発明の単一性とは
特許法 第三十七条 二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性 の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。
特許法施行規則(発明の単一性)
第二十五条の八 特許法第三十七条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有している ことにより、これらの発明が単一の一般的発明概念 を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。
(特許法施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/335M50000400010#Mp-Ch_3-At_25_8)
質問:そもそも発明の単一性の要件とは?
Gemini:「発明の単一性(Unity of Invention)」は、特許出願における「整理整頓のルール」と考えると分かりやすいです。一言で言うと、「本来は『1つの出願=1つの発明』が原則だけど、技術的に密接に関連している発明グループなら、まとめて1つの願書で出していいよ」という決まりのことです(特許法第37条)。この要件の「目的」「判断基準」「具体的なイメージ」を整理しました。
1. なぜ「単一性」の要件があるの?
このルールは、出願人(あなた)と特許庁(審査官)、そして第三者のバランスを取るために存在します。
出願人のメリット(経済性):
特許庁・第三者のメリット(効率性):
📝 ノート:
「何でもかんでも詰め込んで1件の料金で審査させよう」とするのを防ぎつつ、「関連技術はまとめて効率よく権利化させてあげよう」という制度です。
2. どうやって判断されるの?(判断基準)
ここが最も重要なポイントです。単に「分野が似ている」だけではダメです。キーワードは「特別な技術的特徴(STF: Special Technical Feature)」です。複数の発明(請求項)が単一性を満たすには、それらすべてが「同一の、または対応する『特別な技術的特徴』」を持っている必要があります。
特別な技術的特徴(STF)とは?
簡単に言うと、「従来技術と比較して、発明が貢献している核心部分(=新しい工夫のポイント)」のことです。
○ 単一性あり(STFが共通)
× 単一性なし(STFが共通しない)
3. 審査の進め方(イメージ)
審査官は通常、以下のような手順で単一性をチェックします。
一番目の発明(請求項1)を見る: まず、請求項1の発明特定事項(構成要件)を把握し、先行技術調査を行います。
STFの特定: 請求項1に「新規性・進歩性」がある(=特別な技術的特徴がある)と判断された場合、その特徴を特定します。
他の請求項のチェック: 請求項2、3…が、その特定されたSTFを含んでいるか(または対応しているか)を確認します。
4. 単一性がないと言われたらどうなる?
拒絶理由通知(第37条違反)が来ますが、慌てる必要はありません。以下の対応が可能です。
補正する:
STFを共有するように請求項を書き直す。
単一性を満たさない請求項を削除する。
分割出願する:
まとめ
項目
内容
原則
1出願=1発明
例外(単一性)
**特別な技術的特徴(STF)**を共有していれば、まとめて出願OK
メリット
コスト削減(出願人)、審査効率化(特許庁)
NGな例
技術的なつながりが薄い、単なる「製品の羅列」
対策
違反したら「分割出願」で分ければOK
理解を深めるために、具体的な事例(例えば「装置」と「その装置を作る方法」など)を使って、STFがどう認定されるかシミュレーションしてみましょう。「画期的な構造を持つマグカップ」を発明したと仮定します。 この事例で、「装置(物)」と「方法」の関係性がどう判断されるかを見ていきます。
シミュレーション:【発明の名称】断熱マグカップ
まず、前提として**「従来技術(世の中にすでにあるもの)」と、今回の 「発明のポイント」**を定義します。
この「ハニカム構造の樹脂シート(素材Z)を挟んだ構造」が、今回の特別な技術的特徴(STF)候補です。
📝 出願する請求項(クレーム)の構成案
あなたは欲張って、以下の3つの請求項を1つの願書に書きました。
【請求項1】(物の発明)内筒と外筒の間に、「ハニカム構造の樹脂シート(素材Z)」が配置されていることを特徴とする断熱マグカップ。
【請求項2】(方法の発明:生産方法)内筒と外筒の間に「ハニカム構造の樹脂シート(素材Z)」を挿入し、両筒を接合することを特徴とする断熱マグカップの製造方法。
【請求項3】(方法の発明:別の方法)内筒と外筒の飲み口部分を、「レーザー溶接」によって接合することを特徴とする断熱マグカップの製造方法。
審査官による「単一性」チェックのシミュレーション
審査官になったつもりで、順番にチェックしていきましょう。
ステップ1:【請求項1】のチェック
審査官はまずメインの発明を見ます。「ハニカム構造の樹脂シート(素材Z)」を使ったマグカップは、過去の文献にありませんでした。
ステップ2:【請求項2】のチェック
次に、「製造方法」を見ます。
この請求項には、「ハニカム構造の樹脂シート(素材Z)を挿入し…」と書いてあります。
解説: 「物」と「その物を生産する方法」は、基本的にセットで単一性が認められます。
ステップ3:【請求項3】のチェック
最後に、もう一つの製造方法を見ます。ここには「レーザー溶接で接合する」としか書いておらず、「ハニカム構造の樹脂シート」については触れられていません(あるいは、ハニカムシートを使わなくても成立する書き方になっています)。
チェック: ステップ1で認定されたSTF(ハニカムシート)を含んでいるか?
