質問:「私の特許権の技術的範囲(第70条)に、あなたの製品が含まれています(充足しています)。」 って、これはつまりは「請求の範囲(クレーム)」に入るかどうかってこと?とすると技術的範囲=クレーム ってこと?
Gemini:知財の実務家でも、日常会話では「クレーム=技術的範囲」として使っています。ただ、法律(特許法70条)の言葉遣いとして、なぜわざわざ「技術的範囲」という別の言葉を使っているのか? ここには「言葉(テキスト)と、その意味(実体)」の微妙な違いがあるからです。数式にすると、こんなイメージです。
詳しく解説しますね。
1. 第70条の「心(こころ)」
特許法第70条第1項にはこう書いてあります。
第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
ここで重要なのは**「基づいて(Based on)」**という言葉です。
「クレームの記載 そのもの(Equal to)」とは書いていませんよね。
これはどういうことかというと…
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特許請求の範囲(クレーム): 紙に書かれた「文字情報(テキスト)」です。
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技術的範囲: その文字が現実世界でカバーする「縄張りの境界線」です。
基本的には「書いてある通り(文言通り)」なのですが、言葉というのは不完全なので、「解釈」というクッションを挟んで、最終的な縄張りを確定させるのです。
2. なぜ「=(イコール)」と言い切れないのか?
「クレーム」と「技術的範囲」がズレる(イコールにならない)ケースが2つあるからです。
① 言葉の意味を補完する場合(第70条第2項)
クレームに「固定具」と書いてあったとします。
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これだけだと、ネジなのか、接着剤なのか、クリップなのか分かりません。
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そこで、明細書や図面(説明書)を見て、「あ、この発明でいう『固定具』は、文脈的に『特殊なボルト』のことだな」と意味を確定させます。
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結果: クレームの文字は「固定具」だけど、技術的範囲は「特殊なボルト」に限定される(狭くなる)ことがあります。
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② 均等論(きんとうろん)の場合(拡大解釈)
これが一番の「ズレ」です。クレームに「ボールベアリング」と書いてあったとします。
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相手の製品は、そこを「コロ軸受(ローラーベアリング)」に変えていました。
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文字通りに見れば(文言侵害 もんごんしんがい)、言葉が違うのでセーフ(侵害ではない)です。
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しかし、裁判所が「機能も効果も全く同じで、置き換えが容易だよね」と判断すれば、「技術的範囲に含まれる」と判定されます。
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結果: クレームの文字には書いていないけれど、技術的範囲には入る(広くなる)。
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3. アムジェン事件での適用
今回のアムジェン対サノフィの件で言うと、アムジェン側は当然こう主張しました。
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クレーム: 「PCSK9に結合して、LDLRとの結合を阻害する抗体」
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サノフィ製品: まさにその通りの機能を持っている。
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結論: 「クレームの文言通り(文言侵害 もんごんしんがい)」なので、技術的範囲 = クレームの記載 という、一番シンプルなパターンで「侵害」が認定されました。(※その後、無効になりましたが)
まとめ
ユーザーさんの理解である「技術的範囲 = クレーム」は、90%正解です!基本はそこです。
残りの10%の厳密な定義はこうです。
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クレーム(請求の範囲): 権利書の「テキスト」。
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技術的範囲: そのテキストを、法律のルール(明細書の参酌や均等論など)に従って解釈した結果決まる「実際の縄張り」。
「地図に引かれた線(クレーム)」と「実際の土地の境界(技術的範囲)」の関係だと思うと分かりやすいですよ!