大学の生化学の教科書のお勧め 医学部学生向け、看護学部学生向け、栄養学科向け、臨床医学寄り、理学系・化学寄り

大学で学ぶ生化学の教科書として何がおすすめかは、どんな学部・学科で何をどの程度学びたいかによって変わってきます。生化学は文字通り生体物質の化学ですが、ギブスの自由エネルギーなど物理化学の説明をあまり詳しく取り扱っていない生化学の教科書もあります。

  1. 可逆反応か不可逆反応かを決めるものは何か 五十嵐・志村『改訂 生化学』(光生館)はギブスエネルギーや化学平衡、可逆反応・不可逆反応の説明が詳細だと思います。

また、最近の生化学は細胞生物学を取り込んでおり、エネルギー代謝や物質代謝だけでなくかなりの部分を細胞生物学(細胞分裂、遺伝子発現、細胞内情報伝達機構、最近のライフサイエンステクノロジー)に割いているものを多くなっています。

分量でいうと、大学の標準的な教科書を想定した200~300ページ程度のものと、網羅的に解説した600~1000ページ程度のものに二分されます。

看護学部の学生向けの生化学の教科書

畠山 鎮次『人体の構造と機能〈2〉生化学』 第14版 (系統看護学講座 専門基礎分野)  2019/1/8 医学書院 13版(2014/1/6 三輪 一智)とは著者が変わり、内容も一新されているようです。最近の生化学の教科書の傾向として、代謝回路などの古典的な生化学の範囲が3分の2くらいでのころ3分の1は細胞内情報伝達機構なども含めた細胞生物学の内容になっていると思います。

石堂一巳『生化学』 (看護学テキストNiCE) 2021/12/23 南江堂 158ページ

 

栄養学科の学生向けの生化学の教科書

教科書をパラパラと見てみると、看護学部の学生向けに書かれた生化学の教科書よりも、栄養学科の学生向けに書かれた生化学のほうが内容が一段詳細のようです。各出版社からそれぞれ200ページ前後の大学の講義で使われていそうな標準的な教科書が出版されています。生化学は知識の量が膨大で何を覚えればいいのか途方に暮れる科目ですが、管理栄養士国家試験で出題される内容と割り切ってしまえば、目標が明確になって頑張れるでしょう。教科書は古くから出版されていますが、ここ10年くらいの本を紹介します。

生化学・基礎栄養学

小林美里 ほか『生化学・基礎栄養学 第3版』 (栄養科学ファウンデーションシリ―ズ) 2022/9/9 池田 彩子, 石原 堅固, 2022/9/9 朝倉書店 192ページ 第2版(2017/9/25)を図書館で借りて読みましたが、管理栄養士国家試験に出題された部分が教科書の本文中に示されており(回と問題番号)、何回も出題されている重要箇所も一目でわかりますので、勉強する際にメリハリがついてよいと思います。2色刷り(ピンクの濃淡だけ)で、図などはカラーではありません。

生化学

佐々木康人, 薗田勝, 中村彰男 『生化学第5版 (サクセス管理栄養士・栄養士養成講座) 2021/8/31 一般社団法人 全国栄養士養成施設協会 (監修), 公益社団法人 日本栄養士会 (監修), 第一出版; 179ページ 直近5回の管理栄養士国家試験で出題された語句や内容について、出題番号を併記。

生化学

薗田 勝 (編集)『生化学 第3版』 (栄養科学イラストレイテッド)  2017/12/14  羊土社 ‎ 256ページ

生化学: 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち

石堂 一巳, 福渡 努  編『生化学: 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち 』(健康・栄養科学シリーズ)  2019/9/25 南江堂 311ページ

生化学: 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち

福田 満『生化学(第2版): 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち』 (新食品・栄養科学シリーズ)  2012/4/11 化学同人 187ページ

栄養生化学 人体の構造と機能

加藤 秀夫, 中坊 幸弘, 宮本 賢一 『栄養生化学 人体の構造と機能』 (栄養科学シリーズNEXT)  2012/4/3 講談社 192ページ

生化学

大塚 譲, 藤原 葉子, 本田 善一郎, 脊山 洋右『生化学』(新スタンダード栄養・食物シリーズ2) 2014/3/28 東京化学同人 242ページ

 

