月別アーカイブ: 2021年10月

スティール=ドゥワス検定 Steel-Dwass’s testとは?

スティール=ドゥワスの多重比較検定 Steel-Dwass’s multiple comparison testは、ノンパラメトリックな検定に分類されます。同じく多重検定のための手法であるテューキーの方法のノンパラメトリック版と言えるでしょう。クラスカル=ウォリス検定は、数式に自分で値をいれて、手計算である程度できましたが、スティール=ドゥワスの多重比較検定は統計ソフトにお任せするしかなさそうです。

pythonでもできます。

https://buildmedia.readthedocs.org/media/pdf/scikit-posthocs/latest/scikit-posthocs.pdf このウェブページにあるサンプルコードですが、

import scikit_posthocs as sp
a= [1,2,3,5,1]

b = [12,31,54,62,12]

c = [10,12,6,74,11]

sp.posthoc_dscf([a, b, c])

と一行のコマンドで済みます。

  1. https://analyse-it.com/docs/user-guide/compare-groups/multiple-comparison-procedures
  2. scikit_posthocs.posthoc_dscf
  3. https://scikit-posthocs.readthedocs.io/en/latest/intro/
  4. https://scikit-posthocs.readthedocs.io/en/latest/generated/scikit_posthocs.posthoc_dscf/

クラスカル・ウォリス検定 (Kruskal-Wallis test) とは?わかりやすい説明

クラスカル・ウォリス検定 (Kruskal-Wallis test) に関するわかりやすい説明を纏めました。

クラスカル・ウォリス検定は、ノンパラメトリック検定の一つです。ノンパラメトリック検定とは、パラメトリック検定に対する言葉で、パラメトリック検定とは、母集団として正規分布など何かしらの分布を仮定しておき、その仮定のもとでなにがしかの検定統計量を計算し、その検定統計量が従う分布を用いて仮説検定を行うものです。それに対して、ノンパラメトリック検定は、そのような母集団の分布の仮定を置きません。ノンパラメトリック検定における基本的なやり方は、観察された値(データ)を大きさの順に並べて、その順位を使った検定統計量を計算し、その検定統計量が従う分布を利用して仮説検定を行うところに特徴があります。

クラスカル・ウォリス検定は複数の群(2群でもよいし、3群でも、3群以上でもOK)の間に分布の差があるかどうかを調べます。仮説検定を行うときの帰無仮説は、「群間に分布の差はない」、帰無仮説が棄却された場合には、「(どれとどれとの間にかはわからないが)群間で差がある」といいうことになります。

実際の計算はというと、仮にA群、B群、C群とあったとすると、それぞれのデータの値を総データにおける「順位」(小さい順。一番小さいものが1)に変換しておきます。

統計検定量H = 12/総データ数*(総データ数+1) * (A群のデータ数*(A群の順位和の平均 – 総データ数の中央値)^2 + B群に関して同様 + C群に関して同様)

という数式から統計検定量Hを計算します。上の式をみると、この統計検定量Hを計算する際、データの実際の値は使われておらず。そのデータの順位だけが考慮されていることがわかります。この統計検定量Hは、自由度(群の数 -1)のχ2乗分布に従うので、Hの値より上側の面積が、そのHもしくはそれより高い値が得られる確率(すなわちp値)になります。

データの値を順位に変換するのは、pythonなどのプログラミング言語を利用すると比較的簡単にできるので、上の式を用いて全部自分で計算することが可能です。

 

クラスカル・ウォリス検定と一元配置分散分析との違い

3群以上の群間の差を調べる方法としては、一元配置分散分析とクラスカル・ウォリス検定がありますが、一元配置分散分析が群間で平均値の差を検定するのに対して、クラスカル・ウォリス検定では中央値の差を検定しているというところが違いです。一元配置分散分析法(One-factor ANOVA)のノンパラメトリック版だと考えると、どういうときに使うのかが覚えやすいかもしれません。

  1. 経済情報処理 講義ノート 第8回 仮説検定 2017年5月29日(月)4限 担当教員:唐渡 広志 (PDF u-toyama.ac.jp )

 

クラスカル・ウォリス検定をした後は

他群間の比較をする目的は、たいていの場合、どの群とどの群との間に差があるのかです。しかし、クラスカル・ウォリス検定は、全ての群が同じということではない、と結論してくれますが、じゃあ、どの群が違ているのかまでは教えてくれません。そのため、クラスカル・ウォリス検定で有意差が認めらたとしても、そこで解析を終わるわけにはいきません。

