質問:遺伝子Aの機能も不明だとして、遺伝子Aをノックアウトしたマウスを作ったときに、表現型が何も出なくても、そのマウスで特許とれる?
Gemini 2.5 Pro:結論から申し上げますと、その条件(表現型なし、機能不明)では、特許を取得するのは極めて困難です。主な理由は、特許が認められるための重要な要件である「産業上の利用可能性」を満たせない可能性が非常に高いためです。
🚫 なぜ困難なのか? (産業上の利用可能性)
特許制度は、単なる「新しい発見」や「新しく作った物」を保護するものではなく、「産業(工業、農業、商業など)で利用できる発明」を保護するものです。
ご提示いただいたケースでは、以下の2点が最大のネックとなります。
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遺伝子Aの機能が不明
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ノックアウトマウスに表現型が(何も)ない
この状況は、そのマウスが「何に使えるのか(=用途)」が全く不明であることを意味します。
例えば、そのマウスは…
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特定の疾患モデルとして使えません(表現型がないため)。
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薬剤のスクリーニング用に使えません(何に効く薬を探せばよいか不明なため)。
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特定の物質を生産する工場として使えるわけでもありません。
特許を出願する際には、その発明の「技術的な詳細」だけでなく、「この発明(マウス)が、何の役に立つのか」という「有用性(用途)」を明細書に具体的に記載する必要があります。
機能も表現型も不明な状態では、そのマウスの「有用性」を客観的に説明することができず、「産業上の利用可能性」がない、と判断されて拒絶される可能性が極めて高いです。
💡 もし特許が取れるとしたら? (逆のケース)
もし仮に、遺伝子Aをノックアウトした結果、何らかの予期せぬ表現型(例えば、異常に毛が濃くなる、特定の病気にかからない、記憶力が非常に良い、など)が観測されたとします。
その場合、そのマウスには以下のような明確な「用途」が生まれます。
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疾患モデルとして: 「多毛症の研究用モデルマウス」
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薬剤スクリーニング用として: 「脱毛症治療薬のスクリーニング方法(このマウスを使って、毛が抜ける薬を探す)」
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基礎研究用ツールとして: 「記憶増強メカニズム解明のための研究用マウス」
このように明確な「用途」が生まれれば、それは単なる「物」ではなく「産業上利用可能な発明」となり、特許の審査の土俵に乗ることができます。(もちろん、その上で「新規性」や「進歩性」なども審査されます。)
まとめ
特許の世界では、「作っただけ」では不十分で、「それが何に使えるか」という実用的な価値(用途)が示せることが非常に重要です。
遺伝子の機能や表現型が不明なノックアウトマウスは、「用途不明の道具」とみなされてしまうため、特許取得は困難、というのが結論になります。
質問:機能も不明の遺伝子Bを破壊したマウスをつくったら、やはり表現型が出なかったとするよ。そして、遺伝子A破壊マウスと遺伝子B破壊マウスとを掛け合わせて、遺伝子A遺伝子Bダブルノックアウトを作ったところembryonic lethalになったとするね。その場合、遺伝子A遺伝子Bダブルノックアウトで特許が取れる?
Gemini 2.5 Pro:はい、その場合、特許が取れる可能性は格段に高くなります。前回の「表現型なし・機能不明」のケースと決定的に違うのは、「胎生致死(embryonic lethal)」という明確な表現型(結果)が出た点です。これにより、前回は満たせなかった「産業上の利用可能性」と、審査で重要になる「進歩性」の双方を主張できる可能性が非常に高くなりました。
1. 🔬 「産業上の利用可能性」の明確化
前回は「何に使えるかわからない」ことが問題でした。しかし今回は、「AとBを両方ノックアウトすると胎生致死になる」という事実そのものに、明確な「用途(使い道)」が生まれます。
これは一般的に「合成致死(Synthetic Lethality)」と呼ばれる関係性を示しており、産業的(特に医薬品開発)に非常に価値のある情報です。
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用途①:創薬スクリーニングのツールとして
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この「AとBが欠損すると死ぬ」という仕組みは、新しい薬剤(特に抗がん剤など)を探すための強力なツールになります。
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例えば、「この胎生致死を回復させる(レスキューする)薬剤」を探すスクリーニング系を構築できます。
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あるいは、がん細胞でAが既に変異している場合に、Bの機能を阻害する薬剤(=がん細胞だけを殺す薬)を探すためのモデルとして利用できます。
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用途②:基礎研究用モデルとして
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「AとBが、発生段階において生命維持に必須の相補的な機能を持っている」ことを証明する研究モデルとして使えます。
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2. 💡 「進歩性」が認められる可能性
特許審査では「その発明は、専門家が簡単に思いつけたか?」という「進歩性」も問われます。今回のケースは、進歩性が認められやすい典型的なパターンです。
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(前提1) 遺伝子AのKOマウス → 表現型なし
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(前提2) 遺伝子BのKOマウス → 表現型なし
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(予測) → AとBのDKOマウスも、おそらく表現型はないだろう。
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(実際の結果) → 胎生致死(Embryonic Lethal)
このように、個々の要素(A欠損、B欠損)からは全く予測できない、顕著な(しかも致死という)効果が出たことは、「予測外の顕著な効果」として進歩性を強く裏付ける論拠となります。
3. 📝 何が「発明」になるか?
この場合、特許として権利を主張(請求項に記載)するのは、以下のようなものが考えられます。
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物(マウス)の発明:
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「遺伝子Aおよび遺伝子Bが共にノックアウトされた、非ヒト動物(マウス)」
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(実用面を考慮し)「遺伝子Aと遺伝子Bのヘテロ接合体マウス同士を掛け合わせることを特徴とする、胎生致死モデル動物の生産方法」
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「遺伝子Aおよび遺伝子Bがノックアウトされた、胚性幹細胞(ES細胞)」
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方法の発明:
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「遺伝子Aおよび遺伝子Bが共にノックアウトされた細胞または胚を用い、その致死性を回復させる化合物を選択することを特徴とする、薬剤のスクリーニング方法」
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結論
「単一のKOでは表現型が出なかったが、ダブルKOにしたら致死性を示した」という発見は、単なる現象の発見を超え、「合成致死を利用した創薬スクリーニングツール」という明確な産業上の価値を持つ「発明」となる可能性が非常に高いです。