抗PD-1抗体(PD-1阻害薬)について

ご質問ありがとうございます。$\text{PD-1}$阻害薬(抗$\text{PD-1}$抗体)は現在、複数のメーカーから上市されており、これらはすべてヒト化または完全ヒト$\text{IgG4}$または$\text{IgG1}$モノクローナル抗体ですが、それぞれアミノ酸配列が異なるため、厳密には別個の分子です。

配列が異なるということは、$\text{PD-1}$に対する**結合親和性($\text{affinity}$や、$\text{PD-1}$と$\text{PD-L1/PD-L2}$との結合を阻害する中和活性**、さらには体内でどのように振る舞うかを示す**薬物動態($\text{PK}$)**に違いが生じる可能性があります。

複数の抗$\text{PD-1}$抗体(特にニボルマブ、ぺムブロリズマブなど)を直接比較した研究について、得られた情報に基づき解説します。


1. 結合親和性・中和活性の$\text{In Vitro}$比較

複数の抗$\text{PD-1}$抗体を同一条件下で比較した$\text{In Vitro}$(試験管内)研究は存在します。

  • 結合親和性($\text{Affinity}$:
    • 特定の研究では、各抗体の$\text{PD-1}$受容体への結合強度($\text{KD}$値)を比較しています。
    • 一般的に、これらの$\text{PD-1}$抗体は**非常に高い親和性**で$\text{PD-1}$に結合するように設計されていますが、分子ごとに若干の差が報告されることがあります。たとえば、ぺムブロリズマブがニボルマブよりもわずかに高い親和性を示すという報告や、その逆の報告など、評価系によって結果が異なる場合があります。
  • 中和活性($\text{PD-1/PD-L1}$結合阻害能):
    • $\text{PD-1}$とリガンド($\text{PD-L1}$や$\text{PD-L2}$)の結合をどの程度強く阻害するかを評価した研究もあります。
    • これらの研究では、臨床で標準的に用いられる濃度においては、主要な$\text{PD-1}$抗体間で$\text{PD-1}$経路の阻害能に大きな差は見られないという結論に至ることが多いです。これは、臨床用量ではどの抗体も$\text{PD-1}$受容体をほぼ飽和させ、完全にブロックしているためと考えられます。

👉 結論($\text{In Vitro}$: 分子レベルでの結合親和性にわずかな差は報告されるものの、治療効果に直結する中和活性については、臨床的な投与濃度では大きな差はないと考えられています。


2. 薬物動態($\text{PK}$)の比較と$\text{In Vivo}$への影響

治療効果を考える上で、$\text{In Vivo}$(生体内)の挙動、特に**薬物動態($\text{PK}$)**の違いが重要です。

項目 ニボルマブ(オプジーボ) ぺムブロリズマブ(キイトルーダ) アテゾリズマブ(テセントリク/抗$\text{PD-L1}$)など
設計 $\text{IgG4}$ $\text{IgG4}$ $\text{IgG1}$($\text{PD-L1}$抗体)など
半減期 約$\text{25}$日程度 約$\text{26}$日程度 異なる(設計による)
投与間隔 2週または4週 3週または6週 2週、3週、または4週
  • 薬物動態($\text{PK}$)の違い:
    • 抗体の設計上の違いにより、クリアランス(体内からの消失速度)や血中半減期には若干の違いがあります。
    • 特に注目すべきは、$\text{Fc}$領域の違いです。$\text{PD-1}$抗体の多くは$\text{IgG4}$または$\text{IgG1}$ですが、この設計が免疫細胞($\text{FcR}$を持つ細胞)への結合や、**$\text{FcRn}$によるリサイクルの効率に影響し、最終的な投与間隔投与量**の設定に反映されています。
  • $\text{In Vivo}$効果の直接比較($\text{RCT}$:
    • 異なる抗$\text{PD-1}$抗体を比較するために設計された**直接比較のランダム化比較試験($\text{RCT}$)**は、ほとんど行われていません。これは、異なるメーカーの薬剤を直接競合させる試験の実施が困難であるためです。
    • 臨床的な効果(奏効率、生存期間など)を比較する際は、異なる試験の結果を集積した間接比較($\text{meta-analysis}$)が用いられますが、試験デザイン、患者集団、併用療法などの違いから、「どちらが優れている」と断定することは難しいとされています。

👉 結論($\text{In Vivo}$: 投与間隔と用量が最適化されているため、特定の抗体が他の抗体よりも特定の癌腫で臨床的に明らかに優位であるという確固たる科学的根拠は、現状では示されていません


3. 専門家の見解

現在、臨床の専門家の間では、主要な抗$\text{PD-1}$抗体(ニボルマブ、ぺムブロリズマブなど)は、**「等価($\text{equivalent}$)」**または**「交換可能($\text{interchangeable}$)」**として扱われることが多いです。

