未分類」カテゴリーアーカイブ

疫学的研究によるコレラの原因の究明

 

  1. コレラの伝染様式について ON THE MODE OF COMMUNICATION OF CHOLERA (1854) ジョン・スノウ John Snow 水上茂樹訳 ジョン・スノウの論文(第2版)の日本語訳

参考

  1. サンドラ・ヘンペル著/杉森裕樹・大神英一・平尾磨樹訳『医学探偵ジョン・スノウ─コレラとブロードストリートの井戸の謎』大森弘喜 書評(PDF)

チアミン(ビタミンB1)の欠乏が脚気の原因であることを証明した論文

脚気(かっけ;beriberi)はビタミンB1欠乏により生じる病気で、欠乏が長期間(3か月)続くとしに至る病です。脚気という病気は大昔から知られていましたが、その原因が栄養素の欠乏によるものだということがわかるまでには紆余曲折がありました。栄養素の欠乏が病気を引き起こすという発想がなかったため、脚気の原因は病原菌かもしくは毒素によるものだと思われてきたのです。また、栄養素にしてもタンパク質、炭水化物、脂質、ミネラルといったものが栄養素であってビタミンの類はまだ何も知られていませんでした。脚気の原因のビタミン欠乏仮説に辿り着くまでには、多くの科学者が関与しており、長い年月を要したのです。

  1. Takaki K (1885) On the cause and prevention of kak’ke. Trans Sei-I-Kwai 39 (Suppl 4):29–37
    1. On the cause and prevention of Kak’ke. 1885 K Takaki PMID: 1421790 Nutrition . 1992 Sep-Oct;8(5):376-81; discussion 382-4.
  2. SYNTHESIS OF VITAMIN B1 R. R. Williams and J. K. Cline Cite this: J. Am. Chem. Soc. 1936, 58, 8, 1504–1505, August 1, 1936 https://doi.org/10.1021/ja01299a505  ビタミンB1(チアミン)の化学合成の方法を示した短い論文

参考

  1. J R Soc Med. 2013 Aug; 106(8): 332–334. doi: 10.1177/0141076813497889 PMCID: PMC3725862 PMID: 23897451 Kanehiro Takaki and the control of beriberi in the Japanese Navy Yoshifumi Sugiyama1 and Akihiro Seita2 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3725862/
  2. Beriberi, Military Medicine, and Medical Authority in Prewar Japan Alexander R. Bay Japan Review No. 20 (2008), pp. 111-156 (46 pages) Published By: International Research Centre for Japanese Studies, National Institute for the Humanities
  3. A Child of Many Fathers: The Question of Credit for the Discovery of Thiamine, 1884-1936 (PDF) Kevin Fujitani Ohio State University, USA International Workshop on the History of Chemistry2015 Tokyo Finally, in 1934, Robert Runnels Williams (1886-1965) managed to determine the
    correct molecular formula from a crystallized sample, and two years later, while working for
    the Merck chemical company, developed a procedure to produce thiamine in the laboratory.
  4. Of Birds and B 1 : The Story of Beriberi LG Goh and KH Phua Asia Pacific Journal of Public Health Vol. 2, No. 1 (1988), pp. 76-81 (6 pages) JSTOREのダウンロードやサブスクが有料。無料だと視聴件数に制限があり、ダウンロードや印刷は不可
  5. 谷口論文に対するEditorial Comment (PDF) ビタミンB1が欠乏すると,解糖系内でピルビン酸からアセチルCoA に変換することができず,乳酸が蓄積する.これが3カ月以上持続すると脚気(beriberi)を生じる.ちなみにberiスリランカ語weakenessを意味しており,beriberiは「何もできないほどに衰弱している」状態を意味している
  6. Vitamin B1 (Thiamine) Julianna L. Martel; Connor C. Kerndt; Harshit Doshi; Reddog E. Sina; David S. Franklin. Author Information and Affiliations Last Update: January 31, 2024. NIH

