「概算要求」という言葉は、下っ端の大学人にはまったく無縁のものです。自分も長い間そんな言葉は聞いたことがありませんでした。初めて耳にしたのは、研究機関の偉い先生とたまたま何かの機会(懇親会)でお話をさせていただいたときです。大きな研究機関のトップの人達の関心事はどうやら「概算要求」をいかにして通すかということらしいということは感じ取りました。しかし、概算要求がそもそも何なのかはよくわからずじまいでした。
概算要求は各省庁が財務省に対して予算を要求して確保する過程です。なので大学のトップの先生が概算要求で頭を悩ませていたというのは、自分の大学の要求を文科省に伝えて、文部省内での優先順位を上げる努力をし、文科省がその研究領域の発展のためのお金を財務省から取ってこれるようにするということだったのだと思います。
もやもやのまま放置してきた「概算要求」ですが、改めて何のことなのか勉強しておきたいと思います。
概算要求とは
国の予算編成に先立って、各省庁が毎年8月末までに財務省に翌年度予算の見積りに関する資料を提出すること(https://kotobank.jp/word/概算要求-42436)
翌年度の予算編成に向け、各省庁が取り組みたい事業と必要な費用の見積もりを盛り込んだ要求書を財務省に提出すること。7月に財務省が要求時のルールを示し、それに沿って8月末までに行うのが通例です。(https://www.smd-am.co.jp/glossary/YST3546/ 三菱住友DSアセットマネジメント)
令和7年度文部科学省による概算要求の内訳の一部
- 令和7年度概算要求のポイント(84ページPDF) 文部科学省
基礎研究に関する部分を見てみます。科研費は2492億円でした。科研費以外にも大きな金額のものとして、戦略的創造研究推進事業や世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)というものがあります。戦略的創造研究推進事業というのは、科学技術振興機構(JST)が担当しているCREST, さきがけ、ERATO,ACT-Xなどの研究助成です。
基礎研究をはじめとする抜本的な研究力の向上
• 科学研究費助成事業(科研費)2,492億円(2,377億円)
• 戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)469億円( 437億円)
• 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)76億円( 72億円)
- 戦略的創造研究推進事業 https://www.jst.go.jp/kisoken/programs/index.html
概算要求の予算規模
- 財務省所管令和7年度概算要求をとりまとめました 令和6年8月29日 財務省 財務省所管一般会計の令和7年度概算要求の総額は、30兆7,576億円であり、そのうち、「重要政策推進枠」に係る要望は、792億円となっています。https://www.mof.go.jp/about_mof/mof_budget/budget/fy2025/20240829.html
- 令和7年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧 https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420668_00002.html
- 文科省概算要求、総額5兆9,530億円…教職調整額13%へ 2024.8.30 Fri 11:35 ReseEd 文部科学省は2024年8月29日、2025年度予算の概算要求を公表した。一般会計の歳出予算は、対前年度比11.5%増の5兆9,530億円。教師の処遇改善に向け、焦点となっている教職調整額の改善などに1兆5,807億円のほか、国立大学改革の推進に1兆1,205億円を計上した。https://reseed.resemom.jp/article/2024/08/30/9384.html
- 文科省概算要求 研究基盤強化へ科学技術関係1兆1921億円 2019.09.06 科学新聞 文部科学省は、対前年度比12・2%(6485億円)増の5兆9689億円となる2020年度予算概算要求・要望を財務省に提出した。科学技術関係は、2169億円増の1兆1921億円で、人材・資金・環境と大学改革の一体的展開などにより、研究基盤を強化する。https://sci-news.co.jp/topics/2554/
