Claudeに訊いてみました。
質問:学会が当日、地震で中止になった場合、参加費は払い戻されるもの?
Claude:法的に筋の通った問題提起です。大会が完全中止になった場合でも参加費を返金しないとすれば、それは民法の原則と衝突するのではないかという問題ですね。
民法536条1項の観点
民法536条1項は、2020年改正後の危険負担の規定です。双方の責めに帰せない事由(天災等)で債務が履行不能になった場合、債権者(=参加者側)は反対給付(=参加費の支払い)の履行を拒める、というのが原則です。つまり民法のデフォルトルールでは、大会が中止になれば参加者は「払わなくていい」し、既払いなら不当利得として返還請求できる方向になります。
- 2020年4月1日施行の改正民法536条1項は、双務契約において当事者双方の責任によらず履行不能となった場合、債権者は反対給付(代金支払など)の履行を拒否できると規定し、従来の「債権者主義」を廃止して「債務者主義」を原則としました。(グーグル検索AI概要)
民法541条の観点
さらに541条の催告解除も使えるので、主催者が大会開催という債務を履行しない以上、参加者は契約を解除して原状回復(返金)を求められます。
民法536条1項も541条も任意規定なので、当事者間の合意で排除すること自体は理論上可能です。つまり「中止でも返金しない」という特約を置くこと自体が直ちに無効というわけではありません。ただし、実務上の問題として、「主催者の負担ゼロ・参加者が全額負担」という設計は相当に一方的です。信義則(民法1条2項)や公序良俗(90条)の観点から争われるリスクはあります。特に対価関係が明確な場合(個人参加ではなく、企業がブース出展で参加するなど、参加費(協賛費)の対価性が高い場合)、履行がゼロなのに対価だけ取るのは、合意があっても裁判所が是正する可能性は否定できません。また実際的にも、こうした条項があると参加者が集まりにくくなるという営業上の問題もあります。
少なくとも「完全中止の場合」について何らかの救済措置(次年度振替、一部返金、実費控除後の返金など)が明記されている方が、法的リスクの低減と参加者の安心感の両面で望ましいです。
法の理解のための基本概念
債務と債権者
「債務」は「やらなきゃいけないこと」です。契約すると、お互いに「やらなきゃいけないこと」が発生します。そして「債権者」は「やってもらう権利を持っている側」です。
今回の例でいうと、主催者は「大会を開催する」という債務を負っていて、参加者は「それをやってもらう権利がある」ので債権者です。逆に、協賛者は「お金を払う」という債務を負っていて、主催者がその債権者です。つまり双方向に債務と債権が発生しているわけです。
反対給付
これは「自分がもらう側の給付に対して、自分が出す側の給付」のことです。要するに「お互い様」の片方です。
大会開催が主催者の給付だとすると、参加費の支払いが「反対給付」です。536条1項が言っているのは、主催者が大会を開催できなくなったら(給付が不能になったら)、協賛者は反対給付つまりお金を払うことを拒めますよ、ということです。「相手がやってくれないなら、こっちも出さなくていいでしょ」という、ごく常識的な話を条文にしたものです。
任意規定
法律の規定には「強行規定」と「任意規定」があります。強行規定は当事者が合意しても変えられないルール、任意規定は「当事者間で別の合意がなければこうしますよ」というデフォルトルールです。
536条1項は任意規定なので、「中止でも返金しません」という合意を結べば、理屈上はそちらが優先されます。ただ先ほど説明したように、あまりに一方的だと信義則等で制限される可能性があるという話です。
知財法でいうと、特許法の規定はほとんどが強行規定(公益的な手続規定)ですが、たとえば通常実施権の対価や条件は当事者間で自由に決められる部分があって、あれが任意規定的な発想に近いです。
給付
日常語だと「給付金」みたいにお金のイメージが強いですが、法律用語としてはもっと広いです。
「給付」=債務の内容として相手にすべきこと全般
お金を払うことだけでなく、物を引き渡す、サービスを提供する、何かをしない(不作為)、これら全部が「給付」です。
今回の例だと、主催者側の給付は「大会を開催して、参加者に便益を提供すること」です。お金じゃなくて「やること」そのものが給付なんですね。で、協賛者側の給付(=主催者から見た反対給付)が「参加費を払うこと」で、こっちはお金です。
もっと身近な例でいうと、美容院に行く契約なら、美容師側の給付は「髪を切ること」、客側の給付は「代金を払うこと」です。レストランなら、店の給付は「料理を提供すること」。売買契約なら、売主の給付は「物を引き渡すこと」。全部「給付」です。
知財で馴染みのある場面だと、ライセンス契約で実施権者が実施料を払うのが一方の給付、ライセンサーが実施を許諾して妨げないことがもう一方の給付、という関係になります。
大会準備に係る費用との関係
実務的に重要なポイントは、法律の原則と現実のお金の流れがズレるところです。
法律上の原則
さっきの536条1項をそのまま当てはめると、参加者は「大会に参加する」という給付を受けられなくなったわけだから、反対給付(参加費1万円)の支払いを拒める、既に払っていたら返還請求できる、というのが原則です。参加者の立場からすれば「大会やってないんだから金返せ」は当然の主張です。
でも主催者の現実
おっしゃる通り、大会の費用は当日までにほとんど発生しています。会場費、印刷物、弁当の発注、業者への支払い、スタッフの交通費、これらは大会が開催されなくても戻ってきません。つまり主催者の手元にはもうお金が残っていない。それなのに「全額返金しろ」と言われると、主催者は自腹を切ることになります。
じゃあどうするのか
ここが法律設計の腕の見せどころで、実務的にはいくつかの対応があります。
まず、参加規約で予め手当てするのが一番多いパターンです。「中止の場合、既に支出した実費を控除した残額を返金します」のような条項を置く。これなら主催者も丸損しないし、参加者も一定額は返ってくるので、双方にとって納得感があります。
次に、全額返金を原則としつつ、主催者が大会中止の保険に入っておくという方法もあります。イベント保険で中止時の損害を填補するわけです。コロナ以降はこの種の保険が注目されました。
あるいは、次年度への振替参加を認めるという方法もあります。お金は返さないけど権利は維持する、という折衷案です。
問題は何も書いてない場合
規約に中止時の扱いを書いていないと、民法の原則に戻るので「全額返金」が基本になります。主催者が「でも弁当代はもう払ったし…」と言っても、それは主催者側のリスクであって、参加者に転嫁する法的根拠がないんですね。
だからこそ、「中止でも返金しない」と書くにしても「返金する」と書くにしても、中止時のリスクを誰がどう負担するかを事前に明確にしておくことが大事で、原則行わないといった曖昧な書き方は好ましくありません。
実際の対応例
- 参加登録費:返金や開催準備に要した費用を差し引いた上での返金を原則とするが、寄付扱いとすることを要請する。https://www.mrs-j.org/meeting2025/doc/risk_guideline_2025.pdf
- 準備費用を除いた金額を算出し、ご返金いたします。https://neuro2026.jnss.org/img/NEURO2026_SponsorshipProspectus_ver2.0.pdf