メンデルの歴史的な論文1866年「植物雑種の実験」

メンデルの歴史的な論文1866年「植物雑種の実験」は原著はドイツ語で書かれていますが、英語や日本の翻訳が読めます。

論文(英訳)

  1. Experiments on Plant Hybrids by Gregor Mendel (PDF)(HTML)

論文(日本語訳)

  1. メンデル 雑種植物の研究 岩波文庫 岩波書店

論文の解説

  1. 第3章 メンデルの植物雑種の実験 (PDF) 神戸大学

  2. メンデルは遺伝学の祖か (PDF)

うつ病に関する研究論文

 

うつ病の治療法の選択:薬物療法か精神療法か

  1. Cognitive therapy vs. medications for depression: Treatment outcomes and neural mechanisms Nat Rev Neurosci. 2008 Oct; 9(10): 788–796. Published online 2008 Sep 11. doi: 10.1038/nrn2345 PMCID: PMC2748674 NIHMSID: NIHMS102348 PMID: 18784657  Robert J. DeRubeis, Greg J. Siegle, and Steven D. Hollon 認知療法の効果と薬物療法の効果とを比較した論文にかんするレビュー論文。DeRubeis et al., Arch Gen Psychiatry 2005; 62:409-416の結果を特に取り上げて図を交えて紹介している。
  2. Cognitive therapy vs medications in the treatment of moderate to severe depression Arch Gen Psychiatry . 2005 Apr;62(4):409-16. doi: 10.1001/archpsyc.62.4.409. Robert J DeRubeis 1, Steven D Hollon, Jay D Amsterdam, Richard C Shelton, Paula R Young, Ronald M Salomon, John P O’Reardon, Margaret L Lovett, Madeline M Gladis, Laurel L Brown, Robert Gallop 注)JAMA Psychiatry (until 2013: Archives of General Psychiatry) is a monthly peer-reviewed medical journal published by the American Medical Association. It covers research in psychiatry, mental health, behavioral sciences, and related fields.[1] The journal was established in 1919 and was split into 2 separate journals in 1959: Archives of Neurology and Archives of General Psychiatry. In 2013, their names changed to JAMA Neurology and JAMA Psychiatry, respectively.(ウィキペディア)医師として知らなければ恥ずかしい50の臨床研究では、SSRIを用いた研究としてこの論文が紹介されていましたので、今となってはこっちの論文の方が重要性が高いといえるのではないでしょうか。
  3. Treating major depression in primary care practice. Eight-month clinical outcomes Arch Gen Psychiatry . 1996 Oct;53(10):913-9. (PDF) doi: 10.1001/archpsyc.1996.01830100061008. H C Schulberg 1, M R Block, M J Madonia, C P Scott, E Rodriguez, S D Imber, J Perel, J Lave, P R Houck, J L Coulehan  医師として知らなければ恥ずかしい50の臨床研究 2015/11/30 谷口俊文 (翻訳) の中で紹介されていた論文。薬物療法で用いられた薬剤はノルトリプチリンでいまとなっては第一選択の薬ではないそう。論文の結論は、精神療法と薬物療法の間に差がない。同程度に効果的。この書籍では、SSRIを用いた研究でも同様の結果が示されたとして、Chilvers et al.., BMJ. 2001:322:1-5 と DeRubeis et al., Arch Gen Psychiatry 2005; 62:409-416を紹介しています。

うつ病の症状の程度を評価するバイオマーカー

  1. Measuring depression severity based on facial expression and body movement using deep convolutional neural network Front. Psychiatry, 21 December 2022 Sec. Mood Disorders Volume 13 – 2022 | https://doi.org/10.3389/fpsyt.2022.1017064 顔の表情、体の動き
  2. Volatile Organic Compounds From Breath Differ Between Patients With Major Depression and Healthy Controls Front. Psychiatry, 12 July 2022 Sec. Molecular Psychiatry Volume 13 – 2022 | https://doi.org/10.3389/fpsyt.2022.819607 呼気の成分分析でうつ病との関連性を調べた論文。

