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ユビキチン化を英語でうまく説明している文章 論文紹介

言語で複雑な現象を説明するのはなかなか難しいものです。ユビキチン化を英語でうまく説明している文章をいくつか紹介します。

論文1

Targeting the UPS as therapy in multiple myeloma 21 October 2008  BMC Biochemistry

ここでUBIQはubiquitinの略。

  1. In the first reaction, the E1 ubiquitin enzyme activates UBIQ
  2. and attaches it to the ubiquitin-conjugating enzyme E2 in an ATP-dependent manner.
  3. The E3 ubiquitin ligase then links the UBIQ molecule to the target protein or to a previously attached UBIQ moiety.
  4. Sequential cycles of this process lead to the formation of polyubiquitylated proteins
  5. that are eventually degraded by the proteasomes into small peptides,
  6. with re-cycling of free UBIQ.
  7. Importantly, E3 ubiquitin ligases confer specificity in the UBIQ signaling pathway by selectively targeting potential protein substrates for ubiquitylation and subsequent proteasomal degradation.
  8. Three proteasomal activities that regulate proteolysis are chymotrypsin-like (CT-L), trypsin-like (T-L) and caspase-like (C-L), also known as β5, β2 and β1, respectively; all of these reside within the 20S proteasome core.

文献2

Biochemistry, Ubiquitination Last Update: January 24, 2022.

  1. It is a three-step process involving three enzymes:
  2. ubiquitin-activating enzyme (E1),
  3. ubiquitin-conjugating enzyme (E2),
  4. and ubiquitin-protein ligase (E3).
  5. The result of this cascade of reactions is the linkage of one molecule of ubiquitin to a protein, known as mono-ubiquitination.
  6. Additional molecules can be attached to any of the seven lysine residues or the N-terminus of the ubiquitin molecule to form ubiquitin chains, resulting in polyubiquitination.
  7. Polyubiquitination subsequently leads to the initiation of proteolysis of the substrate by serving as the recognition signal for the 26S proteasome.

 

ユビキチンの活性化とは

E1はユビキチン活性化酵素と呼ばれますが、「活性化」とは具体的にどうなった状態なのでしょうか。多くのレビュー記事では、そこまで細かく具体的に説明していません。

まずATP依存的にUbのC末端のグリシンとE1の活性中心のシステイン残基の間に高エネルギーチオエステル結合が形成され, ユビキチンが“活性化”される. 活性化されたユビキチンはさらにATP依存的にE2の活性中心であるシスティン残基に転移される. (ユビキチンシグナリングとその生物学的意義

Canonical Ub/Ubl conjugation cascades entail adenosine 5′-triphosphate (ATP)-dependent Ub/Ubl adenylation by an E1 activating enzyme (AE), formation of a high-energy thioester bond between a Ub/Ubl and AE, thioester transfer to an E2 conjugating enzyme, and formation of an amide bond after an amine substrate attacks the E2∼Ub/Ubl thioester. This last step can be catalyzed by E3 protein ligases either noncovalently or by formation of an E3∼Ub/Ubl thioester bond before conjugation. Adenylate-forming enzymes that use ATP to activate carboxylic acid substrates for subsequent conversion to thioesters and other metabolic intermediates are widely distributed outside the Ub/Ubl pathway(Structural basis for adenylation and thioester bond formation in the ubiquitin E1 2019年)E1とユビキチンがチオエステル結合を作る前の中間体として、ユビキチンがアデニル化されています。化学構造式あり。

ポリユビキチン鎖形成のナゾ

ポリユビキチン鎖が伸長するにつれて,活性中心が空間的に移動するという生化学反応の根幹を逸脱する現象が生じる.(直鎖状ポリユビキチン鎖の発見とその機能 生化学 第84巻 第11号,pp.920―930,2012)

ユビキチンの発見

1970年代後半から,HershkoとCiechanoverは網状赤血球系を対象に一連の独創的な研究を行い,その集積としてユビキチン仮説を提出した。この仮説はエネルギーを要求するタンパク質分解系という意外性のために当時は疑いの目で見られ,発表後4年もの間競争相手が全く出現しなかったという。(ユビキチン:タンパク質分解の多彩な役割 新潟大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面再建学講座硬組織病態生化学講座織田公光)

ユビキチンは,当初,ヒストンに共有結合している普遍的な修飾分子として報告されていたが,のちにATP依存性タンパク質分解系の必須因子として再発見された.(変異型ユビキチンによるユビキチン化タンパク質の網羅的解析 〔生化学 第84巻 第6号,pp.479―487,2012)

ユビキチン鎖の多様性

  1. https://nds.dent.niigata-u.ac.jp/journal/312/t312_oda.pdf

 

