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休眠特許の活用について 今すぐにとるべきアクションと実践的なプロセス

質問:休眠特許の活用って聞くけど、20年経つ寸前だと無意味だよね?どれくらい残りの年数があれば、活用を考えてもいいと思う?

Gemini 2.5 Pro:おっしゃる通り、非常に的を射たご指摘です。特許の存続期間(出願から20年)が残り1~2年しかない「休眠特許」は、活用(ライセンス、売買、新規事業化)の対象として非常に価値が低いと言わざるを得ません。なぜなら、交渉や製品化の準備をしている間に権利が切れてしまい、投資したコスト(人件費、開発費)や時間を回収できる見込みが立たないためです。


📆 どれくらい残っていれば活用できるか?

ご質問の「どれくらいの年数があれば活用を考えてもよいか?」については、「最低5年」、そして**「本格的な活用を目指すなら7年~10年以上」**というのが一つの目安になります。

ただし、これは技術分野や活用の目的によって大きく異なります。

1. 技術分野による違い

  • 医薬品・バイオ分野:

    • 製品化(臨床試験、承認審査)までに莫大な時間とコストがかかります。

    • 最低でも10年~15年の残存期間がないと、投資回収の観点から活用(ライセンス導入など)は極めて困難です。

  • IT・ソフトウェア・アプリ分野:

    • 技術のライフサイクルが非常に短い(ドッグイヤー)分野です。

    • 製品化までのスピードが速いため、残存期間が5年程度でも、その技術が市場のニーズに合致していれば、十分に活用できる可能性があります。

  • 機械・化学・素材分野:

    • 上記2分野の中間に位置します。

    • 交渉や製品化の準備に1~2年、その後の投資回収期間(製品の販売期間)に数年を見込むと、最低でも5年、安心して事業化を検討するには7年~10年程度の残存期間が望ましいでしょう。

2. 活用の目的による違い

  • 自社で新規製品化(一番時間がかかる):

    • 企画、R&D、製造ラインの確立、マーケティング、販売と進めるため、最も長い残存期間が必要です。

    • 7年~10年以上は欲しいところです。

  • 他社へのライセンス(交渉時間がかかる):

    • 交渉相手(ライセンシー)を探し、技術を評価してもらい、契約条件(ライセンス料率など)を詰め、契約書を締結するまでに、順調にいっても1~2年かかることは珍しくありません。

    • 相手企業も、すぐに権利が切れる特許には魅力を感じません。やはり最低5年、できればそれ以上が目安となります。


💡 年数よりも「技術価値」が重要なケース

残存期間は重要ですが、それ以上に「その技術(特許)が今、どれだけ市場で求められているか」が決定的な要因になることもあります。

  • 価値が高い例:標準必須特許(SEP)

    • 例えば「5G」や「Wi-Fi」などの通信規格に必須の特許(SEP)であれば、その規格が使われ続ける限り、残りの期間が3~4年であっても、極めて高い価値でライセンス交渉が行われます。

  • 価値が低い例:陳腐化した技術

    • 逆に、技術的に完全に時代遅れ(例えば、VHSビデオテープに関する高度な特許)であれば、残存期間が15年あっても、活用しようと考える企業は現れません。

まとめ

「休眠特許を活用しよう」と考えた場合、まず特許の残り年数を確認するのは正しいステップです。

  1. 最低ライン: 5年(これ未満だと、交渉や準備だけで終わってしまうリスクが高い)

  2. 目安: 7年~10年以上(本格的な事業化やライセンス活動を検討できる)

  3. 例外: 医薬品は10年~15年、IT分野は5年でも勝負できる場合がある。

そして同時に、「その特許技術は、今の市場でお金を生む力があるか?」という視点で評価することが、活用を成功させる上で最も重要になります。

質問:大学に眠っている休眠特許の活用を考える場合、知財部としては、どんなアクションをまずとればいいの?何を誰にどう売り込む?

Gemini 2.5 Pro:これは大学のURAやTLO(技術移転機関)にとって非常に重要かつ困難な課題ですね。大学の「休眠特許」は、企業のものとは異なり、「技術が未成熟(シード段階)すぎる」または「発明者(先生)が事業化に無関心」という理由で眠っているケースが非常に多いのが特徴です。したがって、知財部(あるいはURA)がまず取るべきアクションは、外に「売り込む」ことではなく、内に「掘り起こす」ことです。


1. 👑 まず取るべき最初のアクション (内部の棚卸し)

「何を、誰に、どう売るか」を考える前に、その「休眠特許」が本当に「売れるタネ」なのかを見極める必要があります。

アクション①:特許ポートフォリオの棚卸し( triage:トリアージ)

まず、保有している休眠特許をリストアップし、機械的に3つに分類します。

  1. A群 (見込み薄):

    • 残存期間が5年未満 (昨日の議論の通り、交渉・製品化の時間が取れない)

    • 技術が完全に陳腐化している (例: 3Gの通信技術、特定の古いOS用ソフトなど)

    • → アクション: 権利の*「放棄(維持年金不納)」*を検討。無駄なコストを削減します。

  2. B群 (要検討・有望):

    • 残存期間が7年~10年以上ある

    • 技術は「基盤的」であり、今でも通用する (例: 新規化合物、測定原理、材料組成など)

    • → アクション: これが「掘り起こし」のメインターゲットです。

  3. C群 (特殊):

    • 標準必須特許(SEP)の可能性がある、など

    • → アクション: 専門家(弁理士など)と対応を協議します。

アクション②:発明者(先生)へのヒアリング

トリアージでB群(有望)と判断した特許について、必ず発明者である先生にヒアリングします。これが最も重要です。

  • 確認するポイント:

    • 先生、この特許、ご記憶にありますか?