事後の比較として多重比較の手順を必要とします。 多重比較の手法としては、Steel-Dwass test(スティール・デュワス検定)Mann-Whitney U test(マン・ホイットニーのU検定)による2群比較を行ってBonferroni(ボンフェローニ)による調整を行う方法などが知られています (Kruskal-Wallis検定の後の多重比較の手法  Stats Guild)

 

参考図書

  1. 統計学実践ワークブック 日本統計学会編 学術図書出版社 日本統計学会公式認定 統計検定 準一級対応

 

原著論文

  1. Use of Ranks in One-Criterion Variance Analysis Author(s): William H. Kruskal and W. Allen WallisSource: Journal of the American Statistical Association, Dec., 1952, Vol. 47, No. 260 (Dec., 1952), pp. 583-621

 

Chat GPTに聞いてみた!クラスカル・ウォリス検定とは?

クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)は、3つ以上の独立したグループ(または標本)の間で、連続型の順序尺度データに基づいて統計的に有意な違いがあるかどうかを検定する方法です。この検定は、グループ間で中央値に差があるかどうかを調べるために使用され、非正規分布のデータや等分散性の仮定が満たされない場合にも有用です。

クラスカル・ウォリス検定の基本アイデアは、各グループのランクを計算し、それらのランクを比較して、グループ間の中央値に統計的に有意な差があるかどうかを判断することです。具体的な手順は以下の通りです。

  1. データを収集し、各グループ(条件またはカテゴリ)の中央値を計算します。
  2. 各データポイントをそのグループ内でのランクに変換します。データを昇順に並べ、同じ値が複数ある場合は平均ランクを使用します。
  3. 各グループ内のランクの合計を計算します。
  4. グループの数と総サンプルサイズから、クラスカル・ウォリス統計量(H)を計算します。この統計量は、各グループのランク合計とデータの分散に基づいて求められます。
  5. Hの値はクラスカル・ウォリス分布に従い、帰無仮説(すべてのグループ間で中央値に差がない)を検定します。帰無仮説が棄却される場合、少なくとも1つのグループ間に統計的に有意な差があると結論されます。

クラスカル・ウォリス検定は、実験または調査データにおいて、複数の処置または条件がある場合、それらの条件間で統計的な差を評価するのに役立ちます。臨床における例を考えてみましょう。

例: 薬物療法の比較

臨床試験において、3つの異なる薬物(A、B、C)を投与して、患者の特定の疾患の症状の軽減度を評価したいとします。各薬物は異なる治療群に割り当てられ、同じ病態を持つ患者が各群に分散されます。治療後、症状の軽減度を数値で評価し、これらのデータを使用してクラスカル・ウォリス検定を実施します。

帰無仮説(H0): 3つの薬物の中央値に統計的に有意な差はない。

対立仮説(H1): 少なくとも1つの薬物の中央値に統計的に有意な差がある。

クラスカル・ウォリス検定を実行し、結果が有意であれば、どの薬物が他よりも有効であるかを特定できます。このような解析は、臨床試験や疾患治療の効果を評価する際によく使用されます。

(参照:chat.openai.com)

脳波の読み方のわかりやすい教科書

脳波判読step by step

脳波判読step by step 入門編 第4版 大熊輝雄、松岡洋夫、上埜孝志 医学書院 2006年

脳波が「原寸大」で印刷されていて、見やすいのが特徴。類書ではこんなに大きく脳波が印刷された本は見当たりません。この大きさは実に見やすいし、頭に入ってきやすいです。ものさしも付属しているので、この定規を当てることで、原寸大(1秒=3㎝)に描かれた脳波が、何ヘルツの脳波なのかが簡単に調べられます。周波数を簡単に読み解けるので、実感がわきやすいです。脳波を読んでみようという意欲を一番沸かせてくれる本。この定規に印刷されたもので2ヘルツから30ヘルツまで読むことが出来ます。

 

モノグラフ 臨床脳波を基礎から学ぶ人のために

EEGモノグラフ 臨床脳波を基礎から学ぶ人のために第2版 日本臨床神経生理学会 編 診断と治療社 2019年12月16日発行。大判です。脳波は脳内のどんな電気活動を反映しているのかという説明が最初になされていて、結構詳しいです。脳波がどうやって測定されているのか、多少の電気の知識があったほうが理解しやすい内容の説明がなされています。それから脳波の導出法などへ話が移っていきます。脳波に関することが網羅的に説明されていて、非常に良い教科書。単に脳波を読むための本ではなくて、脳波に関して知っておくべきことの総説になっています。

