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看護師国家試験に頻出する食品:納豆、グレープフルーツの働き

納豆

納豆にはビタミンKが多く含まれます。ビタミンKのKは、凝固のKで(ドイツ語で凝固を意味するkoagulation)、血液凝固作用があります。ワルファリンは血液の凝固を防ぐ(血栓ができるのを予防する)ためのお薬なので、ビタミンKの働きとは真逆です。

ワルファリンを服用している場合には、納豆を多量に食べることは勧められません。

グレープフルーツ

高血圧の薬の種類として、カルシム拮抗薬というものがあります。カルシム拮抗薬の生理作用は、血管を広げて血圧を下げるというものです。グレープフルーツはカルシウム拮抗薬の代謝を抑制するため、カルシウム拮抗薬の効果が想定よりも高まってしまいます。

「グレープフルーツはカルシウム拮抗薬の代謝を抑制する」と説明されても、なぜ?どのように?という疑問は残ります。

グレープフルーツジュース薬物代謝酵素CYP3A4阻害するため,CYP3A4で代謝される薬物を投与する場合には,「グレープフルーツジュースを飲まないように」という患者指導(事例で学ぶくすりの落とし穴 [第1回] 看護師に求められる与薬の知識とは 連載 柳田 俊彦 医学書院)

細かい知識を知ったほうが、むしろすっきりします。もっと詳しく説明してもらうと、

グレープフルーツに含まれるフラノクマリン類(ベルガモチン、ナリンゲニン等)が小腸消化管壁に存在する薬物代謝酵素CYP3A4阻害するために、Ca拮抗薬の分解が抑制され、血中へと移行する量が増加し、降圧作用が増強される(グレープフルーツの薬剤に与える影響 管理薬剤師.com)

ここまで細かく説明してもらったほうが納得しやすくなります。

 

看護師国家試験

第111回 午前午前44  Aさん(60歳、男性)は大動脈弁置換術を受け、ワルファリンの内服を開始することになった。 Aさんが摂取を避けるべき食品はどれか。

  1. 海藻
  2. 牛乳
  3. 納豆
  4. グレープフルーツ

第110回 午前問題17 カルシウム拮抗薬の血中濃度を上げる食品はどれか。

  1. 牛 乳
  2. 納 豆
  3. ブロッコリー
  4. グレープフルーツ

第105回 午後問題17 カルシウム拮抗薬の服用時に避けた方がよい食品はどれか。

  1. 納 豆
  2. 牛 乳
  3. わかめ
  4. グレープフルーツ

第95回 午前問題20 ワルファリンカリウム服用時に避けた方がよい食品はどれか。

  1. 緑 茶
  2. 納 豆
  3. チーズ
  4. グレープフルーツ

参考サイト

  1. カルシウム拮抗薬 ふくだ内科
  2. K is for koagulation J. Evan Sadler Nature volume 427, pages493–494 (2004) Meanwhile, cows in the northern United States had been bleeding to death through eating mouldy sweet clover hay. In 1940, Karl Link identified the fungal product responsible as a vitamin K antagonist. He named a potent derivative of this antagonist ‘warfarin’, after the Wisconsin Alumni Research Foundation, to which he assigned the patent rights.

私立大学等改革総合支援事業とは

大学の人と話をしていたときに「私立大学等改革総合支援事業」という言葉がさらっと出てきて、「何ソレ?」と思ったので、私立大学等改革総合支援事業に関する情報を纏めておきます。

「私立大学等改革総合支援事業」は簡単にいえば、教育内容、研究体制、産学連携、地域貢献などに関して国が私立大学にこうあってほしいという方向性に沿った改革を行う大学に補助金を出しますよという趣旨です。2013年度から開始されました。予算規模は100億円超で(令和3年度110億円令和4年度112億円)、令和3年度257校の私立大学が採択されています。

  1. 私立大学等改革総合支援事業 文部科学省
  2. 令和3年度私立大学等改革総合支援事業の選定状況(PDF) 採択校257校のリスト
  3. 私立大学等改革総合支援事業について university-sd.com この補助金は使途が定められていないので、そのまま法人の口座にキープできます。機器を買った分の何割かを補助、というタイプとは異なるので、補助総額は小さいものの、大学事務職界隈では目玉な補助事業として注目されています。
  4. CA2020 – 私立大学等改革総合支援事業に対する大学図書館の関与可能性 / 髙池宣彦 PDFファイル カレントアウェアネス No.352 2022年06月20日
  5. 令和2年度選定 私立大学等改革総合支援事業 大阪医科薬科大学 令和元年度 私立大学等改革総合支援事業 選定数 選定率 タイプ1【特色ある教育の展開】31% タイプ2【特色ある高度な研究の展開】54% タイプ3【地域社会への貢献】地域連携型24% プラットフォーム型67% タイプ4【社会実装の推進】53%
  6. 令和4年度(2022年度)私立大学等改革総合支援事業タイプ1「『Society5.0』の実現等に向けた特色ある教育の展開」の留意事項メモ 2022-07-25 daigaku23.com
  7. 平成30年度改革総合支援事業「残った大学・落ちた大学」 2020-07-13 大学職員の採用公募情報 2019年2月26日、平成30年度私立大学等改革総合支援事業の選定結果が公表されました。‥ 今年度の改革総合支援事業は、予算額が3割減(176億円→131億円)となったこともあり、採択大学数が大幅に減少しています。
  8. 令和3年度私立大学等改革総合支援事業タイプ1の選定ライン上昇の要因と監査・検査のポイント 2022-02-22 daigaku23.com 毎年書いているものですが、改革総合支援事業(教育の客観的指標)でよくやりがちや注意すべき点をまとめておきます。
  9. 改革総合支援事業、「申請しない大学」に奮起を促す新項目も 2021年08月30日 between.shinken-ad.co.jp 教育改革に関わる取り組みを評価する「タイプ1」では、採択校が固定化して「申請をあきらめている大学」が多い現状を打開すべく、「前年からの得点率の伸び」を評価する項目が新設された。
  10. 令和元年度 私立大学等改革総合支援事業調査票 (タイプ1・2・3(地域連携型)・4) 20200319 文部科学省
  11. 私立大学等経常費補助金について解説します。2022.04.16 univ-stepup.com
  12. 私立大学等改革総合支援事業のタイプ1「教育の質的転換」に応募する事の是非 2019-03-19 daigaku23.com 私立大学等改革総合支援事業の選定校数は年々少なくなってきており、選定をされる為の競争、どうやって点数を取っていくかは情報戦であり、より厳しくなっています。‥  「私立大学等経常費補助金取扱要領・私立大学等経常費補助金配分基準」を確認すると選定された場合、一般補助による増額と特別補助による補助金の増額があります。
  13. 私立大学等改革総合支援事業の政策評価─ タイプ1への申請・非申請に着目して(PDF) ─松 宮 慎 治(2018年10月4日受理) 広島大学大学院教育学研究科紀要 第三部 第67号 2018 227-234  機能強化型補助金の増加と,私立大学に対する競争的資金配分政策推進の結節点と考えられるのが,2013年度から開始された私立大学等改革総合支援事業である。
  14. 「私立大学等改革総合支援事業」にみる私学助成の現状  2016/8/22 magazine.chieru.co.jp
  15. 私立大学等改革総合支援事業について(PDF) 佐藤雄一 滋賀県教育委員会事務局教育総務課長(前文部科学省高等教育局私学部私学助成課課長補佐) 大学評価研究 第13号 2014年8月
  16. 大学教育を取り巻く現状と課題 文部科学省高等教育局大学振興課大学改革推進室専門官 東條正範 氏 2013年度第1回教育支援センターFD研修会(2013年11月26日開催)より COMMUNICASTIONS NEWS UP 第57号 2014年3月31日 東海大学教育支援センター 私立大学から文部科学省に情報収集に来られる方が少ないと感じています。文部科学省は敷居が高いように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は文部科学省の職員も私立大学の教職員の方々と情報交換や課題共有をしたいと思っています。ぜひ積極的に文部科学省の職員とお話しする機会を作り、大学からの要望を伝えたり、大学政策に関する色々な情報や大学に対する思いを聞き出したりしてください。
  17. 平成二十五年十月十六日提出 質問第六号 私立大学等改革総合支援事業等に関する質問主意書 提出者  大熊利昭 (衆議院)

