自分が気に入って買った発生学の教科書や読み物をまとめておきます。買って読んだ本だけでも、軽く10冊いきました。図書館で借りてパラパラ読んだりしている本も入れたら、20冊以上発生学の本を読んできたと思います。簡単なメモとともに自分の発生学の愛読書を纏めておきます。
- 山科正平 カラー図解 人体誕生 からだはこうして造られる ブルーバックス:人の発生の面白さと、勉強の際の勘所を教えてくれる本。読み物として読めるので、入門のための最初の一冊にいいと思います。分子シグナルの話題はありません。
- ジェイミー・A. デイヴィス『人体はこうしてつくられる』 Life Unfolding 分子シグナルの知見を含めた発生学で、思い切った簡略化や断定的な説明のおかげで、非常に読みやすいものになっています。ただし分子シグナルの研究は日新月歩なので、この本で断定されていることが、本当に現代の医科学でコンセンサスを得ていることなのかは、注意深く文献を調べてフォローしたほうがいいように感じます。邦訳と原書の両方を買いました。
- Qシリーズ新発生学:ミニマルとはこういうことかと思わせるような、見事な構成です。カールソンやラーセンの大著を読んでいてどうもよくわからないときにこの本を開くと、実に簡潔に同じ内容が説明されています。図を参照しながら一字一句丹念に読む必要があります。分子シグナルの話題は全くなく、形態学的な変化のみが扱われています。
- カールソン Bruce M. Carlson Human Embryology and Developmental Biology 7th edition :版を重ねているので最新の分子シグナルの知見も踏まえて書かれています。形態の変化、関与する分子シグナル、臨床的に重要な異常などが網羅的に説明されています。自分はこの本を隅から隅まで読んで、この本を自分の発生学の知識のホームにしようと思っています。
- ラーセン Larsen’s Human Embryology 6th edition:この本も、分子シグナル、形態、先天性発生異常を網羅的に解説したもの。数ある発生学の名著(大部の教科書)のうちの一つだと思います。カールソンを読んでいて説明がわかりにくいと感じたときに、ラーセンではどう説明されているのだろうと思いながら読んでいます。
- Michael Barresi, Scott Gilbert Developmental Biology XE:動物の発生学の定番の教科書です。医学書の発生学の教科書は、マウスやニワトリまでしか取り扱われていませんが、ギルバートの教科書はもっと広い範囲のモデル動物の知見もあり(植物まで!)、動物種の違いなどを確認したいときにも重宝します。文章の端々に強い信念を感じる、非常に良い教科書です。
- Vishram Singh Textbook of Clinical Embryology, 3rd Edition:Lecturio.comの講義動画でこの本からの図がいくつか使われており、わかりやすいと思ったので買いました。カールソンやラーセンとはまたちょっと違った角度からの説明があり、この本を読んでなるほどと思ったことがいくつもあります。
- ミニマル発生学:とにかく要点を取りこぼさずに押さえておきたいと思って買って読みました。
- 道上 達男 発生生物学 -基礎から再生医療への応用まで:できるだけ原理原則で発生を理解しようというスタンスで説明されています。大著を読むと森の中で迷ってしまい、発生の原理原則って何だっけ?という部分をつかみ取るのが容易ではありませんので、こういう要点を述べた教科書の存在はありがたいものです。
- ニコル ルドアラン キメラ・クローン・遺伝子: 生命の発生・進化をめぐる研究の歴史:細胞の標識方法としてニワトリとウズラのキメラというツールを駆使して、神経堤細胞が将来どの構造に寄与するかなどの先駆的な研究で著名な発生学の研究者による解説書。研究者視点の教科書という面白味があります。大学の生物学科の学生に読ませたい本。
和書
新発生学 Qシリーズ
新発生学(Qシリーズ) 2012/9/25 白澤信行、佐藤巌、小泉憲司 192ページ 日本医事新報社
これはA4サイズの大きさで、図がとても見やすく親しみのもてる描き方、図柄です。発生学の大著を読んでも何がポイントなのかつかめませんが、Qシリーズ新発生学はポイントが見開き2ページにすっきりとまとまっていて、素晴らしい本だと思います。左側のページの日本語による説明と、右側のページの図とが見事に一致しているので、非常に理解しやすいのです。この本だけ読むとこの本の良さはあまりわからないかもしれませんが、大著を読んでいてポイントが何かわからなくてQシリーズを読むと要点が見事にまとめられていることに気付き、感動を覚えます。逆にQシリーズを読んで気になったトピックの詳細を確認するために大著の教科書を読むということもできます。自分は結局、Qシリーズとカールソンとをいったりきたりしながら発生学の勉強をしています。2012年の出版なのでやや出版年が古くなってきていますが、内容は古典的な解剖学的な発生学で、分子生物学の話はまったくないので、全然問題ないと思います。
ビジュアル人体発生学