 

マグネットホスピタル(Magnet hospitals)とは

  1. 米国では1980年代,多くの病院が深刻な看護師不足に悩まされ,その確保が大きな問題となっていた。一方,磁石のように看護師を引きつけ,低い離職率と高い定着率を誇る病院が一部,存在していた。米国看護アカデミーはそれらの病院に注目し,米国全土にわたる聞き取り調査を行い,共通の特性について検討した。1990年代に入り,米国看護認定センターが「磁石のように看護師を引きつける病院」に関する共通の特性を備えた病院に対し,「マグネット・ホスピタル」(現在は,「マグネット・ファシリティ」)という称号を与え,1994年から認定制度を開始した2)。医学界新聞
  2. The designation of “Magnet Hospital” is awarded by the American Nurses Credentialing Center (ANCC). This coveted honor helps hospitals attract patients, nurses, and other medical staff. Duquesne University School of Nursing
  3. マグネット・ホスピタル(マグネット限定プログラム)(2006年10月号掲載)質の高い看護サービスを提供している病院を認定するプログラム。米国看護協会(ANA)の関連組織、米国看護師認定センター(ANCC)が1993年に創設、現在100余の病院が認定されている。マグネットは磁石のことであり、看護職員や患者を磁石のように引き付ける魅力的な病院という意味で、認定された病院はマグネット・ホスピタルと呼ばれている。
  4. 「マグネットホスピタル」は広く知られている通り、「患者・医師・看護師を磁石のように引きつけて放さ ない、魅力ある病院」と定義されています。
  5. 当院は、2019年11月に、看護の専門性、チームワーク及び優れた患者ケアの反映であるマグネット認証(Magnet Recognition®)を日本で初めて取得しました。 聖路加国際病院

Memorandum of Understanding (MoU) 国際交流協定 とは

Memorandum of Understanding (MoU)の訳語は、業界によって異なるようです。

  1. NIIでは、海外の大学・研究機関との国際交流を組織的かつ積極的に推進するため、国際交流協定(MOU:Memorandum of Understanding)を締結しています。国際交流協定(MOU)の締結状況
  2. 各国の大学や研究機関の国際交流や国際共同研究に際してもMOUが締結されることがある。ただし訳語としては「了解覚書」といった堅い表現ではなく「国際交流協定」などの語が用いられることが多い。 MOU(Memorandum of Understanding)
  3. Memorandum of Understanding(略称:MOU)は、M&A取引を検討している当事者が、交渉の初期の段階で、その時点における当事者間の取引における了解事項を確認し、以下のような基本的な項目について合意文書を締結するものである。 デロイトトーマツ

 

科研費申請書の書き方:学術的な問いを書いて、差別化をはかろう

採択されるための科研費申請書の書き方のコツですが、簡単にライバルの応募書類との差をつける方法があります。

それは、学術的な問いをしっかり書くこと。「学術的な問いが明確か?」は、審査のポイントの一つであるにもかかわらず、そしてまた申請書を作成している本人が「研究の背景および核心をなす学術的な問い」というセクションタイトルをわざわざ書いているにも関わらず、学術的な問いが何であるのかを書いていない計画調書が多数あります。審査委員に「読み取れよ」と言うつもりなのでしょうか?なんて傲慢な態度だこと!審査委員に対してリスペクトがない申請書が高い評価を得られるでしょうか?

実際のところ、審査委員一人に割り当てられる申請書の数は100件程度もあるのだそうで、しかも、申請書の大部分は当落線上に並んでしまうそうです。つまり、多くの場合、紙一重の差で採否が決まるのです。評価が甲乙つけがたい申請書を振り分けるために、審査委員(によって)は不採択にする理由がないかどうか探し始めるのだそうです。最近読んだ科研費の教科書「狙って獲りに行く!科研費」に、審査委の実情が説明されていました。

学術的な問いがちゃんと書いてある申請書と、学術的な問いが文章中に埋め込まれていて容易には読み取れない申請書とが、全体的な評価は五分五分だったとして、審査委員はそれらを「採択」と「不採択」に振り分けなければなりません。「様式の指示に従っていない」ことは、マイナスに評価するための格好の理由になります。