アジュバントとは?

アジュバントの思い出

自分が大学院生のとき、研究に必要なポリ黒―成る抗体を自前で抗作っていたのですが、兎に免疫するとき抗原タンパク質とアジュバントとを混ぜたものを兎に注射していました。先輩に言われてそうしていただけで、当時はアジュバントは免疫を引き起こすのに必要なものという認識でそれ以上深くは考えませんでした。

 

アジュバントとは

アジュバントと言う言葉は、ラテン語のadjuvare」(助ける)からきているそうです。

免疫学の教科書を読むとアジュバントの説明がありますが、いまひとつ断定的には書かれていません。

アジュバントがなぜ効くのかといった疑問に対し、経験的に抗原を保持するDepot効果)程度であろうといった理解がされていた程度で、詳細な作用機序、分子メカニズムの研究が立ち遅れていたからに他ならない。いまだに、免疫学の教科書にもアジュバントの分子レベルの作用機序は明確に記載されておらず、もっとも有名な免疫学の教科書でさえ、最近まで「immunologist’s dirty little secret」と揶揄されていたほどである。

現在最も理解が進んでいる作用機序はアラムによって投与部位で受けた細胞ダメージDAMPsを放出し、そのDAMPsによって免疫細胞の活性化をしている、所謂誘導性アジュバントとしての機序である。

誘導性アジュバント;温故知新のサイエンスの新展開 石井健、日下部峻斗、岸下奈津子、飯島則文、黒田悦史)

  1. アラムアジュバント効果に宿主細胞のDNAによる自然免疫が鍵を握る 石井健 大阪大学

 

アジュバントの発見と歴史

1920年代に、フランスのRamonがミネラルオイルを 英国のGlennyがアルミニウム塩(アラム)をアジュバントとして用いたのが始まりだそうです。

  1. アジュバント アレルギー66(6):815-816 2017年平成29年

 

新規アジュバント開発のための研究

  1. 自己集合性ワクチンアジュバントの発見 本成果は、2020年9月26日にドイツの化学専門誌「Angewandte Chemie International Edition」に公開 上杉教授らは8,000個の化学物質の中から水中で自己集合して巨大化する化合物を選び、その中からワクチンアジュバント活性のある化合物を見いだしました。その化合物の類縁体を化学合成することによって強力なアジュバント活性をもつ化合物を発見し、コリカマイドと名付けました。 コリカマイドは自己集合してウイルスに似た大きさと形状になり、免疫細胞に取り込まれ、Toll-like receptor 7というウイルス受容体に認識されます
  2. <アジュバント開発研究の新展開>石井健(独)医薬基盤研究所大阪大学免疫学フロンティア研究センター 第9回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会平成27年1月30日(金)

細胞死の進化的な関係 necrosis, necroptosis, apoptosisはどのような順番で現れたのか

細胞死には、necrosis, necroptosis, apoptosisなどの種類がありますが、これらは進化的にどのような関係があるのでしょうか。どのような順番で現れたのか、どの生物種にはどれが存在するのか、おのおのの細胞死の形態は、病態に関与するだけなのか、それとも正常な発生などでも起こっているのか、そのあたりが気になりました。

Although stimulation of the Fas/TNFR receptor family triggers a canonical ‘extrinsic’ apoptosis pathway, we demonstrated that in the absence of intracellular apoptotic signaling it is capable of activating a common nonapoptotic death pathway, which we term necroptosis. (Chemical inhibitor of nonapoptotic cell death with therapeutic potential for ischemic brain injury 29 May 2005 Nature Chemical Biology volume 1, pages112–119)

  1. Complex Pathologic Roles of RIPK1 and RIPK3: Moving Beyond Necroptosis necroptosisの発見者らによる12年後(2017年)のレビュー論文

necroptosisや ferroptosisは病態に関与するものであって、細胞の正常な機能が失われたときに起こる。apoptosisのように生理的な条件でも起こる細胞死とは根本的に異なるという注意を促す論文がありました。

Many cell death forms occur under non-physiological conditions, including necroptosis, ferroptosis and others. In these, an essential cellular function is disrupted, leading to cell loss. The term ‘regulated cell death’ is used to group these cell death forms with apoptosis. However, this is misleading, as it implies that, like apoptosis, these death forms have been evolutionarily selected for their cell-lethal functions, a claim that is unsupported. (Cell death in animal development 2020  Development)

necroptosisと病態との関連のレビュー論文。ネクロプトーシスの制御が失われることが、がんや神経変性、炎症性疾患などに関係しているという主張。

Necroptosis is induced by toll-like receptor, death receptor, interferon, and some other mediators. Shreds of evidence based on a mouse model reveals that deregulation of necroptosis has been found to be associated with pathological conditions like cancer, neurodegenerative diseases, and inflammatory diseases.