概算要求と大学との関係:大学から文部科学省への要求
自分は概算要求をどうやって大学が文部科学省へ上げてていくのか、そもそもそういうものなのかも含めて全く無知なのですが、ネットの情報で参考になりそうなものを自分の勉強がてら紹介しておきたいと思います。
国立大学教授と概算要求との関係
下の説明によれば、概算要求の流れは、「研究室(研究者)⇒学部⇒大学⇒文科省⇒財務省⇒国会」となるそうです。大学が文科省に働きかけるというのは想像はできますが、実際にそういうことが行われているというのは自分は全く知りませんでした。ましてや、研究者個人が概算要求を意識して研究計画をたてて大学がそれらを集約するというのは完全に初耳で、国立大学特有のことなのか、どうなのかよくわかりません。
- 時系列的な概算要求の流れ 1 研究室で研究計画を検討 2 各学部等で概算要求事項の検討 順位付け 3 大学本部で概算要求事項の検討 順位付け 4 文部科学省への事前ヒアリング 5 文部科学省へ概算要求 6 文部科学省内で概算要求事項の検討 順位付け 7 財務省へ概算要求 8 国会で議決
- 概算要求は、事務職員同士の打ち合わせで要求事項が決定します。事務職員同士とは、本省の予算担当者と財務省の担当者です。本省の係長や主査が、財務省の担当職員と一緒に概算要求書を作り上げます。
- 基礎研究にこそ、国民の税金を投入する意味があるのです。
- 基礎研究は、応用研究の前段階という意味ではありません。基礎研究とは実用化に結びつくかわからない研究という意味です。
https://kaikei.mynsworld.com/gaisan-yokyu/ 概算要求の方法がわからないとき、夢のある基礎研究こそ国立大学で 官公庁で働く人たちの会計実務専門サイト 誰も教えてくれない官公庁会計実務
教授にとっても、運営費交付金減少の影響は、活動の規模が縮小することにつながってしまう恐れがある。そのため、それを補うために他の方法で活動原資を獲得しようとするインセンティブを誘発する。その方法としては、概算要求や機関経理補助金といった大学本部を通じて獲得するものもあれば、受託研究や科学研究費補助金をはじめとした各省庁から公募・配分される競争的研究資金と呼ばれるもの、また共同研究や寄付金などの企業等から獲得する方法もある。
「大学改革が国立大学法人職員の役割に及ぼす影響」 松山 祐輔 https://www.kyoto.next-japan.net/wp-content/uploads/researchpaper-10matsuyama.pdf
上の資料を見ると、やはり国立大学では概算要求と個人研究者(教授)とは関連するようですね。全く知らない世界でした。
SNSの投稿などを見ると、(国立?)大学の事務職員の業務の一つとして概算要求の取り纏めがあるようです。
【先輩職員の仕事内容】#技術(電気)
毎年、国に予算要求を行う概算要求に向けて、各高専の担当者と要求内容を検討し、整備計画等を立案していきます。実際に予算要求が認められ、予算が付くと、実際の工事に向けて設計・積算を行っていきます。#国立大学法人等 #先輩職員の声
— 関東甲信越地区国立大学法人等職員採用試験事務室 (@kanto_koshin) July 11, 2023
国立大学の中の事務職員にとっての概算要求とは
第 2 次大戦後ごく最近まで国立大学の予算は、国立学校特別会計制度のもとで編成され、
配分されてきた。各大学は、通常、前年の 7 月上旬に文部科学省に対して「概算要求書」
を提出して予算要求を行い、要求事項に対する文部科学省の「説明聴取(ヒアリング)」を
経て、8 月末に文部科学省から財務・総務両省に、とりまとめられた要求書が提出・説明さ
れる。12 月下旬には全体の予算案が編成され、1~3 月の間に国会審議を経て成立すると、
文部科学省から各大学に配分額が示されるというのが、その基本的な流れであった。概算要求の中身はさらに「基準概算」と「新規概算」とに分けられる。このうち「基準概算」は人件費、管理運営費、積算校費など、一定の基準にもとづいて事務的に計算される、経常的既定経費の要求分を指している。「新規概算」は、たとえば、学科や研究施設、センター、講座の新設など、新たな組織や定員、さらにはその運営経費に対する予算要求である。ここで「概算要求」と呼ぶのは、その「新規概算」に関わる予算要求の問題であり、一般にも、それが概算要求の名称で呼ばれている。