うつ病に関して

  1. Depression in the Primary Care Setting Lawrence T. Park, M.D., and Carlos A. Zarate, Jr., M.D. February 7, 2019 N Engl J Med 2019; 380:559-568 DOI: 10.1056/NEJMcp1712493

SIDS(乳幼児突然死症候群):うつぶせ寝、喫煙、人工乳哺育でリスクが上昇

  • 日本で平成29年に77人の赤ちゃんがこの病気で死亡。乳幼児の死亡原因第4位
  • うつぶせ寝はあおむけ寝に比べ3倍ほど発症の危険性が高い。
  • 両親の喫煙は、非喫煙夫婦に比べ4.7倍ほど発症の危険性が高い。
  • 人工乳哺育は、母乳哺育に比べ4.8倍ほど発症の危険性が高い。

SIDS(乳幼児突然死症候群)から赤ちゃんを守ろう 青森県)

 

内科学の教科書はハリソンかセシルか

医学部の学生が読むべき内科学の教科書はハリソンかセシルか、どちらでしょうか。

ハリソン内科学

Harrison’s Principles of Internal Medicine  第21版 2Harrison’s Principles of Internal Medicine 3855ページ

  1. Harrison’s Principles of Internal Medicine, 21e (https://accesspharmacy.mhmedical.com/) 有料のウェブ書籍サイトみたいです。

USMLEを受けるときに実際に合格した日本人医師にどうやって勉強すればいいのかと聞いたら,「ハリソン全部読んで覚えていたら受かるよ」と一蹴されたことがあった。(医学界新聞 医学生へのアドバイス(28) 田中和豊)

  • 日本の内科学の教科書は「量的な表記」が足りない
  • ハリソンには「程度」の記載に,臨床的な眼差しがある。簡潔な記載で患者像を容易にイメージできる。これを読めば診療に使える。検査,診断,治療,予後説明などにおいても,朝倉とハリソンを比較すると,この“程度”問題と臨床的な眼差しの違いは明らかだ。

なぜ日本の内科教科書は“ダメ”なのか(岩田健太郎)連載2015.10.19 医学会新聞)

私の医学生の頃から内科学の教科書の定番は「ハリソン」でした。‥ 「ハリソン」は内科学の教科書だとされています。それは大きな誤りだというのがお分かりいただけませんでしょうか。一般の内科学から想定する範囲を大きく超えています。だからこそ「内科学」(Internal Medicine)ではなく「臨床医学」(Clinical Medicine)だという私の主張があるわけです。‥ 「ハリソン」が扱う領域の最多は感染症学がダントツの1位です。(感染症学のこと さいたま記念病院)

  1. ハリソン物語 – かくして「ハリソン」はグローバル・スタンダードになった BY 機能形態学 · 公開 2022年4月6日 · 更新済み 2023年3月17日

セシル

Goldman-Cecil Medicine, 2-Volume Set (Cecil Textbook of Medicine) Lee Goldman MD (著), Andrew I. Schafer MD (著) 出版社 ‏ : ‎ Elsevier; Goldman-Cecil Medicine, 2-Volume Set (Cecil Textbook of Medicine) 27版 2023/9/14

  • 26版  発売日 ‏ : ‎ 2019/9/26 ‎ 2944ページ 

ハリソンかセシルか

限られたスペースの中にどのトピックを含めるかはエビデンスに基づくのではなく,著者の考え方によるものだ。肺癌は他のがんと違って検診を行っても根治手術が可能な早期に発見することは難しい。従って,私はより優れた検診方法を開発するのではなく,肺癌にならないようにする方策が遙かに重要であると考えている。この点に関して,セシルよりも喫煙の影響と禁煙の効果,CT検診の比較試験の結果と問題点,検診と禁煙プログラムのリンクなどに多くのスペースを割いているハリソンに共感を覚えた[6,7]。治療の項では,引用文献はついていないものの,一文一文これはどの研究・論文を根拠にして書かれたのかが手に取るように分かる

