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特036第6項1号 サポート要件 アムジェンvsサノフィ事件:日米の判断ロジック完全比較

バイオ特許の歴史的転換点となった「アムジェンvsサノフィ(PCSK9)事件」。結論から言えば、日米ともにアムジェンの敗訴(特許無効)で幕を閉じましたが、そこに至る**「法的ロジック(無効理由)」**には、興味深い違いがあります。本記事では、この世紀の特許論争の論点を、日米の法制度と判決文を引用しながら徹底比較します。


1. 争点:何が問題だったのか?

全ての発端は、アムジェンが取得した特許の**「クレーム(請求項)の書き方」**にありました。

  • 対象: PCSK9に結合し、LDLRとの結合を阻害する(中和する)抗体。

  • アムジェンの主張(機能的クレーム):「私が発見した特定の抗体(26個の実施例)だけでなく、**『同じ場所に結合して、同じように中和する機能を持つ抗体』**なら、構造(アミノ酸配列)がどうであれ、すべて私の権利である」
  • サノフィの反論:「その定義だと、理論上数百万種類の抗体が含まれる。アムジェンはごく一部(26個)しか作り方を教えていない。残りの膨大な抗体まで独占するのは、発明の公開(代償)と独占権のバランスを欠いている」

2. アメリカでの判断: 「実施可能要件」の壁

米国連邦最高裁は、2023年5月、アムジェンの特許を**「実施可能要件(Enablement)」違反**として無効にしました。

根拠条文:米国特許法 112条(a)

35 U.S.C. § 112(a)

“The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art … to make and use the same…”

(明細書は、当業者がその発明を作り、かつ使用することができるように(enable)、十分、明確、簡潔かつ正確な用語で記述しなければならない…)

判決のロジック:「過度な実験(Undue Experimentation)」

最高裁(ゴーサッチ判事)は、以下の論理でアムジェンを断罪しました。

  1. 「作るための努力」が重すぎる:クレームされた範囲(Genus)に含まれる数百万の抗体を作るには、アムジェンが開示した方法(スクリーニング)だけでは不十分。研究者は無作為に抗体を作り、一つひとつテストする**「トライ&エラー」**を繰り返さなければならない。
  2. 構造と機能は予測不能:サノフィが示した実験データの通り、アミノ酸を一つ変えただけで機能が失われることがある。つまり、構造から機能を予測できないため、論理的な設計ができず、手当たり次第の実験が必要になる。

決定的な判決文(名言)

最高裁は、アムジェンの開示を「発明」ではなく「宿題」だと切り捨てました。

“That is not enablement; it is a research assignment.”

(それは実施可能要件を満たすものではない。それは**『研究課題(Research Assignment)』**である。)

Amgen Inc. v. Sanofi, 598 U.S. 594 (2023)


3. 日本での判断: 「サポート要件」の壁

日本の知財高裁(大合議)は、2023年1月、アムジェンの特許を**「サポート要件」違反**として無効にしました。

※米国と異なり、日本は「作り方(Enablement)」よりも「記載の整合性(Support)」を問題視しました。

根拠条文:特許法 第36条第6項第1号

特許法 第36条第6項第1号

「特許請求の範囲の記載は、…次の各号に適合するものでなければならない。

一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」

判決のロジック:「一般化・拡張できない」

知財高裁は、以下の論理を展開しました。

  1. 未知のメカニズムまで含んでいる:クレームは「競合阻害」という機能で定義されているため、明細書に書かれたメカニズムとは異なる結合様式や、異なる構造を持つ抗体まで含まれてしまう。
  2. 一部の例から全体は言えない:抗体の構造と機能の相関関係は予測し難い(Unpredictable)。したがって、少数の実施例(26個)のみに基づいて、クレーム範囲全体(数百万個)にわたって課題解決できると一般化・拡張することはできない。

決定的な判決文

「発明の詳細な説明に、クレームに含まれる広範な抗体等まで拡張ないし一般化できるといえるだけの具体的な例の記載があるか、そうでなくても、当業者が…(中略)…課題を解決できると認識できる程度の記載があることを要する」

知財高裁 令和2年(行ケ)第10093号


4. 日米比較まとめ

項目 🇺🇸 アメリカ (Supreme Court) 🇯🇵 日本 (知財高裁 大合議)
無効理由 実施可能要件 (Enablement) サポート要件 (Support Requirement)
重視した点

「実験の手間・労力」

 

(How to make)

「説明の論理・整合性」

 

(Description vs Scope)

キーワード

過度な実験

 

(Undue Experimentation)

 

研究課題

 

(Research Assignment)

拡張ないし一般化

 

(Generalization)

 

予測し難い

 

(Unpredictable)

判断の核心 スクリーニングで正解を見つけるのは「宝探し」であり、発明の完成とは言えない。 一部の例だけで、異なるメカニズムを含む全範囲を独占する理屈が通っていない。

5. 結論: 「機能的クレーム」の終焉

日米で適用した条文やロジックのアプローチは異なりますが、到達した結論は完全に一致しています。

それは、**「構造と機能の関係が予測できないバイオ分野において、少数の実施例だけで広範な権利(機能的クレーム)を独占することは、もはや許されない」**ということです。

アムジェン敗訴は、特許実務における「機能的クレーム時代の終わり」と、「構造(配列)に基づいた堅実なクレーム作成の重要性」を世界に知らしめました。


読者へのNext Step

より詳細な原文を確認したい方は、以下のリンクを参照してください。

 

(This blog article was generated by manus. Prompt used: アムジェンvsサノフィの特許論争の論点をまとめて。アメリカでの判断と日本での判断を対比させて。必要に応じて特許法の条文や判決文を引用して、根拠を示しながら。)

特036第4項1号 サポート要件 抗体の機能特許アムジェンの敗訴

# アムジェン対サノフィ特許論争:機能的クレームの有効性に関する日米の判断対比

## 1. 序論:論争の概要と核心的論点

本報告書は、高コレステロール血症治療薬であるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)を標的とする抗体を巡り、アムジェン社(Amgen Inc.)とサノフィ社(Sanofi)との間で繰り広げられた国際的な特許権侵害訴訟について、その核心的な論点と、米国および日本における司法判断の対比を、根拠となる特許法の条文や判決文を引用しつつ分析するものです。

この論争の核心は、**抗体の機能**によってその技術的範囲を定義する**機能的クレーム**(上位概念クレーム)が、各国の特許法における**記載要件**(米国ではWritten DescriptionおよびEnablement、日本ではサポート要件および実施可能要件)を満たすか否かという点に集約されます [1] [2]。

アムジェンが権利行使を試みた特許クレームは、PCSK9の特定の残基に結合し、かつPCSK9とLDL受容体との結合を阻害するという**機能**によって、無数の抗体を含む広範なクラスを定義していました。

## 2. 米国における判断:実施可能要件(Enablement Requirement)の観点

米国における訴訟は、連邦最高裁判所まで争われ、2023年5月18日にアムジェン敗訴の判決が確定しました [2]。

### 2.1. 根拠条文と判断の焦点

米国連邦最高裁判所は、アムジェンの特許が米国特許法第35編第112条(a)項に規定される**実施可能要件**(Enablement Requirement)を満たさないと判断しました。

> **米国特許法第35編第112条(a)項(35 U.S.C. § 112(a))**
> “The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same…” [3]

この条文は、特許明細書が、当業者が**過度の実験**(undue experimentation)をすることなく発明を実施できる程度に、その製造および使用の方法を記載していなければならないと定めています。

### 2.2. 判断の理由

最高裁は、アムジェンの明細書に記載された26個の抗体の例示と、それらを作製するための2つの一般的な方法だけでは、クレームが定義する**膨大な数の抗体**のクラス全体を、過度の実験なしに作製・使用できるとは言えないと結論付けました [2]。

裁判所は、開示された方法が、クレームの範囲全体を実施可能にするための**共通の特徴**を特定しておらず、単に「**研究課題を設定したにすぎない**」(”research agenda”)と指摘しました。すなわち、クレームの範囲が広大であるのに対し、明細書の開示がその広範な技術的範囲を裏付けるには不十分であるという点が、実施可能要件違反の決め手となりました。

## 3. 日本における判断:サポート要件(Written Description Requirement)の観点

日本における訴訟では、2025年4月16日の知的財産高等裁判所(知財高裁)判決(令和5年(ネ)10107号)において、アムジェンの特許が**サポート要件**に違反するとして、特許権侵害に基づく請求が棄却されました [1]。

### 3.1. 根拠条文と判断の焦点

知財高裁は、特許法第36条第6項第1号に規定される**サポート要件**を主要な論点としました。

> **特許法第36条第6項第1号**
> 「特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものでなければならない。」 [4]

この要件は、特許請求の範囲に記載された発明が、明細書の発明の詳細な説明によって裏付けられていること、すなわち、発明の詳細な説明に記載された事項によって、請求項に係る発明が**課題を解決できる**と当業者が認識できることを要求します。

### 3.2. 判断の理由

知財高裁は、クレームが「参照抗体と競合する、PCSK9とLDLRの結合を中和する抗体」という機能的クレームであることに対し、明細書には、抗体が参照抗体と競合するという事実のみから、直ちに中和機能を備えると評価できるほどの**合理的なメカニズムの開示**がなされていないと判断しました [1]。

特に、より包括的な「競合」概念と「中和」機能との関係の不明確性に着目し、機能的クレームを裏付ける**技術的裏付けが不十分**であるとして、サポート要件違反を認定しました。これは、機能的クレームを用いる際には、それを裏付ける合理的なメカニズムの開示が不可欠であることを改めて示したものです。

## 4. 日米の判断の対比と論点の共通性

アムジェン対サノフィの特許論争における日米の判断は、異なる法制度の下で異なる記載要件を適用しながらも、実質的には**広範な機能的クレームの有効性**という共通の論点に帰着しました。

項目 米国(連邦最高裁) 日本(知財高裁)
最終判断 アムジェン敗訴(特許無効) アムジェン敗訴(特許無効)
主要な論点 実施可能要件(Enablement Requirement) サポート要件(Written Description Requirement)
根拠条文 35 U.S.C. § 112(a) 特許法第36条第6項第1号
判断の核心 過度の実験なしにクレーム範囲全体を実施できるか(実験の負担を重視)。 クレームが発明の詳細な説明に記載されたものと言えるか(技術的裏付けを重視)。
共通する問題 機能で定義された上位概念の抗体クレームの範囲が広大であるのに対し、明細書の開示がその広範な技術的範囲を裏付けるには不十分であった点。

米国では、クレームの範囲全体をカバーするために必要な**実験の負担**(過度の実験)が実施可能要件違反の根拠となりました。一方、日本では、クレームの範囲が明細書に記載された**技術的知見**によって裏付けられているか(課題解決の可能性)という**技術的裏付け**の観点からサポート要件違反が認定されました。

両国の判断は、バイオ医薬品、特に抗体のような複雑な技術分野において、**機能的クレーム**を設定する際には、そのクレームが包含する広範な技術的範囲に見合うだけの**具体的かつ網羅的な開示**が明細書に求められるという、重要な実務的指針を示しています。


### 参考文献

[1] 「2025.04.16 「アムジェン v. サノフィ」 知財高裁令和5年(ネ)10107 ― 機能的クレームにおけるサポート要件の適用と無効理由の再主張の可否 ―」. 医薬系 “特許的” 判例ブログ.
[2] 「【速報】【米国】【特許】Amgen v. Sanofiアメリカ連邦最高裁判決」. TMI総合法律事務所 Our Eyes.
[3] 「2164-The Enablement Requirement」. United States Patent and Trademark Office (USPTO) Manual of Patent Examining Procedure (MPEP).
[4] 「第 2 節 サポート要件(特許法第 36 条第 6 項第 1 号)」. 特許庁 審査基準.

