特許出願について、基本から全体の流れまでを整理してまとめます。
特許は、新しい技術的アイデア(発明)を独占的に利用するための強力な権利ですが、**「出願しただけでは権利にならない」**という点が最大のポイントです。
以下に要点を整理しました。
1. 特許出願から権利化までの流れ(重要)
日本の特許制度では、出願書類を特許庁に提出した後、いくつかのステップを経て初めて権利が発生します。
* 出願(Filing)
* 願書、明細書、特許請求の範囲、図面などを提出します。
* 重要:この時点では、特許庁は中身の審査を行いません。
* 出願公開(Publication)
* 出願から1年6ヶ月経過すると、内容が世の中に公開されます(誰でも見られるようになります)。
* 審査請求(Request for Examination)
* ここがポイントです。 出願から3年以内に「審査してください」と手数料を払って請求しないと、出願は取り下げられたものとみなされます。
* 実体審査(Substantive Examination)
* 審査官が「新しいか?」「容易に考えつかないか?」などを審査します。
* 拒絶理由通知(Notification of Reasons for Refusal)
* 多くの場合、一度は「今のままでは特許にできません」という通知が来ます。これに対し、意見書や補正書で反論・修正を行います。
* 特許査定(Grant of Patent)
* 審査をクリアすると、特許査定が下ります。
* 設定登録(Registration)
* 特許料を納付することで、特許権が発生します。
2. 特許が認められるための3つの壁(特許要件)
審査官は主に以下の3点を厳しくチェックします。
* 産業上の利用可能性(Industrial Applicability)
* 単なる学術的理論や治療方法ではなく、産業として実施できる発明であること。
* 新規性(Novelty)
* 出願時点で、世の中に知られていない新しいものであること。
* 注意:自分でSNSやブログで発表してしまった後に出願すると、原則として新規性が失われ、特許が取れなくなります。
* 進歩性(Inventive Step)
* その分野の専門家が、既存の技術から容易に思いつかないレベルのものであること。
3. 知っておくべきキーワード
* 先願主義(First-to-File Rule)
* 同じ発明をした人が複数いた場合、「先に発明した人」ではなく**「先に特許庁に出願した人」**が勝ちます。1日でも早い出願が重要です。
* 明細書・特許請求の範囲(Claims)
* 特許出願の心臓部です。「特許請求の範囲」に書かれた言葉が、そのまま権利の及ぶ範囲(独占できる範囲)になります。
4. 費用と期間の目安
* 期間: 出願から権利化まで、審査請求のタイミングにもよりますが、平均して2年〜4年程度かかることが多いです(早期審査制度を使えば数ヶ月に短縮可能)。
* 費用:
* 特許庁への印紙代+弁理士費用などを含めると、出願〜登録までスムーズにいって総額30万〜60万円程度が相場となることが多いです(拒絶対応の回数や請求項の数で変動します)。
特許出願して、補正命令や、補完命令されたとき、出願日は、いつになる?補正や補正の日?
「補正命令」か「補完命令」かによって、出願日が変わるかどうかが決定的に違います。
結論から言うと、以下のようになります。
* 補正命令(形式的なミスの修正)の場合
* 出願日は**「最初に出願書類を提出した日」のまま**です(変わりません)。
* 補完命令(明細書などが丸ごと抜けていた場合)の場合
* 出願日は**「足りない書類(補完書)を提出した日」に繰り下がります**(遅くなります)。
詳細解説
1. 補正命令(Amendment Order)の場合
手数料の未納や、願書の記載ミス、図面の不鮮明さなど、形式的な不備がある場合に出されます。
* 出願日: 変わりません。
* 効果: 指定された期間内に「手続補正書」を提出して不備を解消すれば、最初に出願書類を提出した日に有効な出願がされたものとして扱われます。
2. 補完命令(Completion Order)の場合
これは非常に危険な状態です。「明細書」や「特許請求の範囲」などが丸ごと添付されていないなど、出願として成立するための最低限の書類が足りない場合(特許法第38条の2)に出されます。
* 出願日: 「手続補完書」を提出した日(足りない書類を特許庁に出した日)になります。
* リスク: 最初に書類を出した日から、補完書を出した日までの間に、他人が同じ発明を出願していたり、その技術が公知になっていたりすると、特許が取れなくなります。
まとめ:出願日の判定表
| 命令の種類 | 理由(例) | 対応策 | 出願日はいつになる? |
|—|—|—|—|
| 補正命令 | ・手数料不足
・印鑑漏れ
・様式違反 | 手続補正書を出す | 最初の提出日のまま
(安心してください) |
| 補完命令 | ・明細書がない
・請求の範囲がない | 手続補完書を出す | 補完書を出した日
(繰り下がるので注意!) |
※ごく稀な例外として、補完命令の場合でも、優先権主張の基礎となる出願に内容が含まれている場合など、所定の要件を満たせば元の出願日を維持できる制度もありますが、非常に複雑な手続きが必要です。基本は「繰り下がる」と覚えておいてください。