生化学の教科書を読んでいると、反応の進行とエネルギーとの関係を表した図をよく見ます。反応物のエネルギーの高さから、一山超えて、生成物のエネルギーが一段低いところにあるというものです。縦軸にエネルギーと書いてあったりしますが、教科書によっては縦軸に自由エネルギーと書いていたりもします。エネルギーと一口にいっても、内部エネルギーUとかギブスの自由エネルギーGとか、いろいろあるわけで、このグラフの縦軸は一体何なのかがいまひとつはっきりしないままでいました。
BruceのOrganic Chemistry 5th editionを読んでいたら、125ページからはReaction Coordinate Diagramsの説明がありました。
A reaction coordinate diagram shows the energy changes that take place in each of the steps of the mechanism. in a reaction coordinate diagram, teh total energy of all species is plotted against the progress of the reaction. (Bruice Organic Chemistry 5th Edition p125)
kの説明でもeneregyという言い方しかしていなかったのですが、例として示したFigure 3.2には、グラフの縦軸にFree energyとあります。さらにFigure 3.3の縦軸にはFree energyの差として‐ΔGoと説明されていました。つまり、縦軸の自由エネルギーの意味は標準ギブスエネルギーなわけです。さらに130ページ本文中の説明で、
When ΔGo values are used to construct reaction coordinate diagrams, the y-aixis is free energy; when ΔHo values are used, the y-axis is potential enrgy.
と書いてありました。つまりエンタルピーを使うこともあるし、ギブス自由エネルギーを使うこともあるということのようです。その前のところでは、ΔGo = ΔHo – TΔSo において、エントロピー変化が小さければ無視できるとも書かれています(129~130ページ)。ΔHoは簡単に計算できるのでエントロピーを無視してしまうこともあるということなのでしょう。
ここでまた少し疑問が生じたのですが、縦軸のエネルギーの意味は、自由エネルギーということ。縦軸の自由エネルギーは、標準ギブスエネルギーということだとして、生化学の教科書はそこまで説明しているのだろうかと心配になりました。生体の中での反応条件と、標準状態とはことなるわけです。
The symbol o indicates standard conditions—all species at a concentration of 1 M, a temperature of 25 ℃ , and a pressure of 1 atm. (Bruice Organic Chemistry 5th Edition127ページ)
もちろん生体内の濃度は全部が1Mなわけがないので、厳密に考えると標準ではない生体内の条件で自由エネルギーを考える必要があります。
- 反応座標(ウィキペディア)反応のエネルギープロファイル(ポテンシャルエネルギー曲面の断面)の概略となるように、反応座標と自由エネルギーの関係をプロットすることが多い。
- https://byjus.com/chemistry/reaction-coordinate-diagram/ 縦軸はポテンシャルエネルギーで、図中にはΔG++みたいな記号があります。
- https://www.researchgate.net/publication/319214069_Plasma_technology_-_a_novel_solution_for_CO2_conversion/figures?lo=1 Fig. 9 Reaction coordinate diagram showing the working principle of a catalyst. 縦軸にFree energy, Gとあります。
- https://www.chegg.com/homework-help/questions-and-answers/following-reaction-coordinate-diagram-belongs-type-substitution-reaction-select-one–bimol-q8637457 Free energy (G)
- https://www.researchgate.net/publication/244187580_Reactivity_and_regioselectivity_in_the_synthesis_of_spiroindoles_via_indole_o-quinodimethanes_An_experimental_and_computational_study/figures?lo=1 Figure 4. Reaction coordinate diagram of potential energy surface for the reaction 3aC4a (exo monoadduct) at the two reaction sites C 2 ]C 8 and C 3 ]C 9 (energies in kcal/mol). 図中にΔHの注釈があります。
- https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Reaction_Coordinate_Diagram_of_._Reaction_coordinate_diagram_of_acetolysis_of_anti-7-norbornenyl_tosylate_and_exo-2-bicyclohept-6-enyl_tosylate.png これは縦軸がΔGになっていて、Gの間違いなのかもしれません。