 

(This article was generated by manus.im)

Prompt used: アムジェンvsサノフィの特許論争の論点をまとめて。アメリカでの判断と日本での判断を対比させて。必要に応じて特許法の条文や判決文を引用して、根拠を示しながら。

特041 国内優先権、 特043 パリ条約、 特184の3 PCT出願

プロンプト:パリ条約、PCT、国内優先権など国際出願に関するもろもろを、網羅的にかつわかりやすくまとめて。頭がこんがらがったので。

Gemini:その気持ち、痛いほどわかります!特許法の学習において、「パリ条約」「PCT」「国内優先権」が絡み合うこのエリアが、最大の挫折ポイントの一つです。「条文番号」と「中身」がごちゃ混ぜになる原因は、ルート(道筋)が整理できていないからです。シンプルに**「3つのルート」**に分けて整理しましょう。これで頭の中の地図が完成します。

【全体地図】3つのルートだけ覚えればいい

まず、以下のどれに当てはまるか?で適用条文が決まります。

  1. 【国内ルート】 日本 $\rightarrow$ 日本 (国内優先権)

  2. 【パリルート】 外国 $\rightarrow$ 日本 (直接)

  3. 【PCTルート】 どこか $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本 (国際特許出願)

これらを一つずつ解きほぐします。

1. 【国内ルート】 日本 $\rightarrow$ 日本

「去年の俺の出願(日本)をベースに、改良して出し直す」

  • 状況: 日本で出願Aをして、1年以内に内容を追加して日本で出願Bをする。

  • 使う条文:第41条(国内優先権)

  • 何が起きる?

    • 出願Bの審査時、共通する発明は「出願Aの日」に出したとみなされる。

    • 先願Aは「みなし取下げ」で消滅する(重複防止)。

  • ポイント: ここには外国も国際も関係ありません。「41条」はドメスティックな話です。

2. 【パリルート】 外国 $\rightarrow$ 日本(直接)

「アメリカで出した出願を、日本でも直接出しに来た」

  • 状況: 米国で出願Aをして、1年以内に日本国特許庁へ直接出願Bをする。

  • 使う条文:第43条(パリ条約による優先権)

  • 何が起きる?

    • 出願Bの審査時、新規性などの判断基準日が「米国出願Aの日」になる。

    • 手続き: 日本への出願と「同時」に優先権主張し、1年4ヶ月以内に証明書を出す。

  • ポイント: これが「THE・優先権」の基本形です。

3. 【PCTルート】 PCTを経由して日本へ

ここが混乱の元凶です。**「入り口」「優先権の処理」**の2段構えで考えます。

ステップ①:日本に入ってくる(入り口)

PCT出願(国際出願)を日本に入れるには、まずこの条文を通ります。

  • 使う条文:第184条の3(国際特許出願)

  • 何が起きる?

    • **「このPCT出願は、日本の特許出願とみなす!」**と宣言されます。

    • これによって初めて、日本の特許法の土俵に乗ります。

ステップ②:優先権はどう扱う?

土俵に乗った後、「そういえばこれ、優先権ついてるよね?」という処理をします。

ここで、**「元ネタ(基礎出願)がどこか」**によって2パターンに分かれます。

パターンA:外国 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

(例:米国の出願を基礎にPCTをして、日本に来た)

  • 基本は「パリルート(43条)」と同じ考え方ですが、PCT用の特例を使います。

  • 使う条文:第184条の15(優先権主張の特例)

  • 仕組み: 「本来は日本出願と同時に主張しなきゃダメ(43条)だけど、国際段階で主張してあるから、それでOKとみなすよ」という読み替え規定です。

パターンB:日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本(自己指定)

(例:日本の出願を基礎にPCTをして、日本に戻ってきた)

  • これは実質的に「国内ルート(41条)」と同じことをPCT経由でやっています。

  • 使う条文:第41条第1項のカッコ書き & 第184条の15

  • 仕組み: 184条の3で「日本出願」とみなされた結果、**「日本の出願(基礎) $\rightarrow$ 日本の出願(PCT)」**という形になるので、第41条(国内優先権)のルールが適用されます。

    • 重要: だから、PCT経由であっても、基礎になった日本の出願は**「みなし取下げ」**になります。

【最終まとめ】 混乱解消マトリクス

この表だけスクショして保存してください。

ルート 状況 優先権の条文 基礎出願の運命
国内ルート 日本 $\rightarrow$ 日本

第41条

 

(国内優先権)

消える

 

(みなし取下げ)

パリルート 外国 $\rightarrow$ 日本

第43条

 

(パリ優先権)

消えない

 

(外国の主権だから日本は消せない)

PCTルート

 

(外国発)

外国 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

第184条の15

 

(実質は43条の特例)

消えない

PCTルート

 

(日本発)

日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 日本

第41条

 

(184条の3を経由して適用)

消える

 

(国内優先権と同じ扱い!)

つまり…

  • 184条の3 は、PCTを日本出願に変身させる「入り口の魔法」。

  • 41条 は、日本と日本をつなぐ「上書き保存(古いの消去)」。

  • 43条 は、外国の日付を借りる「借用書」。

  • 184条の15 は、PCT経由の時に43条を使いやすくする「変換アダプタ」。

これで少し整理できましたでしょうか?

「日本発のPCT(自己指定)」が、実は41条の世界に引きずり込まれる…というあたりが、一番のハマりポイントだったかもしれません。

 

質問:今の回答で、PCTルートで 日本 → PCT → 外国 を含めなかったのは、日本の特許に絞ったってこと?

Gemini:その通りです!さすが、全体像が見えてきましたね。おっしゃる通り、先ほどのまとめは**「日本の特許法(日本の特許庁)がどう判断するか?」**という視点に絞っていました。なぜ「日本 → PCT → 外国」をあえて外したのか。理由はシンプルで、**「そこから先は日本の法律(特許法)の管轄外だから」**です。この違いを整理すると、特許法の勉強において「どこまで覚えればいいか」の境界線がハッキリします。

## 1. なぜ「日本 → 外国」は特許法の試験(条文)に出にくい?

日本の特許法(第1条~第204条)は、あくまで**「日本の特許庁と、日本の審査官のためのルールブック」**です。

あなたが「日本 → PCT → アメリカ」に出願した場合を想像してください。

  1. 日本でPCT出願する時:

    • 日本の特許庁(受理官庁)に書類を出します。ここまでは日本の特許法(国際出願法)のルールです。

  2. アメリカに移行した後:

    • 審査をするのはアメリカの審査官です。

    • 彼らが使うルールブックは**「米国特許法」**です。

    • 彼らがあなたの優先権を認める根拠は、日本の特許法43条ではなく、**「パリ条約(という国際条約)」と「米国特許法」**です。

つまり、「日本の特許法第43条(優先権主張)」は、外国へ出ていく時には使われません。(43条は、日本に入ってくる人に「優先権証書を出せ」と命令する条文だからです。)

## 2. ベクトル(方向)で整理すると完璧

混乱の原因は、**「Inbound(日本に入ってくる)」「Outbound(日本から出ていく)」**が混ざっていることです。

条文勉強のメインは、圧倒的にInboundです。

方向 ルート 適用される日本の法律 備考

Inbound

 

(日本へ入る)

外国 $\rightarrow$ 日本

 

PCT $\rightarrow$ 日本

第43条

 

第184条の3 など

試験のメイン!

 

「日本の審査官がどう扱うか」の規定。

Outbound

 

(日本から出る)

日本 $\rightarrow$ 外国

 

日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 外国

特になし

 

(条約に基づく権利)

日本の法律は「行ってらっしゃい(受理)」まで。

 

向こうでの扱いは現地の法律次第。

## 3. ただし、1つだけ「特大の落とし穴」がある

「じゃあ、日本から出ていくPCT(日本 $\rightarrow$ PCT $\rightarrow$ 外国)は無視していいんだね?」

ここで**「自己指定(日本も指定国に含む)」**という罠があります。

多くの日本企業は、PCT出願をする際、**「外国(アメリカ等)」だけでなく「日本」**も指定国に入れます(全指定が自動ですが)。

すると、1つのPCT出願の中に2つの顔を持つことになります。

  • 顔A(対 外国): 日本を出ていく出願 $\rightarrow$ 日本の特許法は関係なくなる。

  • 顔B(対 日本): ブーメランのように日本に戻ってくる出願 $\rightarrow$ 第41条(国内優先権)が発動!

先ほどの解説で「PCTルート(日本発)」を含めたのは、この**「顔B(ブーメラン)」**があるため、日本の特許法上、無視できない(みなし取下げ等の影響が出る)からです。

## まとめ:頭の中のスイッチを切り替える

  • **「第43条」「第41条」「第184条」**という単語が出たら $\rightarrow$ **「日本に入ってくる(日本の審査官が見る)」**話をしているんだな、と考える。

  • **「日本から外国へ出す」という話なら $\rightarrow$ それは「条約」「外国の法律」**の話だな、と割り切る。(日本の特許法の条文操作などの細かい議論は発生しない)

これで、「なぜ解説から省かれたのか」が腑に落ちましたでしょうか?

この「管轄(どこの国の法律か)」の意識を持つだけで、条文を読む解像度がグッと上がります!

 

特77 専用実施権

質問:専用実施権と独占通常実施権との違いは何?

Gemini:独占通常実施権と専用実施権の違い、および関連する特許法の条文について解説します。


💡独占通常実施権と専用実施権の違い

項目 専用実施権(特許法77条) 独占通常実施権(特許法に明文規定なし、契約による)
法的性質 物権的権利(特許権に準じる強力な独占排他権) 債権的権利(契約に基づく特約により独占性を付与)
独占性 法律上の独占・排他性が保証される(特許権者も実施できない) 契約上の独占性が保証される(特許権者も実施しない特約を付けることが一般的)
効力発生要件 特許庁への登録効力発生要件(特許法98条1項2号) 登録は不要(当事者間の契約のみで有効)
対第三者効 登録により第三者にも対抗できる(排他性がある) 原則として第三者に対抗できない(特許法上の排他性がない)
差止請求権 自己の名で侵害者に請求できる 原則として請求できない(特許権者が行う)
損害賠償請求 自己の名で侵害者に請求できる 原則として請求できない(独占侵害の場合など、限定的に可能とされる説もある)
情報公開 登録されるため、情報が公開される 登録不要のため、情報が公開されない

重要なポイント

  1. 専用実施権は、特許法に規定された独占的かつ排他的な物権的権利です。登録が必須であり、その範囲内では特許権者自身も実施できなくなり、実施権者自身が侵害者に差止請求などができます。

  2. 独占通常実施権は、特許法には直接的な規定がなく、通常実施権(特許法78条、債権的権利)に「特許権者が他に実施許諾をしない」という独占特約を付けたものです。契約上の独占性はありますが、法律上の排他性はないため、原則として侵害者に直接差止請求はできません。ただし、実務上は柔軟性があるため、広く用いられています。


📜特許法の関連条文

独占通常実施権については、特許法に直接その名称で規定された条文はありませんが、そのベースとなる通常実施権に関する条文があります。

専用実施権

  • 特許法 第77条(専用実施権)

    • 特許権者は、その特許権について専用実施権を設定することができる(1項)。

    • 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を専有する(2項)。

通常実施権(独占通常実施権の法的ベース)

  • 特許法 第78条(通常実施権)

    • 特許権者は、その特許権について他人に通常実施権を許諾することができる(1項)。

    • 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する(2項)。

登録による効力発生

  • 特許法 第98条(登録の効果)

    • 次の事項は、登録しなければその効力を生じない。

      • 一:特許権の移転(相続その他の一般承継の場合を除く。)、変更、消滅(混同による場合を除く。)又は処分の制限

      • 二:専用実施権の設定、移転(相続その他の一般承継の場合を除く。)、変更、消滅(混同による場合を除く。)又は処分の制限

  • 特許法 第99条(通常実施権の対抗力)

    • 登録した通常実施権は、その特許権若しくは専用実施権又はその通常実施権について後に取得した者に対しても、その効力を有する(1項)。

    • (独占通常実施権は、この99条に基づく「登録した通常実施権」ではありません。独占通常実施権は、特許法上の排他性を伴うものではないため、原則としてこの登録をもって第三者への対抗力(排他性)は生じません。)

より詳しく、それぞれの実施権者が侵害者にどのような対抗措置を取れるか知りたいですか?