ユビキチン化に関する参考論文・参考記事

  1. ユビキチンシグナリングとその生物学的意義 村田茂穂 田中啓二 日老医誌 2004; 41: 254-262) 非常にわかりやすい解説記事
  2. チューブリン翻訳後修飾酵素による繊毛の構造・運動制御 生物物理52(4),178-181(2012) ノーベル賞の対象にもなったリン酸化(1992年授与)やユビキチン化(2004年授与)をはじめ,これまでに多くの翻訳後修飾が報告されている(表1).
  3. 小さな働き者SUMO(スモ) 2005.6.23 ~ 大きな構造変化でタンパク質の機能をスイッチング ~ SUMOはユビキチンに構造がよく似た小さなタンパク質としてSmall Ubiquitin-like Modifier「小さなユビキチン様修飾因子」と名付けられました。ユビキチンは、その名前がubiquitous(ユビキタス、広く存在する)から来ているように、ヒトから酵母菌まで広く存在していますが、SUMOも同じようにいろいろな種にわたって存在しています。SUMOは、ユビキチンのようにタンパク質の分解のシグナルとしての働きはありませんが、SUMOが他のタンパク質に結合し、そのタンパク質の機能をコントロールしているさまざまな例がわかってきました。
  4. ユビキチン修飾系とは ユビキチン修飾系は1978年にエネルギー依存的タンパク質分解系の一部として発見されたタンパク質翻訳後修飾系であり、細胞周期・シグナル伝達・転写調節など数多くの生命現象を制御しています(図1)。
  5. タンパク質の目印が様々な病気と関係することを世界で初めて発見!徳永文稔 不良タンパク質を識別して選択的にユビキチン修飾するメカニズムは、アブラム・ハーシュコ(Avram Hershko)やアーロン・チカノバー(Aaron Ciechanover)らのイスラエルの研究者らによって発見され、そのユニークな分子反応機構と生理的な重要性から2004年にノーベル化学賞を受賞しました。また、プロテアソーム田中啓二博士(東京都医学総合研究所・所長)らが発見した重要なタンパク質分解酵素です。‥ 今回の研究で私たちは、「直鎖状ユビキチン鎖」という全く新しい真っ直ぐなタイプのユビキチン鎖を作る酵素を見出し、この直鎖状ユビキチン鎖が炎症応答や免疫制御に重要なNF-κB(エヌ・エフ・カッパー・ビー)というシグナル伝達を制御することを発見しました(図1b)。さらに、この酵素の構成因子が遺伝的になくなったマウスでは、重篤な皮膚炎を発症することを明らかにしました。

その他の参考記事

  1. チオエステル(コトバンク)クリスチャン・ド・デューブ(ノーベル生理学・医学賞受賞者)は、ATPがエネルギー通貨として登場する以前の生命の誕生するプロセスで、チオエステルに基づいた反応系からなるチオエステル・ワールドがあったのでは チオエステルはカルボン酸 (RCOOH) とチオール (R−SH) とが結合して形成 チオエステル結合は生化学者が高エネルギー結合と呼ぶもので、アデノシン三リン酸 (ATP) のピロリン酸結合と等価

オートファジー

ノーベル委員会が大隅博士の単独受賞の根拠として4編のKey Publicationsを挙げた

(1)酵母のオートファジーの発見に関する論文(J Cell Biol. 1992)
(2)網羅的な酵母のオートファジー遺伝子の分離に関する論文(FEBS Lett. 1993)
(3)翻訳後修飾分子Atg12によるユビキチン様のタンパク質共有結合反応システムを発見した論文(Nature 1998)
(4)翻訳後修飾分子Atg8によるユビキチン様の脂質共有結合反応システムを発見した論文(Nature 2000)

論文(1)は、出芽酵母におけるオートファジーの発見を、最初に報じたものであった。‥大隅博士は、この酵母システムを縦横無尽に駆使して、約15個のオートファジー遺伝子の単離に成功したのである(論文2)。‥ 論文(3)と(4)は、世界を震撼させた「オートファジー機構の解明」に関する論文である。大隅博士が単離したオートファジー遺伝子の約半数が、Atg12とAtg8を翻訳後修飾分子とする「ユビキチンと類似の共有結合反応システム(Atg12- and Atg8-Conjugation System)(Nature 1998, 2000)を構成していること」が判明したのである。そして、これらの二つの酵素系(タンパク質修飾系と脂質修飾系)が、オートファゴソーム膜形成に必須であることを突き止めた。

2016-10-27 大隅良典博士の功績と憂愁 田中啓二 (東京都医学総合研究所)

Charles A. Janeway(チャールズ・ジェインウェイ)

ジェインウェイの名は教科書の名前で知りましたが、自然免疫学の父と称される人だそうです。免疫学の教科書を見ると「病原体関連分子パターン」とか「パターン認識受容体」などという奇妙な言葉に遭遇して、なんだろうこれ?とモヤモヤしていたのですが、この言葉を提唱した人こそがジェインウェイさんでした。1989年の「免疫学における進化と革命、近づく漸近線?」(Approaching the asymptote? Evolution and revolution in immunology)という学会発表の中で提唱したのだそうです。

ジェインウェイさんのパターン認識受容体仮説によれば、人間には「病原体が持つ特有の構造に対する免疫反応があるはず」というものです。この仮説が提唱された時代は、ランダムな組換えによって無数の構造のバリエーションが作り出されて、たまたまそれが認識できるものを認識することで免疫応答が生じるというものでした。利根川進が「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞したのが1987年ですから、当時はランダムに作られた多様性が微生物を認識するということが常識だったのでしょう。微生物の構造をもともと認識することができるというのは、それに反する考え方でした。しかし結果的に、ジェインウェイさんの仮説を支持するエビデンスが1996年になって初めて報告されたのでした。

参考

  1. 自然免疫学の父 (熊本大学大学院生命科学研究部大学院医学教育部医学部医学科免疫学講座)
  2. Of Flies and Men—The Discovery of TLRs Cells 2022, 11(19), 3127;
  3. Pattern Recognition Receptors and the Host Cell Death Molecular Machinery Front. Immunol., 16 October 2018
  4. Pattern Recognition Theory and the Launch of Modern Innate Immunity NOVEMBER 01 2013
  5. Charles A. Janeway, Jr. 1943-2003 Published: 01 June 2003 Nature Immunology チャールズ・A・ジェインウェイ・ジュニア 1943年~2003年 ルスラン・メジトフ 公開:2003 年 6 月 1 日
  6. Obituary Charles A. Janeway Jr (1943–2003) Nature  15 May 2003
  7. Lemaitre, B.; Nicolas, E.; Michaut, L.; Reichhart, J.-M.; Hoffmann, J.A. The Dorsoventral Regulatory Gene Cassette spätzle/Toll/cactus Controls the Potent Antifungal Response in Drosophila Adults. Cell 199686, 973–983. Tl-deficient insects were dramatically affected by the fungus.  
  8. Chapter 2: Innate Immunity Stuart E. Turvey, MB BS, DPhil1 and David H. Broide, MB ChB  J Allergy Clin Immunol. 2010 Feb; 125(2 Suppl 2): S24–S32. Published online 2009 Nov 24. doi: 10.1016/j.jaci.2009.07.016
  9. Approaching the asymptote? Evolution and revolution in immunology. JANEWAY C A JR  Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology (Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology) 巻: 54 号: Pt 1 ページ: 1-13 発行年: 1989年