第1章 概算要求の過程 天野 郁夫(国立大学財務・経営センター) 大島 真夫(東京大学大学院) https://www.niad.ac.jp/media/001/201802/ni001005.pdf
概算要求には、新規概算(新規事項)と基準概算(経常的経費)とがあるが、通常、概算要求と呼ばれるのは新規概算のことで、新しい施設・設備の要求や新たな組織機構・定員の要求である。
5月中旬から6月中旬にかけて文部省から概算要求書提出についての通知が国立大学に送付され、7月上旬には国立大学から文部省に概算要求書が提出される。https://www.janul.jp/j/publications/reports/66/4.html
- 平成23年度概算要求・要望の発表を受けて 9月21日 東京大学総長 濱田 純一
- 長崎大学で働く若手職員たち!! 2012年06月26日 所属部署 財務部 財務企画課 財務戦略室 予算班 ◇仕事内容 ・文部科学省への概算要求や学内の予算編成・配分 https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/news/news981.html
- 事務職員業務ガイド(第5版) 平成24年7月国立大学法人豊橋技術科学大学 https://www.tut.ac.jp/userfiles/file/H24gyomugaido_dai5(2).pdf
概算要求と任期と研究者
この新たな専任教員ポストは、概算要求で申請される任期付ポストで継承教員枠ではない。このポスト以外にも、第3期は助教(任期付)ポストが3名(うち2名は高等教育系、1名はインターンシップ系)、いずれも概算要求による期限付き予算で確保され、そこに着任された教員によって業務が担われた。高等教育系組織の任期付ポストに着任した教員は、教養教育機構に学内異動した専任教員も同じであったが、より安定した待遇を求めて比較的早いスパンで学外に異動した。
地方国立大学におけるセンター組織の設置・運営の変遷―A大学の事例研究から― 大学経営政策研究第13号(2023年3月発行):199-214 https://ump.p.u-tokyo.ac.jp/resource/12_bulletin13-paper.pdf
概算要求と私立大学
- 私大連では、これまで常務理事会、理事会並びに総会において、私立大学関係政府予算に対する私立大学側要求について種々の検討を重ねるとともに、私大連と日本私立大学協会(以下、「私大協」という。)とで構成する日本私立大学団体連合会(以下、「連合会」という。)をはじめ、日本私立短期大学協会、日本私立中学高等学校連合会、日本私立小学校連合会並びに全日本私立幼稚園連合会で構成する全私学連合(以下、「全私連」という。)、文部科学省及び関係諸機関とも連携・協力し、要求にあたっての基本方針並びに要求内容のとりまとめをはじめ、文部科学省概算要求に向けた私立大学側の要求、さらに政府予算獲得の実現に向けて積極的な対策活動を展開してきた。
- 私大連並びに連合会では、8月30日の文部科学省による財務省への概算要求の提出後も、『要望』の内容が令和5年度政府予算(案)に反映されるよう、その実現活動を展開した。
令 和 5 年 度 事 業 報 告 書 令和 6年 6月 一般社団法人日本私立大学連盟 https://www.shidairen.or.jp/files/user/r5jigyo.pdf
- 私立学校の教員も処遇改善へ…文部科学省、来年度の概算要求で私学補助金3%引き上げ 2024/08/23 05:00 読売新聞オンライン 文部科学省は、公立学校教員の処遇改善に合わせ、私立学校を運営する学校法人への補助金を増額する方針を固めた。2025年度予算の概算要求で、私立学校への補助金に今年度の予算額から3%増の868億円を盛り込む。
- 月報私学 2023年10月 Vol.310(PDF) 令和6年度私学助成関係予算の概算要求
概算要求に関連する参考
- 文科省以外の概算要求事項における大学関係予算 2017-09-21 大学職員の書き散らかしBLOG 内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金(仮称)の創設」 ‥ 気になるのは、この予算と現在募集されている私立大学等改革総合支援事業(タイプ5)との関係です。
- 平成30年度私学助成予算(案)~概算要求からの相違点メモ~ 2018-01-16 平成30年度の予算の資料が掲載されました。ここでは、平成29年8月に出された概算要求と比較してどうなったかを