    • 「この特許の『ウリ(一番すごい所)』は、結局何だったでしょうか?」

    • 「この特許を出願した後、追加のデータや、関連する新しい研究は進んでいますか?

    • 「(もし否定的だったら)なぜこの技術は実用化しなかった(しない)とお考えですか?」

    • 「先生が(もし企業と組むなら)組みたいと思う企業、あるいはライバルだと思う企業はどこですか?」

このヒアリングを通じて、「売る」ための重要な情報(=特許明細書には書かれていない「生きた」情報)を引き出します。

  • 知財部が得るべき情報:

    • ① Know-how: 特許にはなっていないが重要なノウハウ、最新の未発表データ

    • ② 発明者の熱意: 先生自身が、社会実装(実用化)に少しでも興味があるか

    • ③ ターゲット: 先生の頭の中にある「目ぼしい企業」


2. 🎯 何を「売る」のか? (技術のパッケージ化)

大学の特許を「特許(権利書)」単体で売ろうとしてはいけません。ほとんど売れません。企業が大学に求めているのは「権利」そのものよりも、「技術の種」と「専門家の知見」です。

  • 「何を」:

    • 特許+Know-how+最新データ+発明者のコンサルティング」を一つのパッケージとして売ります。

    • これを「テクノロジー・マーケティング・シート(TMS」と呼ばれるA4・1〜2枚程度の「非機密(ノンコンフィデンシャル)資料」にまとめます。これが「売り込む」ためのパンフレットになります。

    • TMSに盛り込む内容:

      • キャッチーな技術タイトル

      • 「誰の」「どんな課題」を解決するのか?

      • 既存技術(競合)と比べて何がすごいのか?(図表で示す)

      • 市場規模(もし分かれば)

      • 「特許出願中」「〇〇先生(〇〇大学)の研究室」


3. 👥 誰に「売り込む」のか? (ターゲットの特定)

先生へのヒアリングと、知財部での調査に基づき、アプローチするターゲットを決めます。

  • ターゲット① (最も有望):

    • 発明者の先生と「既に」共同研究をしている企業

    • 先生の「ファン」である企業。これが最も話が早く、成約率が高い「温かい」ターゲットです。

  • ターゲット② (次点):

    • 先生がヒアリングで名前を挙げた**「ライバル企業」や「気になる企業」**。

    • その特許を**「引用」している他社の特許**(J-PlatPatやGoogle Patentsで引用文献を調べる)。

  • ターゲット③ (新規開拓):

    • JST(科学技術振興機構)が開催する「新技術説明会」「イノベーション・ジャパン」などのマッチングイベント。

    • 各TLOや銀行が主催する技術シーズ発表会。


4. 💡 どう「売り込む」のか? (アプローチ方法)

大学からのアプローチで、いきなり「ライセンス料は〇〇円です」という「売り込み」は失敗します。

企業は、まずは「話を聞いてみたい」「評価してみたい」という段階です。

  • アプローチの「ゴール」設定:

    • 最初のゴールは「ライセンス契約」ではなく、「NDA(秘密保持契約)を締結し、技術詳細について発明者とミーティングしてもらう」ことに設定します。

  • アプローチ手法:

    • ターゲット企業の知財部や研究開発部門の「窓口」にコンタクトを取ります。(先生のツテがあれば最高です)

    • (メール等で)「〇〇大学の〇〇(知財部/URA)です。貴社の〇〇分野に関連すると思われる、本学の〇〇教授の新しい技術シーズについて、A4・1枚の資料(=TMS)をお送りします。もしご興味があれば、〇〇教授本人を交えてWeb会議(30分)で技術説明をさせていただけないでしょうか?」と打診します。

  • 「売り物」のバリエーション:いきなり「独占ライセンス」を売るのではなく、企業のニーズに合わせて売り方を柔軟に変えます。
    • 「共同研究」の提案(まずは一緒に研究して、技術を成熟させましょう)

    • 「オプション契約」の提案(評価期間として、6ヶ月間、独占的に評価する権利を格安で提供する)

    • 「非独占ライセンス(通常実施権)」の提案(「安く広く」使ってもらう)


まとめ

大学知財部がまずやるべきことは、「コスト(維持年金)」と「残存期間」で機械的に特許をトリアージし、有望なものについて「発明者(先生)」に徹底的にヒアリングし、最新データやノウハウと組み合わせて「1枚のパンフレット(TMS)」を作ることです。これがない状態で、やみくもに売り込みをかけても成功確率は極めて低いでしょう。

このプロセスで、何かお手伝いできること(例えば、TMSの叩き台作成や、J-PlatPatでの引用文献調査など)はありますか?

 

質問:テクノロジー・マーケティング・シート(TMS)は、保有する特許一件ごとにつくるの?それとも発明者ごと?

Gemini 2.5 Pro:非常に良いご質問です。これはTLO(技術移転機関)の実務でも非常に重要なポイントです。結論から申し上げますと、発明者ごと」は広すぎ、「特許一件ごと」は狭すぎることが多いです。最も効果的な単位は、技術シーズ(Technology Seed)」ごと、あるいは「関連する発明(研究テーマ)」ごとです。


1. なぜ「技術シーズ」ごとが最適なのか?

企業が特許(技術)を導入する際、彼らが欲しいのは「発明の断片(特許一件)」ではなく、「その課題を解決できる、ある程度まとまった技術パッケージ」だからです。

❌ なぜ「特許一件ごと」ではダメか?

例えば、ある先生の研究室が「高効率な新しい太陽電池」を開発したとします。

その成果は、多くの場合、複数の特許に分かれて出願されています。

  • 特許A: 新しい材料(化合物)そのもの

  • 特許B: その材料の製造方法

  • 特許C: その材料を使ったデバイス(太陽電池)の構造

もし、これらを「特許一件ごと」にTMSを作成して、3枚の別々の資料として企業に紹介したらどうなるでしょうか?

