「審決(しんけつ)」と「判決(はんけつ)」は、決定を下す『場所(組織)』が違います。
特許法173条における「審決」の意味を、スッキリ解明しましょう。
1. 「審決」とは何か?(判決との違い)
一言で言うと、特許庁の最終決定のことです。
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審決(しんけつ): 特許庁(行政機関)が出す最終的な結論。
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判決(はんけつ): 裁判所(司法機関)が出す最終的な結論。
法律の世界では、「誰が出した結論か」で言葉を厳密に使い分けます。
「特許庁」はお役所であって裁判所ではないので、そこで行われる裁判のような手続き(審判)の結論は、「判決」とは呼ばずに「審決」と呼ぶのです。
イメージ:
審決: サッカーの試合で、**審判団(特許庁)**が下した「ゴール!」「ファウル!」という判定。
判決: その判定に納得できず、スポーツ仲裁裁判所に訴えて出た結果。
2. なぜ「特許取消しの判決」と書かないの?
173条で単に「審決」と書かれているのには、2つの理由があります。
理由①:場所が「特許庁」だから
173条(再審)は、「特許庁での話し合い(審判)」をやり直す手続きです。
特許庁での手続きの話をしているので、裁判所の用語である「判決」という言葉は使いません。あくまで「確定した審決」に対して文句を言う制度だからです。
理由②:範囲が広いから(ここが重要!)
ご質問にある「特許取り消し(無効)」だけではないのです。
「審決」という言葉は、特許庁で行われるあらゆる審判の結論を指す「総称」です。
例えば、以下のようなケースも全て「審決」で終わります。
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無効審判の審決: 「特許を無効にする(または有効のまま維持する)」という結論。
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拒絶査定不服審判の審決: 「審査官はダメと言ったけど、やっぱり特許をあげるよ(またはやっぱりダメだよ)」という結論。
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訂正審判の審決: 「特許の内容をちょっと書き直していいよ」という結論。
173条は、これらすべての「審決」において、もし不正(嘘の証拠など)があったらやり直せるよ、という条文です。
だから、限定的な「特許取消し」という言葉を使わず、広い意味を持つ「審決」という言葉だけで通じさせているのです。
3. 図解:手続きの流れ
位置関係を整理すると、よりハッキリします。
- 審査(特許庁): 審査官がチェック。「拒絶査定」など。↓ (不服なら)
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審判(特許庁): 3人の審判官が話し合う。ここで出る結論が**「審決」**。
- ※173条の再審は、ここのやり直しです!↓ (まだ不服なら)
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訴訟(裁判所): 知的財産高等裁判所に訴える。ここで出る結論が**「判決」**。
まとめ
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審決とは?: 裁判所ではなく、特許庁が出した最終的な結論のこと。
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なぜ「審決」だけでいいの?: 「無効」にする場合だけでなく、「拒絶をひっくり返す」場合なども全部ひっくるめた便利な総称だから。
「特許庁の中での『判決』みたいなもの」と脳内変換してOKですが、試験で「判決」と書くと×になるので、**「特許庁=審決」**という用語のペアで覚えておきましょう!
質問:「最終的」?再審をうけつけるんだから、「最終的」だったわけではないんじゃないの?
Gemini:
その「言葉の矛盾」に対するモヤモヤ、非常によくわかります!
「いつでもひっくり返せるなら、それ『最終』じゃなくて『仮』じゃん!」と思いますよね。
法律の世界でいう**「最終的(確定した)」**という言葉には、日常会話とは少し違う、**特別なルール(定義)**があるのです。
これをスッキリさせるには、**「試合終了のホイッスル」**で考えると一発で分かります。
1. 「確定(かくてい)」とは「試合終了」のこと
法律用語で「審決が確定した(最終的になった)」というのは、**「もう通常のルールでは文句が言えなくなった(タイムアップ)」**という状態を指します。
例えば、特許庁で「無効だ」という審決(判定)が出たとします。
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A. まだ文句が言える期間(出訴期間):
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「ふざけるな!裁判所に訴えてやる!」と、判定に抗議できる期間(通常30日以内)。
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この間は、まだ試合続行中です。(未確定)
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B. 期間が過ぎた、または裁判で負けきった:
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文句を言う権利や期間を使い果たした状態。
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ここで審判(レフェリー)は「ピーッ!試合終了!」と笛を吹きます。
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これが**「確定(最終的になった)」**です。
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一度「確定」すると、たとえその判定が誤審だったとしても、原則として二度と蒸し返せません(これを「一事不再理」と言います)。そうしないと、いつまでもケンカが終わらず、社会が混乱するからです。
2. じゃあ「再審」って何なの?