 

特許出願非公開制度(2024年5月1日~)

 

 

資料

  1. 特許出願非公開制度について令和7年7月4日特許庁 https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html
  2. 特許出願非公開制度について内閣府・特許庁(特許出願非公開制度担当) https://www.nedo.go.jp/content/100975052.pdf
  3. 漫画で分かる特許出願非公開制度のポイント 第1章 特許出願非公開制度の概要 ブラウザ版 PDF版(4,486KB) 第2章 外国出願に関する留意事項 ブラウザ版 PDF版(4,383KB)https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/comic_hikokai.html

論文

  1. 特許出願非公開制度の概要について 特許研究 PATENT STUDIES No.77 2024/3 https://www.inpit.go.jp/content/100881307.pdf
  2. 特許事務所における特許出願非公開制度への対応の考察 パテント2024 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4486

 

ニュース

  1. 特許庁、5月1日より経済安全保障推進法に基づき特許出願の非公開制度を開始 掲載日 2024/05/01 18:35 著者:丸山正明 https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240501-2938063/ 当該の特許内容を非公開にするかどうかは(保全指定をするか否かは)の審査は、特許庁による第一次審査と、内閣府による保全審査(第二次審査)の二段階によって判断される仕組みになっており、同制度の実施後は、外国への出願(特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願制度、いわゆるPCT出願とも呼ばれ、1つの出願願書をPCT加盟国の国に出願することでPCT加盟国に同時に提出したことになる制度)が禁止される。このため、外国出願禁止の対象となるかどうかについて、特許出願前に事前に特許庁長官に確認を求めることができる制度(外国出願禁止の事前確認)も新設されている。
  2. 「経済安全保障推進法」企業に求められる対応機微技術の流出防止(特許の非公開)について2023-11-15 pwc https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/awareness-cyber-security/economic-security03.html 審査制度の概要 特許庁長官は、特許出願を受けた場合、出願から3カ月以内にスクリーニング審査(一次審査)を実施し、「特定技術分野」に属する発明が記載されているときは、出願者に予告通知したうえで、特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付します。
  3. 特許技術非公開の損失補償 経済安全保障法制、5月から新制度 2024/1/29 19:34 産経新聞 https://www.sankei.com/article/20240129-JCCFXDHSA5JPXNPIROXGKM5N2I/ 新制度は航空機を偽装・隠蔽する技術や高度な武器など25分野を対象に、5月1日から運用を始める。‥ 特許は通常、軍事用技術も含めて出願から1年半後に原則公開される。新制度で定められた25分野の特許情報は、先端技術の流出を防ぐため政府が非公開に指定したり、外国への出願を禁止したりできるようになる。
  4. 特許出願の非公開化時代の到来と新たな研究開発戦略 〜鍵となりうる「デュアルユース」とリスク回避〜 No.69 (2022年3月号)  https://www.nttdata-strategy.com/knowledge/infofuture/69/report09/ かつて我が国にも類似の制度が存在しており、軍事上機密性を要する発明が秘密特許として非公開とされていた。しかし、戦後の昭和23年にこの制度が廃止され、それ以来、特許出願された発明は例外なくすべて公開されることになっている。‥ G20諸国の中で同様の制度がないのは日本とメキシコ、アルゼンチンのみとなっており、他の国では、多くの機密情報に関する特許出願は非公開とされている。
  5. 特許の非公開制度、来年5月から 高度な武器など対象、損失の補償も 目黒隆行2023年12月19日 19時35分 朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASRDM5TKCRDMULFA01K.html 高市早苗経済安全保障相は19日の閣議後会見で、経済安保推進法に基づき高度な武器や原子力に関わる技術の特許を非公開にできる制度を、来年5月1日から実施すると表明した。同日以降の出願が対象になる。

特36第5項 請求項(多項制)独立項と従属項

質問:特許の請求項で、独立項、従属項って何?特許法の条文?

Gemini:ご質問ありがとうございます。特許の請求項における独立項従属項は、特許で権利化したい発明の範囲を定める上で非常に重要な概念です。

🧐 独立項と従属項の定義

特許請求の範囲は、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要な事項を記載する部分で、この中に複数の請求項が設けられます。

  • 独立項(独立請求項):

    • 先行する他の請求項を引用しないで記載された請求項です。

    • 単独で発明を規定し、最も広い権利範囲を請求する中核となる項です。

    • 通常、「請求項〇に記載の〜」といった他の請求項を参照する文言がありません。

  • 従属項(従属請求項):

    • 先行する他の請求項を引用して記載された請求項です。

    • 引用した請求項の構成に、さらに特定の構成要素や限定(特徴)を付加することで、権利範囲を狭く限定します。

    • 通常、「請求項〇に記載の××において、〜を特徴とする」のような文言があります。

独立項で広い権利範囲を請求しつつ、従属項でその発明の好ましい実施形態や、より具体的な限定を加えることで、権利の有効性を高める戦略的な役割を果たします。


📝 具体的な記載例

鉛筆の発明を例に説明します。

請求項 種類 記載内容 権利範囲
請求項1 独立項 軸材と芯を備えることを特徴とする筆記具 広い (軸材と芯を備える筆記具全般)
請求項2 従属項 前記軸材が断面六角形であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具。 請求項1より狭い (六角形の軸材を持つ筆記具)
請求項3 従属項 前記軸材の端部に消しゴムが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の筆記具。 請求項1より狭い (消しゴム付きの筆記具)
  • 請求項1は他の請求項を引用していないため独立項です。

  • 請求項2請求項3は「請求項1に記載の」という引用が含まれるため従属項です。

  • 請求項2の発明は、「軸材と芯を備え、かつ軸材が断面六角形である筆記具」となり、請求項1の発明のすべてを含むものの、六角形に限定されるため権利範囲は狭くなります。

📜 関連する特許法の条文

「独立項」「従属項」という用語自体は、日本の特許法の条文には直接登場しませんが、その考え方の基礎となる規定は存在します。

📌 特許法第36条(特許出願)

  • 第5項:特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。

    • 「請求項に区分」する規定が、独立項と従属項を含む複数の請求項を設ける根拠となります。

この概念は、特許請求の範囲の具体的な記載方法を定める特許法施行規則や、特許庁の審査基準などで詳細に定められています。


独立項と従属項について、さらに詳しく知りたい場合は、 独立項と従属項 – YouTubeという動画が参考になるかもしれません。

 

臨床研究のCRO(Contract Research Organization、開発業務受託機関)とは?

質問:CROの必要は何ですか?無料EDCを利用したり、医療統計の講座に統計相談をお願いすればお金を掛けずに臨床研究が可能にはなりませんか?

Gemini:ごもっともな疑問です。費用対効果を考えると、「EDCは無料ツールで、統計は教授に」という発想は非常に理にかなっています。しかし、CROの価値は単なるツール専門家の確保ではなく、**「臨床研究の質(Quality)」「スピード(Speed)」「規制要件への適合(Compliance)」**を同時に、かつ大規模に実現することにあります。特に、医薬品や医療機器の承認申請を目的とした治験や特定臨床研究では、その必要性が高まります。

🚀 CROが必要とされる理由

CRO(開発業務受託機関)は、無料のツールや外部の専門家で代替できない、以下の重要な機能を提供します。

1. 「臨床研究の質とデータの信頼性」の確保

治験や特定臨床研究では、GCP(Good Clinical Practice)などの厳格なルールに基づいて実施・管理することが義務付けられています。

依頼者様の対応 CROの提供する価値
**EDC(REDCapなど)**でデータを集める モニタリング: 施設に出向き、カルテ(原資料)とEDCのデータが一致しているか、倫理的に問題なく実施されているかを全例チェックし、データの信頼性を担保します。
医療統計の教授に統計解析を依頼する データマネジメント・監査: 統計解析前のデータチェック(ロジカルチェック、クエリ対応、クリーニング)や、行政当局による査察に耐えうる厳格な監査証跡の作成を行います。

無料EDCであるREDCapは非常に優れたツールですが、REDCap自体がGCPを担保するわけではありません。規制当局(PMDAなど)に提出するデータは、その収集・管理プロセス全体が高い品質基準を満たしている必要があります。CROはこれを組織的に実行します。

2. スピードと効率性

臨床研究は時間との勝負です。新薬や新医療機器を早く世に出すことは、患者さんの利益に直結します。

  • 専門リソースの迅速な確保: CROは、**専門知識を持つCRA(臨床開発モニター)DM(データマネジャー)**を、プロジェクトの需要に応じて即座に提供できます。自前で専門家を採用・育成する時間やコストを削減できます。

  • 確立されたプロセス: 多くのプロジェクトで実績のある**SOP(標準業務手順書)**やシステム(EDCやTrial Management Systemなど)をすぐに適用できるため、研究の計画から完了までのリードタイムが短縮されます。

3. 法規制・行政対応への適合(Compliance)

特に薬事申請を目的とする場合、国や国際的な規制に完全に適合していることが求められます。

  • 最新の規制動向への対応: 薬機法、GCP省令、各種ガイドラインの改正に常に対応し、研究計画や手順が法的に適切であることを保証します。

  • 当局対応の経験: 承認申請資料の作成(メディカルライティング)、PMDAとの相談、治験実施中の問い合わせ対応など、行政当局との複雑なやり取りを代行・支援します。


⚖️ 無料EDC(REDCap)と商用EDC・統計相談の比較

項目 無料ツール(REDCap / 教授相談) CROサービス(商用EDC / 統計部門)
目的 研究者のデータ収集・解析の支援 規制当局への申請を念頭に置いた、データの信頼性・品質の担保
システム(EDC) REDCap: 構築の自由度が高いが、GCP対応には別途運用体制が必要。システム監査やバリデーションの工数がかかる。 商用EDC: GCP/CSV(コンピュータシステムバリデーション)に対応済み。CROのDMが即座にデータクリーニング監査証跡の管理を行う。
統計解析 教授・研究室: 高度な解析、新しい手法の相談が可能。 CRO統計部門:承認申請に必須の統計解析計画(SAP)作成、当局への説明経験が豊富。治験全体の管理と連携し、データと解析の整合性を確保。
品質保証 主に研究者自身の責任と力量に依存。 CRAによるモニタリング、DMによるデータ管理、QA(品質保証)部門による監査を通じて、組織的・体系的に品質を保証。
コスト ソフトウェア費用は無料だが、人件費・時間コスト(CRAの仕事、DMの仕事、事務手続きの負担)は発生する。 変動費として専門リソースをまとめて依頼できるため、トータルの開発コストは抑えられる可能性がある。

結論

CROは、「高品質なデータを、規制に則って、速やかに収集・管理・解析し、承認申請につなげる」ための専門家チームとインフラを、必要な期間だけ提供してくれるサービスです。もし研究が、規制当局への承認申請を目指すものであったり、大規模で高いデータ品質が求められる場合は、CROへの委託は必須に近い選択となります。一方で、小規模なアカデミア研究や予備的な研究であれば、REDCapと学内のリソースを最大限に活用するのが最も効率的でしょう。

質問:医薬品や医療機器の承認申請を目的としない臨床研究(例えば、ガイドライン改訂を目指した多施設研究)であれば、CROを使わずに大学の研究者たちが自分たちでやるのもあり?