  • 企業(開発担当者):「特許A(材料)は面白そうだけど、どうやって作るんだ?」

  • 企業(製造担当者):「特許B(製造方法)の資料が来たけど、これで何が作れるの?」

このように、技術の全体像が伝わらず、魅力が半減してしまいます。

この場合、**「〇〇教授の次世代高効率太陽電池技術」**という1つのタイトルでTMSを作成し、その中で「本技術は、材料(特許A)・製造法(特許B)・デバイス構造(特許C)の3件の特許群によって強力に保護されています」と紹介するのが、最も強力な売り込み資料となります。

❌ なぜ「発明者ごと」ではダメか?

これはシンプルで、多くの教授は複数の異なる研究テーマを持っているからです。

例えば、ある教授が「AIによる画像診断技術」と「新しい抗がん剤の候補物質」という、全く異なる2つのテーマで特許を持っていたとします。

  • 前者にアプローチすべきは「医療機器メーカー」や「IT企業」です。

  • 後者にアプローチすべきは「製薬会社」です。

これを「〇〇教授の発明ポートフォリオ」として1枚のTMSにまとめても、誰にも響かない(ノイズが多い)資料になってしまいます。


まとめ

TMSを作成する際の単位は、以下の「技術パッケージ(=1つの技術シーズ」単位で考えるのが正解です。

  1. 核となる基本特許(1件または複数)

  2. それに関連する周辺特許・出願群

  3. (特許化していない)重要なノウハウや最新の実験データ

  4. 発明者(先生)自身によるコンサルティング

これら一式を「1つの売り物」としてパッケージングし、1枚のTMSに落とし込みます。もちろん、研究成果が1件の特許のみで完結している場合は、結果として「特許一件ごと」に作成することになりますが、その場合も常に「関連する特許やノウハウは他にないか?」と考える視点が重要です。

国際出願(PCT出願)の国際公開を早期公開(Early Publication)する理由および早期公開する方法

質問:WIPO出願番号JPXXXXXW 出願日2025-01-XX 公開番号WOXXXX 公開日2025-07-XX この日付を見ると、出願者が早期の公開を希望して公開されたということ?その場合の手続きは?

Gemini 2.5 Pro:はい、まさしくその通りです。ご提示いただいた日付(出願日:2025年1月XX日 → 公開日:2025年7月XX日)を見ると、出願から公開まで約6ヶ月しか経過していません。通常の国際出願(PCT出願)は、出願日(または優先権主張の基礎となる出願日)から18ヶ月が経過した後に国際公開されます。このように18ヶ月より大幅に早いタイミングで公開されているのは、出願人がWIPO(世界知的所有権機関)に対して「早期公開(Early Publication)」の請求を行ったことに間違いありません。


📥 早期公開の手続き

国際出願(PCT出願)の早期公開の手続きは、PCT条約規則(48.4)に基づいて定められており、非常にシンプルです。

  1. 請求先: WIPOの国際事務局(IB: International Bureau)に対して行います。
  2. 請求方法: 出願人が「早期公開を請求します」という意思を示す書面(「早期公開の請求書」)を国際事務局に提出します。これは、ePCT(WIPOの電子出願・管理システム)を通じてオンラインでリクエストするのが一般的です。
  3. 手数料: この早期公開の請求手続き自体には、WIPOに支払う特別な手数料はかかりません。
  4. 公開のタイミング: 国際事務局がその請求書を受理し、公開の技術的な準備が整い次第、「速やかに(promptly)」国際公開(WO公報の発行)が行われます。

🤔 なぜ早期公開をするのか?

出願人が18ヶ月の期間を待たずに(デメリットを承知で)早期公開を請求するのには、主に以下のような戦略的な理由があります。

  • 1. 暫定的保護(補償金請求権)の早期発生

    これが最大の理由であることが多いです。多くの国(日本を含む)では、出願が「公開」された後でないと、発明を無断で実施している他者に対して補償金(ライセンス料相当額)を請求する権利(暫定的保護)が発生しません。もし出願から18ヶ月経つ前に、他社が製品を模倣し始めた場合、一刻も早く出願を公開状態にして、その模倣行為に対して警告し、権利行使の準備を整える必要があり、早期公開が使われます。

  • 2. 防御的公開(先行技術化) 自社では権利化まで望まないが、他社(競合)にこの技術分野で特許を取らせたくない場合。早期公開をすることで、自分たちの発明を世界中の「先行技術(Prior Art)」にすることができます。これにより、他社が後から類似の発明を出願しても、このWO公報を引用されて「新規性・進歩性がない」として拒絶されやすくなります。
  • 3. 審査の早期化(一部の国) 国によっては、国内段階の審査を早期に開始するための前提条件として「国際公開」されていることを要求する場合があります。その場合、早期公開は国内での権利化を早めるための一つの手段となり得ます。

特許出願のときの図は絵が拙くてもいいの?

質問:アメリカの特許 出願 https://patents.google.com/patent/US20070249952A1/en で使われている図は、図に描かれた人間がかなり拙いんだけど、これは素人が自分で出願したの?弁理士を使わずに。

Gemini 2.5 Pro:それは非常に鋭いご指摘ですね。結論から申し上げますと、図面が拙い(簡素である)ことと、素人が出願したことは、必ずしもイコールではありません。そして、この出願(US20070249952A1)に関しては、弁理士(Patent Attorney / Agent)が関与している可能性が極めて高いです。


1. なぜ弁理士が関与した可能性が高いのか?