判定: NO 。
再チェック: じゃあ、「レーザー溶接」自体に新しさ(別のSTF)はあるか?
結論: 【請求項1】と【請求項3】は、共通の「特別な技術的特徴」がないため、単一性違反(第37条違反)となります。
結果:どうなるの?
特許庁から以下のような通知が来ます。
「請求項1と2はOKです」 (これらは審査が進みます)
「請求項3は、請求項1と技術的な関連性(STFの共有)がないので、この出願では審査しません」 (拒絶理由)
あなたが取るべき対応策
請求項3(レーザー溶接の方法)もどうしても権利化したい場合:
まとめ:この事例のポイント
このように、「何がこの発明のウリ(STF)なのか?」を常に意識して、それがすべての請求項に含まれているかを確認するのがコツです。
(Gemini)
下の動画は、発明の単一性に関する歴史的な経緯も詳しく述べられていて、知財検定過去問題を題材に、具体的な事例に基づいた考え方まで解説がありました。大学の先生のYOUTUBEチャンネルですが、感動するほどわかりやすい講義でした。
【これでカンペキ】発明の単一性の出題パターンを徹底解説【知財検定2級過去問】 村井PのYouTube大学 チャンネル登録者数 5540人
VIDEO
発明の単一性の要件と拒絶理由
教科書を読んでいたら、「特許請求の範囲の記載が、発明の単一性の要件を満たさないことは、拒絶の理由であるが、異議理由及び無効理由ではない。 」 と書いてありましたが、なぜそうなるのかが、ちっともわかりません。AIに訊いてみました。
依頼:「特許請求の範囲の記載が、発明の単一性の要件を満たさないことは、拒絶の理由であるが、異議理由及び無効理由ではない。」の文の意味するところを中高生にもわかるくらいに、わかりやすく説明して。
Gemini:はい、これは「なぜか?」がわかるとスッキリします。 その一文が言いたいのは、「発明の単一性は、単なる『事務手続き上のお願い 』であって、発明の『価値(中身)』とは関係ないから」ということです。 中高生にもわかるように、「学校のテスト」に例えてみます。
🏫 例え話:学校のテスト
「発明の単一性」とは、「答案用紙(願書)の書き方ルール 」だと思ってください。
学校のルールで、こう決まっています。
【ルール(発明の単一性)】
答案用紙1枚(特許出願1件)につき、1科目 (例:「数学」)の答えだけを書いてください。
「数学」と「歴史」と「英語」の答えを、1枚の答案用紙にごちゃ混ぜに書いてはいけません。
1. なぜ「拒絶理由」になるのか?(審査官のチェック)
あなたは今、受験生です。
「数学」と「歴史」の答えを、1枚の答案用紙にごちゃ混ぜに書いて提出してしまいました。
採点する先生(=審査官)は、これを見てこう言います。
「こら! ルール違反だ。1枚に1科目って言っただろ! この答案用紙(願書)は受け取れない(=拒絶)!
「数学」と「歴史」で、ちゃんと答案用紙を2枚に分けて(=出願を分割して)出し直しなさい」
ポイント: これは、あなたの「数学の答え(発明の中身)」が間違っているから怒られたのではありません。「答案用紙の書き方(手続き)」がルール違反だから怒られました。
2. なぜ「異議・無効理由」にはならないのか?(ライバルのチェック)
さて、場面は変わります。
先生(審査官)は、そのごちゃ混ぜの答案用紙(願書)をうっかり見落として採点してしまいました。
そして、「数学」の部分だけを採点し、「100点満点だ!」として、「数学」の合格証(=特許証)をあなたに出しました。
【合格後(特許登録後)】
これを見たライバルの生徒(=一般人やライバル企業)が、先生に文句を言いに来ました。
ライバルの主張:「先生! あいつの答案用紙、ずるい! 『数学』と『歴史』をごちゃ混ぜに書いてましたよ! あんなルール違反の答案は無効です! 合格証(特許)を取り消してください!」
先生(=特許庁)の反論:「いいえ、ダメです。合格証(特許)を出した後に文句を言えるのは、『答えの中身(発明の価値)』に関することだけです。例えば、『あいつの数学の答え、本当は間違っているぞ!(=新規性・進歩性がない)』という文句なら聞きます。『答案用紙の書き方が汚かった』とか『ルール違反の用紙だった』というのは、単なる手続き上のミス(事務処理ミス )です。 数学の答え(発明)が100点満点であること自体は変わらないのだから、今さら手続きのミスを理由に合格(特許)を取り消すことはしません」
💡 まとめ
拒絶理由
タイミング: 合格(特許)にする前 。
チェックする人: 先生(審査官)。
チェック内容: ①手続きミス (答案の書き方)も、②中身の間違い (答え)も、両方チェックする。
異議・無効理由
タイミング: 合格(特許)にした後 。
チェックする人: ライバル(一般人)。
チェック内容: ②中身の間違い(発明の価値)だけ。①手続きミスは、もう文句を言えない。
「発明の単一性」は①手続きミスに過ぎません。
だから、先生(審査官)は拒絶できるけど、ライバル(一般人)は後から無効にできないのです。
(Gemini)