分割出願における審査請求の期間は、「原出願の日から3年」と「分割出願の日から30日」のどちらか遅い方までとなります。
## 1. 原則:原出願の日からカウント
分割出願は、法律上「原出願の時にしたもの」とみなされます(遡及効)。
そのため、審査請求の期限も原出願の日(親出願の出願日)から3年以内というのが基本ルールです。
> 例:
> * 原出願日:2020年1月1日
> * 原則の期限:2023年1月1日まで
>
## 2. 特例:分割の日から30日以内
しかし、分割出願は原出願から数年経ってから(例えば拒絶査定不服審判の請求時など)行うことも多いです。その時点で「原出願から3年」が過ぎてしまっていることがあります。
その救済措置として、以下の特例があります。
* ルール: 分割出願をした日から30日以内であれば、審査請求が可能。
## 3. まとめ:どちらか遅い日まで
上記1と2を合わせると、実務上の期限は以下のようになります。
| ケース | 具体的な状況 | 審査請求の期限 |
|—|—|—|
| A | 原出願からまだ3年経っていない | 原出願の日から3年以内 |
| B | 原出願から3年経過後(または期限間近) | 分割出願の日から30日以内 |
> ⚠️ 注意点(ここが重要!)
> ケースB(3年経過後の分割)の場合、分割出願と同時、あるいは直後に審査請求を行う必要があります。
> 「とりあえず分割だけしておいて、あとで審査請求しよう」と思っていると、あっという間に30日が過ぎてしまい、権利化できなくなるリスクがあります。
>
補足:PCT出願(国際出願)に基づく場合
原出願がPCT出願(日本語特許出願とみなされる国際出願)の場合でも、基本的な考え方は同じですが、起算点となる「原出願の日」は国際出願日となります。(国内書面提出日ではないので注意が必要です。)
「後願(こうがん)」ですね。その言葉が出るということは、おそらく**「国内優先権の主張(国内優先)」**のルールと記憶が混同されている可能性が高いです。非常に紛らわしい部分ですので、整理します。
## 「後願」から数えるのは、国内優先権の話
「3年の審査請求期間」を**「後願(後の出願)から数える」**のは、分割出願ではなく、国内優先権を主張した出願の場合です。
ここが知財実務や試験で最も引っかかりやすいポイントの一つです。
| 手続きの種類 | 3年のカウント開始日(起算点) |
|—|—|
| 分割出願 | × 後願(分割出願日)からではない
○ 原出願(もとの出願日)から3年 |
| 国内優先権 | ○ 後願(優先権主張した実際の出願日)から3年
× 先の出願(基礎出願)からではない |
## なぜ「後願」と勘違いしやすいのか
* 分割出願(遡及効あり)
* 法律上「原出願の時にしたもの」とみなされるため、時計の針を原出願まで戻してカウントします。
* そのため、原則は「原出願から3年」です。(例外として、分割の日=後願の日から30日という救済はあります)
* 国内優先権(遡及効なし)
* 新規性などの判断は「先の出願」を基準にしますが、審査請求期間の計算などの手続き期限は、時計の針を戻さず**「後願(実際に手続した日)」**を基準にします。
* ここで「後願から3年」というルールが出てくるため、分割出願のルールとごっちゃになりやすいのです。
## 結論
* 分割出願の場合:
* 「後願(分割した日)」から3年数えるルールはありません。
* 「原出願」から3年です。(※ただし、分割の日から30日以内ならOKという特例はあります)
* 国内優先権の場合:
* 「後願(優先権主張出願の日)」から3年です。
この「国内優先」の知識が頭の片隅にあって、「分割も後願からだっけ?」となられたのではないでしょうか?
記憶定着用にシンプルな比較図を置いておきますね。
📌 3年のカウント開始地点メモ
* 分割出願 ✂️
* 時計を戻す
* スタート:原出願(親)の日
* 国内優先権 🥇
* 時計はそのまま
* スタート:後願(子)の日
ポイントとなる条文は、特許法第44条と第48条の3です。先ほどの「分割出願」と「国内優先権」の違いを生んでいる根拠条文を整理します。
1. 分割出願の条文(原出願から数える理由)
分割出願の審査請求期限が「原出願から3年」になる根拠は、**「出願日が遡(さかのぼ)る」**と書かれているこの条文です。
> 特許法 第44条 第2項(特許出願の分割)
> 「分割に係る新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」
>
* 解説: この「みなす(遡及効)」があるため、審査請求の期限を計算する際も、時計の針を「もとの出願日(原出願)」に戻して計算します。
また、特例(分割から30日以内)の根拠はこちらです。
> 特許法 第48条の3 第2項(出願審査の請求)
> 「特許出願の分割…があつた場合においては、…期間の経過後であつても、その分割…の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。」
2. 国内優先権の条文(後願から数える理由)
一方で、国内優先権(後願から3年)については、「出願日を遡らせる」という条文が存在しないことが理由です。
国内優先権の条文(第41条)には、「新規性などの判断については、先の出願の時にしたものとみなす」とは書いてありますが、「出願そのものを先の出願の時にしたものとみなす」とは書いてありません。
そのため、原則通りの条文が適用されます。
> 特許法 第48条の3 第1項(原則)
> 「特許出願があつた日から三年以内に、…出願審査の請求をすることができる。」
* 解説: 優先権主張をしても「出願があった日」はあくまで「実際に書類を出した日(後願の日)」のままです。だから、後願から3年となります。
まとめ:条文構造の比較
| | 根拠条文 | ロジック | 結果(起算日) |
|—|—|—|—|
| 分割出願 | 第44条第2項 | 「原出願の時にしたものとみなす」
(完全な遡及) | 原出願日 |
| 国内優先権 | 第41条
(第48条の3第1項) | 手続き期限に関する遡及の規定がない
(原則通り) | 後願日
(実際の出願日) |
「44条2項があるから遡る(分割)」、「41条にはそれがないから遡らない(国内優先)」と覚えると、条文レベルでもスッキリ整理できます!
(Gemini)