進化的な視点によるレビュー論文

How and when necroptosis is triggered under physiological conditions therefore remains a persistent question.

the role of necroptosis in the response to viral infection

why the necroptotic pathway has been favored during evolution

Controlled detonation: evolution of necroptosis in pathogen defense Michelle Brault, Andrew Oberst First published: 20 December 2016)

 

メモ

雑多なメモです

  1. 三菱総合研究所研究員紹介 https://www.mri.co.jp/company/staff/index.html 2020.01.15 Wed 学生が目指す「iHOPE」を発表!リバネス井上と熊本発のベンチャー企業が熊本大学薬学部で講義を行いました
  2. METI JOURNAL  2022/12/01 政策特集 激戦バイオ~新たな産業革命~ vol.5 バイオ創薬は世界で勝負。製薬トップと日本の戦略を考える
  3. 2021年9月1日、北里大学薬学部低・中分子創薬講座 細田 莞爾 特任助教らが、研究開発型創薬ベンチャー「PRD Therapeutics株式会社(以下「PRD Therapeutics」)」を設立し、シードラウンド*1で資金調達を実施した。
  4. 熊本大学「有用植物×創薬システムインテグレーション拠点推進事業」
  5. 北海道医療大学薬学部・堀田清准教授が同大初のベンチャーとなる株式会社「植物エネルギー」を設立  株式会社「植物エネルギー」では、堀田清准教授が北海道医療大学で従来から取り組んできた「すずしろの花」という手作り石けんを開発・販売
  6. http://suzushiro.sakura.ne.jp/
  7. 誰もが自分らしく輝く世界を happy techでつくりたい! 学生女性起業家の挑戦
  8. 経済産業省・JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)主催、グローバルイノベーター等育成プログラム「始動Next Innovator 2022」を今年度も実施します。
  9. 株式会社C-HASプラスは、熊本大学の「天然物もの・こと作り事業UpRod」の社会実装化ベンチャー企業、として設立されました。
    当初、主軸事業は、Cエレガンスの健康寿命解析となりますが、UpRodの窓口としても機能し、各社とのオープンイノベーションを推進する役割を担います。
  10. 医療系ベンチャー・トータルサポートオフィス:MEDISO
  11. 認定ベンチャーキャピタル(認定VC)コンタクト先一覧(2022年7月25日更新)
  12. 経済産業省の取組令和3年12月6日経済産業省商務・サービスグループ生物化学産業課 PDF
  13. 「第33回 製薬協政策セミナー」を開催日本発の革新的な新薬創出に向けて 〜絶え間ないイノベーションを生み出すヘルスケアエコシステムの構築 (PDF)
  14. 公募情報 令和4年度 「創薬ベンチャーエコシステム強化事業(創薬ベンチャー公募)」に係る公募について 本事業の応募資格者は、以下の要件を満たす国内の創薬ベンチャーに所属し、かつ、主たる補助事業実施場所とし、応募に係る補助事業課題について、補助事業計画の策定や成果の取りまとめなどの責任を担う者(補助事業代表者)とします。
  15. vol.102 AUBA活用事例インタビュー 創薬の知見を活かして3ヶ月で4社と共創中!/スカイファーマ株式会社 2021年4月12日

TNF-α(腫瘍壊死因子α)のセルシグナリングを英語で説明した例 

TNF-α(腫瘍壊死因子α)のセルシグナリングを英語で説明した例を論文からいくつか。

論文1

RIP1/RIP3-regulated necroptosis as a target for multifaceted disease therapy (Review)

  1. TNFR1-mediated signal transduction, which can propel cell survival, apoptosis and necroptosis
  2. Different modifications of RIP1 can induce distinct outcomes of cell survival, apoptosis and necroptosis.
  3. Following binding of TNF-α to TNFR1 at the plasma membrane,
  4. TNF-receptor-associated death domain (TRADD) recruits downstream proteins, namely RIP1, the E3 ubiquitin ligases TNF-receptor-associated factor (TRAF) 2, TRAF5, and the cellular inhibitor of apoptosis (cIAP) 1 and cIAP2, to form the complex I.
  5. Then, the complex I mediates NF-κB and MAPK signaling,
  6. contributing to cell survival or other non-death functions.
  7. The K63-linked ubiquitination of RIP1 by cIAP1/2 promotes both the formation and activation of the transforming growth factor-activated kinase 1 (TAK1)-binding protein (TAB) complex and the inhibitor of NF-κB kinase (IKK) complex (consisting of NF-κB essential modulator, IKKα and IKKβ), supporting the NF-κB pathway activation, and ultimately leading to cell survival.

文章でカスケードを説明するのは難しいことだと思いますが、上で紹介した例文はわかりやすいと思いました。NF-κBを介してcell survivalを実現しますと言い切ったあとで、そのシグナリングの詳細を付け足しています。ここまで役者が多いと、文章の行先を先に示すのは効果的だと思いました。

論文2

Impaired RIPK1 ubiquitination sensitizes mice to TNF toxicity and inflammatory cell death 30 September 2020

  1. TNFR1 (TNF receptor 1) trimerization induced by TNF binding
  2. results in recruitment of TRAF2 (TNF receptor-associated factor 2), TRADD (TNF receptor type 1 associated death domain protein), RIPK1 and c-IAP1 and 2 (cellular inhibitor of apoptosis 1 and 2).
  3. The E3 ligases c-IAP1/2 then ubiquitinate several proteins in the complex, including themselves and RIPK1, with K11-, K48- and K63-linked chains.
  4. K63-linked ubiquitin chains conjugated on c-IAP1/2 enable the binding of LUBAC (linear ubiquitin chain assembly complex),
  5. which subsequently adds linear ubiquitin chains .
  6. NEMO (NF-kappa-B essential modulator) binds to linear chains,
  7. which enables recruitment of IKKα/β (inhibitor of nuclear factor kappa-B kinaseα/β)
  8. and NF-κB activation.
  9. K63-linked ubiquitin-binding proteins TAB2/3 (TAK1-binding proteins 2 and 3) bring TAK1 (transforming growth factor beta-activated kinase 1) to the complex,
  10. which also contributes to activation of NF-κB and MAPK signaling.

論文3

TNF-αの下流は、分岐してそれぞれことなる細胞応答をするようです。それを英語で文章で表現するのは至難の業です。

Necroptosis: A new way of dying? Cancer Biol Ther. 2016; 17(9): 899–910. Published online 2016 Jul 19. doi: 10.1080/15384047.2016.1210732 PMCID: PMC5036404 PMID: 27434654

  1. The extrinsic portion can be activated by ligands binding their cell surface death receptors such as FASL binding FAS, tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL) binding death receptor 5 (DR5) or tumor necrosis factor-α (TNFα) binding TNF receptor 1 (TNFR1).
  2. FAS-associated death domain protein (FADD) is recruited to the FASL-FAS or TRAIL-DR5 receptor complex as well as to the cytosolic complex IIa for activation of Caspase-8 in the context of FLIP inhibition and loss of cellular inhibitors of apoptosis (cIAPs).
  3. TNFR1–associated death domain protein (TRADD), receptor-interacting protein kinase 1 (RIP1) and TNFR2-associated factor-2 (TRAF2) are recruited to TNFα-bound TNFR1 forming the pro-survival complex I as a prerequisite to apoptotic signaling via this death receptor.
  4. K-63 and M-1 linked poly-ubiquitination of RIP 1 by cIAPs and LUBAC respectively, antagonised by the second mitochondria-derived activator of caspases (SMAC) and cylandromatosis (CYLD), stabilises complex I formation.
  5. This allows binding of the NF-κB essential modifier (NEMO) and transforming growth factor β-activated protein kinase (TAK) binding protein (TAB) to associate with RIP1 via the ubiquitin chains
  6. thus activating NF-κB and cell survival signaling.
  7. Pro-survival genes such as opa1, c-iaps, traf2, a20 and c-flip are transcribed in the nucleus.

