質権

特許を受ける権利は、質権の目的にできる?特許権は、質権の目的にできる?抵当権の目的には、どう?

このあたりは、短答試験で非常に引っかかりやすい「担保権」の論点ですね!
結論から言うと、**「何がOKで、何がダメか」**が法律(特許法)ではっきりと分かれています。
まずはパッと見てわかる比較表を作成しました。
質権・抵当権の目的になれるか?まとめ
| 対象 | 質権(しつけん) | 抵当権(ていとうけん) | 根拠条文 |
|—|—|—|—|
| 特許を受ける権利 | × できない | × できない | 第33条第2項 |
| 特許権 | ○ できる | × できない | 第95条 |
なぜ「特許を受ける権利」は質権にできないのか?
「特許を受ける権利」は、まだ審査を通るかどうかもわからない不安定な状態の権利です。
* 理由: もし質権を設定して、その後に拒絶査定が確定して権利が消滅してしまったら、質権者は担保を失ってしまいます。このような不安定なものを質権の対象にするのは、取引の安全上好ましくないため、第33条第2項で一律に禁止されています。
* 実務上の裏技: ただし、どうしても担保にしたい場合は、**「譲渡担保(じょうとたんぽ)」**という形式であれば、判例上認められています。
なぜ「特許権」は抵当権にできないのか?
これは特許法というよりは、民法のルールが関係しています。
* 抵当権のルール: 抵当権を設定できるのは、原則として**不動産(土地・建物)**や、特別の法律(船舶法や自動車抵当法など)で認められたものに限られます。
* 特許権の扱い: 特許権は「無体財産権(目に見えない権利)」であり、民法上の抵当権の対象には含まれていません。また、特許法の中にも「抵当権を設定できる」という規定はありません。
【補足】特許権の「質権」は抵当権に近い?
面白いのが、特許権に設定する**「質権」の性質です。
通常、質権(例えば質屋)は「物を預ける」必要がありますが、特許権の質権は「登録」**によって発生し、特許権者はそのままその技術を使い続けることができます(特許法95条)。
これは性質上、不動産の抵当権に非常に近い運用になっています。
知財勉強ノートからのアドバイス
短答試験では、以下のようなひっかけ問題がよく出ます。
> × 誤答例:
> 「特許を受ける権利は、移転することができるため、質権の目的とすることができる。」
>
→ 移転はできますが、質権はダメ!という**「移転はOK、質権はNG」**のコンビネーションが重要です。

質権とは? 読み方も

読み方は「しちけん」と読みます。
一言で言うと、**「借金のカタに物を預ける(または権利を確保する)仕組み」のことです。
一番身近でわかりやすい例は、「質屋さん」**です。
1. 質権(しちけん)の基本イメージ
質屋さんに時計を持っていってお金を借りる場面を想像してください。
* 質権設定者(あなた): 時計を預けてお金を借りる人。
* 質権者(質屋さん): お金を貸して、担保として時計を預かる人。
* もし返せなかったら: 質屋さんはその時計を売って、貸したお金を回収します(これを優先弁済といいます)。
このように、**「物を相手に渡して(占有を移して)担保にする」**のが質権の本来のルールです。
2. 質権と抵当権の違い
前回の回答で「抵当権(ていとうけん)」についても触れましたが、この2つの最大の違いは**「その物を手元に置いておけるかどうか」**です。
| 項目 | 質権(しちけん) | 抵当権(ていとうけん) |
|—|—|—|
| イメージ | 質屋さん | 住宅ローン |
| 物を誰が持つか | 債権者(お金を貸した人)に預ける | 債務者(借りた人)が持ち続ける |
| 対象物 | 時計、宝石、不動産、特許権など | 主に不動産(土地・建物) |
3. 特許法における「質権」の特殊ルール(重要!)
特許権を質権の目的にする場合、普通の質権とは違う**「特許法ならではのルール」**があります。ここが短答試験によく出ます。
① 「登録」が効力の発生条件
特許権は目に見えないので、質屋さんのように「はい、特許を預かります」と物理的に渡せません。そのため、特許庁の**「特許原簿」に登録**することで、初めて質権としての効力が発生します。
② 質権を設定しても、特許を使える(第95条)
民法のルール(質屋さん)では、預けた時計を自分で使うことはできません。
しかし、特許法では**「契約で別段の定めをしない限り、特許権者はその発明を自分で実施(使用)してもいいですよ」**というルールになっています。
> ポイント:
> 特許法上の質権は、名前は「質権」ですが、実態は**「手元に置いて使い続けられる」という抵当権に近い性質**を持たせているのです。
>
4. なぜ「特許を受ける権利」はダメだったのか?
前回の復習になりますが、なぜ「特許を受ける権利」は質権にできなかったか、もう一度整理しましょう。
* 理由: 質権の最終目的は「もしもの時に売って(競売して)お金に換えること」です。
* リスク: 「特許を受ける権利」は、審査で拒絶された瞬間に価値がゼロになります。そんな不安定なものを担保にしてお金を貸すと、貸した側(質権者)が大きな損をする可能性があるため、法律で禁止されています。
知財勉強ノートからのアドバイス
質権の問題が出たら、**「物理的に相手に渡すのが原則(民法)」だけど、「特許権の場合は登録が必要で、例外的に自分で使い続けられる(特許法)」**とセットで覚えておきましょう。

質権と抵当権の違いは?