山田 重人, 山口 豊 ひと目でわかるビジュアル人体発生学 2022/11/1 189ページ 羊土社
人体発生学は大著は読み通すのが大変で、そもそもどこに何が書いてあるのかを把握するだけでも骨が折れます。とりあえず発生学を一通り押さえておきたいと思ったときには、こういうコンパクトな教科書が役立ちます。複雑な発生学が非常にすっきりと要点を整理してまとめられています。図もわかりやすくて、数日で読み通せるいい本です。
人体発生学 (大著のもの)
カールソン、ムーア、ラーセン、ラングマンと有名な大著の教科書がいくつもあります。それぞれ特徴があるので自分の好みにあったものを選んで買ったほうがいいです。これらの大著をいきなり端から読み始めるのは、よっぽどの人でない限り分厚すぎて読みのに挫折します。自分は最初に200ページ弱と薄めの和書を通読するところから始めました。そうやってまずは「森」の外観をつかんでから、大著を開いて森の中に入ってみるというかんじです。
カールソン Carlson
Human Embryology and Developmental Biology, 7th Edition Author : By Bruce M. Carlson, MD, PhD 第7版 528ページ 2023/12/5 ELSEVIER
カールソンの教科書の読者対象は、for those who want to truly understand both the morphological and molecular aspects of human embryological development.と商品説明にかいてあります。人が発生するときの形態的な変化だけでなく、分子メカニズムも学びたい人のための教科書。分子生物学の最新の知見がとりこまれているので自分はこれが一番気に入って読んでいます。
新版が出たばかりのタイミングだったので、分子生物学的な知識はこれが最新かなと思い、カールソンのキンドルを自分は買いました。
Lecturioの発生学講義の動画を視聴しているとそこで見せられている多くの図がこのカールソンの教科書から取られていましたので、カールソンの教科書とLecturioでの勉強は相性がよいと思います。
ラーセン人体発生学 Larsen
ヒトだけでなく、動物の発生学の知見もかなりスペースを割いて、併せて紹介されているのが特徴的です。文章がわりとメリハリがあってreadableな教科書だと思います。結局カールソンだけをよんでいてもなかなか頭に入ってこないので、自分はカールソンとラーセンの2つを買って、2冊の間をいったりきたりしながら読んでいます。同じことに関する説明が、違う言葉で説明されているので、そいういうことだったのかとお互いにおもうことがあります。
Larsen’s Human Embryology 6th Edition – November 29, 2020 Authors: Gary C. Schoenwolf, Steven B. Bleyl, Philip R. Brauer, Philippa H. Francis-West Paperback ISBN: 9780323696043 9 7 8 – 0 – 3 2 3 – 6 9 6 0 4 – 3 eBook ISBN: 9780323696050 ELSEVIER 608ページ デジタル版も含まれているようです。
カールソンとラーセンは甲乙つけがたいですが、中途半端にならないようにカールソンを熟読すると決めて、理解を確かめるために同じ内容のところをラーセンを読み直すということをしています。カールソンのほうがイラストが「上品」な感じ、ラーセンのほうが文章にメリハリがある感じがしますが、大きな差はないです。が、細かいことをいうとそれぞれが工夫を凝らしています。
ムーア人体発生学 Moore
原書は2024年10月に第12版が出ました。著者からムーアの名前がなくなっていて「なぜ?」と思って調べたら2019年にムーアさんは亡くなっていました。
- Keith Leon Moore (5 October 1925 – 25 November 2019) was a professor in the division of anatomy, in the faculty of Surgery, at the University of Toronto, Ontario, Canada.(ウィキペディア https://en.wikipedia.org/wiki/Keith_L._Moore)
原書13版 英語版 The Developing Human: Clinically Oriented Embryology 2024/10/18 T. V. N. Persaud and Mark G. Torchia. (amazon.co.jp) 520ページ Kindle版 (電子書籍) ¥8,898
Clinically oriented embryologyという副題が示すように、臨床寄りの内容です。ELSEVIER社の発行で、講義資料用に図などがデジタルで利用可能なようです(本を購入して、シールをこすってはがすとアクセスコードが現れる)。