論文4

TNF-αは、ある条件下ではNecroptosisを誘導します。場合により、Necroptosisha抑制されます。そのあたりの説明を含めた文例。

Controlled detonation: evolution of necroptosis in pathogen defense Michelle Brault, Andrew Oberst First published: 20 December 2016

  1. In most cellular contexts, TNF is a pro-survival signal.
  2. Upon engagement, its receptor interacts with numerous cytosolic proteins including RIPK1, forming a receptor-associated complex that triggers NF-κB activation.
  3. Subsequently, it is thought that RIPK1 can translocate to the cytosol, where it forms additional complexes.
  4. One of these is a complex that contains RIPK3, the so-called necrosome.
  5. Formation of this complex requires the interaction of the RIP homotypic interaction motif (RHIM) domains present in both RIPK1 and RIPK3
  6. and can lead to RIPK3 activation
  7. and cell death,
  8. but is normally prevented from doing so
  9. by the action of a heterodimeric enzyme complex composed of caspase-8 and cFLIP.
  10. These enzymes are recruited to RIPK1 via the adapter FADD and cooperate with E3 ubiquitin ligases, the IAPs, to abrogate necrosome formation and prevent necroptosis.

ユビキチン化を英語でうまく説明している文章 論文紹介

言語で複雑な現象を説明するのはなかなか難しいものです。ユビキチン化を英語でうまく説明している文章をいくつか紹介します。

論文1

Targeting the UPS as therapy in multiple myeloma 21 October 2008  BMC Biochemistry

ここでUBIQはubiquitinの略。

  1. In the first reaction, the E1 ubiquitin enzyme activates UBIQ
  2. and attaches it to the ubiquitin-conjugating enzyme E2 in an ATP-dependent manner.
  3. The E3 ubiquitin ligase then links the UBIQ molecule to the target protein or to a previously attached UBIQ moiety.
  4. Sequential cycles of this process lead to the formation of polyubiquitylated proteins
  5. that are eventually degraded by the proteasomes into small peptides,
  6. with re-cycling of free UBIQ.
  7. Importantly, E3 ubiquitin ligases confer specificity in the UBIQ signaling pathway by selectively targeting potential protein substrates for ubiquitylation and subsequent proteasomal degradation.
  8. Three proteasomal activities that regulate proteolysis are chymotrypsin-like (CT-L), trypsin-like (T-L) and caspase-like (C-L), also known as β5, β2 and β1, respectively; all of these reside within the 20S proteasome core.

文献2

Biochemistry, Ubiquitination Last Update: January 24, 2022.

  1. It is a three-step process involving three enzymes:
  2. ubiquitin-activating enzyme (E1),
  3. ubiquitin-conjugating enzyme (E2),
  4. and ubiquitin-protein ligase (E3).
  5. The result of this cascade of reactions is the linkage of one molecule of ubiquitin to a protein, known as mono-ubiquitination.
  6. Additional molecules can be attached to any of the seven lysine residues or the N-terminus of the ubiquitin molecule to form ubiquitin chains, resulting in polyubiquitination.
  7. Polyubiquitination subsequently leads to the initiation of proteolysis of the substrate by serving as the recognition signal for the 26S proteasome.

 

ユビキチンの活性化とは

E1はユビキチン活性化酵素と呼ばれますが、「活性化」とは具体的にどうなった状態なのでしょうか。多くのレビュー記事では、そこまで細かく具体的に説明していません。

まずATP依存的にUbのC末端のグリシンとE1の活性中心のシステイン残基の間に高エネルギーチオエステル結合が形成され, ユビキチンが“活性化”される. 活性化されたユビキチンはさらにATP依存的にE2の活性中心であるシスティン残基に転移される. (ユビキチンシグナリングとその生物学的意義

Canonical Ub/Ubl conjugation cascades entail adenosine 5′-triphosphate (ATP)-dependent Ub/Ubl adenylation by an E1 activating enzyme (AE), formation of a high-energy thioester bond between a Ub/Ubl and AE, thioester transfer to an E2 conjugating enzyme, and formation of an amide bond after an amine substrate attacks the E2∼Ub/Ubl thioester. This last step can be catalyzed by E3 protein ligases either noncovalently or by formation of an E3∼Ub/Ubl thioester bond before conjugation. Adenylate-forming enzymes that use ATP to activate carboxylic acid substrates for subsequent conversion to thioesters and other metabolic intermediates are widely distributed outside the Ub/Ubl pathway(Structural basis for adenylation and thioester bond formation in the ubiquitin E1 2019年)E1とユビキチンがチオエステル結合を作る前の中間体として、ユビキチンがアデニル化されています。化学構造式あり。

ポリユビキチン鎖形成のナゾ

ポリユビキチン鎖が伸長するにつれて,活性中心が空間的に移動するという生化学反応の根幹を逸脱する現象が生じる.(直鎖状ポリユビキチン鎖の発見とその機能 生化学 第84巻 第11号,pp.920―930,2012)

ユビキチンの発見

1970年代後半から,HershkoとCiechanoverは網状赤血球系を対象に一連の独創的な研究を行い,その集積としてユビキチン仮説を提出した。この仮説はエネルギーを要求するタンパク質分解系という意外性のために当時は疑いの目で見られ,発表後4年もの間競争相手が全く出現しなかったという。(ユビキチン:タンパク質分解の多彩な役割 新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面再建学講座硬組織病態生化学講座織田公光)

ユビキチンは,当初,ヒストンに共有結合している普遍的な修飾分子として報告されていたが,のちにATP依存性タンパク質分解系の必須因子として再発見された.(変異型ユビキチンによるユビキチン化タンパク質の網羅的解析 〔生化学 第84巻 第6号,pp.479―487,2012)

ユビキチン鎖の多様性

  1. https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/312/t312_oda.pdf

 