免疫学のストーリーによる理解『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』

免疫学は複雑すぎてなかなか頭に入ってきません。ブルーバックスの『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』は、生体に病原菌が侵入されてから生体内でおこる様々な免疫学的な事象をストーリーを追いながら説明してくれていて、とても理解の助けになります。免疫学の世界的な権威である日本人研究者らによって書かれているので、読んでいて安心感があります。この本を読んで得た知識をもとに、自分なりに再構成してみます。

細菌の生体内への侵入とマクロファージによる対応

転んで膝を擦りむiいたりした傷口から病原体(細菌)が侵入する。

マクロファージという名の細胞が細菌を食べる。その際、Toll-like receptor(TLR)によって細菌特有の構成物質(リポ多糖など)を認識して「活性化」する。

*マクロファージ(macrophage 大食細胞 だいしょくさいぼう macroは大きい、phageは食べるの意味)

活性化したマクロファージはサイトカインと呼ばれる物質を周囲に放出し、周りにいるマクロファージを「活性化」する。。余談だが、実はTLRはマクロファージに限らず全身のほぼすべての細胞で多少なりとも発現している。つまりマクロファージでなくても普通の細胞だっても、細菌などの病原体を認識して「警報」であるサイトカインを放出する。また、サイトカインの一種であるケモカイン(他の細胞を遊走させるサイトカインの呼称)を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せると同時に血管の壁をつくっている血管内皮細胞同士の結合を緩める。これにより、血管の壁の隙間から、血液中に存在した免疫細胞が血中から血管壁を通り抜けて、傷口の近くの組織内に移動してくることができる。

好中球が応援にかけつける

マクロファージからのシグナルを受けて、血液中にいた好中球が血管の壁の隙間を通り抜けて、傷口付近へと集まってくる。

好中球は殺菌作用を持ち、細胞数も多数。病原体を倒して死んだ好中球の塊が「膿(うみ)」と呼ばれるものの実体。

樹状細胞による対応

マクロファージと並ぶ食細胞として、樹状細胞があります。樹状細胞もマクロファージとどうように、侵入者である細胞を食べてToll-like receptor(TLR)の働きで活性化します。マクロファージと大きくことなるのは、樹状細胞はいわゆる「自然免疫」の一員でありながら、いわゆる「獲得免疫」を発動するための司令塔である点です。つまり、自然免疫と獲得免疫とをつなぐ重要な位置にいる細胞なのです。

*TLRのように細菌特有の構造を認識する受容体のことを、パターン認識受容体と呼ぶ。

リンパ節で起こること(1):ナイーブヘルパーT細胞の活性化

活性化した樹状細胞は、その形を「樹状」に変え近くのリンパ節へ移動します。樹状細胞は食べた細菌のタンパク質をペプチドにまで分解し、MHCクラスIおよびMHCクラスIIという名前のタンパク質の上にこのペプチドを載せた状態で膜上にそれを提示します。樹状細胞の表面の膜状に提示された「MHCクラスI+ペプチド」と「MHCクラスII+ペプチド」とは、それぞれ異なる種類の細胞が認識します。「MHCクラスII+ペプチド」を認識するのがナイーブヘルパーT細胞、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞です。ナイーブという意味は、これまでに抗原刺激を受けたことがないという意味です。ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞、キラーT細胞はCD8陽性細胞とも言われます。CD4とCD8はそれぞれヘルパーT細胞とキラーT細胞を特徴づける膜表面上の分子で、MHCクラスIIの認識、MHCクラスIの認識にそれぞれが必要となります。

さて、ヘルパーT細胞もキラーT細胞も、T細胞受容体という名前の分子(T Cell Reseptor; TCR)を表面膜上に持っています。T細胞受容体の「可変部」は10億通り以上もの多様性があると言われており、一つのT細胞は、基本的に、その多様な構造のなかの一つの形だけを選んでつくられたTCR分子を発現しています。おなじ形のTCRを持ったT細胞は全身で100個程度しかないと言われています。問題は、今回侵入してきた細菌のタンパク質由来のペプチドを樹状細胞が提示したときに、提示されたペプチド(+MHC)とぴったりと結合できるT細胞と出会えるかどうかというところです。リンパ節で、樹状細胞は多数のT細胞と接触しながら相手を探すことになります。自分とぴったり合う相手を見つけるのは大変です。一か所に留まっているだけで出会えるとは限りません。樹状細胞やT細胞などの免疫細胞は、一つのリンパ節にずっととどまっているわけではなく、リンパ節を出てリンパ管に入り、静脈(血管)に入り、心臓を経由して動脈、末梢、リンパ管、リンパ節といった循環を常にしています。動き回ることで相手に出会う可能性を高めています。「リンパ節で」と書いてしまいましたが、外で動いている最中に出会うこともあるのでしょう。