ここがご質問の核心です。
再審とは、「試合終了(確定)」の後に行われる、超・例外的な処理です。
これは「延長戦」ではありません。
**「試合そのものが不正だったから、試合結果を白紙に戻す」**という、非常事態の手続きです。
イメージ:
サッカーの試合が終わり、スコアは「1-0」で確定しました。観客も帰り、記録にも残りました。
しかし、1年後に**「実は審判が買収されていた(八百長だった)」**という証拠が出てきました。
協会は言います。
「本来なら試合終了だけど、これはあまりに酷い。例外的にあの試合の結果を取り消して、もう一回やり直そう」
これが再審です。
3. つまり、こういうことです
あなたの疑問に対する答えはこうなります。
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Q. 再審があるなら、「最終的」じゃなかったのでは?
- A. いいえ、手続き上は一度、完全に「最終的(確定)」になっていました。
再審は、その「鉄の掟(確定したら覆らない)」を、**ドリルで無理やりこじ開けるような「異常な手続き」**なのです。
だからこそ、再審が認められる条件(再審事由)は、「証拠が偽造だった」「代理権がなかった」など、よっぽどの犯罪的な事情がある時だけに限定されているのです。単に「判断ミスじゃない?」くらいでは、再審の扉は開きません。
まとめ
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「最終的(確定)」の意味: 「通常のルールでは、もう二度と文句が言えない状態(試合終了)」になったこと。
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再審の位置づけ: 試合終了後に重大な不正が見つかった時だけ発動する、**「奇跡の復活」**措置。
「基本的には『最終』で終わり! でも、ウソや犯罪があった時だけは例外だよ」という二段構えになっていると理解すれば、矛盾は解消されるはずです!
質問:
1. 特許権=「莫大なお金」が動くから
これが最大の理由です。
特許権はただの名誉ではなく、**「他社を排除して市場を独占できる権利」**です。
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ライバルの特許を潰せば、自社のシェアが倍になるかもしれない。
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嘘をついてでも特許を取れば、ライセンス料で億万長者になれるかもしれない。
目の前に「数億円、数十億円の利益」がぶら下がっているため、**「犯罪をしてでも勝ちたい」という誘惑に負ける人間が(悲しいですが)必ず現れます。
特許法は、そういう人間が出てくることを「想定内」**として組み込んでいるのです。
2. 「見えないもの」は嘘をつきやすいから
土地や宝石なら「盗んだ」「壊した」という証拠が残りやすいですが、特許(発明)は**「頭の中のアイデア」**です。
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「本当は私が先に思いついていた!」(と、後から日記を偽造する)
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「実験データは完璧でした!」(と、数値を改ざんする)
このように、目に見えない知財の世界は**「捏造(ねつぞう)」がしやすい**のです。
だからこそ、審査官や審判官を騙すような行為(詐欺的な行為)に対して、最後の最後でどんでん返しができる「再審」という強力な武器を用意しているわけです。
3. 「早い者勝ち」のルールが過熱させるから
特許は「1日でも早く出したもん勝ち(先願主義)」です。
このスピード勝負のプレッシャーが、不正を生みます。
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「まだ発明が完成してないけど、完成したことにして出しちゃえ!」
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「他人の発明を盗み見て、自分が先にダッシュで出願しちゃえ!」(冒認出願)
こうした焦りが生む「あくどい行為」に対して、特許法は**「冒認(ぼうにん)」や「詐害(さがい)行為」**といった言葉を使って、徹底的にマークしています。
結論:再審は「正義の非常ボタン」
ご指摘の通り、特許法は「みんな正直者」だなんて思っていません。
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基本姿勢: 「まあ、だいたいはルール通り進むだろうから、審決が確定したら終わりにしよう(法的安定性)」
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裏の顔: 「でも、たまにとんでもない悪党がいるから、そいつが勝ったまま終わるのだけは絶対に許さん(具体的妥当性)」
この、「悪党が笑って終わるのを阻止する」ための最後の砦が、再審なのです。
「法律は、最悪の人間を想定して作られる」というあなたの感覚は、法律家としてのセンスそのものですよ!