質権(しちけん)と抵当権(ていとうけん)は、どちらも「借金の担保」という点では同じですが、**「その物を誰が持っておくか」**という点が決定的に違います。
一言で言うと、「預けるのが質権」、**「預けないのが抵当権」**です。
1. 質権と抵当権の比較表
まずはこの表で全体像をつかんでください。
| 項目 | 質権(しちけん) | 抵当権(ていとうけん) |
|—|—|—|
| 占有(誰が持つか) | 債権者(お金を貸した人) | 債務者(お金を借りた人) |
| 使用(誰が使うか) | 原則として誰も使えない | 債務者が使い続けられる |
| 対象となるもの | 動産(時計等)、不動産、権利(特許権等) | 不動産、特定の動産(自動車等) |
| 身近な例 | 質屋さん | 住宅ローン |
[Image showing the difference between pledge and mortgage regarding possession and usage]
2. 決定的な3つの違い
① 占有(せんゆう)の移転
* 質権: お金を借りる際、担保となる物を相手に渡さなければなりません。これを「占有の移転」といいます。
* 抵当権: 家や土地を担保にしても、そのまま住み続けることができますよね。相手に物を渡す必要がなく、手元に置いたままにできます。
② 使用・収益
* 質権: 原則として、預かっている側(質屋など)はその物を使ってはいけません。
* 抵当権: 借りた人がそのまま使い続け、そこから利益(アパート経営など)を得ることも自由です。
③ 対象物(ここが弁理士試験のキモ!)
* 質権: 動産、不動産、権利(特許権など)が対象になります。
* 抵当権: 原則として不動産のみです。特許権や特許を受ける権利には、抵当権を設定することはできません。
3. なぜ特許法には「質権」しかないのか?
ここで疑問が湧くはずです。「特許権は手元に置いて使い続けたいんだから、抵当権の方が便利じゃないの?」と。
実は、特許法第95条がその不便さを解消しています。
> 特許法第95条(抄):
> 質権が設定された場合でも、契約で別段の定めをしない限り、特許権者はその発明を実施することができる。
>
本来、質権は「預けるもの」なので自分では使えないはずですが、特許法では**「質権という名前だけど、抵当権みたいに手元で使い続けていいよ」**という特別なルールを作ったのです。
これにより、実質的に「特許権の抵当権」のような運用が可能になっています。
まとめ:短答試験対策のポイント
* 特許権:質権○、抵当権×
* 特許を受ける権利:質権×、抵当権×(不安定だから)
* 質権の特徴:本来は「預ける」ものだが、特許法では「設定しても自分で実施できる(95条)」
「質権」と「抵当権」のイメージは沸きましたか?

ついでに、譲渡担保とは?

「譲渡担保」の読み方は、**「じょうとたんぽ」**です。
これは一言で言うと、**「お金を返すまでの間、物の所有権(名義)をごっそり相手に渡してしまう担保の形」**のことです。
「質権」や「抵当権」は民法に書き込まれたルールですが、譲渡担保は慣習として認められてきた、少し特殊な担保です。特許の世界では非常に重要な役割を持っています。
1. 譲渡担保の仕組み
例えば、あなたが自分の「特許権」を担保にお金を借りる場合を考えます。
* 契約: あなた(債務者)は、お金を貸してくれる人(債権者)に特許権の名義を移転します。
* 状態: 形式的には「相手のもの」になりますが、あなたはそのままその特許を使い続けることができます。
* 返済: お金をすべて返せば、名義をあなたに戻してもらえます。
* 不履行: もしお金が返せなかったら、相手はそのままその特許を自分のものにするか、売却して借金をチャラにします。
[Image concept: Diagram showing ownership moving from A to B during the loan, and returning after repayment]
2. なぜ「質権」があるのに「譲渡担保」を使うの?
ここが試験に出るポイントです。
実は、前々回の回答で出てきた**「特許を受ける権利(出願中の状態)」は、法律(特許法33条2項)で質権の目的にすることが禁止**されていましたよね。
しかし、実務上は「出願中のアイデアを担保にお金を借りたい!」というニーズがあります。
* 質権: 法律で禁止されているのでダメ。
* 譲渡担保: 法律で禁止されていないのでOK!
つまり、「特許を受ける権利」を担保にしたいときの唯一(に近い)の手段が、この譲渡担保なのです。
3. 「質権」と「譲渡担保」の比較
短答試験の知識を整理しましょう。
| 項目 | 質権(しちけん) | 譲渡担保(じょうとたんぽ) |
|—|—|—|
| 名義(所有権) | あなたのまま(制限がつく) | 相手に移る |
| 特許を受ける権利 | × できない(33条2項) | ○ できる(判例・実務) |
| 特許権 | ○ できる(95条) | ○ できる |
| 登録の必要性 | 必要 | 必要(移転登録として行う) |
4. 知財勉強ノート流・覚え方のコツ
* 質権: 「私のものだけど、借金のカタにロックをかける」イメージ。
* 譲渡担保: 「いったん相手のものにするけど、返したら返してねという約束」イメージ。
試験対策としては、**「特許を受ける権利 = 質権はダメ、譲渡担保はイケる」**という組み合わせが、短答試験の「正しいものはどれか」系の問題で非常によく出ます。
今回のまとめ
ここまでで「担保」三兄弟が出揃いました。
* 質権: 権利にロックをかける。特許権は○、受ける権利は×。
* 抵当権: 不動産用。特許の世界では×。
* 譲渡担保: 名義ごと渡す。受ける権利も○。
この違い、整理できましたか?
短答試験(枝別過去問)では、ここまでの知識を組み合わせて「AはBに対して特許を受ける権利に質権を設定した。これは適切か?」といった形で攻めてきます。
次は、これらの権利を「誰かと共有している場合」に、一人で勝手に担保に入れられるかどうか、確認してみますか?(これも超頻出です!)

