが、「どいういう疾患なのかという概念」が定まらない時期があり、研究が進むにすれてこの疾患はこういう疾患であると概念が定まるもののようです。

そのため疾患概念が確立するという言い方を良くします。

 

DSM-Ⅲ(精神障害の診断と統計の手引き;第3版)やⅢ-R,あるいはICD-10(国際疾病分類)が世に出るようになって,それを見ると病気という概念を外して disorder(障害)という概念でとらえようということが書いてあって(Disease から disorder へ [ 座 談 会 ] 軽症うつ病 軽症うつ病の診断と治療)

 

参考

  1. 白血病の基礎知識 疾患概念と病態
  2. 気管支拡張症revisited -古くからの病気を新しい光の下で見直す 第1部:疾患概念,疫学,病態
  3. 難治性疾患の疾患概念確立プロセス

絶対適応とは?何が絶対なのか?

医学用語に適応、禁忌といった素人には馴染みの無い言葉が、日常的に使われています。絶対適応という言葉を目にしたときに、絶対にやらなければならない治療方法という意味かと思いましたが、どうなんでしょうか。

 

適応とは 絶対適応とは

医療分野においては、治療や検査など医療行為の正当性、妥当性を意味する。いかなる場合でも施行する妥当性があることは「絶対的適応」、状況によっては妥当な場合は「相対的適応」と表現する。(ウィキペディア

ウィキペディアが不正確なことも多々あるので、これを鵜呑みにしていいのかわかりませんが、適応や絶対適応という言葉は医学の世界では当たり前すぎるのか、わざわざ意味を説明したサイトが見つかりませんでした。

 

 

使用例

内視鏡的切除の適応本ガイドラインでは,リンパ節転移の危険性が1%未満と推定される病変を,外科的胃切除と同等の成績が得られると考え,「絶対適応病変」として定義した。(jgca.jp/guideline/

2018年1月に改訂された最新の胃癌治療ガイドライン第5版では、特にESDについて、適応対象が拡大されました(表1)。これによると、十分なエビデンス(臨床試験の結果などで得られた科学的根拠)があり日常診療としてEMRあるいはESDによる治療を推奨できる「絶対適応病変」として、「2cm以下の粘膜内がんで、分化型のがんであり、病変部分に潰瘍を伴っていないと判断される病変」があげられています。(がんプラス

下の使用例だと、日常語としての絶対に近い意味で使われています。

インスリン療法が適応となる患者さんは、基本的に必ず必要な場合(絶対的適応)と、必ずではないが必要な場合(相対的適応)の2つに分けられます。(インシュリン療法 SANOFI)

下の例も絶対に必要という文脈での使用例。

現行の大腸癌治療ガイドラインには、内視鏡的切除pT1大腸癌に対する追加外科切除の適応基準として、「垂直断端陽性」と「病理組織学的リンパ節転移リスク陽性」の2つがある。前者は局所遺残の可能性があるため、追加切除の”絶対適応”である。(人を対象とする医学系研究に関する情報の公開

 

  1. 食道「粘膜固有層までに癌の浸潤が留まるもの」が(内視鏡的切除術の)絶対適応です。(ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術) 刈谷豊田総合病院)