特許戦略 会社Aがa, b, cの技術特許をもつとき、会社Bがa’, b, cで特許を取るのはアリ? 組み合わせの発明

質問:「ある会社がA, B, Cという3つの技術で特許を出したときに、競合他社がA’、B,Cで特許をとるというのはありえる?」

Gemini 2.5 Pro:

はい、それは十分にあり得ます

これは特許戦略において非常に重要なポイントで、「特許が取れること」と「その特許を自由使えること」は別問題である、という典型的な例です。

競合他社が (A’ + B + C) で特許を取れるかどうかは、主に「進歩性」があるかどうかで決まります。

1. 特許が「取れる」理由(特許性)

特許庁の審査官は、競合他社の発明 (A’ + B + C) が、先行技術(A, B, Cなど)を知っている専門家にとって「容易に思いつく」ものかどうかを判断します。

  • 特許が取れるケース(進歩性あり)

    • 技術AをA’に置き換えたことによって、A, B, Cを単純に組み合わせただけでは予測できない、優れた効果(顕著な効果)が新しく生まれた場合。

    • (例:A’ + B + C にしたら、A + B + C よりも耐久性が10倍になった、など)

    • A’ 自体が、Aとは全く異なる画期的な新技術である場合。

  • 特許が取れないケース(進歩性なし)

    • A’ が、Aの単なる設計変更や、同業者なら誰でも思いつくようなありふれた代替手段(例えば、Aが鉄ネジなのに対し、A’がステンレスネジである、など)にすぎない場合。

    • この場合、「A, B, C の知識があれば、AをA’に置き換えることは容易に思いつけたはず」と判断され、拒絶されます。

したがって、(A’ + B + C) の発明に進歩性があると審査官が判断すれば、特許は成立します。


2. 特許は取れても「使えない」理由(権利の抵触)

ここからが本題です。

競合他社が (A’ + B + C) の特許を取れたとしても、その製品を製造・販売しようとすると、A社の特許権を侵害する可能性が極めて高いです。

  • 競合他社の製品: (A’ + B + C)

  • A社の特許権:

    • 特許権①(技術B)

    • 特許権②(技術C)

競合他社の製品 (A’ + B + C) は、A社の特許発明である「B」と「C」を無断で利用(実施)しています。

これは「利用発明」(または「抵触関係」)と呼ばれます。競合他社は、自分の特許 (A’ + B + C) を実施(使う)するために、A社が持つ特許(BとC)の実施許諾(ライセンス)をもらわなければなりません。

もしA社が「BとCの使用は認めない」と拒否すれば、競合他社はせっかく特許を取っても、その製品を販売できないことになります。


💡 結論:なぜ競合はそんな特許を取るのか?

では、なぜ競合他社は(A社の許可がなければ使えない)特許をわざわざ取るのでしょうか?

それは、「クロスライセンス」という交渉を有利に進めるためです。

  • 競合他社(B社)の思惑:「我々は (A’ + B + C) という素晴らしい発明の特許を持っています。御社(A社)も、我々のA’の技術を使いたいでしょう? 我々がA’の技術を使う許可を出す代わりに、御社も我々にBとCの技術を使う許可をください」

このように、お互いの特許を人質に、お互いが自由に技術を使えるように交渉(クロスライセンス契約)に持ち込むのが、特許戦略の定石です。

したがって、ご質問の「(A’, B, C) で特許をとる」という行為は、A社を潰すためというよりは、A社と交渉するための強力なカードを手に入れるための行動として、現実のビジネスで頻繁に行われています。

質問:「競合他社が単に技術A’の特許だけを出すのでなく、A’,B,Cとセットで明細書に書く理由は?そもそもBやCは請求項に書けないのでは?」

Gemini 2.5 Pro:

そこは非常に鋭いご指摘です。

しかし、結論から言うと、ユーザーさんのご認識とはで、「BやCも請求項(クレーム)に書かなければならない」のです。

そして、「なぜA’単独で出願しないのか」という点については、それが「最も効果的な発明」ではない可能性があるからです。

詳しく解説します。


1. 請求項にはBとCも書く(書かなければならない)

これが最大のポイントです。競合他社(B社とします)が取りたいのは、(A’ + B + C) という「組み合わせの発明(コンビネーション発明」の特許です。

そのため、B社の特許請求の範囲(請求項1)は、以下のようになります。

【請求項1】

構成要件Bと、構成要件Cと、構成要件A’とを具備することを特徴とする〇〇装置。

【なぜこれが許されるか?】

特許庁の審査官は、「B社はA社の特許(BやC)を使っているからダメ」とは判断しません。

審査官が見るのは、「(A’ + B + C) という組み合わせ全体が、世の中にすでにある技術(A社のA+B+Cを含む)と比べて、新しく(新規性)、簡単に思いつかないか(進歩性)」という点だけです。

B社は「B」や「C」そのもので特許を取ろうとしているのではなく、「BとCとA’を組み合わせたこと」に発明の価値があると主張しているのです。


2. なぜA’単独で出願しない(できない)のか?

