特139 除斥

「除斥(じょせき)」について整理しましょう。
特許法などの手続において、「審判官などが不公平な判断をするのを防ぐための仕組み」ですね。試験では「忌避(きひ)」との違いや、「前審関与(ぜんしんかんよ)」の細かいルールがよく問われます。


1. 除斥(じょせき)とは?
一言で言うと、審判官などが**「事件と特別な関係があるため、法律上当然にその職務から外されること」**です。
当事者が「あの人を変えてください」と言わなくても、**自動的にアウト(職務執行不能)**になるのがポイントです。
> なぜあるの?(趣旨)
> 審判官が当事者の親戚だったり、その事件の代理人だったりしたら、公平な審理が期待できない(公平の担保)からです。
>
2. どんな時に除斥される?(除斥原因)
特許法第139条に規定があります。試験で出る主な理由は以下の通りです。
(※ここでは分かりやすく「審判官」で説明しますが、審査官にも準用されます)
* 当事者との関係: 審判官自身が当事者である、または当事者の配偶者・親族である場合。
* 後見人等の関係: 当事者の後見人等である場合。
* 代理関係: その事件について、当事者の代理人である(または過去に代理人だった)場合。
* 証人・鑑定人: その事件について、証人や鑑定人として関与した場合。
* 前審関与(重要!): その事件について、以前に審査官として査定に関与していた場合など。
3. よく出る問題パターン・試験対策
弁理士試験(短答・論文)では、以下の3つのポイントが頻出です。
① 「除斥」と「忌避」の違い
これが基本中の基本です。表で覚えるのが一番早いです。
| 項目 | 除斥 (Exclusion) | 忌避 (Recusal) |
|—|—|—|
| 定義 | 法律上の関係があるため、当然に排除されること | 公正を妨げる事情があり、申立てによって排除されること |
| 原因 | 親族、代理人、前審関与など(客観的) | 「仲が悪い」「著しく不公平な言動」など(主観的要素含む) |
| 効力 | 法律上当然に職務を行えない | 申立てが認められた時に職務を行えなくなる |
| 対象 | 審査官、審判官、審判書記官 | 同左 |
> 試験のヒッカケ例
>  * 「審判官が当事者と著しく仲が悪い場合、除斥の原因となる。」
>    * → ×(バツ)。それは「忌避」の原因です。「仲が悪い」は法律上の定義(親族など)に含まれないからです。
>
② 「前審関与」の範囲
「前の段階(審査)で判断を下した人が、次の段階(審判)でも判断するのは不公平だよね」というルールですが、例外や細かい規定があります。
* 「査定」に関与したか?
   * 審査官として**「拒絶査定」や「特許査定」にサインをした人が、その事件の拒絶査定不服審判の審判官になるのはNG(除斥)**です。
   * しかし、単に事務的な連絡をしただけ、あるいは「拒絶理由通知」を出しただけで、最終的な「査定」に関与していない場合は、除斥にならないことがあります。
③ 誰に適用されるか?(準用)
「除斥」のルールは、誰に適用されるかも問われます。
* 審判官: 適用される(法139条)
* 審査官: 適用される(法48条で準用)。ただし、「前審関与」の規定は審査官には適用されません(審査官は最初の判断をする人なので「前審」がないため)。
* 審判書記官: 適用される(法144条の2)。
4. 覚え方のコツ
イメージとしては以下の通りです。
* 除斥: 「あなたはルール違反(親戚など)なので、レッドカード(即退場)」
* 忌避: 「あの審判官は怪しいので変えてくださいとイエローカードを出す(認められれば退場)」

「前審関与(ぜんしんかんよ)」
ここは試験で本当によく出る、かつ**「ひっかけ問題」の宝庫**です。
一言で言うと、「前の段階で『ダメ(拒絶)』って言った本人が、不服申し立ての審判で『本当にダメだったか?』をチェックするのは禁止!」 というルールです。
詳しく、でも噛み砕いて解説しますね。
1. なぜ「前審関与」はいけないの?
人間心理として、自分が一度下した判断(査定)を「あれは間違いでした」と認めるのは難しいですよね。
* 審査官Aさん: 「この発明はダメ。拒絶査定!」
* 出願人: 「納得いかない!審判で争うぞ!」
* 審判官になったAさん: 「担当は私です。……うん、やっぱり前と同じ理由でダメですね(棄却)」
これでは、実質的に「再審査」してもらえていないのと同じです。
「上のクラス(審判)に行ったら、新しい別の人に公平に見てもらいたい」 という出願人の権利(審級の利益)を守るために、Aさんは除斥(排除)されます。
2. 試験に出る「ここが境界線!」
条文(特許法139条6号)では、**「前審の査定又は審決に関与したとき」**は除斥されるとあります。
では、どこまでが「関与」になるのか?ここが狙われます。
① 「査定」に関与したかどうかが重要
* 【NG】拒絶査定にサインした(決裁した)
   * 完全にアウトです。審判官になれません。
* 【OK】拒絶理由通知を出しただけ(途中交代した)
   * 審査の途中で拒絶理由通知を作ったけれど、最後の「拒絶査定」をする前に異動して、別の審査官Bさんが査定をした場合。
   * この場合、Aさんは**「最終結論(査定)」には関与していない**ので、審判官になってもセーフ(除斥されない)とされることが多いです。
② 「前審」とは直前の段階のこと
* 審査(前審) → 拒絶査定不服審判(後審)
   * 審査官が審判官になるのはNG。
* 拒絶査定不服審判(前審) → 知財高裁(後審)
   * 審判官が裁判官になるのはNG(これは裁判所の法律等の話になりますが概念は同じ)。
3. 【最重要】ここが一番のひっかけポイント!
「差し戻し(さしもどし)」のケースです。
これが理解できれば、この分野は卒業レベルです。
> Q. 審判で「審査官の判断は間違いだ!もう一回審査をやり直せ」という審決(取消差戻し)が出ました。事件は審査に戻ります。この時、元の審査官Aさんが再び審査を担当することはできる?
>
* 答え: できる(除斥されない)
なぜ?
「前審関与」は、「下の段階の人 → 上の段階に行く」 のを禁止するルールです。
「上の段階(審判)から → 下の段階(審査)に戻ってきた」場合、審査官Aさんは、上司(審判官)の指示に従って審査をする立場になります(拘束力がある)。
この場合、Aさんが独断で前の判断に固執する恐れがない(審決に従わないといけない)ため、再び担当してもOKなのです。
まとめ:前審関与の攻略図
* 審査官 → 審判官 になるケース
   * 査定に関与した? → Yesなら除斥(NG)
* 審判 → 審査 に戻るケース(差戻し)
   * 元の審査官がやる? → No除斥(OK、担当できる)