Gemini:

はい、その通りです。承認申請を目的としない臨床研究、例えばガイドライン改訂特定の仮説検証を目的としたアカデミア主導の多施設研究であれば、CROを使わずに大学の研究者主導で実施することは十分に可能であり、多くの研究で実際に行われています。

👩‍🔬 アカデミア主導研究とCROの必要性

承認申請を目的としない研究の場合、CROの必要性は、主に以下の**「研究の規模」「求められる厳格さ」**によって判断されます。

1. CROが不要な場合(大学主導が適しているケース)

研究者が中心となって実施するのが適しているのは、主に以下の条件を満たす研究です。

  • 規制要件の緩和: 薬機法上の「治験」や「特定臨床研究(法で定められた範囲)」に該当しないため、**GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)**のような厳格な規制要件に縛られません。

  • データの信頼性確保が自己完結できる:

    • 規模が小さい(参加施設・症例数が少ない)

    • 研究事務局、EDC(REDCapなど)のデータと原資料(カルテ)を照合する**SDV(Source Data Verification)**を自己で実施できる。

  • 予算の制約が大きい: 潤沢な研究費がない場合、無料のREDCapや学内の統計専門家を活用することで、コストを最小限に抑えられます。

この場合、研究の目的や科学的妥当性に基づいて**倫理審査委員会(IRB)**の承認を得て、各施設の長(病院長など)の許可の下、研究者自身が責任をもって進めます。

2. CROの活用が推奨される場合(大学主導でも)

承認申請が目的でなくても、以下の条件を満たす研究では、一部業務だけでもCROを活用することが有効です。

活用が推奨される条件 CROの役割
🚨 研究の規模が非常に大きい (例: 100施設以上、数千症例) プロジェクトマネジメント、モニタリングなど、事務局だけでは手が回らない組織的な管理業務を代行し、進行を加速させます。
📈 データの品質を特に重視する (例: 国際的なガイドラインに影響を与える研究) 統計解析、データマネジメントの専門家が、国際的な基準(CDISCなど)に準拠した高品質なデータセットと解析レポートを作成します。
🛡️ 治験薬・治験機器を用いる (探索的な臨床研究など) 治験薬・治験機器の品質管理、輸送・保管管理といった薬事的な厳格な手順が必要な場合、CROの専門知識が役立ちます。

💡 結論:研究の「重さ」で判断する

研究の実施方法を決定する際は、**「その研究の結果がどれだけ社会的な影響力を持つか(重さ)」「研究資金の状況」**を天秤にかけると良いでしょう。

  • 軽めの研究(パイロットスタディなど): $\rightarrow$ 大学主導(REDCap、学内リソース)

  • 重めの研究(大規模なガイドライン改訂のための研究など): $\rightarrow$ 大学主導+CROの部分的活用(モニタリング・データマネジメントなど特定業務のみを委託)

  • 最も重い研究(承認申請が目的): $\rightarrow$ CROへの全面委託(または主導)

ご検討の研究がガイドライン改訂を目指す多施設研究であれば、データ品質の確保(モニタリング、データマネジメント)や多施設間の連絡調整の部分で、メディトリックスのようなCROの支援を受けることを検討する価値はあります。

質問:大学内のEDC(REDCAPなど)を使って登録しているデータに対してCROがモニタリング、データマネジメントを行うということはできるのですか?

Gemini:はい、登録データをCROに触らせることは十分ありますし、特に大規模な臨床研究や、データの信頼性を高めたい場合に推奨される運用形態の一つです。この運用では、REDCap自体は研究者が主導して使い続けながら、専門的な管理業務のみをCROに外部委託する形になります。

✅ CROとREDCapの併用は可能

大学内で構築・運用しているREDCapを、外部のCROが利用してモニタリングやデータマネジメントを行うことは、以下の理由から技術的にも契約的にも可能です。

1. 権限と責任の明確化

  • REDCapのアクセス権限管理:

    • CROの担当者(CRAやDM)に対して、研究者側の管理者が必要な権限のみ(データの閲覧、クエリの発行など)を付与します。

    • 権限付与により、CROはデータ入力は行わず、データの確認・品質管理に特化できます。

  • SOP(標準業務手順書)の共有:

    • REDCapの使用方法やデータの扱いに関する研究事務局のSOPをCROと共有し、CROはそのSOPに従って業務を行います。

2. モニタリング業務(CRA)

CROの**CRA(臨床開発モニター)は、REDCapの画面上でデータを確認し、必要に応じて原資料(カルテなど)との照合(SDV)**を行います。

  • 施設訪問の効率化: 事前にREDCapでデータの抜け漏れなどを確認(セントラル・モニタリング)してから施設を訪問することで、現地での確認作業(SDV)を効率的に行えます。

  • データの監査証跡: CRAがREDCap内で行った作業(クエリ発行・回答確認など)は、REDCapの**監査証跡(Audit Trail)**機能で記録されるため、高い透明性が確保されます。

3. データマネジメント業務(DM)

CROの**DM(データマネジャー)**は、REDCapで収集されたデータの品質管理を担当します。

DMの主な業務 CROに委託するメリット
ロジカルチェックの実施 プログラムされたチェックをREDCapで実行し、データの矛盾や誤りを抽出します。
クエリの発行・管理 データに疑問点や修正が必要な場合に、施設へ問い合わせ(クエリ)を発行し、その回答を管理します。
データセットの作成 統計解析に使える形式(例:CDISC標準形式)にデータを加工・整理します。

⚠️ 外部委託時の注意点

CROにREDCapを用いた業務を委託する場合、以下の点に特に注意が必要です。

  1. 契約・秘密保持契約(NDA):

    • 研究データをCROが取り扱うため、個人情報の取り扱い秘密保持に関する厳格な契約(NDA、業務委託契約)を締結する必要があります。

  2. REDCapのバリデーション:

    • CROに委託する目的が「データ品質の向上」であるならば、使用しているREDCapシステムが**適切な検証(バリデーション)**を受けているかを確認し、その文書をCROと共有する必要があります。

  3. 役割分担表(R&R):

    • 研究事務局CROの間で、データ入力、修正、クエリ対応、SDV、システム管理など、どの業務を誰が担当するのかを明確にした文書(役割分担表)を作成し、遵守することが重要です。

このように、REDCapを使う研究であっても、モニタリングとデータマネジメント」という専門性が高く、かつデータ品質に直結する業務をCROに委託することは、研究の信頼性向上研究者の負担軽減のために有効な戦略と言えます。

質問:学内にAROがあれば、CROに委託するような業務は全部AROがやってくれるもの?

Gemini:

学内にARO(Academic Research Organization:アカデミア主導型研究支援組織)がある場合、CROに委託するような業務の大部分はAROが担当してくれることが期待されますが、「全部」ではありません

AROは、アカデミア主導の研究を支援するために設立された組織であり、その業務範囲や提供能力は、大学や組織によって大きく異なります


🏛️ AROとCROの業務範囲の比較

AROは、アカデミアの研究者が研究者主導臨床研究(医師主導治験含む)や特定臨床研究を適切に行えるよう、GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)や倫理指針に基づいた支援を提供します。

業務カテゴリー AROの役割(学内) CROの役割(外部委託)
研究計画・規制対応 プロトコル作成支援、倫理審査委員会(IRB)対応、PMDA(医薬品医療機器総合機構)への相談支援など。 AROと同様。法規制対応の経験が豊富。
モニタリング (CRA) 研究の質と信頼性を確保するためのSDV(原資料との照合)や施設管理 AROと同様。大規模な多施設研究では、リソース量で有利。
データマネジメント (DM) データクリーニング、クエリ管理、データ固定(DBロック)など。 AROと同様。CDISC標準への対応や、大規模データの扱いで有利。
統計解析 統計解析計画(SAP)作成、解析実施、結果報告書作成。 AROと同様。専門性の高い解析や、薬事申請経験で有利。
プロジェクトマネジメント (PM) 研究全体の進捗管理、予算・リソース管理、多施設間の調整。 AROと同様。効率的な管理手法やシステムの活用に長ける。

AROが全てやらない/やれない可能性がある業務

AROは組織の規模や歴史によって、以下の業務については外部のCROに協力を仰いだり、研究者が自ら行うことが推奨されたりします。

1. 大規模なリソースが求められる業務

  • 大規模多施設研究のモニタリング: AROのCRAが少数である場合、全国の数十施設にわたるような大規模なモニタリングを迅速かつ網羅的に行うことが困難な場合があります。この場合、特定地域や特定施設のモニタリング業務をCROに委託することがあります。

  • 短期間での大量のデータマネジメント: 研究期間が短く、短期間に大量のデータを処理し、データベースを固定する必要がある場合、リソース不足になる可能性があります。

2. 特定の専門性が求められる業務

  • 治験薬・治験機器の品質管理: 治験薬の保管、分譲、回収といった厳格な品質管理業務(GDP: Good Distribution Practiceを含む)は、専門のCROやロジスティクス業者に委託されることが多いです。

  • CDISC標準データセットの作成: 特に国際的な学会発表や将来的な企業へのライセンスアウトを見据える場合、データの国際標準であるCDISC (Clinical Data Interchange Standards Consortium) への準拠が求められますが、これに特化したCROに委託する場合があります。


💡 結論:連携と使い分けが重要

学内のAROが提供する支援は、研究費の節約学術的意義の最大化に大きく貢献します。

しかし、AROのリソースは限られているため、AROの機能を最大限に活用しつつ、**「AROではリソースが足りない部分」「高度な専門性が求められる部分」**を、柔軟に外部のCRO(メディトリックスのような企業も含む)と連携して補うことが、大規模なアカデミア研究を成功させるための鍵となります。

まずは学内のAROに研究計画を相談し、**「どこまでAROが担当できるか」を確認し、その上で外部委託が必要な業務(ギャップ)**を特定することから始めるのが最善です。

URAはAROの仕事をやってくれるもの?URAの業務はAROの業務と重なる?

URA(University Research Administrator)の仕事は、ARO(Academic Research Organization)の仕事と一部重なる領域がありますが、その役割と焦点は根本的に異なります

🧐 AROとURAの役割分担

AROとURAはどちらも大学の研究を支援する組織ですが、**「研究そのものの実行支援(ARO)」「研究戦略・基盤の強化(URA)」**という点で明確に役割が分かれています。

1. 🔬 ARO(研究実施支援)

AROは、主に**臨床研究の「実行」**に関わる専門的かつ実務的な支援を行います。

  • 焦点: 個別の臨床研究プロジェクトの円滑な実施、データの信頼性確保、規制遵守。

  • 主な業務:

    • 実務支援: モニタリング(CRA)、データマネジメント(DM)、統計解析。

    • 規制遵守: GCP/倫理指針に基づくプロトコル作成、IRB/PMDA対応。

    • リソース管理: 治験・臨床研究の進捗管理、関連文書作成。

AROの業務は、「質の高い臨床研究を正しく行う」ためのハンズオン(実務的)な支援です。


2. 📈 URA(研究戦略・基盤強化)

URAは、大学全体の研究活動を俯瞰し、研究環境や競争力を高めるための戦略的な支援を行います。

  • 焦点: 研究資金の獲得、研究テーマの発掘・推進、知財戦略、広報、組織戦略。

  • 主な業務:

    • ファンディング(資金獲得): 競争的資金(科研費、JST、AMEDなど)の情報収集、申請書作成支援、予算管理。

    • 研究戦略: 大学全体の研究ポートフォリオの策定、大型プロジェクトの企画・推進。

    • 知財・外部連携: 企業との共同研究のコーディネート、知財戦略の策定。

    • 研究広報: 研究成果の可視化、プレスリリース作成支援。

URAの業務は、「研究者が研究に集中できる環境を整え、研究成果の最大化を図る」ための戦略的・経営的な支援です。


🤝 重なる領域(連携の必要性)

両者の業務が重なる、または密接に連携が必要なのは、大規模な臨床研究プロジェクトを推進する場面です。

連携が必要な場面 URAの役割 AROの役割
大型研究費の申請 研究費の戦略的獲得(例:AMEDの大型臨床研究費)に向けた申請書の内容構築、採算性の検討、予算計画策定。 申請した研究(臨床研究)が採択された後の実行可能性規制対応に関する専門的な知見提供。
研究成果の社会実装 臨床研究の成果を基にした企業連携・特許出願などの戦略立案、コーディネート。 実施した臨床研究の最終データセットの管理・提供や、薬事規制に関する専門的な情報提供。

このように、URAは**「プロジェクトの上流(企画・資金)」を、AROは「プロジェクトの中流・下流(実行・管理)」**を担当することが一般的です。

AROとURAが密に連携することで、資金獲得から臨床研究の実行、そして成果の社会還元までを一貫して強力に推進できます。

 