Google Patentsの情報(Legal Events)を見ると、この出願は「AXON SLEEP RESEARCH LABORATORIES Inc」という**法人(会社)**によって出願されています。

企業が特許出願(特に米国のような重要国への出願)を行う場合、自社の知財部を通すか、外部の特許事務所に依頼するのが一般的です。発明者個人が会社を代表して「素人」として出願手続きを行うことは、コンプライアンスや権利の安定性の観点から、まずありません。

したがって、この出願はプロ(弁理士・特許事務所)が代理人として手続きを進めていたと考えるのが自然です。

2. なぜプロが関与しているのに図面が拙いのか?

ここが重要なポイントですが、**特許の図面は「芸術作品」ではなく、「発明の構成を説明するための図」**だからです。

  • 目的が違う:図面の目的は、発明の構成(例えば、センサーがどこに取り付けられているか、どのような部品があるか)を、特許請求の範囲や明細書の記載と対応させて明確に示すことです。写実性や芸術性は求められません。
  • 簡素化のメリット:むしろ、リアルに描きすぎると、発明の本質と関係ない部分(例えば、人物の顔の表情、髪型、シワなど)まで描いてしまい、かえって権利範囲を不必要に狭めてしまうリスクさえあります。
  • 「拙い」=「概略図」:この図面は「拙い」というよりは、「発明の構成要素の配置関係を示すための、意図的に簡略化された概略図(Schematic Diagram)」であると解釈すべきです。

結論

この出願の図面は、「素人が描いたから拙くなった」のではなく、「プロの弁理士が、発明のポイント(電極の位置など)を明確にするために、あえて人間を簡素な『記号』として描いた」と考えるのが妥当です。特許図面(特に米国)では、このような簡素な人物イラストは非常によく見られるものです。

みなし取り下げとは(日本の特許制度)

abandonedとは(アメリカの特許制度)

質問:https://patents.google.com/patent/US20070249952A1/en の特許のstatusがabandonedとありますが、これはどういう意味でしょうか?20年経過して切れたのではないということですよね?

はい、その通りです。「Abandoned (放棄)」は、20年の存続期間が満了して「切れた (Expired)」のとは全く異なります。

「Abandoned」は、特許権が成立する「前」に、出願人による手続きが停止されたことを意味します。


「Abandoned (放棄)」とは?

これは、特許出願が審査段階で「死んだ」状態、つまり特許にならなかったことを示します。

ブラウザで確認した情報(Legal Events)によると、この出願(US11/586,196)は2013年2月12日に「ABANDONED — FAILURE TO RESPOND TO AN OFFICE ACTION」となっています。

これは具体的に、以下のことを意味します。

  1. 出願人(AXON SLEEP RESEARCH LABORATORIES Inc)が特許を出願しました。(2006年10月24日出願)

  2. 米国の特許庁(USPTO)の審査官がこの出願を審査し、「このままでは特許にできません」という**拒絶理由通知(Office Action)**を出しました。

  3. 出願人は、その通知に対して応答期間内(反論書や補正書を提出する期限)に返答しませんでした

  4. その結果、この出願は「放棄」されたものとみなされ、手続きが打ち切られました。

このように、出願人が審査の途中で応答をやめたり、特許査定が出たのに登録料を払わなかったりすると、その出願は「Abandoned」となります。


「切れた (Expired)」との違い

  • Abandoned (放棄):

    • 特許権が成立する「前」に手続きが止まった状態

    • 権利が発生していないため、その出願内容で他者を訴えたりすることはできません。

  • Expired (存続期間満了):

    • 一度、特許権が成立し、権利として有効になったもの。

    • その権利が、存続期間(原則として出願日から20年)の満了によって消滅した状態です。

ご質問の出願は2006年に出願されているため、もし特許権が成立していたとしても、満了するのは2026年頃です。したがって、20年経過で切れたのではない、というご認識は正しいです。

abandonedに対応する日本の制度

質問:今の説明はアメリカだけでなく、日本にも通用する話?

Gemini 2.5 Pro:はい、基本的な概念は日本にも通用しますアメリカの「Abandoned(放棄)」に相当する状況は、日本の特許制度にも存在し、それは「Expired(存続期間満了)」とは明確に区別されます。


🇯🇵 日本の特許制度における対応

ご説明した「審査官の通知(Office Action)に応答しなかったために出願が終了する」というケースは、日本では「みなし取下げ」または「拒絶査定」につながる手続きに該当します。

  1. 審査官からの通知

    • 日本の特許庁の審査官も、審査において特許できない理由(新規性がない、進歩性がない等)を見つけた場合、「拒絶理由通知」を出願人に送付します。

  2. 応答期間

    • 出願人には、その通知に対して意見を述べたり(意見書)、出願内容を修正したり(手続補正書)するための応答期間(通常、国内居住者は60日)が与えられます。

  3. 応答しなかった場合

    • もし出願人がこの応答期間内に何も応答しなかった場合、その出願は「みなし取下げ」(出願が取り下げられたものとみなされる)となるか、あるいは審査官がそのまま「拒絶査定」を出します。

    • どちらの場合も、その出願は特許権として成立することなく終了します。


🇺🇸 米国「Abandoned」と日本の「みなし取下げ」

  • 共通点:

    • どちらも、特許権が成立する「前」に、出願人が特許庁の要求(拒絶理由への応答、手数料の支払いなど)に応じなかったために、その出願手続きが終了する状態を指します。

  • 区別:

    • これは、一度特許権が成立し、20年間の権利期間が終了した「存続期間満了(Expired)」とは全く異なります。

したがって、審査の途中で応答せずに手続きが終了し、権利化されなかった点において、ご質問の米国特許の「Abandoned」と日本の「みなし取下げ」や「拒絶査定」は、実質的に同じ状況を示していると言えます。

質問:みなし取り下げと拒絶の2通りは、どういうときにどっちになるの?

