「シフト補正の禁止」は、単一性(37条)とセットで理解しないと、論文試験でパニックになる分野です。一言で言うと、「審査官に二度手間をさせるな!」というルールです。イメージをつかむために、例え話から入りましょう。
1. ざっくりイメージ「レストランの注文」
あなたはレストランで料理を注文しました。
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あなた: 「カレーライスをください!」(出願)
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シェフ(審査官): 「よし、カレーを作るぞ(スパイスを準備し、肉を炒め、煮込む…)」(先行技術調査・審査)
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シェフ: 「お客さん、すみません。今日はお米が品切れでカレーが出せません(拒絶理由通知:新規性なし)。」
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あなた: 「そうですか。じゃあ、注文を変えます(補正)。」
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あなた: 「ラーメンをください!」(シフト補正)
これを聞いたシェフはどう思うでしょうか?
「ふざけるな!カレーの準備に使った時間と労力を返せ!ラーメンなら最初からお湯を沸かしたのに、またゼロからやり直しじゃないか!」
これが**「シフト補正の禁止(17条の2第4項)」**です。
審査官がすでに調査(汗をかいた)した発明とは「無関係な発明」に、後からすり替えることを禁止しています。
2. 真面目な解説(要件と定義)
もう少し専門的に説明します。
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条文: 特許法第17条の2第4項
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タイミング: 最初の拒絶理由通知が来た後の「補正」の時
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ルール: 補正後の発明は、「審査官がすでに審査した発明(補正前の発明)」と「単一性の要件」を満たす一群の発明でなければならない。
具体例で見る「シフト」
ある出願人が、1つの願書に2つの発明を書いていました(※本来は単一性違反ですが、審査官は便宜上、第1発明だけ詳しく調査したとします)。
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【補正前】
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請求項1:「空飛ぶ車」(特徴:折りたたみ式の翼) $\leftarrow$ 審査官はこれを調査した
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請求項2:「空飛ぶ車」(特徴:特殊なプロペラ)
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審査官が「請求項1(翼)は、昔のアニメに出てくるから新規性なし!」と拒絶通知を出しました。
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【ダメな補正(シフト補正)】
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請求項1を削除。
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請求項2(プロペラ)を新しい請求項1にする。
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<なぜダメ?>
審査官は「翼」については詳しく調べましたが、「プロペラ」についてはまだ詳しく調べていません。「翼」の審査結果が無駄になり、「プロペラ」の調査をゼロから始めないといけないからです(=審査対象がシフトした)。
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【OKな補正】
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請求項1(翼)に、「軽量カーボン素材を使う」という構成を追加して限定する。
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これなら、ベースは「翼」のままなので、審査官は追加の調査だけで済みます。
3. 試験に出る!合否を分けるポイント
ここは短答でも論文でも頻出です。
① 「特別な技術的特徴(STF)」が合言葉
シフト補正かどうかを判断する基準は、**「特別な技術的特徴(STF: Special Technical Feature)」**が変わったかどうかです。
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補正前と補正後で、発明の**「キモ(発明の貢献部分)」**が共通していればセーフ。
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「キモ」が全然違うものに変わっていたらアウト。
② 違反した場合のペナルティの違い
ここがややこしいですが、試験等の超重要ポイントです。
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拒絶理由通知への対応時(中間処理)にシフト補正をしてしまった場合:
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その補正は**「却下」**されます(53条)。
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元のダメな状態に戻って審査され、そのまま**「拒絶査定」**になります。
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もし審査官が見落として登録されてしまった場合:
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無効理由にはなりません!(単一性と同じ理屈。手数料と手間の問題にすぎないから)。
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もちろん情報提供のネタにもなりません(登録後はどうでもいい話だから)。
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③ 最後の拒絶理由通知後の特例
「最初の拒絶理由」への対応時は、まだ少し緩いですが、**「最後の拒絶理由通知」**への対応時は、さらに厳しくなります。
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目的は「早期権利化」なので、議論を蒸し返すような補正は一切許されません。
4. まとめテーブル
| 項目 | 内容 |
| 条文 | 特17条の2第4項 |
| 通称 | シフト補正の禁止 |
| 趣旨 | 審査負担の軽減、審査の迅速化、出願人間の公平(やり直しはずるい) |
| 判断基準 | 補正前の特許しようとする発明と、補正後の発明との間に**「単一性」**があるか(STFが共通か)。 |
| 違反の効果 | 補正の却下(53条1項) $\rightarrow$ 拒絶査定 |
| 登録後の効力 | なし(無効理由ではない) |
5. 戦略的な「逃げ道」はあるの?
出願人(あなた)の立場として、どうしても「ラーメン(プロペラの発明)」も権利化したい場合はどうすればいいでしょうか?
これが**「分割出願(44条)」**です。
「この出願の中ではラーメンの話はやめます。でも、別の新しい出願としてラーメンの話を提出します(手数料はまた払います)」という手続きです。これなら文句は言われません。
次のアクション
ここまでで、「単一性」「シフト補正」という、出願の手続き的な側面を見てきました。
次は、実体的な判断の核心である、以下のどちらに進みますか?
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「進歩性(29条2項)」の判断ロジック: 審査官はどうやって「容易に発明できた」と認定するのか?(試験最重要・最難関)
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「分割出願(44条)」の詳細: シフト補正で追い詰められたときの「逃げ道」をもっと詳しく(時期的要件など、短答の沼)。
どちらもヘビーですが、避けて通れない道です!
(Gemini)