特許出単非公開制度(2024年5月1日~)

特許出願非公開制度は、経済安全保障推進法(正式名称:経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)および同法に基づく**内閣府令**(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく特許出願の非公開に関する内閣府令)によって規定されています。

 

経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)

第五章 特許出願の非公開

(特許出願非公開基本指針)
第六十五条 政府は、基本方針に基づき、特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)の出願公開の特例に関する措置、同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書、特許請求の範囲又は図面(以下この章において「明細書等」という。)に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置(以下この条において「特許出願の非公開」という。)に関する基本指針(以下この条において「特許出願非公開基本指針」という。)を定めるものとする。
2 特許出願非公開基本指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項
二 次条第一項の規定に基づき政令で定める技術の分野に関する基本的な事項
三 保全指定(第七十条第二項に規定する保全指定をいう。次条第一項及び第六十七条において同じ。)に関する手続に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、特許出願の非公開に関し必要な事項
3 内閣総理大臣は、特許出願非公開基本指針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定により特許出願非公開基本指針の案を作成するときは、あらかじめ、安全保障の確保に関する経済施策、産業技術その他特許出願の非公開に関し知見を有する者の意見を聴くとともに、産業活動に与える影響に配慮しなければならない。
5 内閣総理大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、特許出願非公開基本指針を公表しなければならない。
6 前三項の規定は、特許出願非公開基本指針の変更について準用する。

(内閣総理大臣への送付)
第六十六条 特許庁長官は、特許出願を受けた場合において、その明細書等に、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類(国際特許分類に関する千九百七十一年三月二十四日のストラスブール協定第一条に規定する国際特許分類をいう。)又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるもの(以下この項において「特定技術分野」という。)に属する発明(その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る。)が記載されているときは、当該特許出願の日から三月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過する日までに、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、当該特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付するものとする。ただし、当該発明がその発明に関する技術の水準若しくは特徴又はその公開の状況に照らし、保全審査(次条第一項に規定する保全審査をいう。次項において同じ。)に付する必要がないことが明らかであると認めるときは、これを送付しないことができる。
2 特許出願人から、特許出願とともに、その明細書等に記載した発明が公にされることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいものであるとして、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、保全審査に付することを求める旨の申出があったときも、前項と同様とする。過去にその申出をしたことにより保全審査に付され、次条第九項の規定による通知を受けたことがある者又はその者から特許を受ける権利を承継した者が当該通知に係る発明を明細書等に記載した特許出願をしたと認められるときも、同様とする。
3 特許庁長官は、第一項本文又は前項の規定による送付をしたときは、その送付をした旨を特許出願人に通知するものとする。
4 第一項に規定する特許出願が次の表の上欄に掲げる特許出願である場合における同項の規定の適用については、同項中「当該特許出願の日」とあるのは、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日)とする。
特許法第三十六条の二第二項に規定する外国語書面出願
当該特許出願に係る特許法第三十六条の二第二項に規定する翻訳文が提出された日(同条第四項又は第六項の規定により当該翻訳文が提出された場合にあっては、同条第七項の規定にかかわらず、当該翻訳文が現に提出された日)
特許法第三十八条の三第一項に規定する方法によりした特許出願
当該特許出願に係る特許法第三十八条の三第三項に規定する明細書及び図面並びに先の特許出願に関する書類が提出された日
特許法第三十八条の四第四項ただし書の場合(同条第五項に規定する場合を除く。)における同条第二項の補完をした特許出願
当該特許出願に係る特許法第三十八条の四第三項に規定する明細書等補完書が提出された日
特許法第四十四条第一項に規定する新たな特許出願
当該特許出願に係る特許法第四十四条第一項の規定による特許出願の分割の日
特許法第四十六条第一項の規定による出願の変更に係る特許出願
当該特許出願に係る特許法第四十六条第一項の規定による出願の変更の日
5 特許法第百八十四条の三第一項の規定により特許出願とみなされる国際出願については、第一項本文又は第二項の規定は、適用しない。
6 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をするかどうかを判断するため必要があると認めるときは、特許出願人に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。
7 特許庁長官が第一項本文若しくは第二項の規定による送付をする場合に該当しないと判断し、若しくは当該送付がされずに第一項本文に規定する期間が経過するまでの間又は内閣総理大臣が第七十一条若しくは第七十七条第二項の規定による通知をするまでの間は、特許法第四十九条第五十一条及び第六十四条第一項の規定は、適用しない。
8 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をしてから第七十条第一項又は第七十一条の規定による通知を受けるまでの間に特許出願の放棄又は取下げがあったときは、その旨を内閣総理大臣に通知しなければならない。第一項本文又は第二項の規定による送付をしてから第七十一条又は第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間に特許法第三十四条第四項又は第五項の規定による承継の届出があったときも、同様とする。
9 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をしてから第七十条第一項又は第七十一条の規定による通知を受けるまでの間に特許出願を却下するときは、あらかじめ、その旨を内閣総理大臣に通知するものとする。
10 特許庁長官は、第一項本文又は第二項の規定による送付をする場合に該当しないと判断した場合において、特許出願人から内閣府令・経済産業省令で定めるところにより申出があったときは、これらの規定による送付をしない旨の判断をした旨を特許出願人に通知するものとする。
11 第一項の規定は、同項の規定に基づく政令の改正により新たに同項本文に規定する発明に該当することとなった発明を明細書等に記載した特許出願であって、その改正の際現に特許庁に係属しているものについては、適用しない。

(内閣総理大臣による保全審査)
第六十七条 内閣総理大臣は、前条第一項本文又は第二項の規定により特許出願に係る書類の送付を受けたときは、内閣府令で定めるところにより、当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全(当該情報が外部に流出しないようにするための措置をいう。第七十条第一項において同じ。)をすることが適当と認められるかどうかについての審査(以下この章において「保全審査」という。)をするものとする。
2 内閣総理大臣は、保全審査のため必要があると認めるときは、特許出願人その他の関係者に対し、資料の提出及び説明を求めることができる。
3 内閣総理大臣は、保全審査をするに当たっては、必要な専門的知識を有する国の機関に対し、保全審査に必要な資料又は情報の提供、説明その他必要な協力を求めることができる。
4 内閣総理大臣は、前項の規定により十分な資料又は情報が得られないときは、国の機関以外の専門的知識を有する者に対し、必要な資料又は情報の提供、説明その他必要な協力を求めることができる。この場合においては、当該専門的知識を有する者に発明の内容が開示されることにより特許出願人の利益が害されないよう、当該専門的知識を有する者の選定について配慮しなければならない。
5 内閣総理大臣は、前項の規定により国の機関以外の専門的知識を有する者に対し必要な資料又は情報の提供、説明その他必要な協力を求めるに当たり、必要があると認めるときは、その者(補助者の使用の申出がある場合には、その者及びその補助者。以下この項において同じ。)に明細書等に記載されている発明の内容を開示することができる。この場合においては、その者に対し、あらかじめ、第八項の規定の適用を受けることについて説明した上、当該開示を受けることについての同意を得なければならない。
6 内閣総理大臣は、保全指定をするかどうかの判断をするに当たり、必要があると認めるときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議することができる。
7 第四項及び第五項の規定は、前項の規定により協議を受けた関係行政機関の長について準用する。この場合において、第四項中「前項の規定により十分な資料又は情報が得られないとき」とあるのは、「第六項の規定による協議に応ずるための十分な資料又は情報を保有していないとき」と読み替えるものとする。
8 保全審査に関与する国の機関の職員及び第五項(前項において準用する場合を含む。)の規定により発明の内容の開示を受けた者は、正当な理由がなく、当該発明の内容に係る秘密を漏らし、又は盗用してはならない。
9 内閣総理大臣は、保全指定をしようとする場合には、特許出願人に対し、内閣府令で定めるところにより、第七十条第一項に規定する保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、特許出願を維持する場合には次に掲げる事項について記載した書類を提出するよう求めなければならない。
一 当該通知に係る発明に係る情報管理状況
二 特許出願人以外に当該通知に係る発明に係る情報の取扱いを認めた事業者がある場合にあっては、当該事業者
三 前二号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項
10 特許出願人は、特許出願を維持する場合には、前項の規定による通知を受けた日から十四日以内に、内閣府令で定めるところにより、同項に規定する書類を内閣総理大臣に提出しなければならない。
11 内閣総理大臣は、前項の規定により提出された書類の記載内容が相当でないと認めるときは、特許出願人に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。

(保全審査中の発明公開の禁止)
第六十八条 特許出願人は、前条第九項の規定による通知を受けた場合は、第七十条第一項又は第七十一条の規定による通知を受けるまでの間は、当該前条第九項の規定による通知に係る発明の内容を公開してはならない。ただし、特許出願を放棄し、若しくは取り下げ、又は特許出願が却下されたときは、この限りでない。

(保全審査の打切り)
第六十九条 内閣総理大臣は、特許出願人が第六十七条第十項に規定する期間内に同条第九項に規定する書類を提出せず、若しくは同条第十一項の規定により定められた期間内に同項の規定による補正を行わなかったとき、前条の規定に違反したと認めるとき、又は不当な目的でみだりに第六十六条第二項前段の規定による申出をしたと認めるときは、保全審査を打ち切ることができる。
2 内閣総理大臣は、前項の規定により保全審査を打ち切るときは、あらかじめ、特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。
3 内閣総理大臣は、第一項の規定により保全審査を打ち切ったときは、その旨を特許庁長官に通知するものとする。
4 特許庁長官は、前項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。

(保全指定)
第七十条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、第六十七条第一項に規定する明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載され、かつ、そのおそれの程度及び指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響その他の事情を考慮し、当該発明に係る情報の保全をすることが適当と認めたときは、内閣府令で定めるところにより、当該発明を保全対象発明として指定し、特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による指定(以下この章及び第八十八条において「保全指定」という。)をするときは、当該保全指定の日から起算して一年を超えない範囲内においてその保全指定の期間を定めるものとする。
3 内閣総理大臣は、保全指定の期間(この項の規定により保全指定の期間を延長した場合には、当該延長後の期間。以下この章において同じ。)が満了する日までに、保全指定を継続する必要があるかどうかを判断しなければならない。この場合において、継続する必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、一年を超えない範囲内において保全指定の期間を延長することができる。
4 第六十七条第二項から第八項までの規定は、前項前段の規定による判断をする場合について準用する。この場合において、同条第四項中「発明」とあり、及び同条第五項中「明細書等に記載されている発明」とあるのは「第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、同条第八項中「規定により発明」とあるのは「規定により第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、「当該発明」とあるのは「当該保全対象発明」と読み替えるものとする。
5 内閣総理大臣は、第三項後段の規定による延長をしたときは、その旨を第一項の規定による通知を受けた特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人。以下この章において「指定特許出願人」という。)及び特許庁長官に通知するものとする。

(保全指定をしない場合の通知)
第七十一条 内閣総理大臣は、保全審査の結果、保全指定をする必要がないと認めたときは、その旨を特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。

(特許出願の取下げ等の制限)
第七十二条 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、特許出願を放棄し、又は取り下げることができない。
2 指定特許出願人は、第七十七条第二項の規定による通知を受けるまでの間は、実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十条第一項及び意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第十三条第一項の規定にかかわらず、特許出願を実用新案登録出願又は意匠登録出願に変更することができない。