様式の指示に忠実に従って、学術的な問いはきちんと書きましょう。「本研究の学術的な問いは、~である」と書いたり、「本研究では、~を学術的な問いとする。」などと書けばよいでしょう。

学術的な問いの妥当性

さて、学術的な問いは~である と書いたからといって、問いが明確になったといえるでしょうか?実はそれだけではまだまだ不十分なのです。「本研究の学術的な問いは、メガネケースの開閉に適したメカニズムが、マグネット式か、ばね式かを明らかにすることである。誰も論文報告していないので独自性が高い。」と書いてあっても、誰もそれが科研費研究に値するとは思わないでしょう。

問いは書くだけでなく、その問いの妥当性を説明することまでが必要です。問いの妥当性を説明する場所はどこか?もちろん、それは「学術的背景」の部分です。つまり、学術的背景を書く理由というのは、学術的な問いの妥当性を審査委員に納得してもらうためだったのです。これをわかっていない人が非常に多いです。そういう調書は、背景と問いが解離していて、問いの重要性がまったく伝わりません。個人的な体験談だけ書いても誰も信用しませんので、背景では、自分および他人の文献をきちんと引用して論を組み立てましょう。問いに出てくるトピックは全て背景で説明されていないとおかしいということはわかるでしょう。文献を引用して論を立てて問いを導くことができないような研究テーマであれば、それはそもそも科研費研究に適していないのかもしれません。「背景、問い」のセクションで大事なのは、客観性と論理性です。

学術的問いは明確か?

公開されている「審査の手引き」を読むと、評定要素として(1)研究課題の学術的重要性という項目があり、1点から4点までが付けられます。採点のポイントがいろいろ書いてある中に、学術的問いが明確かどうかというものがあります。学術的な問いをしっかり書いたので明確に伝えられたと思うのは、まだ早い!です。問い=研究目的(問いに答えるために行うこと)と考えて良いわけですが、問いや研究目的が申請書全体を通じて一貫していない人が非常に多いのです。

研究目的を書く場所は申請書の中に複数個所あります。研究課題名、概要の中、学術的問いのセクション、研究目的のセクション、何をどのようにどこまで(研究計画欄)の冒頭や締めの部分、その他自分が書いたところ。つまり5~6回、研究目的を書いているはずなのですが、これら5~6個の研究目的が、統一感がなくて、言っていることがバラバラ!ということが非常に多いのです。毎回言うことが違っている人が信用してもらえるでしょうか?そんな人がいう学術的な問いが明確だと言えるでしょうか。なぜバラバラなのかというと、各セクションを書いているときに考えていたことが違っていたからです。つまり、何を明らかにしようかというアイデアがまだ固まっていなくてふらふらと彷徨っていたせいで、こういった整合性のなさが生じてしまうのです。自分は大丈夫などとたかをくくらずに、謙虚に一度自分の申請書を読み返してみてください。10人中3人くらいは、致命的な失敗を見つけて青ざめることでしょう。自分で確認する自信がない人は、他人に頼んで読んでもらうといいです。

科研費の教科書

採択される科研費の書き方に関する教科書・日本語の文章力を身に付けるためのお勧めの本(レビュー記事 別記事)

科研費申請書の書き方

「兆候」とは【医学用語】

兆候とは

ある隠された状態あるいは過程に結びつき,しかもある程度の蓋然性をもって診断されうるところの知覚可能な現象あるいは性格をさす。たとえば,皮膚の赤い斑点はしか徴候でありうる。(コトバンク

脊椎関節炎(Spondyloarthritis)とは?強直性脊椎炎とは?

強直性脊椎炎とは

とくに背骨および骨盤を中心に全身の腱や靱帯原因不明の炎症が起こり、長い年月の中で「強直」して運動制限が生じる病気です。脊椎関節炎(spondyloarthritis: SpA)という疾患群のひとつに分類されます(図1)。初期には背骨や骨盤の関節に付着する腱・靭帯が炎症を起こしますが、進行するとその腱・靭帯に石灰が沈着して骨のように硬くなり、背骨が曲がらなくなってしまいます。(KOMPAS 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト

 