医療関係学部向けの生化学の教科書

Lippincott Illustrated Reviews: Biochemistry 649ページ April 20, 2021

生化学は我々の体がどうやって栄養となる物質を利用して体を作り、エネルギーを取り出し、信号となる物質を作っているかです。また体の中の化学物質をどうやって変換したり除去したりするかです。生化学は暗記すべき膨大な知識のリストではなく、コンセプトとして勉強する必要があります。

 

医学部の学生向けの生化学の教科書

マークス

Michael A. Lieberman PhD, Alisa Peet MD『Marks’ Basic Medical Biochemistry: A Clinical Approach』 6th edition 2022/7/14 1123ページ (5th Edition June 13, 2017)

医学部の学生向けに書かれた生化学の教科書。本文の言葉による説明が非常に明解で、頭に入ってきやすいです。読み物として読むのが楽しい本。

■ 生化学を人間の健康と疾患に結びつける、豊富な患者エピソード
■ 患者の症状や徴候を解説するClinical Notes(臨床ノート)、および生化学を診断時の臨床検査に関連づけるMethod Notes(メソッド・ノート)
■ 生化学的動態を治療オプションや患者アウトカムと関連づけるClinical Comments(臨床的解説)

邦訳:マークス臨床生化学横溝岳彦・訳 髙陽堂書店

ハーパー

Harper’s Biochemistry (Harper’s Illustrated Biochemistry)  2022/9/7 Ph.D. Kennelly, Peter J. , Ph.D. Botham, Kathleen M. , Ph.D. Mcguinness, Owen P., Ph.D. Rodwell, Victor W. , Ph.D. Weil, P. Anthony  802ページ(アマゾン商品サイト) 第32版が2022年に発行されています。

Harper’s Illustrated Biochemistry Paperback – Illustrated, 31st Edition May 28, 2018 ハーバーの生化学 第31版!です。777ページ。

 

理学部向けの生化学の教科書

LibreTexts

Biochemistry LibreTexts これはウェブ教科書でPDF版も用意されていますが、紙での出版はないようです。

  1. Fundamentals of Biochemistry (Jakubowski and Flatt) https://bio.libretexts.org/Bookshelves/Biochemistry/Fundamentals_of_Biochemistry_(Jakubowski_and_Flatt)
  2. Fundamentals of Biochemistry Vol. II – Bioenergetics and Metabolism https://bio.libretexts.org/Bookshelves/Biochemistry/Fundamentals_of_Biochemistry_(Jakubowski_and_Flatt)/02%3A_Unit_II-_Bioenergetics_and_Metabolism これは原理的な説明が明解で、頭に入りやすいと思いました。自分は愛読しています。

ストライヤー生化学

ヴォ―ト生化学

化学者と生化学舎の夫妻による生化学の教科書で、医学の理解の助けになる事柄にもけっこう言及しています。膜輸送(membrane transport)のチャプターもあるのは特徴的。問題も豊富に盛り込んであって、読むだけでなく理解することを重視した教科書。複雑な生化学の反応式も、カラーで見やすく描かれていて、いい教科書だと思います。読む気が起きる教科書。といっても、ヴォート基礎生化学 第5版 東京化学同人 A4変の大きさで、792ページもあるんですね。他の大著よりは少し薄いのですが。

 

そのほか

Lee W. Janson, Marc Tischler『The Big Picture: Medical Biochemistry (Lange the Big Picture)』February 17, 2012

Gerhard Meisenberg PhD『Principles of Medical Biochemistry』2016/12/12

Thomas M. Devlin編『Textbook of Biochemistry with Clinical Correlations』 (Edition 7) 1240ページ ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0470281734

V. S. Ghalaut, A. Sachdeva 『Clinical Biochemistry: Questions and Answers June 30, 2015 』質問と答え、という論述形式のテストみたいな構成なので、自分がどれだけこたえられるかというチャレンジになっていてよい。

Robert H. Glew, Miriam D. Rosenthal 編『Clinical Studies in Medical Biochemistry』3rd Edition 392ページ

Peter Rae, Mike Crane, Rebecca Pattenden『Clinical Biochemistry (Lecture Notes)』 October 2, 2017 疾患ごとの解説になっていてかなり臨床寄りの内容。