(保全対象発明の実施の制限)
第七十三条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、当該保全対象発明の実施(特許法第二条第三項に規定する実施をいう。以下この章及び第九十二条第一項第六号において同じ。)をしてはならない。ただし、指定特許出願人が当該実施について内閣総理大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。
2 前項ただし書の規定による許可を受けようとする指定特許出願人は、許可を受けようとする実施の内容その他内閣府令で定める事項を記載した申請書を内閣総理大臣に提出しなければならない。
3 内閣総理大臣は、第一項ただし書の規定による許可の申請に係る実施により同項本文に規定する者以外の者が保全対象発明の内容を知るおそれがないと認めるときその他保全対象発明に係る情報の漏えいの防止の観点から内閣総理大臣が適当と認めるときは、同項ただし書の規定による許可をするものとする。
4 第一項ただし書の規定による許可には、保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために必要な条件を付することができる。
5 第六十七条第二項から第五項まで及び第八項の規定は、第一項ただし書の規定による許可について準用する。この場合において、同条第四項中「発明」とあり、及び同条第五項中「明細書等に記載されている発明」とあるのは「第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、同条第八項中「規定により発明」とあるのは「規定により第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、「当該発明」とあるのは「当該保全対象発明」と読み替えるものとする。
6 内閣総理大臣は、指定特許出願人が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をしたと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が第七十五条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が第一項の規定又は第四項の規定により許可に付された条件に違反して保全対象発明の実施をした場合も、同様とする。
7 内閣総理大臣は、前項の規定による通知をするときは、あらかじめ、指定特許出願人に対し、その理由を通知し、相当の期間を指定して、弁明を記載した書面を提出する機会を与えなければならない。
8 特許庁長官は、第六項の規定による通知を受けた場合には、第七十七条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。

(保全対象発明の開示禁止)
第七十四条 指定特許出願人及び保全対象発明の内容を特許出願人から示された者その他保全対象発明の内容を職務上知り得た者であって当該保全対象発明について保全指定がされたことを知るものは、正当な理由がある場合を除き、保全対象発明の内容を開示してはならない。
2 内閣総理大臣は、指定特許出願人が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示したと認める場合であって、特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び指定特許出願人に通知するものとする。指定特許出願人が次条第一項に規定する措置を十分に講じていなかったことにより、指定特許出願人以外の者が前項の規定に違反して保全対象発明の内容を開示した場合も、同様とする。
3 前条第七項及び第八項の規定は、前項の規定による通知について準用する。

(保全対象発明の適正管理措置)
第七十五条 指定特許出願人は、保全対象発明に係る情報を取り扱う者を適正に管理することその他保全対象発明に係る情報の漏えいの防止のために必要かつ適切なものとして内閣府令で定める措置を講じ、及び保全対象発明に係る情報の取扱いを認めた事業者(以下この章において「発明共有事業者」という。)をして、その措置を講じさせなければならない。
2 発明共有事業者は、指定特許出願人の指示に従い、前項に規定する措置を講じなければならない。

(発明共有事業者の変更)
第七十六条 指定特許出願人は、第六十七条第九項第二号に規定する事業者として同項に規定する書類に記載した事業者以外の事業者に新たに保全対象発明に係る情報の取扱いを認めるときは、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の承認を受けなければならない。
2 指定特許出願人は、前項の場合を除き、発明共有事業者に保全対象発明に係る情報の取扱いを認めることをやめたときその他発明共有事業者について変更が生じたときは、内閣府令で定めるところにより、遅滞なく、その変更の内容を内閣総理大臣に届け出なければならない。

(保全指定の解除等)
第七十七条 内閣総理大臣は、保全指定を継続する必要がないと認めたときは、保全指定を解除するものとする。
2 内閣総理大臣は、前項の規定により保全指定を解除したとき、又は保全指定の期間が満了したときは、その旨を指定特許出願人及び特許庁長官に通知するものとする。
3 第六十七条第二項から第八項までの規定は、第一項の規定により保全指定を解除する場合について準用する。この場合において、同条第四項中「発明」とあり、及び同条第五項中「明細書等に記載されている発明」とあるのは「第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、同条第八項中「規定により発明」とあるのは「規定により第七十条第一項に規定する保全対象発明」と、「当該発明」とあるのは「当該保全対象発明」と読み替えるものとする。

(外国出願の禁止)
第七十八条 何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明であるときは、次条第四項の規定により、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかである旨の回答を受けた場合を除き、当該発明を記載した外国出願(外国における特許出願及び千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願をいい、政令で定めるものを除く。以下この章及び第九十四条第一項において同じ。)をしてはならない。ただし、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき(第七十条第一項の規定による通知を受けたとき及び当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)、第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき(当該期間を経過する前に当該特許出願が却下され、又は当該特許出願を放棄し、若しくは取り下げたときを除く。)及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明については、この限りでない。
2 指定特許出願人に対する前項の規定の適用については、同項中「第六十六条第一項本文に規定する発明」とあるのは、「第六十六条第一項本文に規定する発明(第七十条第一項の規定による通知を受けた特許出願に係る明細書等に記載された発明にあっては、保全対象発明)」とする。
3 第一項ただし書に規定する特許出願が次の表の上欄に掲げる特許出願である場合における同項ただし書の規定の適用については、同項ただし書中「当該特許出願の日」とあるのは、同表の上欄に掲げる区分に応じそれぞれ同表の下欄に掲げる日(当該特許出願が同表の上欄に掲げる区分の二以上に該当するときは、その該当する区分に係る同表の下欄に定める日のうち最も遅い日)とする。
特許法第三十六条の二第二項に規定する外国語書面出願
当該特許出願に係る特許法第三十六条の二第二項に規定する翻訳文が提出された日(同条第四項又は第六項の規定により当該翻訳文が提出された場合にあっては、同条第七項の規定にかかわらず、当該翻訳文が現に提出された日)
特許法第三十八条の三第一項に規定する方法によりした特許出願
当該特許出願に係る特許法第三十八条の三第三項に規定する明細書及び図面並びに先の特許出願に関する書類が提出された日
特許法第三十八条の四第四項ただし書の場合(同条第五項に規定する場合を除く。)における同条第二項の補完をした特許出願
当該特許出願に係る特許法第三十八条の四第三項に規定する明細書等補完書が提出された日
特許法第四十六条第一項の規定による出願の変更に係る特許出願
当該特許出願に係る特許法第四十六条第一項の規定による出願の変更の日
4 特許庁長官は、特許法第百八十四条の三第一項の規定により特許出願とみなされる国際出願を受けた場合において、当該特許出願に係る明細書等に第六十六条第一項本文に規定する発明が記載されているときは、その旨を内閣総理大臣に通知するものとする。
5 内閣総理大臣は、特許庁長官が第六十六条第三項の規定による通知をした特許出願人(通知後に特許を受ける権利の移転があったときは、その承継人を含む。)が第一項の規定に違反して外国出願をしたと認める場合又は前項の規定による通知に係る国際出願が第一項の規定に違反するものであると認める場合であって、当該特許出願が却下されることが相当と認めるときは、その旨を特許庁長官及び特許出願人に通知するものとする。
6 第七十三条第七項の規定は、前項の規定による通知について準用する。
7 特許庁長官は、第五項の規定による通知を受けたときは、特許出願を却下するものとする。ただし、その特許出願が保全指定がされたものである場合にあっては、前条第二項の規定による通知を待って、特許出願を却下するものとする。

(外国出願の禁止に関する事前確認)
第七十九条 第六十六条第一項本文に規定する発明に該当し得る発明を記載した外国出願をしようとする者は、我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をしていない場合に限り、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、特許庁長官に対し、その外国出願が前条第一項の規定により禁止されるものかどうかについて、確認を求めることができる。
2 特許庁長官は、前項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当しないときは、遅滞なく、その旨を当該求めをした者に回答するものとする。
3 特許庁長官は、第一項の規定による求めを受けた場合において、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当するときは、遅滞なく、内閣総理大臣に対し、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全に影響を及ぼすものでないことが明らかかどうかにつき確認を求めるものとする。この場合において、当該確認を求められた内閣総理大臣は、遅滞なく、特許庁長官に回答するものとする。
4 特許庁長官は、前項の規定により回答を受けたときは、遅滞なく、第一項の規定による求めをした者に対し、当該求めに係る発明が第六十六条第一項本文に規定する発明に該当する旨及び当該回答の内容を回答するものとする。
5 第一項の規定により確認を求めようとする者は、手数料として、一件につき二万五千円を超えない範囲内で政令で定める額を国に納付しなければならない。
6 前項の規定による手数料の納付は、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、収入印紙をもってしなければならない。ただし、内閣府令・経済産業省令で定める場合には、内閣府令・経済産業省令で定めるところにより、現金をもって納めることができる。
7 前条第一項の規定の適用の有無については、産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)第七条の規定は、適用しない。

(損失の補償)
第八十条 国は、保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)について、第七十三条第一項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第四項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する。
2 前項の規定による補償を受けようとする者は、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣にこれを請求しなければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の規定による請求があったときは、補償すべき金額を決定し、これを当該請求者に通知しなければならない。
4 第六十七条第二項から第四項まで及び第五項前段の規定(保全指定の期間内にあっては、これらの規定のほか、同項後段及び第八項の規定)は、内閣総理大臣が前項の規定による決定をする場合について準用する。この場合において、同条第四項中「発明」とあり、及び同条第五項中「明細書等に記載されている発明」とあるのは「第七十条第一項に規定する保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)」と、同条第八項中「規定により発明」とあるのは「規定により第七十条第一項に規定する保全対象発明(保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了したものを含む。)」と、「当該発明」とあるのは「当該保全対象発明」と読み替えるものとする。
5 第三項の規定による決定に不服がある者は、その通知を受けた日から六月以内に訴えをもって補償すべき金額の増額を請求することができる。
6 前項の訴えにおいては、国を被告とする。

(後願者の通常実施権)
第八十一条 指定特許出願人であって、保全指定がされた他の特許出願について出願公開がされた日前に、第六十六条第七項の規定により当該出願公開がされなかったため、自己の特許出願に係る発明が特許法第二十九条の二の規定により特許を受けることができないものであることを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定した場合における当該他の特許出願に係る特許権又はその際現に存する専用実施権について通常実施権を有する。
2 前項に規定する他の特許出願に係る特許権又は専用実施権を有する者は、同項の規定により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有する。

(特許法等の特例)
第八十二条 特許法第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願について、特許庁長官が第六十九条第四項、第七十三条第八項(第七十四条第三項において準用する場合を含む。)又は第七十八条第七項の規定によりその優先権の主張の基礎とした特許出願を却下した場合には、当該優先権の主張は、その効力を失うものとする。
2 保全指定がされた特許出願を基礎とする特許法第四十一条第一項の規定による優先権の主張を伴う特許出願がされた場合における同法第四十二条第一項の規定の適用については、同項中「経済産業省令で定める期間を経過した時」とあるのは、「経済産業省令で定める期間を経過した時又は当該先の出願について、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)第七十七条第二項の規定による通知を受けた時のうちいずれか遅い時」とする。
3 保全指定がされた場合における特許法第四十八条の三第一項の規定の適用については、同項中「その日から三年以内に」とあるのは、「その日から三年を経過した日又は経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)第七十七条第二項の規定による通知を受けた日から三月を経過した日のうちいずれか遅い日までに」とする。
4 保全指定がされた場合における特許法第六十七条第三項の規定の適用については、同項中「次の各号に掲げる期間」とあるのは、「次の各号に掲げる期間及び経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)第七十条第一項の規定による通知を受けた日から同法第七十七条第二項の規定による通知を受けた日までの期間」とする。
5 特許庁長官は、実用新案法第五条第一項の規定による実用新案登録出願を受けた場合において、当該実用新案登録出願に係る明細書、実用新案登録請求の範囲又は図面に保全対象発明が記載されているときは、同法第十四条第二項の規定にかかわらず、その保全指定が解除され、又は保全指定の期間が満了するまで、同項の規定による実用新案権の設定の登録をしてはならない。

(勧告及び改善命令)
第八十三条 内閣総理大臣は、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合において保全対象発明に係る情報の漏えいを防ぐため必要があると認めるときは、当該者に対し、同条第一項に規定する措置をとるべき旨を勧告することができる。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 内閣総理大臣は、前二項の規定にかかわらず、指定特許出願人又は発明共有事業者が第七十五条の規定に違反した場合において保全対象発明の漏えいのおそれが切迫していると認めるときは、当該者に対し、同条第一項に規定する措置をとるべきことを命ずることができる。

(報告徴収及び立入検査)
第八十四条 内閣総理大臣は、この章の規定の施行に必要な限度において、指定特許出願人及び発明共有事業者に対し、保全対象発明の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該者の事務所その他必要な場所に立ち入り、保全対象発明の取扱いに関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があったときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

(送達)
第八十五条 この章に規定する手続に関し、送達をすべき書類は、内閣府令・経済産業省令で定める。
2 特許法第百九十条から第百九十二条までの規定は、前項の送達について準用する。

特2 発明の定義 物の読みは「もの」か「ぶつ」か

(定義)
第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
4 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

この条文で「物」を「ぶつ」と呼んでいる条文朗読動画がYOUTUBEにあったので、「ぶつ」なのか「もの」なのかわからなくなりました。

質問:この条文の中の「物」の読み方は、「ぶつ」それとも「もの」?