ここからは、ヘルパーT細胞とキラーT細胞とで、それぞれ別イベントが並行して起きていきますので、まずはヘルパーT細胞についてみていきましょう。

ヘルパーT細胞の活性化

樹状細胞が提示するMHCクラスII+ペプチドと結合できるようなTCRを持っていたヘルパーT細胞は、活性化されます。ただし、この結合だけでは活性化の十分条件にはなりません。補助刺激分子として、樹状細胞が膜上に出しているCD80/86に、ヘルパーT細胞が表面膜上に出しているCD28が結合することが必要です。さらに、樹状細胞が放出するサイトカインをヘルパーT細胞が受け取ることも必要です。この3つが揃って初めてヘルパーT細胞が活性化させるのです。CD80/86の発現と、サイトカインの放出は、病原菌に遭遇して活性化した樹状細胞だけが起こしているものです。

この3条件が必要と聞くと、なんか複雑だなあと嫌気がさすかもしれませんが、その意義を考えてみると、このことが非常に興味深い、生物の巧妙さを示していることがわかります。というのは、樹状細胞は普段から自己の細胞の死骸なども食べているのです。自分が食べたタンパク質を分解してできたペプチドもMHCに載せて細胞表面に提示しています。しかし、普段、自己の体由来のタンパク質のごみ処理をしているだけだと、パターン認識受容体を介したシグナルを受けていないので「活性化」はしていません(特徴的な樹状になっていない)。活性化していないので、CD80/86を発現しておらず、サイトカインの放出もしません。しかし、たまたま自己抗体を認識してしまうT細胞が存在する可能性があります。その場合、MHCII+ペプチドとTCRが結合してしまうのですが、T細胞は活性化されなくて済むのです。つまり、確実に外来性の抗原を認識できたときだけT細胞が活性化するような仕組みになっているというわけです。

ちなみに、病原菌由来のタンパク質を分解してペプチドにまでしたとき、さまざまな種類のペプチドが生じます。ですから、ひとつの樹状細胞は、同一細菌由来の多数の種類のペプチドを提示していることになります。それらのそれぞれのペプチド(+MHC)を認識するT細胞たちが活性化させることになります。

話がややこしくなるのでここでは詳しい言いませんが、ナイーブヘルパーT細胞が活性するときに、実は3種類の活性化ヘルパーT細胞になる可能性があります。1型(Th1)、2型(Th2)、17型(Th17)の3種類です。Th17はだいぶあとに発見されものでIL-17を産生することから17という数字が呼称になっています。

活性化ヘルパーT細胞による現場の応援

リンパ節で活性化したヘルパーT細胞(Th1)は、現場のマクロファージが出したケモカインを頼りに、血中から出て外来の病原菌が侵入してきた現場に向かいます。実はマクロファージにも、樹状細胞ほどではないながらも、抗原提示機能があります。マクロファージが提示する「MHCクラスII分子+抗原ペプチド」を、活性化ヘルパーT細胞が認識できます。同じ病原菌由来のペプチドを樹状細胞が提示していて、それに反応できたヘルパーT細胞なので、マクロファージの中にも同じ抗原が提示された場合があるはずなわけです。さっきの樹状細胞との相互作用の3条件は、マクロファージに関しても当てはまります。つまり、MHCクラスII+ペプチドをTCRで認識、CD80/86をCD28 で認識、マクロファージから放出されたサイトカインの認識、の3条件がそろうと活性化ヘルパーT細胞(Th1)が今度はCD40L分子によってマクロファージを刺激します。受けて側のマクロファージはCD40という膜上の分子によりこのシグナルを受け取り、さらに、活性化T細胞からのサイトカインの放出も受けて、貪食能力がパワーアップします。

ここまでのストーリーで面白いのは、自然免疫の細胞であるマクロファージから始まって、獲得免疫を経由して、再び、マクロファージのパワーアップ(自然免疫)というところに行きついた点です。獲得免疫と自然免疫とは別々に働くものではなく、このように協調して働いているんですね。

活性化ヘルパーT細胞によるB細胞に対するヘルプ

さてリンパ節においてヘルパーT細胞が活性化しましたが、現場に向かって現場のマクロファージをヘルプするだけでなく、リンパ節においても非常に重要な仕事をします。それは、B細胞をヘルプすること。B細胞は、抗体を産生する細胞ですが、病原体に対する抗体を大量に生産するプラズマ細胞にB細胞が変化するためには、ヘルパーT細胞からのヘルプが必要なのです。B細胞はB細胞抗原受容体(B cell antigen receptor; BCR)という分子を膜表面に出しています。BCRは膜に結合している部分の外側は、抗体そのものです。傷口から侵入した病原菌のやその残骸はリンパの流れにのってリンパ節にも入ってきます。BCRも1000億通りの構造があるといわれており、特定の構造を持つBCRを一種類だけ、一つのB細胞が発現しています。ですから、たまたま病原菌由来のタンパク質をBCRで認識できるB細胞が存在するわけです。抗原からの刺激を過去に受けたことがないB細胞は、ナイーブB細胞と呼ばれます。

さて抗原となるタンパク質をBCRで認識したナイーブB細胞は、実は抗原提示機能を持っています。MHCクラスII分子に分解したペプチドを載せて、他の細胞にたいして提示するのです。つまりBCRでタンパク質全体を認識する一方で、その断片であるペプチドもMHCII分子とともに提示しているのです。このような抗原提示を、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)が認識するというわけです。すでに同じ病原体によって活性化ヘルパーT細胞は十分な数にまで増殖していますので、この病原体を認識したB細胞が提示する抗原を認識できる活性化ヘルパーT細胞は、増殖により十分な数存在すると考えられます。

さて、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)によるB細胞の活性化ですが、ここでもやはり複数の条件が必要になります。すなわち、B細胞が提示するMHCクラスII分子+ペプチドを活性化ヘルパーT細胞のTCRが認識すること、少しだけ活性化したことによってB細胞が発現したCD80/86をT細胞のCD28が認識することです。これらの条件が揃うと、T細胞はCD40Lによる刺激をB細胞にあたえ、B細胞はそれをCD40によって受け取ります。また、T細胞はサイトカインをB細胞に対して放出します。こうして、ナイーブB細胞は、活性化して、増殖し最終的にはプラズマ細胞に分化します。活性化したB細胞が、抗原に対する特異性の髙い抗体(IgG)を大量に生産するプラズマ細胞になるまでには、2つの大きな変化を伴います。ひとつが「親和性成熟」で、もうひとつが「クラススイッチ」です。