ユビキチン化に関する参考論文・参考記事

  1. ユビキチンシグナリングとその生物学的意義 村田茂穂 田中啓二 日老医誌 2004; 41: 254-262) 非常にわかりやすい解説記事
  2. チューブリン翻訳後修飾酵素による繊毛の構造・運動制御 生物物理52(4),178-181(2012) ノーベル賞の対象にもなったリン酸化(1992年授与)やユビキチン化(2004年授与)をはじめ,これまでに多くの翻訳後修飾が報告されている(表1).
  3. 小さな働き者SUMO(スモ) 2005.6.23 ~ 大きな構造変化でタンパク質の機能をスイッチング ~ SUMOはユビキチンに構造がよく似た小さなタンパク質としてSmall Ubiquitin-like Modifier「小さなユビキチン様修飾因子」と名付けられました。ユビキチンは、その名前がubiquitous(ユビキタス、広く存在する)から来ているように、ヒトから酵母菌まで広く存在していますが、SUMOも同じようにいろいろな種にわたって存在しています。SUMOは、ユビキチンのようにタンパク質の分解のシグナルとしての働きはありませんが、SUMOが他のタンパク質に結合し、そのタンパク質の機能をコントロールしているさまざまな例がわかってきました。
  4. ユビキチン修飾系とは ユビキチン修飾系は1978年にエネルギー依存的タンパク質分解系の一部として発見されたタンパク質翻訳後修飾系であり、細胞周期・シグナル伝達・転写調節など数多くの生命現象を制御しています(図1)。
  5. タンパク質の目印が様々な病気と関係することを世界で初めて発見!徳永文稔 不良タンパク質を識別して選択的にユビキチン修飾するメカニズムは、アブラム・ハーシュコ(Avram Hershko)やアーロン・チカノバー(Aaron Ciechanover)らのイスラエルの研究者らによって発見され、そのユニークな分子反応機構と生理的な重要性から2004年にノーベル化学賞を受賞しました。また、プロテアソーム田中啓二博士(東京都医学総合研究所・所長)らが発見した重要なタンパク質分解酵素です。‥ 今回の研究で私たちは、「直鎖状ユビキチン鎖」という全く新しい真っ直ぐなタイプのユビキチン鎖を作る酵素を見出し、この直鎖状ユビキチン鎖が炎症応答や免疫制御に重要なNF-κB(エヌ・エフ・カッパー・ビー)というシグナル伝達を制御することを発見しました(図1b)。さらに、この酵素の構成因子が遺伝的になくなったマウスでは、重篤な皮膚炎を発症することを明らかにしました。

その他の参考記事

  1. チオエステル(コトバンク)クリスチャン・ド・デューブ(ノーベル生理学・医学賞受賞者)は、ATPがエネルギー通貨として登場する以前の生命の誕生するプロセスで、チオエステルに基づいた反応系からなるチオエステル・ワールドがあったのでは チオエステルはカルボン酸 (RCOOH) とチオール (R−SH) とが結合して形成 チオエステル結合は生化学者が高エネルギー結合と呼ぶもので、アデノシン三リン酸 (ATP) のピロリン酸結合と等価

オートファジー

ノーベル委員会が大隅博士の単独受賞の根拠として4編のKey Publicationsを挙げた

(1)酵母のオートファジーの発見に関する論文(J Cell Biol. 1992)
(2)網羅的な酵母のオートファジー遺伝子の分離に関する論文(FEBS Lett. 1993)
(3)翻訳後修飾分子Atg12によるユビキチン様のタンパク質共有結合反応システムを発見した論文(Nature 1998)
(4)翻訳後修飾分子Atg8によるユビキチン様の脂質共有結合反応システムを発見した論文(Nature 2000)

論文(1)は、出芽酵母におけるオートファジーの発見を、最初に報じたものであった。‥大隅博士は、この酵母システムを縦横無尽に駆使して、約15個のオートファジー遺伝子の単離に成功したのである(論文2)。‥ 論文(3)と(4)は、世界を震撼させた「オートファジー機構の解明」に関する論文である。大隅博士が単離したオートファジー遺伝子の約半数が、Atg12とAtg8を翻訳後修飾分子とする「ユビキチンと類似の共有結合反応システム(Atg12- and Atg8-Conjugation System)(Nature 1998, 2000)を構成していること」が判明したのである。そして、これらの二つの酵素系(タンパク質修飾系と脂質修飾系)が、オートファゴソーム膜形成に必須であることを突き止めた。

2016-10-27 大隅良典博士の功績と憂愁 田中啓二 (東京都医学総合研究所)

Charles A. Janeway(チャールズ・ジェインウェイ)

ジェインウェイの名は教科書の名前で知りましたが、自然免疫学の父と称される人だそうです。免疫学の教科書を見ると「病原体関連分子パターン」とか「パターン認識受容体」などという奇妙な言葉に遭遇して、なんだろうこれ?とモヤモヤしていたのですが、この言葉を提唱した人こそがジェインウェイさんでした。1989年の「免疫学における進化と革命、近づく漸近線?」(Approaching the asymptote? Evolution and revolution in immunology)という学会発表の中で提唱したのだそうです。

ジェインウェイさんのパターン認識受容体仮説によれば、人間には「病原体が持つ特有の構造に対する免疫反応があるはず」というものです。この仮説が提唱された時代は、ランダムな組換えによって無数の構造のバリエーションが作り出されて、たまたまそれが認識できるものを認識することで免疫応答が生じるというものでした。利根川進が「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞したのが1987年ですから、当時はランダムに作られた多様性が微生物を認識するということが常識だったのでしょう。微生物の構造をもともと認識することができるというのは、それに反する考え方でした。しかし結果的に、ジェインウェイさんの仮説を支持するエビデンスが1996年になって初めて報告されたのでした。

参考

  1. 自然免疫学の父 (熊本大学大学院生命科学研究部大学院医学教育部医学部医学科免疫学講座)
  2. Of Flies and Men—The Discovery of TLRs Cells 2022, 11(19), 3127;
  3. Pattern Recognition Receptors and the Host Cell Death Molecular Machinery Front. Immunol., 16 October 2018
  4. Pattern Recognition Theory and the Launch of Modern Innate Immunity NOVEMBER 01 2013
  5. Charles A. Janeway, Jr. 1943-2003 Published: 01 June 2003 Nature Immunology チャールズ・A・ジェインウェイ・ジュニア 1943年~2003年 ルスラン・メジトフ 公開:2003 年 6 月 1 日
  6. Obituary Charles A. Janeway Jr (1943–2003) Nature  15 May 2003
  7. Lemaitre, B.; Nicolas, E.; Michaut, L.; Reichhart, J.-M.; Hoffmann, J.A. The Dorsoventral Regulatory Gene Cassette spätzle/Toll/cactus Controls the Potent Antifungal Response in Drosophila Adults. Cell 199686, 973–983. Tl-deficient insects were dramatically affected by the fungus.  
  8. Chapter 2: Innate Immunity Stuart E. Turvey, MB BS, DPhil1 and David H. Broide, MB ChB  J Allergy Clin Immunol. 2010 Feb; 125(2 Suppl 2): S24–S32. Published online 2009 Nov 24. doi: 10.1016/j.jaci.2009.07.016
  9. Approaching the asymptote? Evolution and revolution in immunology. JANEWAY C A JR  Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology (Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology) 巻: 54 号: Pt 1 ページ: 1-13 発行年: 1989年