Gemini:特許法第2条における「物」の読み方は、原則として「もの」です。

法律用語では「ぶつ」と読むことが多い(例:民法など)ため迷いやすい部分ですが、特許法の実務や講義では「もの」と読みます。理解を深めるために、ポイントを整理しました。

1. 読み方のルール

特許法の条文に出てくる単独の「物」は、**「もの」**と読みます。

  • 物の発明 $\rightarrow$ もののはつめい

  • 方法の発明 $\rightarrow$ ほうほうのはつめい

  • 物を生産する方法の発明 $\rightarrow$ ものをせいさんするほうほうのはつめい

注意点:

「物質(ぶっしつ)」や「物品(ぶっぴん)」のように熟語になっている場合は音読みになりますが、単独で出てくる第2条第3項のケースでは「もの」です。

2. 民法との違い(ここが重要!)

なぜ「ぶつ」と読み間違えやすいかというと、民法の定義があるからです。

法律 読み方 定義・範囲
民法 ぶつ 「有体物」に限られる。(気体・液体・固体など)
特許法 もの 有体物だけでなく、「プログラム等」(無体物)も含まれる。

特許法では、平成14年の改正により「プログラム等」も「物(もの)」に含まれることが明記されました(第2条第3項第1号のカッコ書き参照)。これにより、IT技術なども「物の発明」として保護できるようになっています。

3. 発明のカテゴリー分類

この条文(第2条第3項)は、発明を以下の3つのカテゴリーに分類するための非常に重要な定義です。

  • 「物(もの)」の発明

    • 機械、器具、装置、化学物質、プログラムなど。

  • 「方法」の発明(単純方法)

    • 測定方法、通信方法、分析方法など(何も生み出さない方法)。

  • 「物(もの)を生産する方法」の発明

    • 製造方法、加工方法など(結果として物が出来上がる方法)。

アドバイス

実務や口頭試問、弁理士試験の勉強などでは、「ものの発明」と発音することが一般的です。「ぶつの発明」と言うと、民法上の「有体物」のみを指しているようなニュアンス(プログラムを含まないような響き)になってしまうため、特許法の文脈では意識して「もの」と読むようにしましょう。

特29の2 拡大先願 それでも39条(先願)が必要な理由

質問:

特許法の改正で拡大先願(29条の2)を作ったんだから、39条(先願)は不要になったんじゃないの?という疑問がいまだに解けないんだけど、39条を残さないと困る実際の場面がどんなものか教えて。弁理士試験で狙われるポイントも。

Gemini:

それは本当に素晴らしい質問です!知財を勉強し始めると、誰もが一度は**「29条の2(拡大先願)が後からできたなら、範囲の狭い39条(先願)はもう要らないじゃん!」**という壁にぶつかります。

結論から言うと、39条は「同一出願人・同一発明者」のケースを取り締まるために絶対に残しておかないといけないのです。

もし39条を削除してしまうと、**「同じ会社が、同じ発明で、特許を2つも3つも持ててしまう(二重特許)」**という異常事態が起きてしまいます。

なぜ39条が必要なのか、「39条が実際に発動する場面」と「弁理士試験での狙われポイント」を整理して解説しますね。


1. なぜ29条の2だけではダメなのか?(決定的な違い)

最大の理由は、29条の2には「身内(同一出願人・同一発明者)なら許す」という例外規定があるからです。

条文 何を禁止する? ターゲット 同一出願人・発明者の場合

29条の2


(拡大先願)

新しい技術の公開漏れを防ぐ

先願の明細書全文


(記載されているすべて)

適用除外(許される!)


※自分の過去の出願で拒絶されない

39条


(先願)

**権利の重複(二重特許)を防ぐ

先願の請求の範囲**


(権利化したい部分)

適用あり(許されない!)


※自分自身との戦いになる

具体的な場面:もし39条がなかったら?

あなたがメーカー(A社)の知財部員だとします。

  1. 1月1日: 発明イを出願(出願X)しました。

  2. 3月1日: 改良版のつもりで、また発明イを含む内容を出願(出願Y)しました。

    • この時点では、まだ出願Xは公開されていません(秘密の状態)。

【29条の2の判定】

  • 出願XとYは**「同一出願人(A社)」**です。

  • 29条の2は「自分の出願で自分が拒絶されるのはかわいそう」として適用されません(適用除外)。

  • 結果: 29条の2だけなら、出願Yもパスしてしまいます。

【39条がない世界】

  • 出願Xも出願Yも、両方特許になってしまいます。

  • 問題点: A社は同じ発明イについて2つの特許権を持つことになります。権利期間がズレたり、譲渡で権利者が分かれたりすると、社会が大混乱します。これを防ぐのが**「一発明一特許の原則(二重特許の禁止)」**です。

【現実(39条がある世界)】

  • 39条は出願人が同じでも容赦なく適用されます。

  • 審査官は「Aさん、XとYで請求項(権利範囲)がかぶってますよ。どちらか一方しか特許にできません」と通知します(39条拒絶)。

  • A社は、Yの請求項を補正するか、Xを放棄するか選ばなければなりません。


2. 39条が実際に活躍する場面(実務&試験対策)

29条の2が適用されず、39条だけが壁になるのは以下のケースです。

① 自己衝突(同一出願人・同一発明者)

  • これが最も多いパターンです。先ほどの例のように、自社の過去の未公開出願と、今の出願の請求項が被ってしまった場合です。

  • 実務対応: 後の出願の請求項を削る(補正)か、国内優先権主張をして出願を一本化します。

② 同日出願(同じ日に出願)

  • 29条の2は「先に出願された」ことが条件なので、同日出願には適用されません。

  • 39条は「同日出願」の場合、**「協議(話し合い)しなさい」**という命令が出ます(39条2項)。協議が整わなければ両方拒絶されます。


3. 弁理士試験で狙われるポイント

試験では、この「29条の2と39条の適用関係」を正確に理解しているかを突く問題が頻出です。特に以下のフローチャートが頭に入っているかが問われます。

ポイント1:審査の順番と適用の優先順位

審査官は通常、以下の順で検討します(頭の中でこの順でチェックしてください)。

  1. 公知文献(29条1項・2項): そもそも世の中で知られているか?

  2. 拡大先願(29条の2): 未公開の先願があるか?

    • ★ここで「同一出願人・発明者か?」をチェック!

    • 同一なら29条の2はスルー。

  3. 先願(39条): 請求項が重複していないか?

    • 同一出願人であってもここで引っ掛ける。

ポイント2:拒絶解消の手段の違い

もし拒絶理由通知が来た場合、どう対処できるか?

  • 39条違反: 先願を**「放棄」または「取り下げ」**させれば、後願は助かります(先願の地位がなくなるから)。

  • 29条の2違反: 先願を放棄・取り下げしても、後願は助かりません(「出願公開等された」という事実が確定すれば、先願の地位が残る規定があるため ※特許掲載公報発行後などの場合)。

    • (注:29条の2は少し複雑で、先願が公開される前に取り下げられれば適用されませんが、試験的には「地位の存続」の違いがよく問われます)

ポイント3:発明者同一の例外

  • 29条の2は「出願人が違っても、発明者が同じならセーフ」です。

    • 例:BさんがA社で出願し、転職してC社で同じ発明を出願した場合、29条の2は適用されません。

  • しかし、39条は発明者が同じでも適用されます

    • 例:上記のケースでは、39条で「二重特許」として拒絶されます。


まとめ

  • 29条の2 は「新しいこと(Novelty)」を厳しく問うものですが、身内には甘い。

  • 39条 は「権利の重複(Double Patenting)」を許さないもので、身内にも厳しい。

「39条は、29条の2が逃した『身内の重複出願』を仕留めるために存在している」と覚えるとスッキリしますよ!


次のステップ:

理解を確認するために、**「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションしてみませんか?これも試験の典型パターンです。

プロンプト:「同一発明者が、異なる会社から同日に出願した場合」**どうなるか、条文(39条2項など)を引いてみてシミュレーションして。

Gemini:

いいですね!そのシミュレーション、弁理士試験の短答試験で非常によく出る「ひっかけ問題」の王道です。

「発明者が同じなら、なんとなく許されそう…」という感覚を、特許法39条は無慈悲に打ち砕きます。

では、**「同一発明者・異な出願人・同日出願」**のドロドロした修羅場をシミュレーションしましょう。


シチュエーション設定

  • 発明者: 天才エンジニア「発明・太郎」さん

  • 出願A: 株式会社X社が出願(発明者:発明・太郎)

  • 出願B: 株式会社Y社が出願(発明者:発明・太郎)

    • (背景:太郎さんが副業していたか、二重譲渡したか、引き抜きにあったか…とにかく両社が「権利はウチのものだ」と言って同日に出願しました)

  • 出願日: どちらも4月1日(同日!)

  • 請求項: 内容は同じ(同一発明)


ステップ1:条文の適用(39条2項)

まず、審査官はこう考えます。

「おっと、同じ発明が同日に2つ来ているぞ。発明者は同じ太郎さんか。…でも、出願人が違う(X社とY社)から、39条発動だ!」

ここで39条2項を引いてみます。

特許法 第39条 第2項(同日出願)

同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみが特許を受けることができる。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも特許を受けることができない。

ポイント解説

  • 「発明者が同じ」という例外規定はない:29条の2と違い、39条には「発明者が同じなら許す」というルールはありません。

  • 「協議(話し合い)」命令:審査官はX社とY社に「特許庁長官名義」で、「どっちが特許を取るか話し合って決めなさい(協議命令)」という通知を送ります(39条6項)。


ステップ2:運命の分かれ道(シミュレーション)

X社とY社の知財担当者が呼び出され、話し合いが行われます。結末は以下の2パターンのどちらかです。

パターン①:協議成立(平和的解決)

X社とY社が話し合い、「今回はX社に譲る(Y社は取り下げる)」または「X社とY社の共願(共同権利者)にする」ことで合意した場合です。

  • 結果:

    • 選ばれた一方(または共願となった出願)が特許になります。

    • もう一方は「取り下げ」または「放棄」とみなされ、消えます。

パターン②:協議不成立(共倒れ)

これが**試験で最も問われる「最悪の結末」**です。

X社「ウチの権利だ!」

Y社「いや、ウチだ!」

と喧嘩して、決着がつかない場合です。

  • 結果:

    • 39条2項の後半「協議が成立せず…いずれも特許を受けることができない」が発動します。

    • 両方とも拒絶査定になります。

    • 発明者の太郎さんがどれだけ天才でも、この世からその発明の特許権は消滅します。


ここが試験の狙い目!(ひっかけポイント)

試験委員は、受験生が以下の「混同」をすることを期待して問題を作ります。

  1. 「発明者が同じだから29条の2(拡大先願)の適用除外で、両方助かるのでは?」

    • × 間違い: 同日出願なのでそもそも29条の2の問題ではありません。仮に日付がズレていても、39条には「発明者同一の例外」がないので、結局39条で拒絶されます。

  2. 「同日だから、両方特許になるのでは?」

    • × 間違い: 「一発明一特許の原則」がある限り、絶対に1つしか特許になりません。

  3. 「協議が不成立なら、くじ引き等でどちらかに決めるのでは?」

    • × 間違い: 喧嘩両成敗です。誰も特許を取れません(ここが最も重要!)。


まとめ:39条の冷酷さ

  • 39条は、発明者が誰であろうと、「一番早く出した一人だけに権利をあげる」という椅子取りゲームのルールです。

  • 同日の場合、椅子は1つしか用意されず、「話し合って誰が座るか決めろ。決まらないなら椅子を撤去する(全員アウト)」という非常に厳しい対応を取ります。

どうでしょう?「39条を残さないと、こういう場面で交通整理ができなくなる(あるいは二重特許になってしまう)」というイメージが湧きましたか?