ユーザーさんのおっしゃる通り、もしA’という技術単独で特許が取れるなら、B社はA’単独で出願するはずです。その方が、A社を含む他社がA’技術を一切使えなくなるため、権利として非常に強力です。

では、なぜ(A’ + B + C)という「セット」で出願するのでしょうか。

理由1:A’単独では「進歩性」がない(特許が取れない)

これが最も多い理由です。

技術A’という部品自体は、実はすでに世の中に存在していたり(新規性なし)、AをA’に変えること自体は、専門家なら簡単に思いつく(進歩性なし)可能性があります。

しかし、「A’とBとCを組み合わせた時だけ、A + B + C に比べて、予期せぬほど素晴らしい効果(例:効率が5倍になる、など)が生まれた」

のであれば、その「組み合わせ」自体に「進歩性」が認められます。

つまり、発明の核心はA’単独ではなく、(A’ + B + C) というセット(組み合わせ)にあるのです。

理由2:戦略的にA社を狙い撃ちするため

B社は、A’技術を他の分野で売りたいのではなく、明らかにA社の製品(BとCを使っている)の市場に参入し、交渉(クロスライセンス)を仕掛けたいと考えています。

その場合、A’単独の特許よりも、A社の主力製品の構成(BとC)をあえて取り込んだ (A’ + B + C) の特許の方が、「あなたの会社が将来このA’技術を使いたくなったら、うちの特許に抵触しますよ」という、より直接的で強力な交渉カードになるのです。


3. 明細書にセットで書く理由(サポート要件)

これは特許法のルールに基づいています。

  • 請求項(クレーム): 権利として欲しい「範囲」

  • 明細書: その権利の裏付けとなる「発明の説明書・実験データ」

特許法では、「請求項は、明細書に記載された発明の範囲内でなければならない」というルールがあります(サポート要件)。

もしB社が (A’ + B + C) の組み合わせで特許を請求するならば、明細書には当然、A’とBとCを組み合わせて実験した結果や、それによって「いかに素晴らしい効果が生まれたか」を詳細に記載し、その発明が確かに機能することを証明(サポート)する必要があるのです。

結論

競合他社は、「A’単独では特許にならないが、B, Cと組み合わせることで初めて顕著な効果が生まれ、進歩性が認められる」と判断した場合、(A’ + B + C) という「組み合わせ」で請求項を書きます。

その結果、A社の特許(B, C)を「利用」する形となり、クロスライセンス交渉に持ち込むための強力な武器を手に入れることができるのです。

質問「全てが既存の技術でも「組み合わせ」が特許になるんだ?」

Gemini 2.5 Pro:

はい、その通りです。

これは特許の世界で非常に重要な概念で、「コンビネーション発明(組み合わせ発明)」と呼ばれています。

すべての部品や技術(構成要素)が既存のものであっても、その「組み合わせ方」に新しさ進歩性があれば、立派な特許になります。

ただし、非常に重要な条件があります。

1. 単なる「寄せ集め」は特許にならない

例えば、「鉛筆」と「消しゴム」はどちらも既存の技術です。

これらをくっつけて「消しゴム付き鉛筆」を作ったとします。

この発明の効果は、「鉛筆の機能+消しゴムの機能」の単純な足し算にすぎません。

このような、誰でも思いつくような単なる寄せ集め(専門用語で「集合的発明」と呼ぶこともあります)は、進歩性がないとして拒絶されます。

2. 「相乗効果」が生まれれば特許になる

一方、個々の技術を組み合わせることで、それぞれの技術が持つ効果の単純な足し算からは予測できない、全く新しい効果や、著しく優れた効果(=「相乗効果」または「顕著な効果」)が生まれる場合、特許になる可能性が格段に上がります。

具体例(医薬品のケース)

  • 既存の薬A(成分A)は「頭痛」に効く。

  • 既存の薬B(成分B)は「胃を守る」効果がある。

  • これらを単に混ぜただけ(A+B)では、「頭痛に効き、胃にも優しい薬」となり、これは単純な足し算(寄せ集め)なので進歩性がありません。

しかし、もし

  • 「成分Aと成分Bを 3:7 の特定の比率で 混合した場合に限り、成分Aの頭痛を抑える効果が 10倍 に増強される」という現象が発見されたらどうでしょうか。

これは、A単独、B単独の効果からは全く予測できない「相乗効果」です。

この場合、「成分Aと成分Bを3:7の比率で含有する医薬組成物」という「組み合わせ」の発明が特許として成立します。


前回のケースへの当てはめ

ユーザーさんが前回質問された (A’ + B + C) のケースもこれと同じです。

  • A’, B, C がすべて既存の技術であっても、

  • (A + B + C) や (A’ + B) といった既知の組み合わせと比べて、

  • (A’ + B + C) という特定の組み合わせにした場合にのみ、予期せぬ顕著な効果(例:耐久性が5倍になる、消費電力が1/10になる等)が生まれる

のであれば、その「組み合わせ」自体に「進歩性」が認められ、特許になるのです。

特許は「誰も見たことがない新しい物質や機械」だけでなく、「既存のものの新しい関係性(組み合わせ)を見つけ出す」というアイデアも保護の対象としている、ということです。


特許法は、このような「アイデア」のどの部分を保護するかという点で、非常に興味深いですよね。