  • 効果の差よりも設計の差: 薬剤の設計($\text{IgG}$サブタイプ、$\text{Fc}$領域の改変)は、主に投与スケジュール(例:3週ごと、4週ごと、6週ごと)の決定に影響を与えており、これは患者の利便性医療経済性の観点から重要視されています。

したがって、治療の選択は、薬理学的な微細な違いよりも、適応症投与スケジュール費用対効果、そして医師の臨床経験に基づいて行われることが一般的です。

 

市場に流通している主要な抗PD-1抗体(PD-1阻害薬)

現在市場に流通している主要な抗$\text{PD-1}$抗体($\text{PD-1}$阻害薬)について、メーカー、サブタイプ、特徴、日本での薬価(最新収載日)、および主な承認国をまとめた情報を提供します。

注意点: 以下のリストは、抗$\text{PD-1}$抗体に限定しており、抗$\text{PD-L1}$抗体(アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブなど)は含んでいません。また、中国で承認されているローカルな$\text{PD-1}$抗体は数が多いですが、世界的な流通を考慮し、主要な薬剤に絞っています。


🔬 現在市場にある主要な抗$\text{PD-1}$抗体($\text{PD-1}$阻害薬)

商品名 (一般名) メーカー (開発/販売) IgG サブタイプ 主な特徴と設計 薬価(日本・2024年11月時点) 主な承認国と承認日(初回)
オプジーボ (ニボルマブ, $\text{Nivolumab}$) 小野薬品工業/ブリストル・マイヤーズ スクイブ $\text{IgG4}$ 世界で2番目、日本で最初の$\text{PD-1}$阻害薬。多くの癌腫で適応を持つ。$\text{IgG4}$で$\text{ADCC/CDC}$活性はほぼない。 100mg/10mL 1瓶:278,922円 (2024年4月改定) 日本 (2014年7月)、米国 (2014年12月)、欧州 (2015年6月)
キイトルーダ (ぺムブロリズマブ, $\text{Pembrolizumab}$) Merck & Co., Inc. (MSD) $\text{IgG4}$ 世界初の$\text{PD-1}$阻害薬として、米国で最初に承認。幅広い癌腫に適用され、$\text{TMB-H}$や$\text{MSI-H}$など特定のバイオマーカーによる横断的適応を持つ。 100mg/4mL 1瓶:345,417円 (2024年4月改定) 米国 (2014年9月)、欧州 (2014年7月)、日本 (2016年9月)
リブタヨ (セムプリマブ, $\text{Cemiplimab}$) Regeneron / Sanofi $\text{IgG4}$ 進行性皮膚扁平上皮癌の治療薬として最初に承認され、現在は非小細胞肺癌なども適応。 350mg/7mL 1瓶:616,913円 (2024年4月改定) 米国 (2018年9月)、欧州 (2019年6月)、日本 (2020年3月)
ジェムバ (ドスタルリマブ, $\text{Dostarlimab}$) GlaxoSmithKline (GSK) $\text{IgG4}$ $\text{dMMR}$(ミスマッチ修復欠損)固形癌に特化した適応を持つ。特に子宮内膜癌での開発が進む。 500mg/10mL 1瓶:1,085,326円 (2023年8月収載) 米国 (2021年4月)、欧州 (2021年4月)、日本 (2023年6月)
イェルボイ (チスレリズマブ, $\text{Tislelizumab}$) BeiGene $\text{IgG4}$ (改変) $\text{Fc}$領域を改変し、$\text{Fc}\gamma\text{R}$への結合を最小限に抑え、**抗体依存性細胞傷害($\text{ADCC}$)をほぼ排除**するよう設計されている。 欧米・日本での薬価収載は進行中または未定。 中国 (2019年12月)、欧州 (2023年9月)、米国 (承認申請中または取得済み)

補足情報

  1. $\text{IgG}$サブタイプと特徴:
    • $\text{IgG4}$: $\text{PD-1}$抗体の主流です。$\text{IgG4}$は通常、$\text{Fc}$領域を介したエフェクター機能($\text{ADCC}$や$\text{CDC}$)が極めて低く、これは「$\text{PD-1}$をブロックする」という**主作用のみ**を発揮させ、$\text{T}$細胞を破壊しないよう設計されています。
    • チスレリズマブ: $\text{IgG4}$をさらに改変することで、エフェクター機能を意図的に最小化しており、これがメーカーが強調する特徴の一つです。
  2. $\text{PD-1}$抗体と$\text{PD-L1}$抗体の分類:
    • $\text{PD-1}$阻害薬(ニボルマブ、ぺムブロリズマブなど):$\text{T}$細胞側にある$\text{PD-1}$受容体をブロック。
    • $\text{PD-L1}$阻害薬(アテゾリズマブなど):癌細胞側にある$\text{PD-L1}$をブロック。
    • どちらも同じ$\text{PD-1}$経路のシグナル伝達を阻害しますが、結合部位が異なるため、毒性プロファイルや併用療法での挙動に微妙な違いが生じる可能性があります。

(Gemini 2.5 Pro)