免疫学のストーリーによる理解『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』

免疫学は複雑すぎてなかなか頭に入ってきません。ブルーバックスの『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』は、生体に病原菌が侵入されてから生体内でおこる様々な免疫学的な事象をストーリーを追いながら説明してくれていて、とても理解の助けになります。免疫学の世界的な権威である日本人研究者らによって書かれているので、読んでいて安心感があります。この本を読んで得た知識をもとに、自分なりに再構成してみます。

細菌の生体内への侵入とマクロファージによる対応

転んで膝を擦りむiいたりした傷口から病原体(細菌)が侵入する。

マクロファージという名の細胞が細菌を食べる。その際、Toll-like receptor(TLR)によって細菌特有の構成物質(リポ多糖など)を認識して「活性化」する。

*マクロファージ(macrophage 大食細胞 だいしょくさいぼう macroは大きい、phageは食べるの意味)

活性化したマクロファージはサイトカインと呼ばれる物質を周囲に放出し、周りにいるマクロファージを「活性化」する。。余談だが、実はTLRはマクロファージに限らず全身のほぼすべての細胞で多少なりとも発現している。つまりマクロファージでなくても普通の細胞だっても、細菌などの病原体を認識して「警報」であるサイトカインを放出する。また、サイトカインの一種であるケモカイン(他の細胞を遊走させるサイトカインの呼称)を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せると同時に血管の壁をつくっている血管内皮細胞同士の結合を緩める。これにより、血管の壁の隙間から、血液中に存在した免疫細胞が血中から血管壁を通り抜けて、傷口の近くの組織内に移動してくることができる。

好中球が応援にかけつける

マクロファージからのシグナルを受けて、血液中にいた好中球が血管の壁の隙間を通り抜けて、傷口付近へと集まってくる。

好中球は殺菌作用を持ち、細胞数も多数。病原体を倒して死んだ好中球の塊が「膿(うみ)」と呼ばれるものの実体。

樹状細胞による対応

マクロファージと並ぶ食細胞として、樹状細胞があります。樹状細胞もマクロファージとどうように、侵入者である細胞を食べてToll-like receptor(TLR)の働きで活性化します。マクロファージと大きくことなるのは、樹状細胞はいわゆる「自然免疫」の一員でありながら、いわゆる「獲得免疫」を発動するための司令塔である点です。つまり、自然免疫と獲得免疫とをつなぐ重要な位置にいる細胞なのです。

*TLRのように細菌特有の構造を認識する受容体のことを、パターン認識受容体と呼ぶ。

リンパ節で起こること(1):ナイーブヘルパーT細胞の活性化

活性化した樹状細胞は、その形を「樹状」に変え近くのリンパ節へ移動します。樹状細胞は食べた細菌のタンパク質をペプチドにまで分解し、MHCクラスIおよびMHCクラスIIという名前のタンパク質の上にこのペプチドを載せた状態で膜上にそれを提示します。樹状細胞の表面の膜状に提示された「MHCクラスI+ペプチド」と「MHCクラスII+ペプチド」とは、それぞれ異なる種類の細胞が認識します。「MHCクラスII+ペプチド」を認識するのがナイーブヘルパーT細胞、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞です。ナイーブという意味は、これまでに抗原刺激を受けたことがないという意味です。ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞、キラーT細胞はCD8陽性細胞とも言われます。CD4とCD8はそれぞれヘルパーT細胞とキラーT細胞を特徴づける膜表面上の分子で、MHCクラスIIの認識、MHCクラスIの認識にそれぞれが必要となります。

さて、ヘルパーT細胞もキラーT細胞も、T細胞受容体という名前の分子(T Cell Reseptor; TCR)を表面膜上に持っています。T細胞受容体の「可変部」は10億通り以上もの多様性があると言われており、一つのT細胞は、基本的に、その多様な構造のなかの一つの形だけを選んでつくられたTCR分子を発現しています。おなじ形のTCRを持ったT細胞は全身で100個程度しかないと言われています。問題は、今回侵入してきた細菌のタンパク質由来のペプチドを樹状細胞が提示したときに、提示されたペプチド(+MHC)とぴったりと結合できるT細胞と出会えるかどうかというところです。リンパ節で、樹状細胞は多数のT細胞と接触しながら相手を探すことになります。自分とぴったり合う相手を見つけるのは大変です。一か所に留まっているだけで出会えるとは限りません。樹状細胞やT細胞などの免疫細胞は、一つのリンパ節にずっととどまっているわけではなく、リンパ節を出てリンパ管に入り、静脈(血管)に入り、心臓を経由して動脈、末梢、リンパ管、リンパ節といった循環を常にしています。動き回ることで相手に出会う可能性を高めています。「リンパ節で」と書いてしまいましたが、外で動いている最中に出会うこともあるのでしょう。

ここからは、ヘルパーT細胞とキラーT細胞とで、それぞれ別イベントが並行して起きていきますので、まずはヘルパーT細胞についてみていきましょう。

ヘルパーT細胞の活性化

樹状細胞が提示するMHCクラスII+ペプチドと結合できるようなTCRを持っていたヘルパーT細胞は、活性化されます。ただし、この結合だけでは活性化の十分条件にはなりません。補助刺激分子として、樹状細胞が膜上に出しているCD80/86に、ヘルパーT細胞が表面膜上に出しているCD28が結合することが必要です。さらに、樹状細胞が放出するサイトカインをヘルパーT細胞が受け取ることも必要です。この3つが揃って初めてヘルパーT細胞が活性化させるのです。CD80/86の発現と、サイトカインの放出は、病原菌に遭遇して活性化した樹状細胞だけが起こしているものです。

この3条件が必要と聞くと、なんか複雑だなあと嫌気がさすかもしれませんが、その意義を考えてみると、このことが非常に興味深い、生物の巧妙さを示していることがわかります。というのは、樹状細胞は普段から自己の細胞の死骸なども食べているのです。自分が食べたタンパク質を分解してできたペプチドもMHCに載せて細胞表面に提示しています。しかし、普段、自己の体由来のタンパク質のごみ処理をしているだけだと、パターン認識受容体を介したシグナルを受けていないので「活性化」はしていません(特徴的な樹状になっていない)。活性化していないので、CD80/86を発現しておらず、サイトカインの放出もしません。しかし、たまたま自己抗体を認識してしまうT細胞が存在する可能性があります。その場合、MHCII+ペプチドとTCRが結合してしまうのですが、T細胞は活性化されなくて済むのです。つまり、確実に外来性の抗原を認識できたときだけT細胞が活性化するような仕組みになっているというわけです。

ちなみに、病原菌由来のタンパク質を分解してペプチドにまでしたとき、さまざまな種類のペプチドが生じます。ですから、ひとつの樹状細胞は、同一細菌由来の多数の種類のペプチドを提示していることになります。それらのそれぞれのペプチド(+MHC)を認識するT細胞たちが活性化させることになります。