活性化B細胞からプラズマ細胞へ:親和性成熟とクラススイッチ

活性化B細胞は、そのBCRが抗原に反応できたからこそ、活性化したわけですが、実は抗原に対する結合の強さ(親和性)は非常に強いわけではありません。そこで、突然変異を可変領域内にランダムに導入することにより、もっと強力に抗原に結合できる抗体をつくるということをするのです。これを親和性成熟と呼びます。変異をランダムに入れるので、親和性が高まることもあればむしろ低くなることもあります。親和性が高くないものは、細胞死に追いやられます。この過程はリンパ節の中の「胚中心」と呼ばれる場所で起こります。その際、抗原を提示する役割を担うのが、濾胞樹状細胞(FDC)です。FDCは抗原を”ショーウインドウ”のように並べていて、B細胞がつくる抗体(IgG)の結合性をチェックします。

BCRの実体はIgMですが、クラススイッチというのは、Ig(免疫グロブリン)の型が遺伝子組み換えにより、例えばIgMからIgGへと変化することです。

抗体の働き方:中和とオプソニン化

食細胞のように、病原体を食べてしまうことによりやっつけるというのは話としてわかりやすいのですが、病原体を認識する抗体を作ったからといって、その抗体がどうやって的を倒してくれるのでしょうか。抗体の働き方には大きく分けて2つの種類があります。一つは、「中和」です。例えば、生体内に侵入してきた病原菌が毒となるタンパク質を産生していたとします。その場合、その毒に対する抗体が結合することにより、その毒が働けないようにしてくれることがあります(中和という)。抗体が結合したことで無毒化された毒は、食細胞が食べて処理してくれます。ウイルスの表面タンパク質に対する抗体も、ウイルスに抗体が結合した結果、そのウイルスが細胞表面に結合できないため感染できなくなります。もうひとつが「オプソニン化」です。抗原や病原体に抗体が結合すると、抗体の根元部分(Fc領域という)の構造が変化して、食細胞の膜表面にあるFc受容体と結合できて、食細胞が食べて処理してくれます。

マクロファージのような食細胞は、「自然免疫」に分類されます。しかし、今までみてきたように、「自然免疫」に分類される細胞と、「獲得免疫」に分類される細胞とは協同して、互いを刺激してパワーアップさせながら、外敵と戦っていたのでした。

さて、ここまではもっぱら病原菌の侵入を想定して、どんな免疫反応が生じるかを見てきました。また、リンパ節でヘルパーT細胞が活性化したあとの話しがずっと続いてきました。そこでは、もうひとつ、キラーT細胞にちょっとだけ言及しました。ここからは、キラーT細胞が主役となる免疫反応を見ていきましょう。キラーT細胞は、その名が示すように、相手をキル(殺す)することができます。

リンパ節に移動した樹状細胞は「MHCクラスII+ペプチド」を提示しているだけでなく、「MHCクラスI+ペプチド」も同時に提示しています。そして、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞(CD8陽性T細胞)です。MHCクラスIIはCD4陽性T細胞、MHCクラスIはCD8陽性T細胞で認識される仕組みは、CD4がMHCクラスIIを認識し、CD8がMHCクラスIを認識することができるからです。これらは、抗原提示部分ではない領域に結合します。どっちがどっちだったか混乱しないような覚え方として、「8の法則」がお勧めです。Ix8=8、IIx4=8と言う組みあわせです。

リンパ節で起こること(2):ナイーブキラーT細胞の活性化

樹状細胞とキラーT細胞との相互作用に関しては、ヘルパーT細胞のときとほとんど同じです。樹状細胞が提示する「MHCクラスI分子+抗原ペプチド」を、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原受容体(TCR)が認識する(そのようなTCRを持ったナイーブキラーT細胞とたまたま出会う)。樹状細胞のCD80/86とT細胞のCD28が結合する。

これまで度々登場した活性化ヘルパーT細胞ですが、ナイーブキラーT細胞が結合している樹状細胞に、活性化ヘルパーT細胞も結合しているはずです。その場合、ヘルパーT細胞(Th1)からキラーT細胞へ、サイトカインが放出されます。ヘルパーT細胞は、上で説明したマクロファージ(Th1)やB細胞(Th1およびTh2)へのヘルプだけではなく、実にキラーT細胞の活性化をもヘルプ(Th1)するのでした。まさにヘルパーという名にふさわしい活躍ぶりです。活性化したキラーT細胞は増殖してその数を増やし、戦いに向かいます。どこにどうやって?かというと、やはりケモカインを頼りに移動します。

最初は病原菌が生体内に侵入したというシナリオでストーリーを始めました。しかし、外敵は病原菌に限らず、細胞内に入り込むウイルスや細胞内に入り込む特別な病原菌(細胞内寄生細菌)もいます。キラーT細胞は、このような細胞を殺すのに有効な手段となります。ウイルスなどに感染した細胞は、パターン認識受容体によりそれを感知し(ウイルス由来のRNAを認識するTLRなどによる)、インターフェロンなどのサイトカインを放出し、全身に臨戦態勢を整えます。インターフェロンの効果としては、MHC分子の促進があります。感染した細胞はMHCクラスI分子にウイルス由来の抗原ペプチドを載せて提示します。活性化キラーT細胞は、このような感染細胞に対してアポトーシスを誘導することにより殺します。