Lecturioの発生学の講義を視聴していると、カールソンの図が多いのですがときどき非常に見やすいポイントを押さえた図が紹介されていて、どの教科書からとってきたのかと思ってみたらこのムーアのDeveloping Humanでした。この本も買いたいのですが、すでにカールソンとラーセンを買っていて、ちょっと経済的に手をだしにくくなってしまいました。ムーアはムーアでまた特徴を感じます。The Developing Human: Clinically Oriented Embryology というタイトルが示すように、他書よりも臨床寄りなのか、先天的な発生異常で生まれた(もしくは生まれなかった)胎児の写真が多くて、人前で開くのは憚られる気がします。
日本語訳の最新版は原書第11版です。
邦訳 ムーア人体発生学 原著第11版 K.L.Moore 大谷 浩 (翻訳), 小川 典子 (翻訳), 松本 暁洋 (翻訳) 2022/4/4 医歯薬出版 大型本 : 516ページ
- Keith L. Moore (5 October 1925 – 25 November 2019) (Wikipedia)
- The Developing Human Clinically Oriented Embryology 11th Edition – December 23, 2018 Authors: Keith L. Moore, T. V. N. Persaud, Mark G. Torchia ISBN: 9780323611541 9 7 8 – 0 – 3 2 3 – 6 1 1 5 4 – 1 eBook ISBN: 9780323611565 522ページ
ラングマン Langman
Langman’s Medical Embryology 15th edition 2023/1/14 最新版は2023年現在、第15版です。
日本語版 ラングマン人体発生学 第11版 サドラー,T.W.Sadler,Thomas W.メディカル・サイエンス・インターナショナ 2016/02 427p 原書名:Langman’s medical embryology , 13th edition
日本語版はB5の大きさでページ数が427ページですが、持ち歩ける大きさ、重さです。しかし原書は15版が出ていますので、原書を買ったほうがよいでしょう。解剖学的な記述の部分はあまり古くならなくても、遺伝子発現制御など分子メカニズムの知見は日進月歩です。写真は奇形の胎児の写真がかなり多く、純粋な発生学よりも、臨床医学寄りの内容だと思います。
グレイ解剖学
Gray’s Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice 1588ページ
グレイ解剖学は解剖学の大著ですが、人体発生学に関してもかなりの記述があります。最新は42版(October 21, 2020)ですが、下は39版に対する書評です。
For those of you who have not perused Gray’s Anatomy, is not just plain old anatomy. It gives detailed stand-alone chapters of embryology and integrates a very healthy amount of histology, physiology, and pathology. It also starts off with a 225-page introduction, which is a good primer on, and quick review of, cell structure and function, tissues, and overall systems. The second section (213 pages) is on neuroanatomy, which includes chapters on the autonomic nervous system, neuroembryology, meninges, CSF and the ventricular system, vasculature of the brain, spinal cord, brain stem, cerebellum, diencephalon, cerebral hemispheres, basal ganglia, and special senses.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7976199/
キンドルのサンプルで最初の何ページかを読むことができるので、ちょっと見てみましたが、セルシグナリングのイラスト(Fig. 1.12など)はちょっと素朴すぎる印象があります。いまどきもっといい画がたくさんあるのにもったいない。分子生物学はあまり強くなさそう(詳細を省いている)ですね。シンプルに書いているのですが、シンプルに書きすぎるとむしろわかりにくくなることもあります。
人体発生学の教科書 学生向け
Singh
Textbook of Clinical Embryology, 2nd Updated Edition 2020/5/20 Vishram Singh