話がややこしくなるのでここでは詳しい言いませんが、ナイーブヘルパーT細胞が活性するときに、実は3種類の活性化ヘルパーT細胞になる可能性があります。1型(Th1)、2型(Th2)、17型(Th17)の3種類です。Th17はだいぶあとに発見されものでIL-17を産生することから17という数字が呼称になっています。

活性化ヘルパーT細胞による現場の応援

リンパ節で活性化したヘルパーT細胞(Th1)は、現場のマクロファージが出したケモカインを頼りに、血中から出て外来の病原菌が侵入してきた現場に向かいます。実はマクロファージにも、樹状細胞ほどではないながらも、抗原提示機能があります。マクロファージが提示する「MHCクラスII分子+抗原ペプチド」を、活性化ヘルパーT細胞が認識できます。同じ病原菌由来のペプチドを樹状細胞が提示していて、それに反応できたヘルパーT細胞なので、マクロファージの中にも同じ抗原が提示された場合があるはずなわけです。さっきの樹状細胞との相互作用の3条件は、マクロファージに関しても当てはまります。つまり、MHCクラスII+ペプチドをTCRで認識、CD80/86をCD28 で認識、マクロファージから放出されたサイトカインの認識、の3条件がそろうと活性化ヘルパーT細胞(Th1)が今度はCD40L分子によってマクロファージを刺激します。受けて側のマクロファージはCD40という膜上の分子によりこのシグナルを受け取り、さらに、活性化T細胞からのサイトカインの放出も受けて、貪食能力がパワーアップします。

ここまでのストーリーで面白いのは、自然免疫の細胞であるマクロファージから始まって、獲得免疫を経由して、再び、マクロファージのパワーアップ(自然免疫)というところに行きついた点です。獲得免疫と自然免疫とは別々に働くものではなく、このように協調して働いているんですね。

活性化ヘルパーT細胞によるB細胞に対するヘルプ

さてリンパ節においてヘルパーT細胞が活性化しましたが、現場に向かって現場のマクロファージをヘルプするだけでなく、リンパ節においても非常に重要な仕事をします。それは、B細胞をヘルプすること。B細胞は、抗体を産生する細胞ですが、病原体に対する抗体を大量に生産するプラズマ細胞にB細胞が変化するためには、ヘルパーT細胞からのヘルプが必要なのです。B細胞はB細胞抗原受容体(B cell antigen receptor; BCR)という分子を膜表面に出しています。BCRは膜に結合している部分の外側は、抗体そのものです。傷口から侵入した病原菌のやその残骸はリンパの流れにのってリンパ節にも入ってきます。BCRも1000億通りの構造があるといわれており、特定の構造を持つBCRを一種類だけ、一つのB細胞が発現しています。ですから、たまたま病原菌由来のタンパク質をBCRで認識できるB細胞が存在するわけです。抗原からの刺激を過去に受けたことがないB細胞は、ナイーブB細胞と呼ばれます。

さて抗原となるタンパク質をBCRで認識したナイーブB細胞は、実は抗原提示機能を持っています。MHCクラスII分子に分解したペプチドを載せて、他の細胞にたいして提示するのです。つまりBCRでタンパク質全体を認識する一方で、その断片であるペプチドもMHCII分子とともに提示しているのです。このような抗原提示を、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)が認識するというわけです。すでに同じ病原体によって活性化ヘルパーT細胞は十分な数にまで増殖していますので、この病原体を認識したB細胞が提示する抗原を認識できる活性化ヘルパーT細胞は、増殖により十分な数存在すると考えられます。

さて、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)によるB細胞の活性化ですが、ここでもやはり複数の条件が必要になります。すなわち、B細胞が提示するMHCクラスII分子+ペプチドを活性化ヘルパーT細胞のTCRが認識すること、少しだけ活性化したことによってB細胞が発現したCD80/86をT細胞のCD28が認識することです。これらの条件が揃うと、T細胞はCD40Lによる刺激をB細胞にあたえ、B細胞はそれをCD40によって受け取ります。また、T細胞はサイトカインをB細胞に対して放出します。こうして、ナイーブB細胞は、活性化して、増殖し最終的にはプラズマ細胞に分化します。活性化したB細胞が、抗原に対する特異性の髙い抗体(IgG)を大量に生産するプラズマ細胞になるまでには、2つの大きな変化を伴います。ひとつが「親和性成熟」で、もうひとつが「クラススイッチ」です。

活性化B細胞からプラズマ細胞へ:親和性成熟とクラススイッチ

活性化B細胞は、そのBCRが抗原に反応できたからこそ、活性化したわけですが、実は抗原に対する結合の強さ(親和性)は非常に強いわけではありません。そこで、突然変異を可変領域内にランダムに導入することにより、もっと強力に抗原に結合できる抗体をつくるということをするのです。これを親和性成熟と呼びます。変異をランダムに入れるので、親和性が高まることもあればむしろ低くなることもあります。親和性が高くないものは、細胞死に追いやられます。この過程はリンパ節の中の「胚中心」と呼ばれる場所で起こります。その際、抗原を提示する役割を担うのが、濾胞樹状細胞(FDC)です。FDCは抗原を”ショーウインドウ”のように並べていて、B細胞がつくる抗体(IgG)の結合性をチェックします。

BCRの実体はIgMですが、クラススイッチというのは、Ig(免疫グロブリン)の型が遺伝子組み換えにより、例えばIgMからIgGへと変化することです。

抗体の働き方:中和とオプソニン化

食細胞のように、病原体を食べてしまうことによりやっつけるというのは話としてわかりやすいのですが、病原体を認識する抗体を作ったからといって、その抗体がどうやって的を倒してくれるのでしょうか。抗体の働き方には大きく分けて2つの種類があります。一つは、「中和」です。例えば、生体内に侵入してきた病原菌が毒となるタンパク質を産生していたとします。その場合、その毒に対する抗体が結合することにより、その毒が働けないようにしてくれることがあります(中和という)。抗体が結合したことで無毒化された毒は、食細胞が食べて処理してくれます。ウイルスの表面タンパク質に対する抗体も、ウイルスに抗体が結合した結果、そのウイルスが細胞表面に結合できないため感染できなくなります。もうひとつが「オプソニン化」です。抗原や病原体に抗体が結合すると、抗体の根元部分(Fc領域という)の構造が変化して、食細胞の膜表面にあるFc受容体と結合できて、食細胞が食べて処理してくれます。

マクロファージのような食細胞は、「自然免疫」に分類されます。しかし、今までみてきたように、「自然免疫」に分類される細胞と、「獲得免疫」に分類される細胞とは協同して、互いを刺激してパワーアップさせながら、外敵と戦っていたのでした。

さて、ここまではもっぱら病原菌の侵入を想定して、どんな免疫反応が生じるかを見てきました。また、リンパ節でヘルパーT細胞が活性化したあとの話しがずっと続いてきました。そこでは、もうひとつ、キラーT細胞にちょっとだけ言及しました。ここからは、キラーT細胞が主役となる免疫反応を見ていきましょう。キラーT細胞は、その名が示すように、相手をキル(殺す)することができます。