Gemini 2.5 Pro:

はい、そのご認識で正しい部分と、少し補足が必要な部分があります。


1. 🇯🇵 日本の特許法における「放棄」

まず、「放棄」という言葉自体は、日本の特許法にも存在します(特許法第97条など)。ただし、これは主に「権利が成立した後に、特許権者が自らの意思で権利を手放すこと」を指します。あるいは、出願人が自らの意思で「出願放棄書」を提出して、能動的に出願をやめる場合も指します(Source 1.1)。これは、前回の会話で出てきた米国の「Abandoned(審査官の通知を無視した結果、受動的に手続きが打ち切られる)」とはニュアンスが異なります。アメリカの「Abandoned」に最も近い日本の制度上の扱いは、やはり「みなし取下げ」と「拒絶査定(の結果、権利化が終了すること)」になります。


2. 🚦 「みなし取下げ」と「拒絶査定」の分岐

ご質問の核心である「どういうときにどっちになるのか?」ですが、これは「応答しなかった」対象が何かによって明確に分かれます。

🅰️ 「みなし取下げ」になるケース

これは主に、審査プロセスそのものを開始維持するための「手続き」を行わなかった場合です。

代表例:出願審査請求をしなかった場合

  • 特許出願は、出願しただけでは審査が始まりません。

  • 出願から3年以内に「審査してください」という「出願審査請求」の手続き(と費用の支払い)が必要です。

  • もし3年以内に誰も審査請求をしなかった場合、その出願は**「取下げ」られたものとみなされます**(みなし取下げ)。(Source 3.2, 5.1, 5.2)

この場合、審査官は中身(新規性や進歩性)を一切判断していません。「審査の土俵に上がるための手続きをしなかった」ので、自動的に終了(みなし取下げ)となります。(他にも、国内優先権を主張した場合の基礎出願が一定期間後に「みなし取下げ」になるなど、別のケースもありますが(Source 3.3, 5.1)、最も代表的なのは審査請求のケースです。)

🅱️ 「拒絶査定」になるケース

これは、審査官による「中身」の審査が開始された後で、その指摘(拒絶理由)に応答しなかった場合です。

代表例:拒絶理由通知に応答しなかった場合

  1. 出願人が「出願審査請求」を行います。

  2. 審査官が中身を審査し、「この発明は新規性がない(特許にできない)」という「拒絶理由通知」を出します。(Source 4.2)

  3. 出願人は、これに対して「意見書」や「補正書」で反論・修正する機会を与えられます。

  4. もし出願人がこの通知を**完全に無視(無応答)**した場合、審査官は「出願人に反論の意思なし」と判断し、「拒絶査定(=あなたの出願を拒絶しますという最終決定)」を出します。(Source 2.2, 4.3)


まとめ

非常にシンプルにまとめると、以下の違いになります。

  • みなし取下げ:

    • いつ?:主に「審査の開始前」

    • なぜ?:審査を開始・維持するための手続き(例:審査請求)をしなかったから。

    • 結果:審査官が中身を判断するまでもなく、手続き的に終了。

  • 拒絶査定 (無応答の場合):

    • いつ?「審査が開始された後」

    • なぜ?:審査官が発見した中身の問題点(拒絶理由)に反論しなかったから。

    • 結果:審査官が中身を判断した上で、「拒絶」という最終判断を下す。

米国の「Abandoned — Failure to respond to an Office Action」は、この「拒絶査定(無応答の場合)」のパターンに最も近いと言えます。

用途発明とは?特許・実用新案審査基準で説明

問:用途発明とは?

Gemini 2.5 Pro:

「用途発明(ようとはつめい)」ですね。承知いたしました。

これは特に医薬品や化学の分野で非常に重要になる特許の考え方です。

一言でいうと、用途発明とは**「既知のモノ(物質)から、未知の新しい使い道(性質・効能)を発見する発明」**のことです。

「モノ」自体は新しくなくても、「その使い道」に発明としての価値を認める、という点が特徴です。

1. 用途発明の典型例:医薬品

用途発明が最もよく使われるのが「医薬品」の分野です。これは**「医薬用途発明」**と呼ばれます。

【例:既存の「胃薬」から「がん治療薬」が生まれたケース】

  1. 前提:ある会社が「成分X」を発見し、「胃の痛みを抑える効果(効能)」を見つけました。そして、「成分Xを含有する胃腸薬」として特許を取り、販売していました。

    この時点で、**「成分X」という物質自体は、すでに世の中に知られている「既知の物質」**となります。

  2. 新しい発見:その後、別の研究者が「成分X」を研究し直していたところ、偶然にも「成分Xには、特定のがん細胞の増殖を強力に抑える効果」があることを**“初めて”**発見しました。
  3. 特許の成立:「成分X」という物質自体は既知(公知)です。しかし、「がん治療に使える」という**新しい使い道(効能=用途)**は、誰も知りませんでした。

    この「新しい効能の発見」には発明としての価値があるため、この研究者は以下の特許を取得できます。

【請求項1】

成分Xを有効成分として含有する、抗がん剤。

(または「~がん治療用医薬組成物」など)

この特許は「物質」そのものではなく、「抗がん剤」という特定の「用途」に限定された権利となります。


2. なぜこれが特許として重要なのか?