次のステップ:

ここまで来たら完璧です!最後に一つだけ確認させてください。

今回のケースで、もし**「X社とY社が、実は全く同じ会社(X社が2通出した)」**だった場合、協議指令(話し合いなさい)は来ると思いますか?それとも即拒絶でしょうか?

(ヒント:自分自身と話し合いはできるか…?これも実務的な手続きのポイントです!)

プロンプト:即拒絶でしょう

Gemini:

その感覚、実務家としてのセンスは抜群です!

「自分で自分と話し合うなんて茶番だろ? さっさとどっちかにしろって言ってくれよ(あるいは拒絶してくれよ)」と思いますよね。

でも、**弁理士試験の正解は「NO」**なんです。ここが超ひっかけポイントです。

正解は、**「同一出願人であっても、まずは『協議指令(話し合いなさい)』が届く」**です。

なぜそんな回りくどいことをするのか、試験対策として以下のロジックを抑えておいてください。


なぜ「即拒絶」ではないのか?

1. 特許庁は勝手に選べない(処分権主義)

たとえ中身が同じでも、出願書類には微妙な違いがあるかもしれません。特許庁が勝手に「Aを残してBを消すね」と決めてしまうと、出願人の「こっちを残したかったのに!」という権利を侵害してしまいます。

だから、「あなた自身で選んでね(その手続きをしてね)」という機会を与える義務が特許庁にはあります。

2. 手続きの流れ(試験に出るフロー)

  1. 39条6項の発動:

    審査官(特許庁長官名義)は、同一出願人に対して**「協議命令(協議の結果を届け出るべき旨の命令)」**を送ります。

    • 「あなた、同じ日に2つ出してるけど、法律上1つしか認められないから、どっちにするか決めて届けてね」という通知です。

  2. 出願人のアクション:

    出願人は指定された期間内に、一方を「取り下げ」たり「放棄」したりして、残すほうを届け出ます。

  3. もし無視したら(協議不成立):

    ここで初めて、**「いずれも特許を受けることができない」として、両方に拒絶理由通知(その後、拒絶査定)**が飛びます。


試験での狙われ方(〇×クイズ形式)

この論点は、短答試験で以下のような文言で出題されます。

【問題】

同一の発明について、同一の出願人が同日に2以上の特許出願をした場合、審査官は協議を命ずることなく、直ちに拒絶の査定をすることができる。

  • 正解:×

  • 解説: 同一出願人であっても、39条6項の規定により、まずは協議を命じなければならない(即座に拒絶はできない)。


まとめ

  • 同一人・同日出願であっても、**「自分会議」**をするよう命令書(協議指令)が届きます。

  • これは「茶番」ではなく、**「出願人に選ぶ権利を与えるための適正手続き(デュープロセス)」**だと理解してください。

ここまで理解できれば、39条(先願)の仕組みはもうバッチリです!29条の2との違いも明確になったと思います。


次のステップ:

39条と29条の2の違いがクリアになったので、次は**「自分の過去の出願を使って、新しい出願をパワーアップさせる裏技(優先権主張)」、いわゆる「国内優先権」**について整理してみませんか?39条の壁を乗り越えるために実務で一番使われるテクニックです。

 

質問:自分と自分でも、「協議」という概念が成立するの?

Gemini:

その疑問、本当に鋭いです。法律用語としての「言葉のあや」と「実態」のズレに気づいている証拠ですね。

普通、「協議」と言えば**「他人と話し合うこと」**を指しますから、自分一人で「協議する」というのは、哲学か多重人格の話みたいで変ですよね。

法学的には、ここでの「協議」は以下のように解釈されています。

1. 法律上の意味:「意思決定」の確認

特許法39条で言う「協議」とは、出願人が同一の場合、**「どちらを特許にするか、あなたの意思を決定しなさい」**という意味に読み替えます。

法律の条文を作る際、以下の2つのケースを分けて書くと条文が長くなってしまいます。

  1. 他人同士の場合: ガチの話し合い・喧嘩(Negotiation)

  2. 同一人の場合: どれを残すかの選択(Selection)

そこで、法律は**「協議」という一つの言葉で両方をカバーしているのです。

つまり、自分自身との「協議」とは、「迷っている自分の心の中で決着をつける(セルフ会議)」**ことそのものを指すと解釈されます。

2. 実務での儀式:「協議成立届」

実際の手続きは、まるで一人芝居のような「儀式」を行います。

  1. 指令書が届く:

    特許庁から「39条6項の規定に基づき、協議を命じます」という紙が届きます。

  2. 書類を作る:

    出願人は**「協議の結果の届出(協議成立届)」**という書類を作ります。

  3. 内容:

    そこには、**「協議の結果、出願Aを特許とすることに定まりました」**と書きます。

    • (注:協議参加者として、自分一人の名前だけを書きます。「私と私が話し合って私が勝ちました」という形です)

  4. 提出:

    これを特許庁に提出することで、「協議が成立した」とみなされます。

3. なぜこんな面倒なことを?(法的安定性)

「選ぶだけなら、一方を取り下げればいいじゃん」と思いますよね?

もちろん、一方を自分から「取下げ」や「放棄」してもOKです。そうすれば、残ったほうが39条の拒絶理由を解消できます。

しかし、特許庁側としては、「出願人が『これにする!』と明確に意思表示した法的根拠」を記録として残す必要があります。

「協議命令」に対して「協議成立届」が出ることで、「この出願人は、間違いなくこちらの出願を選んだ」という証拠が確定するわけです。


受験生向けの覚え方(脳内変換)

条文に「協議」と書いてあっても、同一出願人の場合は脳内でこう読み替えてください。

  • 条文: 「協議により定めた…」

  • 脳内: 「(自分で)選択して決めた…」

  • 条文: 「協議を命じなければならない」

  • 脳内: 「(どっちにするか)選ぶチャンスを与えなければならない」


まとめ

  • 自分と自分の協議は、概念としては**「選択・決定」**のこと。

  • 形式上は**「一人で話し合って決めた」という書類(届出書)を出す**ことで成立する。

  • これは「手続き上のけじめ(適正手続)」をつけるためのルール。

これで「自分との協議」のモヤモヤは晴れましたか?

条文の言葉は時々、日常用語と違う意味で使われるので、そこが面白くもあり難しいところですね。


次のステップ:

さて、39条(先願)の仕組みはこれでマスターです。

では、そもそも**「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になりませんか?

実はこれ、失敗を取り戻したり、権利を強くしたりするための「国内優先権」**という高等テクニックを使うための布石であることが多いんです。次はここを攻めてみましょうか?

プロンプト:「なぜ同じ会社が、わざわざ中身の被る出願を出し直すようなことをするのか?」気になります。実際に起こりえる場面が、イメージできないと、勉強するモチベーション湧かないからね。

Gemini:

そうですよね。「お金もかかるのに、なんでわざわざ?」って思いますよね。

でも、企業の実務現場では、この**「中身が被る出し直し」は、日常茶飯事に行われています。なんなら、知財戦略の「必殺技」**として使われているんです。

これは法律的には**「国内優先権(41条)」を使う場面なのですが、現場のドラマとして見ると、非常にリアルな「3つの切実な事情」**が見えてきます。

イメージしやすいように、あなたがメーカーの開発担当者になったつもりで聞いてください。


場面1:とりあえずの「見切り発車」

~学会発表が来週に迫っている!~

  • 状況:

    あなたは画期的な「新素材X」を発見しました。来週の学会で発表しないといけません。発表すると「公知」になって特許が取れなくなるので、急いで出願する必要があります(出願A)。

  • 問題点:

    でも、まだ実験データが足りません。「素材Xはすごい」とは言えるけど、「最適な温度」や「混ぜる比率」までは特定できていない状態です。

  • アクション(出願A):

    とりあえず、今わかっている範囲で慌てて出願します。「素材Xを含む組成物」という広い内容です。

  • 半年後(出し直し):

    実験が進み、「50℃で加熱すると最強」というデータが出ました。これを権利に入れないと、他社に模倣されてしまいます。

    そこで、**「出願Aの内容(素材X)」+「新データ(50℃)」を合体させた「出願B」**を出し直します。

★ここがポイント:

もし別々に出願すると、出願Bの「素材X」部分は、自分の発表のせいで拒絶されるリスクがあります。

「出し直し(優先権主張)」をすることで、素材Xの部分は出願Aの日(発表前)に出したことにしてくれるので、セーフになるのです。


場面2:後から思いついた「改良アイデア」

~基本特許を出した後に、もっと良い構造を思いついた~

  • 状況:

    掃除機の「基本構造」を出願しました(出願A)。

  • 問題点:

    その3ヶ月後、開発チームが「フィルターをこの形にすると、吸引力が2倍になる!」という改良発明を思いつきました。

  • アクション(出し直し):

    単独で「フィルター」だけを出願してもいいのですが、製品としては「基本構造+新フィルター」で売り出します。

    バラバラに権利を持つより、1つの強力な特許にまとめたほうが、ライバル会社を攻撃しやすくなりますし、管理コスト(年金)も1件分で済みます。

    そこで、**「基本構造(出願A)」+「改良フィルター」をセットにした「出願B」**へ出し直します。


場面3:バラバラの技術を「合体(キメラ化)」

~複数のチームの成果をまとめる~

  • 状況:

    • 1月:モーター開発チームが「新型モーター」を出願(出願A)

    • 3月:バッテリー開発チームが「長持ちバッテリー」を出願(出願B)

  • 経営判断:

    「これ、別々の部品として売るんじゃなくて、『新型EV車』としてパッケージで売り出すぞ!」

  • アクション(出し直し):

    1年以内に、**「出願Aの内容」+「出願Bの内容」+「それを組み合わせた車両制御技術」を全部盛り込んだ「出願C」**を出します。

    これで、最強の「包括的特許」が完成します。


ここで「39条」の出番はどうなる?

ここで鋭いあなたなら気づくはずです。

「あれ? 出し直したら、前の出願(A)と後の出願(B)で中身が被るよね? 39条で『協議しなさい』って言われるんじゃ…?」

ここで使う魔法が**「国内優先権(41条)」**です。

この制度を使うと、法律上こう扱われます。

  1. 後の出願(B)が出されたら、前の出願(A)は、1年3ヶ月後または4ヶ月後に「自動的に取り下げた」とみなして消滅させる。

  2. Aが消滅するので、39条(二重特許)の問題は起きない!

つまり、**「新しい完全版(B)を作るために、古い不完全版(A)を生贄(いけにえ)に捧げる」**というイメージです。

39条の「重複は許さない」というルールがあるからこそ、逆に「重複させるなら、古い方は消すシステム(国内優先権)」がセットで用意されているわけです。


まとめ

企業が「中身の被る出願」を出し直す理由は、**「開発は生き物だから」**です。

  • 最初は**「未完成」**でも出さなきゃいけない(早い者勝ちだから)。

  • 後から**「完成版」**ができる。

  • この2つを繋げて、**「最初から完成版を出していたことにしてもらう(日付の利益を得る)」**ために、あえて被せて出し直すのです。

どうでしょう?

「39条があるから被っちゃダメ」という原則と、「実務上は被せてパワーアップさせたい(そのために41条がある)」という現場のニーズ。この矛盾とその解決策が見えると、特許法はめちゃくちゃ面白くなりますよ!


次のステップ:

この「出し直し(国内優先権)」は、弁理士試験の最重要・最難関ポイントの一つです。

特に**「出し直した時、発明者はいつの時点で判断されるか?」などの細かい要件が狙われます。

次は、この「国内優先権を使うための3つの条件」**をサクッと確認してみませんか?