承継って何?特許法第34条第4項を説明して。承継って、かならず特許庁長官に届け出が必要?届けずに特許出願しても、拒絶されるだけ?

「承継(しょうけい)」という言葉は、日常ではあまり使いませんが、知財の世界では**「バトンタッチ」**だと考えると分かりやすくなります。
特に特許法34条は、短答試験で「出願前」と「出願後」の違いを入れ替えて受験生を翻弄してくる要注意ポイントです。
1. 承継(しょうけい)とは?
「承継」とは、特定の権利や義務を、前の人から引き継ぐことを指します。
* 一般承継(いっぱんしょうけい): 相続や会社の合併など、まとめて全部引き継ぐこと。
* 特定承継(とくていしょうけい): 売買や譲渡など、特定の権利だけをピンポイントで引き継ぐこと。
2. 特許法第34条第4項を噛み砕いて説明
この条文は、**「出願した『後』に、特許を受ける権利を誰かに譲った(特定承継した)場合」**のルールです。
> 特許法第34条第4項(超訳):
> 特許を出願した後に、その権利を誰かに譲っても、特許庁長官に「届け出」をしない限り、その譲渡はなかったものとみなすよ。(=効力が発生しない)
>
なぜこのルールがあるのか?
特許庁側からすると、「今、誰がこの出願の本当の持ち主なのか」がハッキリしていないと、審査の結果を誰に送ればいいか分からなくなって困るからです。だから、**「届け出を出すまでは、新しい持ち主とは認めない!」**という強いルールにしています。
3. 承継のタイミングと「届け出」の必要性
ご質問の「必ず届け出が必要?」という点については、タイミングによって答えが変わります。ここが試験で一番狙われるところです。
| タイミング | 承継の種類 | 届け出(特許庁への手続)の扱い |
|—|—|—|
| 出願前 | すべて | 届け出という概念はありません。「正しい承継人」の名前で出願すればOKです。 |
| 出願後 | 特定承継(売買など) | 届け出をしないと、名義変更の効力が出ません(34条4項)。 |
| 出願後 | 一般承継(相続など) | 効力はすぐに発生しますが、遅滞なく届け出をする必要があります(34条5項)。 |
4. 届け出ずに特許出願しても「拒絶」されるだけ?
ここが少し複雑ですが、非常に鋭い質問です。2つのパターンに分けて解説します。
パターンA:出願「前」に承継したのに、間違った人が出願した場合
例えば、会社が発明者(社員)から権利を譲り受けたのに、社員の名前で出願してしまった場合などです。
* 結果: これは**「冒認出願(ぼうにんしゅつがん)」**と呼ばれ、**拒絶理由(49条7号)**になります。
* 理由: 「特許を受ける権利を持っていない人」が出願してしまったからです。
パターンB:出願「後」に譲ったのに、名義変更(届け出)を忘れた場合
* 結果: 拒絶されるのではなく、**「特許庁からは、元の持ち主のまま扱われる」**ことになります。
* リスク:
   * 審査の通知(拒絶理由通知など)が、新しい持ち主ではなく**「元の持ち主」に届いてしまう**。
   * そのまま特許になった場合、「元の持ち主」の名前で登録されてしまう。
   * 後から慌てて直そうとしても、手続きが非常に煩雑になります。
5. まとめ:知財勉強ノートのチェックポイント
短答試験でこの問題が出たら、以下のステップで考えてください。
* それは**出願「前」の話か、「後」**の話か?
* 「後」の話なら、**売買(特定承継)**か、**相続(一般承継)**か?
* 売買なら**「届け出が効力発生の条件(34条4項)」**。届け出なきゃゼロと同じ!
知財勉強ノートからのアドバイス
「承継」の論点は、今回の**34条(受ける権利)と、後の章で出てくる98条(特許権)**のルールを混ぜて出題されるのが定番です。
* 受ける権利:届け出をしないと効力が発生しない(34条4項)
* 特許権:登録をしないと効力が発生しない(98条1項1号)

(Gemini)