特068 BBS事件

特許法における基本条文である68条(特許権の効力)と、それに関連する超重要判例「BBS事件(並行輸入事件)」この2つはセットで覚えると非常に理解が深まります。「原則」と「例外(権利が及ばないケース)」の関係にあるからです。

1. 特許法68条:特許権の効力(原則)
まずは条文の基本です。68条は「特許権者は何ができるのか」を定義しています。


> 特許法 第68条
> 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲内については、この限りでない。

ポイント解説
* 「業として」 (As a business):
   * 個人的・家庭的な実施(例:家で個人的に発明品を作って使うだけ)には権利は及びません。ビジネスとして行う場合に限ります。
* 「専有する」 (Exclusive right):
   * 特許権者だけがその発明を実施(製造、販売など)でき、他人を排除できるという強力な独占権です。


* ただし書き(専用実施権):
   * 他人に「専用実施権(最強のライセンス)」を与えた場合、特許権者自身もその範囲では実施できなくなります(権利が重なるのを防ぐため)。


2. BBS事件(BBSアルミホイール事件):並行輸入と国際消尽
68条では「特許権者は独占できる(他人の販売を止められる)」とありました。
では、**「海外で正規に購入した商品を、勝手に日本に輸入して販売する(並行輸入)」**はどうなるでしょうか?


ここで登場するのがBBS事件(最高裁 平成9年7月1日判決)です。


事件の概要
* ドイツのBBS社(特許権者)が、ドイツで正規にアルミホイールを販売。
* ある業者がそのホイールをドイツで購入し、日本へ並行輸入して販売した。
* BBS社は日本の特許権に基づき「日本での販売は許していない!68条の侵害だ!」と訴えた。
最高裁の判断(ここが試験に出る!)
結論として、**「特許権侵害にはならない(並行輸入はOK)」**という判断が下されました。
裁判所は、いわゆる**「国際消尽(こくさいしょうじん)」**に近い理論を展開しました。


> 【判決のロジック(BBSの法理)】
>  * 譲渡による権利の消耗: 正規に商品が譲渡された時点で、その商品に関する特許権の目的は達成されている。
>  * 流通過程の自由: 商品は国境を越えて流通するものであり、購入者がその商品をどう扱おうと(輸出入しようと)自由であるのが当然。
>  * 結論: 原則として、海外で適法に販売された商品を日本に輸入しても、日本の特許権は及ばない。
>
例外:権利行使ができる(並行輸入を止められる)場合
ただし、無条件ですべてOKではありません。最高裁は、特許権者が並行輸入を阻止できる「2つの要件」も示しました。
以下の両方を行った場合のみ、権利を行使できます。
* 合意: 海外の販売先との間で「日本への輸出を禁止する」旨を合意していること。
* 表示: その旨(日本への輸出禁止)を製品自体に明記していること(第三者がわかるようにするため)。


まとめ:
| 項目 | 内容 | 重要キーワード |
|—|—|—|
| 68条 | 特許権の基本的効力。「業として」「専有する」。 | 業として、専有、専用実施権 |
| BBS事件 | 真正商品の並行輸入は特許権侵害になるか? → ならない(原則)。 | 国際消尽、流通過程の自由、黙示の許諾 |
| 阻止条件 | 並行輸入を止めるにはどうすればいい? | ①輸出禁止の合意
②製品への明記 |


理解のコツ
「68条で強力な独占権を与えつつ、BBS事件の判例によって、**『一度売って代金をもらった商品に関しては、もう文句を言うな(権利は尽きている)』**というバランスを取っている」と理解するとスムーズです。


次は、「国内消尽(用尽説)」と「国際消尽」の違いについて整理しましょう。「国内消尽」と「国際消尽(BBS事件)」の比較は、弁理士試験や知財検定でも最も狙われやすい論点の一つです。
似ているようで、**「権利行使を止めるためのハードル(例外)」**が大きく異なります。ここを整理しましょう。


「国内消尽」vs「国際消尽」比較ノート
まず大原則として、どちらも**「一度正規品として売ったなら、その後の転売や使用に文句は言えない(権利は尽きている)」という結論は同じです。
しかし、「なぜ言えないのか(理論)」と「例外的に文句を言える条件」**が違います。
1. 比較表(ここを暗記!)
| 比較項目 | 国内消尽 (Domestic Exhaustion) | 国際消尽 (International Exhaustion) |
|—|—|—|
| 対象 | 日本国内で正規に販売された商品 | 海外で正規に販売された商品 (並行輸入) |
| 原則 | 特許権は消尽する。
(権利行使できない) | 特許権行使は許されない。
(権利行使できない) |
| 理論的根拠 | ①二重利得の防止(既に代金を得ている)
②流通の保護 | ①二重利得の防止
②流通の保護
※ただし「属地主義」との調整が必要 |
| 権利行使できる例外
(ここが最重要) | 原則として特約があっても対抗できない。

唯一の例外:「新たな製造」とみなされる場合
(例:インクタンク事件のようなリサイクル・改造) | 以下の2条件を満たせば権利行使できる。

1. 販売先との合意 (日本への輸出禁止)
2. 製品への明記 (第三者が分かるように) |
2. なぜ「違い」が生まれるのか?(理解のポイント)
この違いは、特許法の**「属地主義(特許は国ごとに独立している)」**という考え方が関係しています。
国内消尽の場合(シンプル)
* 日本の特許権に基づいて、日本で適法に売りました。
* 特許権者はその販売で「日本の特許権に対する対価」を既に受け取っています。
* だから、その商品について日本の権利はもう使い切った(消尽した)と考えます。
* 仮に「転売禁止」の契約を結んでいても、それは当事者間の契約違反の問題であり、特許権侵害として第三者を訴えることは(原則として)できません。
国際消尽の場合(バランス調整)
* 海外で売った場合、日本の特許権に対する対価を本当に受け取ったと言えるか?(海外の特許と日本の特許は別物=属地主義)という議論があります。
* しかし、BBS事件判決は**「現代の国際貿易において、国ごとに権利が分断されると流通が阻害される」**として、原則は権利行使を認めませんでした。
* 【ここが違う!】 ただし、特許権者にも「日本では売りたくない(日本での利益は別で確保したい)」という事情があるかもしれません。
* そこで、**「合意+明記(シールなどを貼る)」**というアクションを起こした場合に限り、例外的に「権利は消尽していない(日本での権利を行使できる)」と認めました。
3. 応用:国内消尽の限界(インクタンク事件)
「国内消尽」には「合意+明記」のような回避策はありませんが、**「どこまでが修理で、どこからが新たな製造か?」**という別の論点があります。
* リサイクル品(インクタンク事件):
   * 使用済みのインクカートリッジを回収し、インクを再充填して販売したケース。
   * 最高裁は「単なる部品交換や修理の範囲を超えて、実質的に新たな製造とみなされる場合は、権利は復活する(消尽しない)」と判断しました。
   * つまり、国内消尽していても、加工しすぎると権利侵害になります。
まとめ:次にやること
* 国内消尽: 「一度売ったら終わり」。でも「加工しすぎ(再製造)」はダメ。
* 国際消尽: 「一度売ったら終わり」。でも「合意+明記」があれば止められる。
この違いが頭に入ればバッチリです。

(Gemini)