キラーT細胞を補完するナチュラルキラー(NK)細胞の働き

活性化キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞などを認識して細胞死(アポトーシス)を誘導できるのでした。その際にMHCクラスI分子+ペプチドが必要でした。ところが、ウイルスに感染した細胞は、MHCクラスI分子の発現量が減少することがあります。そうなると、キラーT細胞が有効に働けません。その穴を埋める働きをしてくれるものとして、「自然免疫」に属する細胞の一種である、ナチュラルキラー(NK)細胞があります。NK細胞は、ウイルス感染のせいでMHCクラスI分子の発現量が低下していてCD80/86(もしくはNKG2Dリガンド)を発現している細胞を認識して、この細胞にアポトーシスを誘導します。

Th1,Th2,Th17の働き

さて、以上で、細菌やウイルスが生体内に侵入してきたときに免疫系でどのような応答が起きるのかの概略がつかめたと思います。ヘルパーT細胞に関してはTh1の役割が主でした。3種類のヘルパーT細胞Th1,Th2,Th17については、免疫学や炎症の研究内容の紹介では頻出することなので、引き続き『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』で紹介されていた内容を、ここにまとめておこうと思います。

Th2の働きは3つあります。一つ目はTh1と同じでB細胞を活性化させてIgGを放出させること。2つめは、B細胞を活性化させてIgEを放出させること。3つめが、好酸球の活性化です。

IgEも親和性成熟を経ます。B細胞が分化してできたプラズマ細胞からIgEが放出されると、マスト細胞(肥満細胞)にIgEの根元が結合します。抗原がIgEに結合すると、マスト細胞はヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンの作用で粘液が増量します。これは寄生虫の排除がもともとの目的だと考えられているそうです。しかし、鼻や目の粘膜でこのシステムが”誤作動”したものが花粉症の実体なのではないかとのこと。

好酸球はTh2からだされるサイトカインの刺激によって、寄生虫を排除するための物質を放出するのだそうです。

Th17は末梢においてサイトカインを放出し、ケモカインの放出を促します。それにより好中球を集結させます。またTh17は腸管上皮細胞にむけてサイトカインを放出し、これにより腸管上皮細胞から抗菌ペプチドを分泌させます。

Th1,Th2,Th17がどのように生体内で分化するかについてはまだわからないことが多いようです(この本の出版年は2014年)。in vitro実験でわかっている分化誘導物質は、

IL-12 → Th1

IL-4 → Th2

IL-6 + TGFβ → Th17

だそう。Th17が発見するまでは、Th1とTh2の働きかたの割合(Th1/Th2バランス)で、病態などを説明することが盛んに行われていましたが、Th17が発見されたことにより、Th1/Th2バランスを考えなくてもTh17の働きとして説明できてしまうことなどもあって、Th1/Th2バランスという考え方は下火になったようです。

本書では、外敵の種類によってTh1,Th2,Th3の役割をまとめています。

Th1  排除すべき対象:ウイルス、細胞内寄生細菌 産生するサイトカイン:IFNγ,IL-2,TNF-α

Th2 排除すべき対象:寄生虫 産生するサイトカイン:IL-4, IL-5, IL-10, IL-13

Th3 排除すべき対象:細胞外細菌、真菌 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

 

自然リンパ球

本書の免疫のストーリーには自然リンパ球は一切登場しませんでした。しかし、最近発見された自然線リンパ球について紹介されていました。非常に興味深いことに、上のTh1, Th2, Th3と産生するサイトカインが見事に対応しています。炎症という病態を引き起こしているのはサイトカインですが、今まで病態の説明としてTh1,Th2,Th17を考えてきたけれども実は自然リンパ球から放出されるサイトカインによって説明できることも多いのではないかという提言があります。

自然リンパ球グループ1 産生するサイトカイン:IFNγ

自然リンパ球グループ2 産生するサイトカイン:IL-5, IL-13

自然リンパ球グループ3 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

さて、この本は以上で外敵が侵入してきたときに何がおこるのかのストーリーの解説が完結したのですが、話はそこで終わらず、免役応答がどのように制御されているのか、腸管免疫の話、自然炎症、がんといった話題にも触れられていて盛りだくさんです。

これらの話も大変わかりやすい解説なので、別の記事で改めて紹介したいと思います。

難解でつまらない生化学を面白く教える方法・学ぶ方法とは?

生化学の授業は退屈でつまらないと一般に思われています。生化学の面白さとは何でしょうか?どうすれば生化学を楽しく学ぶ/教えることができるのでしょうか。

  1. Making Sense of a Biochemistry Learning Process and Teacher’s Empathy: Computer-Supported Collaborative Learning Using Emoji Symbols Dana Sachyani and Ilana Ronen
  2. 講義で考え方を伝えるのは可能か?
  3. Practical Tips on Teaching Biochemistry 2016/12/06 How to arouse students’ desire to learn biochemistry

翻訳(mRNAからタンパク質へ)

DNAは4つの塩基アデニン、グアニン、シトシン、チミンの並び順によって情報をコードしています。DNAの情報はmRNAへ転写されます。その際、チミンの代わりにウラシルが使われます。そしてmRNAからタンパク質に翻訳されるわけですが、DNAの4つの塩基の順番がどうやって、20種類からなるアミノ酸配列であるタンパク質へと変換されるのでしょうか。

4種類の塩基一つ一つに意味があるとしたら、4つのものしか表せません。

仮に、塩基2つの並び順で何種類をラベルできるかと考えると、4×4=16種類となります。アミノ酸は20種類あるので、まだ足りません。

塩基3つの並び順が何種類あるかというと、4x4x4=64通りになります今度は20よりもずっと大きい数字になりました。とりあえず、64種類のものを20種類に対応させることは可能です。実際、重複するものもあって塩基3つの並び順により、特定のアミノ酸へ対応関係が生じているということが研究により明らかになりました。これは遺伝暗号の解読として極めて意義の大きなものであったのでノーベル賞授賞の対象となりました。下の動画は、ノーベル賞を受賞した3人のうちの一人マーシャル・二ーレンバーグ(Marshall Warren Nirenberg、1927年4月10日 -2010年1月15日 )のインタビュー。