もし用途発明が認められないと、どうなるでしょうか。

「成分X」はすでに胃薬として知られているため、物質特許は取れません。

もし「抗がん作用」という素晴らしい発見をしても特許で保護されなければ、製薬会社は莫大な費用がかかる臨床試験(治験)を行ってまで、その薬を「抗がん剤」として国に承認申請(薬事申請)しようとはしなくなります。

つまり、「既知の物質の新しい効能を発見した」という努力と投資を特許で保護することで、新しい治療法の開発(創薬)を促進する、という重要な役割があるのです。


3. 医薬以外の例

  • 農薬: 既知の「殺虫剤A」に、実は「特定の雑草だけを枯らす効果(除草効果)」があることを発見した場合。→ 「殺虫剤Aを有効成分とする除草剤」として特許が取れる。
  • 化学物質: 既知の「プラスチック添加剤B」に、実は「金属のサビを強力に防ぐ効果(防錆効果)」があることを発見した場合。→ 「プラスチック添加剤Bを含有する防錆剤」として特許が取れる。

結論

用途発明とは、

  • モノ(物質): 既知(新しくない)

  • コト(使い道・効能): 未知(新しい)

この「コト(使い道)」の発見に価値を見出して特許権を与える仕組み、とご理解いただくと分かりやすいかと思います。

質問:用途特許が特許として認められるということは、特許法かなにか法律の条文になってる?なってない場合、なにかしら公的文章の記述ある?

Gemini 2.5 Pro:

いいえ、実は「用途発明」という言葉や、それが特許になるという規定は、特許法の条文(法律本文)には直接書かれていません

特許法は、非常に大枠のルールだけを定めています。

  • 特許法の第2条第1項で「発明」とは何か(自然法則を利用した技術的思想の創作)を定義し、

  • 同条第3項で、発明には「物」の発明と「方法」の発明の2種類がある、と定めているだけです。

「用途発明」は、これら法律の条文をどのように解釈・運用するかという実務上のルール(解釈論)として確立されてきたものです。


📚 公的な記述は「審査基準」にあります

ご質問の「法律ではない、公的な文章」として、まさにそのものがあります。

それは、特許庁が公開している**「特許・実用新案審査基準」**です。

これは、特許審査官が特許法という法律を具体的にどのように解釈し、審査を運用するかを定めた**公式のガイドライン(マニュアル)**です。

この「審査基準」の中に、用途発明の取り扱いが明記されています。

審査基準における「用途発明」の扱い

審査基準では、「用途発明」という独立したカテゴリーを設けているわけではありません。

その代わり、例えば医薬の用途発明(医薬用途発明)は、以下のように扱うと定めています。

特定の効能(例:抗がん作用)に基づいて特定された医薬は、「物の発明」として扱います。

【解説】

これは非常に重要なポイントです。

  • 「成分X」という物質そのものは、すでに胃薬として知られているため、「物」としては新規性がありません。

  • しかし、「抗がん剤」(=抗がん作用という”用途”に限定された物)というくくりで見れば、それは新しい「物」(の発明)として扱いましょう、というルールを定めたのです。

このように、用途発明は「新しい使い道(用途)によって限定された**『物の発明』**」として、特許法第2条第3項の「物の発明」に当てはめて解釈・運用されています。


結論

  1. 法律(特許法)には書かれていない:「用途発明」という言葉も、それを特許とするという直接の条文もありません。
  2. 公的文書(審査基準)に書かれている:特許庁の「特許・実用新案審査基準」が、用途発明を「(用途によって限定された)物の発明」として取り扱う、という具体的な運用ルールを定めています。

この「審査基準」こそが、用途発明の特許性を実務上支えている最も重要な公的文書となります。

特許戦略 会社Aがa, b, cの技術特許をもつとき、会社Bがa’, b, cで特許を取るのはアリ? 組み合わせの発明

質問:「ある会社がA, B, Cという3つの技術で特許を出したときに、競合他社がA’、B,Cで特許をとるというのはありえる?」

Gemini 2.5 Pro:

はい、それは十分にあり得ます

これは特許戦略において非常に重要なポイントで、「特許が取れること」と「その特許を自由使えること」は別問題である、という典型的な例です。

競合他社が (A’ + B + C) で特許を取れるかどうかは、主に「進歩性」があるかどうかで決まります。

1. 特許が「取れる」理由(特許性)

特許庁の審査官は、競合他社の発明 (A’ + B + C) が、先行技術(A, B, Cなど)を知っている専門家にとって「容易に思いつく」ものかどうかを判断します。

  • 特許が取れるケース(進歩性あり)

    • 技術AをA’に置き換えたことによって、A, B, Cを単純に組み合わせただけでは予測できない、優れた効果(顕著な効果)が新しく生まれた場合。

    • (例:A’ + B + C にしたら、A + B + C よりも耐久性が10倍になった、など)

    • A’ 自体が、Aとは全く異なる画期的な新技術である場合。

  • 特許が取れないケース(進歩性なし)

    • A’ が、Aの単なる設計変更や、同業者なら誰でも思いつくようなありふれた代替手段(例えば、Aが鉄ネジなのに対し、A’がステンレスネジである、など)にすぎない場合。

    • この場合、「A, B, C の知識があれば、AをA’に置き換えることは容易に思いつけたはず」と判断され、拒絶されます。

したがって、(A’ + B + C) の発明に進歩性があると審査官が判断すれば、特許は成立します。


2. 特許は取れても「使えない」理由(権利の抵触)

ここからが本題です。

競合他社が (A’ + B + C) の特許を取れたとしても、その製品を製造・販売しようとすると、A社の特許権を侵害する可能性が極めて高いです。

  • 競合他社の製品: (A’ + B + C)

  • A社の特許権:

    • 特許権①(技術B)

    • 特許権②(技術C)

競合他社の製品 (A’ + B + C) は、A社の特許発明である「B」と「C」を無断で利用(実施)しています。

これは「利用発明」(または「抵触関係」)と呼ばれます。競合他社は、自分の特許 (A’ + B + C) を実施(使う)するために、A社が持つ特許(BとC)の実施許諾(ライセンス)をもらわなければなりません。

もしA社が「BとCの使用は認めない」と拒否すれば、競合他社はせっかく特許を取っても、その製品を販売できないことになります。


💡 結論:なぜ競合はそんな特許を取るのか?