[書評 +] ハリソン内科学とセシル内科学を読んでみたら  関根, 郁夫 千葉医学 92:149 ~ 151, 2016

読み進もうとすると、とにかく考えさせる記述が多く、時間がかかりすぐに挫折した。調べたい疾患の概略を短時間に把握するには『セシル内科学』の方が便利だった。いつしか『ハリソン』の原著は部屋の片隅に隠れ、(原著第20版が今年8月に出版 『ハリソン内科学』のハリソン先生に迫る 2018/09/18 駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院) 循環器 日経メディカル)

  • 内容的には同じようなものだけれども,“症候学”のところが『セシル』にはないので,その点で『ハリソン』を勧めます」
  • 1950年に初版を出す時,「症候学」の部分をつけたことと,「病態生理学」に基づいたアプローチを徹底したこと,その2つがそれまでの教科書にないところだったと聞きました。「『セシル』にはない特徴を」という発想から,『ハリソン』の編集は始まったようですが,確かに症候のアプローチは素晴らしいですね。
  • 「病態生理学」を強調する教授法をより一層推進させる原動力になった

「プロの医師」と『ハリソン内科学』 医学会新聞)

 

ハリソン,セシル以外のお勧めの内科学の教科書

ハリソンもセシルも2000ページほどの大著で、読み通すひともいれば(何回も)読み切れない人もいるようです。もう少し読みやすい分量の本はないものでしょうか。

Davidson

Davidson’s Essentials of Medicine  2020/8/28 英語版 J. Alastair Innes BSc PhD FRCP Ed (著) 888ページ

Mansoor

Frameworks for Internal Medicine  2018/11/22 Andre Mansoor 768ページ アマゾン評価4.7点(338 人) 新版の出版予定:Frameworks for Internal Medicine 2024/6/8 880ページ

フレームワークで考える内科診断 / アンドレ M.マンスール著 ; 田中竜馬監訳 フレームワーク デ カンガエル ナイカ シンダン 出版・頒布事項 東京 : メディカル・サイエンス・インターナショナル , 2021.7 アマゾンレビュー:”ロジカルな鑑別診断学 50の病態について、各々の解剖学的基礎、病態生理によりフレームをつくり、それぞれに疾患を列挙して診断漏れがないよう工夫”

MKSAP

Medical Knowledge Self-Assessment Program (MKSAP) https://www.nankodo.co.jp/foreign/MKSAP19/index.html

 Stein

Stein’s textbook of internal medicine 5th edition (January 15, 1998) 2512ページ

This third edition of Stein’s textbook of internal medicine has been published three years after the work was last revised. It competes with Harrison’s, Cecil’s, and Kelly’s textbooks of internal medicine. In the preface the editor states that the aim of the textbook is to be both readable and encyclopedic. In the balance between these goals, the book leans toward the former. It is definitely concise, crisp in style, and very readable, but when compared with its competition it is less encyclopedic.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199010043231422

Kelley

Kelley’s Textbook of Internal Medicine 4th Edition  (August 15, 2000)by H. David Humes (Editor), Herbert L. Dupont (Editor) 3254 pages

 

第118回医師国家試験2024年2月3日(土)4日(日)

10年での心不全治療の進歩にて、β遮断薬、アルドステロンブロッカー、ARNI、SGLT2阻害薬の4つを、アメリカン・コミックスに登場するヒーローチームになぞらえて「ファンタスティック4」とも呼んでいます。(5) https://hara-heart.com/blog/archives/73/

 

鉄が吸収されるメカニズム:胃酸とビタミンCの役割

鉄は赤血球の中にあるヘモグロビンや、筋肉にあるミオグロビンというタンパク質の一部分であるヘムと呼ばれる構造の真ん中に2価の鉄イオン(Fe2+)の形で存在していて、酸素分子との結合を担う重要なミネラルです。鉄が不足すると赤血球の数もしくは赤血球の中のヘモグロビンの量が足りなくなり、いわゆる貧血になります。

  1. https://www.apha.jp/medicine_room/entry-3544.html

鉄は赤身の肉に豊富に存在します。赤身の肉がなぜ赤いのかというと別に血が多いからというわけではなく、赤い色を持つミオグロビンを大量に含むからということです。白身魚にはミオグロビンが少ないということです。

