第1話(前編): 弁理士ジョージをよろしく 公知と先使用権 (https://www.jpaa.or.jp/comic/)というマンガを読んでいたら、機械メーカーが特許侵害を通告されて、相談を受けた弁理士がその機械メーカーの商品の販売開始日が特許取得日より早いかどうかが論点になっていました。実際そういうものなのか、Geminiに訊いてみました。
質問:ある機械メーカーが特許侵害だと通知を受けたが、その機械メーカーは古くからその商品を販売しているので「公知」であり、特許侵害にはあたらないという反論は可能ですか?
Gemini:結論から申し上げますと、その反論は十分に可能であり、かつ非常に強力な対抗手段となります。ご質問のケース(古くから商品を販売しており、その技術がすでに世に知られていた=「公知」であった)において、特許侵害を回避するための法的なロジックは主に2つあります。以下に、その仕組みと、対抗するために必要な要素を整理します。
1. 特許侵害を否定する2つの主要なロジック
相手の特許出願日(または優先日)よりも前に、その製品を販売していた事実がある場合、以下の2つの主張が考えられます。
A. 特許の無効を主張する(特許法第104条の3)
「そもそも、その技術は私が昔から売っていたものであり、新しい技術(新規性)ではないため、特許になるべきではなかった」という主張です。
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理屈: すでに公然と知られていた発明(公知発明)は特許を受けることができません。誤って登録された特許には効力が及びません(権利行使が制限されます)。
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効果: 相手の特許自体を無効化できる可能性があるため、自社だけでなく業界全体にとってメリットになる場合があります。
B. 先使用権(せんしようけん)を主張する(特許法第79条)
「仮にその特許が有効だとしても、私は特許が出される前からその事業を行っていたので、継続して使い続ける権利がある」という主張です。
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理屈: 特許出願の時点で、すでにその発明の実施(製造・販売など)をしていた、あるいはその準備をしていた者には、通常通りビジネスを続ける権利(通常実施権)が認められます。
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効果: 特許そのものは潰さずに、「自分たちだけは特別に許される」という権利を確保します。
2. 反論を成功させるための「絶対条件」
この反論を行うためには、口頭で「昔からやっていた」と言うだけでは不十分です。「いつ」「誰が」「どのような技術を」公開していたかを示す客観的な証拠が必要です。
相手の特許の出願日よりも前の日付が入った、以下の資料を探し出す必要があります。
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製品カタログ・パンフレット: 発行日が記載されているもの。
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販売実績の記録: 注文書、納品書、請求書などで、具体的な製品名や型番が特定できるもの。
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設計図面・仕様書: 日付と承認印があり、その技術内容が明確にわかるもの。
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Webサイトのアーカイブ: 「Wayback Machine」などで過去の掲載情報が確認できる場合など。
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第三者の証言: 取引先などの客観的な証言(補助的な証拠として)。
3. 注意すべき落とし穴
「古くから販売している」と思っていても、以下の点には注意が必要です。
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「構成」の微妙な違い: 昔から売っていた製品と、相手の特許請求の範囲(クレーム)が完全に一致しているかを確認する必要があります。「似ているが、相手の特許には新しい工夫(進歩性)が加えられている」場合、反論が難しくなることがあります。
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改良品の問題: 「昔の製品」はセーフでも、最近販売している「改良版」が相手の特許に抵触している可能性もゼロではありません。
今後の対応ステップ
通知書への回答は慎重に行う必要があります。まずは以下の手順をお勧めします。
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日付の確認: 相手の特許公報を確認し、「出願日(または優先日)」を特定する。
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証拠の収集: その日付よりも前の自社製品のカタログ、図面、販売伝票を確保する。
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対比: 「過去の自社製品」と「相手の特許の構成要件」を突き合わせる。
相手も調査不足のまま通知を送ってきている可能性(いわゆる「言ってみたもん勝ち」)もありますが、油断は禁物です。
質問:機械の場合、内部構造が特許の対象だとしたら、その商品が販売されていたとしても、内部の技術情報は公知になっていたとはいえないという議論はあり得ない?
Gemini:
結論として、その議論(内部構造だから公知ではないという主張)は、通常の一般販売が行われていた機械であれば、通用しない(特許権者側の反論としては弱い)可能性が高いです。
つまり、あなたの会社にとって有利な状況です。
なぜ「外から見えない内部構造」でも「公知(公然実施)」として扱われるのか、法的な判断基準を解説します。
1. 「分解すればわかる」なら、それは「公知」です
特許法における「公然知られた(公知)」や「公然実施された」という状態は、「実際に誰かが見た」ことまでは要求されません。
「その気になれば、誰でもその内容を知ることができる状態にあったか(知り得る状態)」
これが判断の基準になります。
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原則: 商品が不特定多数の者に販売(市販)されていた場合、購入者がその機械を**分解(リバースエンジニアリング)**して内部構造を調べることは自由です。
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結論: 「市場に出回っていた」=「誰でも分解して内部を知ることができた」=**「内部構造も含めて公知である」**とみなされます。
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2. 特許権者側が「公知ではない」と主張できる例外ケース
逆に言えば、以下のような特殊な状況でない限り、あなたの会社は「昔から売っていた」という事実だけで勝てる可能性が高いです。
特許権者(相手)が「あれは公知ではなかった」と反論できるのは、以下のようなケースに限られます。
| ケース | 理由 |
| 秘密保持契約 (NDA) 下での販売 | 特定の顧客だけに、「内部構造を解析しない」「第三者に開示しない」という契約を結んで販売・リースしていた場合。これは「秘密」が守られているため、公知にはなりません。 |
| 分解が物理的に不可能な場合 | 分解しようとすると製品が破壊され、構造がわからなくなるような特殊な加工(ブラックボックス化)がされていた場合。(機械装置では稀です) |
| 外部から観測できない内部プロセス | 機械の構造ではなく、内部で起きている「化学反応」や「プログラムの処理手順」など、分解しても目に見えないものである場合。(※ただし、機械的な構造であれば通常は該当しません) |
3. あなたの会社が主張すべきポイント
相手が「内部構造は見えなかったはずだ」と言ってきても、以下の点を主張・立証できれば、その特許を無効化(または権利行使を阻止)できる可能性が高いです。
- 不特定多数への販売実績:「特別な守秘義務契約なしに、誰でも購入できる状態で販売していた」という事実。
- 構造の可視性:「蓋を開ければ(あるいは通常の工具で分解すれば)、その構造は容易に確認できた」という事実。
- メンテナンスの実態:「顧客先で修理やメンテナンスを行う際、内部構造を隠すことなく見せていた(またはマニュアルに内部図が載っていた)」という事実。
4. メンテナンスマニュアルは強力な武器になります
もし、過去の製品の**「サービスマニュアル」「パーツリスト」「分解図」**などが残っていれば、それを探してください。
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これらは通常、修理業者の手に渡るものです。
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「社外の人の手に、内部構造がわかる図面が渡っていた」という証拠があれば、たとえ実機が分解されていなくても、その情報は**「公知の刊行物」または「公知の情報」**として扱われ、決定的な証拠になります。