A Conversation with Dr. Marshall Nirenberg

  1. マーシャル・ニーレンバーグ(ウィキペディア)
  2. Deciphering the Genetic Code: The Most Beautiful False Theory in Biochemistry – Part 2
  3. Deciphering the Genetic Code (ACS)

上の動画のインタビューでニーレンバーグが話していますが、遺伝暗号はヒトでもマウスでもカエルでも魚でも植物でも酵母でもバクテリアでも同じものが使われています。これは驚くべき大発見であり、バクテリアと人が同じ遺伝暗号を使ってDNAからタンパク質を作っているという事実は、ヒトとバクテリアは別々にこの世に誕生したのではなく、ヒトもバクテリアもその他の種も全ての生命は共通の祖先を持っていて、進化の過程で種が分かれたという仮説に合うものです。人間とばい菌が同じ祖先をもつなどということはにわかには信じられませんが、DNAからタンパク質をつくる際の遺伝暗号が同一というのは、このトンデモ仮説に対する強力な証拠と言えます。

非古典的 MHC クラス I 分子とは

免疫学の教科書をみると、主要組織適合性抗原MHCにはMHCクラスIとMHCクラスIIの説明が詳細で、非古典的 MHC クラス I 分子に関して言及があっても、あまり詳細ではありません。それはつまり研究の進展が他よりも遅かったということだと思います。

MHCクラスI分子やMHCクラスII分子がペプチドを提示するということを免疫学の教科書で読んだときに、タンパク質以外の物質の認識はどのように行われるのか疑問に思いました。その答えが、まさにこの「非古典的 MHC クラス I 分子」でした。非古典的 MHC クラス I 分子のあるものは脂質を提示し、またあるものは糖鎖を提示するというのです。自然界はなんと巧妙にできているのでしょう。

クラスIファミリー全体を見渡すと、古典的クラスI分子は少数であり、非古典的と称されるクラスI分子の方がはるかに多い。近年、非古典的クラスI分子の機能解析が飛躍的に進展し、その多様な機能が明らかになってきた。非古典的クラスI分子のなかには、特殊な抗原提示機能をもつもの、ナチュラルキラー細胞の活性を制御するもの、Fc レセプタ
ーとして機能するもの、脂質代謝鉄輸送など免疫とは無関係な機能をもつものなどが知られている。(非古典的 MHC クラス I 分子の多様な機能日本組織適合性学会 平成23年度・認定 HLA 検査技術者講習会) 

多型性が低く,限られたペプチドおよび非ペプチドを結合する(またはペプチド提示能を持たない)クラス I 分子を非古典的クラス I 分子と呼ぶ。

非古典的クラスI分子の種類:提示する抗原 受容体

  1. HLA-E:HLA クラス I シグナルペプチド NKG2/CD94 由来のペプチド
  2. HLA-F:不明  LILR?
  3. HLA-G:ペプチド  LILRB1,LILRB2,LILRA3,KIR2DL4
  4. CD1a,1b,1c:糖脂質  T 細胞上の TCR
  5. CD1d:糖脂質  NKT 細胞上の TCR
  6. CD1e:提示しない  不明
  7. MICA,MICB:なし  NKG2D

HLA の立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 Major Histocompatibility Complex 2016; 23 (2): 80–95)

 

CD1は第1染色体に位置する遺伝子で、多型性はない。HLAクラスI様の分子で、ペプチドではなく脂質や糖脂質を抗原として提示する。ヒトCD1分子は、CD1a、1b、1e、1d、1eの5つのアイソフォ ームを持ち

MICA/B(MHC class I chain-related gene A/B)は、第6染色体のHLA領域に存在する遺伝子である。HLA分子ほど多くはないが多型性であり

HLA以外の抗原提示分子 日本組織適合性学会)

  1. 特殊なT細胞とクラス1b分子 新しい認識系の存在 RADIOISOTOPES 45, 827 (1996)
  2. Sieling, P. A., Chatterjee, D. et al. CD1-Restricted T Cell Recognition of Microbial Lipoglycan Antigens. Science 269: 227-230. (1995).
  3. Beckman, E. M., Porcelli, S. A. et al. Recognition of a lipid antigen by CD1-restricted αβ+ T cells Nature 372: 691-694. (1994).

細胞内情報伝達系によるエネルギー代謝経路の調節

代謝経路が細胞内情報伝達機構によって制御されている(可能性がある)例を示した論文を纏めておきます。細胞内情報伝達機構が代謝酵素の活性を制御しているかもしれませんし、胞内情報伝達機構と相互作用することで、代謝酵素が代謝以外のこれまで知られていなかった役割を持っている可能性もあります。

  1. A non-canonical role for pyruvate kinase M2 as a functional modulator of Ca2+ signalling through IP3 receptors Biochimica et Biophysica Acta (BBA)  Volume 1869, Issue 4, April 2022, 119206
  2. Phosphoenolpyruvate Is a Metabolic Checkpoint of Anti-tumor T Cell Responses 2015年
  3. Essential Regulation of Cell Bioenergetics by Constitutive InsP3 Receptor Ca2+ Transfer to Mitochondria 2010年

rasの活性のオンとオフはどのように制御されているのか?GEFとGAPの役割

Rasスーパーファミリー

Gタンパク質のGは、GTPのGで, G proteinsGTP-binding proteinsの略です。そして、GプロテインはGTPase活性を持ちます。Gタンパク質にはαβγの3量体からなるタイプと、単量体で働く低分子量Gタンパク質と呼ばれるファミリーとがあります。Rasは低分子量Gタンパク質のほうに属します。ちなみにRasはスーパーファミリーを形成していて、そのスーパーファミリーの名前でもあります。そしてRasスーパーファミリーは5つのファミリーからなります。そのファミリーの一つもRasというわけ。