  1. なぜ肉は赤いのか? imidas

余談でした。

生体成分としての鉄

人間の体の中には鉄はどれくらい存在しているのでしょうか。手元の生化学の教科書によれば体重70kgの人には3gの鉄が含まれているそうです。また1日あたりに体の外に排出される鉄の量は1mg、吸収される量も1mgでバランスがとれているのだそう。鉄は垢や腸粘膜の剥離などで失われる以外は、基本的に再回収して再利用されています。

  1. 特集鉄欠乏性貧血を知る 2023年5月号 m3.com 薬剤師

胃酸と鉄との関係

胃酸が鉄をイオン化して吸収できるようにしているという記述を時々見かけます。

胃酸の分泌が減少すると鉄の吸収に必要なイオン化が阻害され、鉄欠乏性貧血を生じます。(なぜ消化管手術後に貧血が起こりやすくなるのでしょうか。 聚楽内科クリニック)

鉄は金属の形のままでは吸収されず、吸収されるためには胃酸によって鉄をイオンの形に変える必要があります。(わかさの秘密

鉄はヘムと結合している場合は2価の鉄イオンでヘム鉄と呼ばれ吸収されやすいですが、3価の鉄イオンの状態でも存在しており、その場合には吸収率が落ちるそうです。「イオン化」というのは実際には3価から2価への還元のことを指していると思われます。

食品から摂取された鉄は、十二指腸から空腸上部において吸収される。ヘム鉄はそのままの形で特異的な担体によって腸管上皮細胞に吸収され、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより2 価鉄イオン(Fe2+)とポルフィリンに分解される。非ヘム鉄3 価鉄イオン(Fe3+)の形態ではほとんど吸収されない。Fe3+は、アスコルビン酸などの還元物質、又は腸管上皮細胞刷子縁膜に存在する鉄還元酵素によって還元されてFe2+となり、吸収される。https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042638.pdf

上の説明は厚労省のサイトです。還元反応のことをイオン化とよぶのは、言葉遣いが必ずしも厳格ではないので要注意ですね。

しかし鉄の還元のメカニズムに関してはあまり説明が見当たらないため、疑問が残ります。

胃酸はかなり強力な酸ですが (本体は塩酸),酸化力はありません.(3価鉄が2価鉄になる反応について 教えてgoo)

胃酸がなぜ鉄の吸収を助けるのかの説明をようやく見つけました。

The low pH of gastric acid in the proximal duodenum allows a ferric reductase enzyme, duodenal cytochrome B (Dcytb), on the brush border of the enterocytes to convert the insoluble ferric (Fe3+) to absorbable ferrous (Fe2+) ions. (Biochemistry, Iron Absorption Thomas Ems; Kayla St Lucia; Martin R. Huecker. Author Information and Affiliations Last Update: April 17, 2023.)

  1. 【鉄の吸収機構】鉄代謝 熊本大学病院 輸血・細胞治療部 ヘム鉄heme carrier protein 1 (HCP1) という蛋白によって腸管上皮細胞に吸収 非ヘム鉄は通常3価鉄(Fe3+)の状態ですので、胃酸による低いpH状態で可溶化され、腸管上皮の腸管内腔側細胞膜に存在するduodenal cytochrome b (Dcytb)によって2価鉄に還元された後、金属トランスポーターで あるdivalent metal transporter 1 (DMT1)という蛋白によって腸管上皮細胞に吸収 アスコルビン酸で還元が促進され吸収が促進

3価の鉄イオンを2価の鉄イオンにする「還元反応」を司るのは「還元化酵素」 duodenal cytochrome Bでした。この酵素は十二指腸の胃に近い側に存在するようですが、この酵素が働く至適pHが胃酸によって作られる低pHだなのでしょうか。あるいは単に、非ヘム鉄は低pHでしか水に溶けないため、胃酸が必要(そこで、ビタミンCが非ヘム鉄と結合(キレート)できる)ということでしょう。ただ、ヘム鉄のほうが非ヘム鉄よりも吸収効率がずっと高いので、これだとあまり説明になっていない気もします(鉄の吸収において、非ヘム鉄の貢献が少ないのだとすると)。上の英語の説明でallowsとありますが、どんなふうにallowするのかが曖昧なので、わかりにくいですね。