では、なぜ競合他社は(A社の許可がなければ使えない)特許をわざわざ取るのでしょうか?

それは、「クロスライセンス」という交渉を有利に進めるためです。

  • 競合他社(B社)の思惑:「我々は (A’ + B + C) という素晴らしい発明の特許を持っています。御社(A社)も、我々のA’の技術を使いたいでしょう? 我々がA’の技術を使う許可を出す代わりに、御社も我々にBとCの技術を使う許可をください」

このように、お互いの特許を人質に、お互いが自由に技術を使えるように交渉(クロスライセンス契約)に持ち込むのが、特許戦略の定石です。

したがって、ご質問の「(A’, B, C) で特許をとる」という行為は、A社を潰すためというよりは、A社と交渉するための強力なカードを手に入れるための行動として、現実のビジネスで頻繁に行われています。

質問:「競合他社が単に技術A’の特許だけを出すのでなく、A’,B,Cとセットで明細書に書く理由は?そもそもBやCは請求項に書けないのでは?」

Gemini 2.5 Pro:

そこは非常に鋭いご指摘です。

しかし、結論から言うと、ユーザーさんのご認識とはで、「BやCも請求項(クレーム)に書かなければならない」のです。

そして、「なぜA’単独で出願しないのか」という点については、それが「最も効果的な発明」ではない可能性があるからです。

詳しく解説します。


1. 請求項にはBとCも書く(書かなければならない)

これが最大のポイントです。競合他社(B社とします)が取りたいのは、(A’ + B + C) という「組み合わせの発明(コンビネーション発明」の特許です。

そのため、B社の特許請求の範囲(請求項1)は、以下のようになります。

【請求項1】

構成要件Bと、構成要件Cと、構成要件A’とを具備することを特徴とする〇〇装置。

【なぜこれが許されるか?】

特許庁の審査官は、「B社はA社の特許(BやC)を使っているからダメ」とは判断しません。

審査官が見るのは、「(A’ + B + C) という組み合わせ全体が、世の中にすでにある技術(A社のA+B+Cを含む)と比べて、新しく(新規性)、簡単に思いつかないか(進歩性)」という点だけです。

B社は「B」や「C」そのもので特許を取ろうとしているのではなく、「BとCとA’を組み合わせたこと」に発明の価値があると主張しているのです。


2. なぜA’単独で出願しない(できない)のか?

ユーザーさんのおっしゃる通り、もしA’という技術単独で特許が取れるなら、B社はA’単独で出願するはずです。その方が、A社を含む他社がA’技術を一切使えなくなるため、権利として非常に強力です。

では、なぜ(A’ + B + C)という「セット」で出願するのでしょうか。

理由1:A’単独では「進歩性」がない(特許が取れない)

これが最も多い理由です。

技術A’という部品自体は、実はすでに世の中に存在していたり(新規性なし)、AをA’に変えること自体は、専門家なら簡単に思いつく(進歩性なし)可能性があります。

しかし、「A’とBとCを組み合わせた時だけ、A + B + C に比べて、予期せぬほど素晴らしい効果(例:効率が5倍になる、など)が生まれた」

のであれば、その「組み合わせ」自体に「進歩性」が認められます。

つまり、発明の核心はA’単独ではなく、(A’ + B + C) というセット(組み合わせ)にあるのです。

理由2:戦略的にA社を狙い撃ちするため

B社は、A’技術を他の分野で売りたいのではなく、明らかにA社の製品(BとCを使っている)の市場に参入し、交渉(クロスライセンス)を仕掛けたいと考えています。

その場合、A’単独の特許よりも、A社の主力製品の構成(BとC)をあえて取り込んだ (A’ + B + C) の特許の方が、「あなたの会社が将来このA’技術を使いたくなったら、うちの特許に抵触しますよ」という、より直接的で強力な交渉カードになるのです。


3. 明細書にセットで書く理由(サポート要件)

これは特許法のルールに基づいています。

  • 請求項(クレーム): 権利として欲しい「範囲」

  • 明細書: その権利の裏付けとなる「発明の説明書・実験データ」

特許法では、「請求項は、明細書に記載された発明の範囲内でなければならない」というルールがあります(サポート要件)。

もしB社が (A’ + B + C) の組み合わせで特許を請求するならば、明細書には当然、A’とBとCを組み合わせて実験した結果や、それによって「いかに素晴らしい効果が生まれたか」を詳細に記載し、その発明が確かに機能することを証明(サポート)する必要があるのです。

結論

競合他社は、「A’単独では特許にならないが、B, Cと組み合わせることで初めて顕著な効果が生まれ、進歩性が認められる」と判断した場合、(A’ + B + C) という「組み合わせ」で請求項を書きます。

その結果、A社の特許(B, C)を「利用」する形となり、クロスライセンス交渉に持ち込むための強力な武器を手に入れることができるのです。

質問「全てが既存の技術でも「組み合わせ」が特許になるんだ?」

Gemini 2.5 Pro:

はい、その通りです。

これは特許の世界で非常に重要な概念で、「コンビネーション発明(組み合わせ発明)」と呼ばれています。

すべての部品や技術(構成要素)が既存のものであっても、その「組み合わせ方」に新しさ進歩性があれば、立派な特許になります。

ただし、非常に重要な条件があります。

1. 単なる「寄せ集め」は特許にならない

例えば、「鉛筆」と「消しゴム」はどちらも既存の技術です。

これらをくっつけて「消しゴム付き鉛筆」を作ったとします。

この発明の効果は、「鉛筆の機能+消しゴムの機能」の単純な足し算にすぎません。

このような、誰でも思いつくような単なる寄せ集め(専門用語で「集合的発明」と呼ぶこともあります)は、進歩性がないとして拒絶されます。

2. 「相乗効果」が生まれれば特許になる

一方、個々の技術を組み合わせることで、それぞれの技術が持つ効果の単純な足し算からは予測できない、全く新しい効果や、著しく優れた効果(=「相乗効果」または「顕著な効果」)が生まれる場合、特許になる可能性が格段に上がります。