The Ras superfamily (>150 members in humans) is divided into five main families based on sequence identity and function: Ras, Rho, Rab, Arf, and Ran. (Ras superfamily GEFs and GAPs: validated and tractable targets for cancer therapy? 2010年)

Rasの活性をオン、オフにするメカニズム

RasはGTP結合タンパク質であり、GTPase活性があるわけで、Rasが機能する際にはGTPを分解してGDPにし、その際の自由エネルギーの変化分が利用されるのかと漠然と思っていました。しかし、GTP結合型が活性型、GDP結合型が不活性型という記述を読んで、わからなくなってしまいました。そのあたりをハッキリ説明した論文があったので、その部分を紹介します。

Ras superfamily proteins possess intrinsic guanine nucleotide exchange and GTP hydrolysis activities. However, these activities are too low to allow efficient and rapid cycling between their active GTP-bound and inactive GDP-bound states. GEFs and GAPs accelerate and regulate these intrinsic activities.

Alternation between the active GTP-bound and inactive GDP-bound states of the small GTPase is controlled by guanine nucleotide exchange factors (GEFs), which stimulate the exchange of GDP for GTP, and by GTPase activating proteins (GAPs), which terminate the active state by stimulating GTP hydrolysis. In their GTP-bound state, small GTPases bind effectors to activate biochemical processes. (Ras superfamily GEFs and GAPs: validated and tractable targets for cancer therapy? 2010年)

やはり通常の説明通り、GTP結合型が活性あり、GDP結合型が活性なしで、GTP型からGDP型へ移行するのは、GTPとGDPの交換ではなく、GTPの加水分解でした。ただしGTPase活性を高めるためにGAPタンパク質というプレーヤーが存在していました。また、GDP結合型からGTP結合型への意向はGEFタンパク質というプレーヤーが関与していました。

なぜGEFとGAPが必要かというと、上で説明されていますが、もともとRasが持っているGTPase活性や、GDP-GTP交換活性は弱すぎて、効果的に働かないからだそうです。助けが必要なわけですね。

Rasの活性のオフからオンへの切り替えは、GEFがGDPをGTPに交換することによって達成され、Rasno活性のオンからオフへの切り替えは、GAPの働きによってRasのGTPase活性が発揮されてGTPが加水分解されてGDPになることによって達成されるということのようです。

これですっきりしました。

guanine nucleotide exchange factor;GEF

  1. グアニンヌクレオチド交換因子(ウィキペディア)低分子量Gタンパク質は単量体で働き、Small GTPaseともいわれる。GEFが活性化するGTP結合タンパク質は、このタイプのGTP結合タンパク質である。
  2. Grb2 Is a Negative Modulator of the Intrinsic Ras-GEF Activity of hSos1 2006年
  3. Ras蛋白質のGDP/GTP交換因子mouse Sos1の機能解析 1998 Ras GEFとしてはCdc25,Sdc25,Ras-GRF,Sosなどが見出されている。
  4. Sos/K-Ras 結合を介して Ras シグナル伝達を制御する新しい低分子阻害剤 CYTOSKELETON NEWS 2014年7月号

 

参考

  1. ras類 似 低 分 子 量GTP結 合 タ ン パ ク質 ,rho遺 伝 子 物 , と ボ ツ リヌ スC3酵 素 1992年

細胞内情報伝達経路 IP3/Ca経路 を英語で説明した文章例 論文2個

複雑な細胞内情報伝達経路を英語で簡潔に説明するのは容易ではありませんが、論文のイントロなどを書くときには必要となります。IP3/Ca経路を説明した英語の文章を見てみます。

 

論文 Calcium Signaling 1995 レビュー論文

  1. Two receptor classes, the G protein-coupled receptor class of seven transmembrane-spanning receptors (GCRs) and the receptor tyrosine kinases (RTKs), release InsP3 via the pathways shown in Figure la.
  2. GCRs activate phospholipase Cβ (PLCβ), while RTKs stimulate phospholipase Cγ (PLCγ ) to convert phosphatidylinositol (4,5)-bisphosphate (PtdlnsP2) into InsP3 and diacylglycerol.
  3. InsP3 acts as an intracellular second messenger by binding to the specialized tetrameric InsP3 receptor that spans the endoplasmic reticular membrane
  4. and triggering release of Ca 2+ from the ER.

次の文例は、シグナル経路が3つに分岐することを簡潔に説明しています。また、説明しつつまだわかっていないことにも言及しています。

論文 Inositol Trisphosphate Mediates a RAS-Independent Response to LET-23 Receptor Tyrosine Kinase Activation in C. elegans 1998年

  1. Receptor tyrosine kinases (RTKs) and their cognate ligands are often used in multiple tissues within an organism to mediate distinct functions.
  2. Activated vertebrate RTKs typically stimulate multiple downstream effectors, including RAS, phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K) and phospholipase Cγ(PLCγ).
  3. Activation of the RAS/MAPK pathway is necessary and sufficient for mitogenesis in certain systems
  4. while PI3K function is involved in transformation and membrane ruffling as well as other phenotypes.
  5. Activation of PLCγ promotes release of intracellular calcium through production of the second messenger inositol trisphosphate (IP3), but the in vivo role of calcium in eliciting mitogenesis is unclear and appears to vary among cell types and RTKs.

 

その他の参考論文

  1. Essential Regulation of Cell Bioenergetics by Constitutive InsP3 Receptor Ca2+ Transfer to Mitochondria 2010年