リンパ節に移動した樹状細胞は「MHCクラスII+ペプチド」を提示しているだけでなく、「MHCクラスI+ペプチド」も同時に提示しています。そして、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞(CD8陽性T細胞)です。MHCクラスIIはCD4陽性T細胞、MHCクラスIはCD8陽性T細胞で認識される仕組みは、CD4がMHCクラスIIを認識し、CD8がMHCクラスIを認識することができるからです。これらは、抗原提示部分ではない領域に結合します。どっちがどっちだったか混乱しないような覚え方として、「8の法則」がお勧めです。Ix8=8、IIx4=8と言う組みあわせです。

リンパ節で起こること(2):ナイーブキラーT細胞の活性化

樹状細胞とキラーT細胞との相互作用に関しては、ヘルパーT細胞のときとほとんど同じです。樹状細胞が提示する「MHCクラスI分子+抗原ペプチド」を、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原受容体(TCR)が認識する(そのようなTCRを持ったナイーブキラーT細胞とたまたま出会う)。樹状細胞のCD80/86とT細胞のCD28が結合する。

これまで度々登場した活性化ヘルパーT細胞ですが、ナイーブキラーT細胞が結合している樹状細胞に、活性化ヘルパーT細胞も結合しているはずです。その場合、ヘルパーT細胞(Th1)からキラーT細胞へ、サイトカインが放出されます。ヘルパーT細胞は、上で説明したマクロファージ(Th1)やB細胞(Th1およびTh2)へのヘルプだけではなく、実にキラーT細胞の活性化をもヘルプ(Th1)するのでした。まさにヘルパーという名にふさわしい活躍ぶりです。活性化したキラーT細胞は増殖してその数を増やし、戦いに向かいます。どこにどうやって?かというと、やはりケモカインを頼りに移動します。

最初は病原菌が生体内に侵入したというシナリオでストーリーを始めました。しかし、外敵は病原菌に限らず、細胞内に入り込むウイルスや細胞内に入り込む特別な病原菌(細胞内寄生細菌)もいます。キラーT細胞は、このような細胞を殺すのに有効な手段となります。ウイルスなどに感染した細胞は、パターン認識受容体によりそれを感知し(ウイルス由来のRNAを認識するTLRなどによる)、インターフェロンなどのサイトカインを放出し、全身に臨戦態勢を整えます。インターフェロンの効果としては、MHC分子の促進があります。感染した細胞はMHCクラスI分子にウイルス由来の抗原ペプチドを載せて提示します。活性化キラーT細胞は、このような感染細胞に対してアポトーシスを誘導することにより殺します。

キラーT細胞を補完するナチュラルキラー(NK)細胞の働き

活性化キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞などを認識して細胞死(アポトーシス)を誘導できるのでした。その際にMHCクラスI分子+ペプチドが必要でした。ところが、ウイルスに感染した細胞は、MHCクラスI分子の発現量が減少することがあります。そうなると、キラーT細胞が有効に働けません。その穴を埋める働きをしてくれるものとして、「自然免疫」に属する細胞の一種である、ナチュラルキラー(NK)細胞があります。NK細胞は、ウイルス感染のせいでMHCクラスI分子の発現量が低下していてCD80/86(もしくはNKG2Dリガンド)を発現している細胞を認識して、この細胞にアポトーシスを誘導します。

Th1,Th2,Th17の働き

さて、以上で、細菌やウイルスが生体内に侵入してきたときに免疫系でどのような応答が起きるのかの概略がつかめたと思います。ヘルパーT細胞に関してはTh1の役割が主でした。3種類のヘルパーT細胞Th1,Th2,Th17については、免疫学や炎症の研究内容の紹介では頻出することなので、引き続き『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』で紹介されていた内容を、ここにまとめておこうと思います。

Th2の働きは3つあります。一つ目はTh1と同じでB細胞を活性化させてIgGを放出させること。2つめは、B細胞を活性化させてIgEを放出させること。3つめが、好酸球の活性化です。

IgEも親和性成熟を経ます。B細胞が分化してできたプラズマ細胞からIgEが放出されると、マスト細胞(肥満細胞)にIgEの根元が結合します。抗原がIgEに結合すると、マスト細胞はヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンの作用で粘液が増量します。これは寄生虫の排除がもともとの目的だと考えられているそうです。しかし、鼻や目の粘膜でこのシステムが”誤作動”したものが花粉症の実体なのではないかとのこと。

好酸球はTh2からだされるサイトカインの刺激によって、寄生虫を排除するための物質を放出するのだそうです。

Th17は末梢においてサイトカインを放出し、ケモカインの放出を促します。それにより好中球を集結させます。またTh17は腸管上皮細胞にむけてサイトカインを放出し、これにより腸管上皮細胞から抗菌ペプチドを分泌させます。

Th1,Th2,Th17がどのように生体内で分化するかについてはまだわからないことが多いようです(この本の出版年は2014年)。in vitro実験でわかっている分化誘導物質は、

IL-12 → Th1

IL-4 → Th2

IL-6 + TGFβ → Th17

だそう。Th17が発見するまでは、Th1とTh2の働きかたの割合(Th1/Th2バランス)で、病態などを説明することが盛んに行われていましたが、Th17が発見されたことにより、Th1/Th2バランスを考えなくてもTh17の働きとして説明できてしまうことなどもあって、Th1/Th2バランスという考え方は下火になったようです。

本書では、外敵の種類によってTh1,Th2,Th3の役割をまとめています。

Th1  排除すべき対象:ウイルス、細胞内寄生細菌 産生するサイトカイン:IFNγ,IL-2,TNF-α

Th2 排除すべき対象:寄生虫 産生するサイトカイン:IL-4, IL-5, IL-10, IL-13

Th3 排除すべき対象:細胞外細菌、真菌 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

 

自然リンパ球

本書の免疫のストーリーには自然リンパ球は一切登場しませんでした。しかし、最近発見された自然線リンパ球について紹介されていました。非常に興味深いことに、上のTh1, Th2, Th3と産生するサイトカインが見事に対応しています。炎症という病態を引き起こしているのはサイトカインですが、今まで病態の説明としてTh1,Th2,Th17を考えてきたけれども実は自然リンパ球から放出されるサイトカインによって説明できることも多いのではないかという提言があります。

自然リンパ球グループ1 産生するサイトカイン:IFNγ

自然リンパ球グループ2 産生するサイトカイン:IL-5, IL-13

自然リンパ球グループ3 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

さて、この本は以上で外敵が侵入してきたときに何がおこるのかのストーリーの解説が完結したのですが、話はそこで終わらず、免役応答がどのように制御されているのか、腸管免疫の話、自然炎症、がんといった話題にも触れられていて盛りだくさんです。

これらの話も大変わかりやすい解説なので、別の記事で改めて紹介したいと思います。