下の説明でもenhanceすると書かれています。

The most important intrinsic promoter of nonheme iron uptake is hydrochloric acid contained in the gastric acid with a low pH, enhancing the reduction of ferric iron in foods to ferrous iron [1037]. Persons with achlorhydria are prone to develop iron deficiency [38], and both treatments with gastric acid inhibitors as well as with antacids will inhibit iron absorption [37]. In contrast, the uptake of heme iron is not affected by the presence or absence of gastric acid [1033].

胃酸が非ヘム鉄の吸収を促進するメカニズムに関して下の論文に考え方が説明されていました。ちなみにヘム鉄の吸収には胃酸は必要ではないと明言されています(上の論文でもそうでしたが)。水素イオン(プラス電荷)が食物の分子内の鉄イオン(プラス電荷)の結合サイトで競合的に働いて、鉄イオンを遊離してくれるというのが一つ。もう一つは3価の鉄は低pHでしか水に溶けないから。

The bioavailability of non-heme iron is increased by gastric acidity by two mechanisms []. Firstly, the high concentration of hydrogen ions at acidic pH (pH 3 = 1 mM H+) leads to efficient competition for metal ion binding sites in dietary components, and so liberates more iron from food. Secondly, the released ferric ions are only soluble in aqueous solutions at acidic pH. Hence the low pH of the stomach lumen caused by secretion of acid keeps iron soluble and therefore available for reduction to the ferrous form for rapid absorption in the small intestine []. In contrast, gastric acid is not required for the absorption of heme iron [].

The importance of gastric acid for iron absorption became evident about 50 years ago, when Baird and others reported that iron deficiency anemia is a long-term consequence of partial gastrectomy [].

(Biochim Biophys Acta. 2011 May; 1813(5): 889–895. Published online 2011 Feb 12. doi: 10.1016/j.bbamcr.2011.02.007 PMCID: PMC3078979 NIHMSID: NIHMS273741 PMID: 21320535 Gastrins, Iron Homeostasis and Colorectal Cancer

 

ビタミンCも鉄の吸収を助けるみたいな説明を見かけたことがあります。ビタミンCが還元剤として働くからというのが一つの理由、もうひとつの理由は、3価の鉄イオンのキレート剤として作用し、十二指腸内のアルカリ環境においても3価鉄の水溶性を保つ役割があるからだそう。

Enhancers of iron absorption are dominated by the effect of ascorbic acid (vitamin C), which can overcome the effects of all dietary inhibitors when it is included in a diet with high non-heme iron availability (usually a meal heavy in vegetables). Ascorbic acid forms a chelate with ferric (Fe3+) iron in the low pH of the stomach, which persists and remains soluble in the alkaline environment of the duodenum. (Biochemistry, Iron Absorption Thomas Ems; Kayla St Lucia; Martin R. Huecker. Author Information and Affiliations Last Update: April 17, 2023.)

上の厚労省のサイトの説明は「Fe3+は、アスコルビン酸などの還元物質、又は~によって還元されてFe2+となり」と書いています。アスコルビン酸がキレートとして働くだけでなく同時に、還元化酵素の補酵素となって働くということなのですね。

自分の疑問に対して、下のプレスリリースにドンピシャな説明がありました。

The Dcytb transfers an electron from vitamin C [2] on the cytoplasmic side to the Fe3+ on the gut lumen side, thereby reducing Fe3+ to Fe2+ (Fig. 1).

 Fe3+ is soluble at the low pH present in stomach, but as the pH increases upon passage into the duodenum, precipitates form unless iron is bound by soluble iron chelators. Thus, vitamin C on the gut lumen side acts as an iron chelator to maintain Fe3+ solubility and support Fe3+ binding to Dcytb. The vitamin C also mediates the electron transfer from heme in the gut lumen side to Fe3+, thereby reducing Fe3+ to Fe2+, enabling Fe2+ to be transported into duodenal enterocyte by DMT-1.