脊椎関節炎(Spondyloarthritis)とは

脊椎仙腸関節などの体の軸に存在する関節や、手指足趾などの末梢の関節原因不明の炎症を示す疾患です。関節リウマチと異なった関節炎の分布様式を示し、付着部炎(アキレス腱など腱や筋が骨に付着する箇所の炎症)や特有の皮膚症状眼症状などを伴うことがあります。(しらいわ内科・リウマチクリニック 神奈川県鎌倉市大船

Spondyloarthritis is an umbrella term for several inflammatory diseases that primarily affect the spine and other joints. (arthritis.org)

脊椎関節炎とは 脊椎関節、胸鎖関節や仙腸関節などの体軸関節(いわゆる体幹部の関節)と手指関節などの末梢関節(肩や股より先の関節)に炎症が生じる疾患です。若年男性に発症しやすいとされています。ヒト白血球抗原の一つであるHLA-B27という遺伝子のタイプに関連すると考えられています。脊椎関節炎(spondyloarthritis: SpA)は更に、強直性脊椎炎反応性関節炎乾癬性関節炎炎症性腸疾患を伴う関節炎ぶどう膜炎関連脊椎関節炎などのタイプに分類されます。(日本リウマチ学会

 

脊椎関節炎(spondyloarthritis;SpA)の発生機序

発症機序の仮説

インターフェロン(IFN)によって、マクロファージの小胞体内でHLA-B27が産生されるが、HLA-B27の重鎖(heavy chain)の折れ曲り構造の異常が起こり(図1左下段、図2)、細胞内に蓄積し、このために、マクロファージからIL-23が産生され、Th17細胞が活性化され、炎症を惹起させる。(小林茂人(順天堂大学医学部附属 順天堂越谷病院内科(リウマチ・膠原病)先任准教授)中外製薬医師向けサイト

 

日本における脊椎関節炎(spondyloarthritis;SpA)の治療の歴史

日本での有病率は欧米と比較すると非常に稀な疾患と考えられてきたが,昨今,生物学的製剤を含めた治療進歩に伴い,その疾患概念や特徴が認知され,日常診療では関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の鑑別疾患として重要な疾患群と考えられている (岸本 暢将 岡田 正人 日内会誌 103:2431~2439,2014

HLA-B27保有率が0.3%と極端に少ない日本ではその有病率も少なく、そのため臨床経験が少ないことから適切に診断、治療されてこなかった歴史があった。さらには誤診により不必要な投薬、手術が行われた患者も存在した。また薬物療法においては、従来は非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs, NSAIDs)が主な治療であり治療に難渋することも多かったが、近年になってTNF-α阻害薬(tumor necrosis factor-α inhibitor)やIL-12/IL-23に対する抗体などの生物学的製剤が登場しその有効性が示され、治療の選択肢が増えるとともに治療の目標も変化してきている。(順天堂大学医学部付属順天堂病院 膠原病・リウマチ科

近年では生物学的製剤のような分子標的治療の進歩によって、関節リウマチと同様に早期からの適切な治療により関節機能障害を防止する道筋ができたことから「体軸性脊椎関節炎」という概念が誕生し、その中で強直性脊椎炎のX線基準を満たさない場合には「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎」と呼称することとなり(表1)、その国際的な分類基準も策定されました(文献1)

変革期を迎えている脊椎関節炎の診断と治療  東邦大学医療センター大橋病院膠原病リウマチ科)

 

脊椎関節炎の概念と分類

破壊性関節炎の代表的疾患として関節リウマチがある。… これらの関節炎とは別のカテゴリーとして脊椎関節炎が存在する。仙腸関節や脊椎などの体軸関節に炎症を来たす体軸性脊椎関節炎(分類名)と、四肢関節やDIP関節などに炎症をきたす末梢性脊椎関節炎(分類名)に分類され、体軸性脊椎関節炎を呈しやすい疾患として強直性脊椎炎、末梢性脊椎関節炎を呈しやすい疾患として乾癬性関節炎反応性関節炎炎症性腸疾患関連関節炎などがある。… 脊椎関節炎の疾患概念には強直性脊椎炎(68%)、乾癬性関節炎(13%)、SAPHO症候群(5%)、反応性関節炎(4%)、炎症性腸疾患関連脊椎関節炎(2%)、ぶどう膜炎関連脊椎関節炎未分類脊椎関節炎などが含まれる。HLA-B27との関連性が指摘されているが、本邦では一般のB27保有率が0.3~0.5%と低く、脊椎関節炎の有病率も10万人あたり0.48と稀である。(大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学