具体例(医薬品のケース)

  • 既存の薬A(成分A)は「頭痛」に効く。

  • 既存の薬B(成分B)は「胃を守る」効果がある。

  • これらを単に混ぜただけ(A+B)では、「頭痛に効き、胃にも優しい薬」となり、これは単純な足し算(寄せ集め)なので進歩性がありません。

しかし、もし

  • 「成分Aと成分Bを 3:7 の特定の比率で 混合した場合に限り、成分Aの頭痛を抑える効果が 10倍 に増強される」という現象が発見されたらどうでしょうか。

これは、A単独、B単独の効果からは全く予測できない「相乗効果」です。

この場合、「成分Aと成分Bを3:7の比率で含有する医薬組成物」という「組み合わせ」の発明が特許として成立します。


前回のケースへの当てはめ

ユーザーさんが前回質問された (A’ + B + C) のケースもこれと同じです。

  • A’, B, C がすべて既存の技術であっても、

  • (A + B + C) や (A’ + B) といった既知の組み合わせと比べて、

  • (A’ + B + C) という特定の組み合わせにした場合にのみ、予期せぬ顕著な効果(例:耐久性が5倍になる、消費電力が1/10になる等)が生まれる

のであれば、その「組み合わせ」自体に「進歩性」が認められ、特許になるのです。

特許は「誰も見たことがない新しい物質や機械」だけでなく、「既存のものの新しい関係性(組み合わせ)を見つけ出す」というアイデアも保護の対象としている、ということです。


特許法は、このような「アイデア」のどの部分を保護するかという点で、非常に興味深いですよね。

 

弁理士とはどんな職業か

技術と法律という異なる領域を往来しながら、発明者が創作した技術的思想を制度の枠組みの中で「権利」として具現化していく

弁理士業務の中心は出願書類の作成:発明の本質に迫り、発明者の意図を汲み取りながら、特許請求の範囲や明細書を論理的に構築していく

https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4687

弁理士がどんな仕事をするのかは、弁理士法に定められており知財検定でも出題されます。

下の動画、めちゃくちゃわかりやすいです。子のYOUTUBEチャンネルを一通り視聴すれば、知財検定2級までは合格できそう。

【毎回出題】弁理士法の出るトコ完全マスター【知的財産管理技能検定】 村井PのYouTube大学 チャンネル登録者数 5540人

特許をすべき旨の査定 (特許法第51条)

質問:特許をすべき旨の査定 (特許法第51条)ってあるけど、つまり特許審査官は、特許を出す人じゃなくて、特許を出すかどうかの決定をしているだけってことね。「特許をする」人は、特許庁長官ってことになるわけかな?

Gemini 2.5 Pro:はい、そのご理解でほぼ間違いありません。審査官と特許庁長官の役割、そして「特許権が発生する」までの流れを整理すると、次のようになります。

1. 審査官の役割 = 「決定(査定)」

ユーザーのおっしゃる通り、特許審査官の主な仕事は**「特許をすべきか否かの決定(査定)」**をすることです。

  • 特許査定(第51条): 出願された発明が特許の要件(新規性、進歩性など)を満たしていると判断した場合、「特許をすべき」という決定(査定)を出します。

  • 拒絶査定(第49条): 要件を満たしていないと判断した場合、「拒絶すべき」という決定(査定)を出します。

審査官はこの「決定」をする人であり、審査官が決定した時点ではまだ特許権は発生していません。


2. 特許庁長官の役割 = 「登録と交付」

では、誰が「特許をする」のかというと、最終的な手続きの責任者は特許庁長官です。

特許査定が出た後、出願人が特許料(登録料)を納付すると、以下の手続きが行われます。

  1. 特許権の設定登録(第66条): 特許料の納付をもって、特許庁(の長官の権限)が「特許原簿」という公的な台帳に「この発明に特許権を設定しました」と登録します。

  2. 特許権の発生: この**「設定の登録」がなされた瞬間に、特許権が発生**します。

  3. 特許証の交付(第28条): 設定登録が完了すると、特許庁長官は、特許権者に対して「特許証」を交付します。


結論

まとめると、以下のようになります。

  • 審査官: 特許にするかどうかの「決定」をする人。

  • 特許庁長官: 審査官の決定と出願人の特許料納付に基づき、特許権の「設定登録」を行い、「特許証」を交付する人(=「特許をする」最終的な手続きの主体)。

したがって、「特許をする人は、特許庁長官」というご認識は正しいと言えます。

特許公報と公開特許公報との大きな違い

グーグル検索などしていて、特許関連の文書にぶちあたることが時々あります。読みにくい独特の日本語なのであまり気に留めてなかったのですが、なにやら特許の文書らしいと自分が思っていたものには、「特許公報」と「公開特許公報」の2種類があるようです。名前は似ていますが、大きな違いがあります。

公開特許公報」は、出願されて1年6か月後に公開された文書のことです。まだ特許が取れたわけではありません。

原則として出願日から1年6ヶ月経過後、出願内容が一般に公開されます(出願公開)。https://www.jpo.go.jp/system/basic/patent/index.html#02

それに対して、「特許公報」とは、出願され、審査を経て無事特許が取れたものに関する文書です。

 

参考サイト

  1. 公開特許公報・特許公報とは?小学生にもわかる違い category: 特許 BLOG update: August 03, 2020 https://iproom.jp/blog/patent-document-difference/