質問:マルチマルチクレーム(多重従属)の制限って何?何年の特許法改正?
Gemini:「マルチマルチクレームの制限」は、知財業界で最近起きたかなり大きなルール変更です。まず、結論(いつから?)と定義(なに?)からお答えします。
1. いつ変わった?(法改正の時期)
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施行日: 2022年(令和4年)4月1日
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対象: この日以降に日本で出願された特許。
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法的根拠: 特許法そのものではなく、**「特許法施行規則」**の改正です(省令改正)。
これ以前は日本は「マルチマルチ天国(使い放題)」でしたが、この日から原則禁止になりました。
2. 「マルチマルチクレーム」とは何か?
一言で言うと、**「『どれか選んでいいよ』という請求項を、さらに『どれか選んでいいよ』と引用すること」**です。
言葉だとややこしいので、図と例で見てみましょう。
【基本用語】
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マルチクレーム(多項従属): 「請求項1または2に記載の~」という書き方。
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マルチマルチクレーム(多項従属の多項従属): マルチクレームを、さらにマルチクレームで引用すること。
【NGになる構造の例】
請求項1(親): 銅を含む金属。
請求項2(親): 鉄を含む金属。
請求項3(マルチ): ニッケルをさらに含む、請求項1または2に記載の金属。
(→ これはOK。1+3、2+3の2通りの組み合わせがある)
請求項4(マルチマルチ): 形状が板状である、請求項1、2または3に記載の金属。
(→ これがNG!)
なぜ請求項4はダメなのか?
請求項4は「請求項3」を引用しています。しかし、その「請求項3」自体がすでに「1または2」という選択肢を持っています。
つまり、請求項4の中身は、論理的に以下の組み合わせを含んでいます。
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請求項1 + 4
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請求項2 + 4
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請求項1 + 3 + 4
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請求項2 + 3 + 4
このように、「選択肢(マルチ)」を「選択肢(マルチ)」で受けると、ねずみ算式に組み合わせのパターン(論理的な発明の数)が爆発的に増えてしまうのです。
3. なぜ禁止されたのか?
理由は主に2つあります。
① 審査官の負担が限界だから(組み合わせ爆発)
もし「請求項1~10のいずれかに記載の…」というマルチクレームを、さらに「請求項11~20(これらもマルチ)のいずれかに記載の…」と引用し続けると、たった数個の請求項で何千、何万通りもの発明パターンが生まれてしまいます。
審査官は「これら全てについて、先行技術がないかチェックする」必要があり、実質的に不可能です。
② 国際的なルールの調和(欧米に合わせた)
実は、アメリカや韓国など主要国では以前から「マルチマルチは禁止(または超高額な追加料金)」でした。
日本だけが「OK」だったため、日本で書いた特許をそのまま海外に出願すると、海外で拒絶されたり、莫大な手数料を請求されたりするトラブルが多発していました。そこで、日本も世界基準に合わせました。
4. これからの戦略はどう変わる?(特許料の話)
以前のターンで「特許料」の話を少し出しましたが、この制限はそこに直結します。
- 昔(2022年3月以前):
マルチマルチを駆使すれば、少ない請求項数(=安い印紙代)で、膨大なバリエーションの発明を網羅できました。「安くて強い網」を作れたのです。
- 今(2022年4月以降):
マルチマルチが禁止されたため、同じ範囲を守ろうとすると、請求項を分けて一つずつ書かなければならなくなりました。
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結果:請求項の数が増える → 特許庁に払うお金(出願料・特許料)が高くなる。
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現場での対応策
今の知財担当者は、パズルのような作業を強いられています。
「すべての組み合わせを書きたいけれど、マルチマルチは使えないし、請求項を増やしすぎるとお金がかかる…」
というジレンマの中で、「本当に守るべき重要な組み合わせ(パス)」だけを厳選して記載する戦略が必要になっています。
まとめ
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マルチマルチクレーム制限: 「または」を含む請求項を、「または」で引用してはいけない。
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時期: 2022年4月1日から。
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理由: 組み合わせが無限に増えて審査できないから。&世界基準に合わせたから。
質問:第何条?
Gemini:その条文は、**「特許法施行規則 第24条の3 第5号」**です。法律そのもの(特許法)ではなく、経済産業省令である「特許法施行規則」の中にあります。具体的にどのような条文か、原文と訳(噛み砕いた意味)をご紹介します。
1. 条文の特定
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法令名: 特許法施行規則
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条数: 第24条の3 (特許請求の範囲の記載)
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号数: 第5号 (※これが2022年の改正で新設・変更された部分です)
2. 条文の中身(原文と意味)
原文は少し読みづらい独特の法律用語ですが、以下の通りです。
【特許法施行規則 第24条の3 第5号】
請求項の記載を他の請求項の記載を引用して記載するときは、その請求項は、二以上の請求項の記載を択一的に引用している請求項の記載を引用してはならない。
わかりやすく翻訳すると:
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**「二以上の請求項の記載を択一的に引用している請求項」**とは?
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= 「マルチクレーム」のことです。(例:「請求項1または2に記載の~」)
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**「~の記載を引用してはならない」**とは?
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= そのマルチクレームを、さらに後の請求項で引用(依拠)してはいけません。
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つまり、「マルチクレームを引用元(親)にしてはいけない」 = 「マルチマルチクレームの禁止」 ということを規定しています。
3. もう少し細かい補足(適用例外)
実は、この条文には「ただし書き」のような例外規定はありません。「引用してはならない」と言い切っています。
しかし、「シングルクレーム(1つだけ引用している項)」が、マルチクレームを引用することは禁止されていません。
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× NG (マルチマルチ):
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請求項3(マルチ)を、請求項4(マルチ)が引用する。
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条文違反:請求項4も「択一的」であり、かつ「択一的な親」を引用しているため(※解釈により、親がマルチなら子はシングルでもダメという運用になっています。正確には**「マルチクレームは、他のいかなる請求項(シングルもマルチも)の引用元になってはならない」**という運用で審査されています)。
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【訂正と重要補足】
すみません、先ほどの条文解釈で少し言葉足らずな部分がありました。現在の特許庁の審査基準(運用)では、この第5号により以下のようになっています。
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**マルチクレーム(親)がついている時点で、それを引用する子(従属項)**は、たとえシングルクレームであってもNG(違反)となります。
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つまり、**「マルチクレームは行き止まり(末端)にしなさい。そこから先へは繋げてはいけません」**という意味になります。
これが、現場の知財担当者が「家系図(引用関係)」を作る際に、今一番苦労しているパズルです。