In Dcytb, vitamin C works as a physiological reductant.

New Strategy for Prevention of Iron Deficiency Anemia: Understanding the role of vitamin C in enhancing iron absorption in human intestine (Press Release) Release Date 20 Aug, 2018

上のプレスリリースが出された論文にも詳細な説明があります。

論文:Ganasen, M., Togashi, H., Takeda, H. et al. Structural basis for promotion of duodenal iron absorption by enteric ferric reductase with ascorbate. Commun Biol 1, 120 (2018). https://doi.org/10.1038/s42003-018-0121-8

Absorption of nonheme iron has long been known to be enhanced by reducing agents such as ascorbate11. With the discovery of the enteric Fe3+ reductase Dcytb12 and the divalent metal transporter DMT-113, the proteins responsible for uptake of dietary nonheme (elemental) iron are now known. Dcytb is an iron-regulated Fe3+ reductase that was first identified in the duodenal brush border of mice with systemic iron deficiency12. Since DMT-1 favors the absorption of divalent metal including Fe2+13, the reduction of Fe3+ to Fe2+ by Dcytb in the duodenum is essential for effective intestinal iron absorption. Dcytb utilizes ascorbate in cytoplasm as an electron donor to reduce apical Fe3+. Notably, the expression and activity of mucosal Dcytb are closely associated with chronic anemia and hypoxia14. (上記論文のイントロダクションより)

ビタミンCがキレートとしてはたらいて非ヘム鉄の水溶性を保ち還元化酵素と結合して、鉄の還元反応において電子供与体になるんですね。ビタミンCが大活躍です。

 

結論

食事由来の鉄に関しては、ヘム鉄(2価イオン)と非ヘム鉄(3価イオン)とで吸収されるメカニズムが異なるという区別がまず大事でした。

ヘム鉄は、ヘム鉄専用のトランスポーターheme carrier protein-1(HCP-1)が働いて小腸で吸収されます。

それに対して、非ヘム鉄(3価イオン)は、まず胃において胃酸のおかげで水溶性になって溶けだします。そこにビタミンC(アスコルビン酸)が結合してpHが高くなっても水に溶けたままでいられるようにします。ビタミンCと結合した(キレートされた)非ヘム鉄(3価イオン)は、還元酵素duodenal cytochrome B (Dcytb)によって2価イオンに還元されます。2価イオンになった鉄は、2価の金属イオン専門のトランスポーターdivalent metal transporter 1 (DMT1)によって小腸上皮の細胞内に取り込まれます。

参考

  1. 鉄代謝―最近の知見― 張替秀郎 日本内科学会雑誌第102巻第10号・平成25年10月10日 (PDF) 非常にわかりやすい解説記事。
  2. Nutrients. 2015 Apr; 7(4): 2274–2296. Published online 2015 Mar 31. doi: 10.3390/nu7042274 PMCID: PMC4425144 PMID: 25835049 Duodenal Cytochrome b (DCYTB) in Iron Metabolism: An Update on Function and Regulation
  3. Role of gastric acid in food iron absorption Skikne et al. Gastroenterology 1981;81:1068-71 (PDF)

95信頼区間とベイズの信用区間の違い

Explaining the difference between confidence and credible intervals Ben Lambert チャンネル登録者数 12.7万人

  1. https://ai-trend.jp/basic-study/bayes/bayes_interval_estimation/
  2. https://stats.stackexchange.com/questions/2272/whats-the-difference-between-a-confidence-interval-and-a-credible-interval
  3. https://en.wikipedia.org/wiki/Credible_interval

安定同位体比分析法を用いた食品等の解析

安定同位体とは

。同位体(isotope)とは,原子番号(陽子の数)が等しく,中性子数(従って質量数)が異なる核種のことをいいます。同位体には,不安定で放射能をもつ放射性同位体と,安定で崩壊しない安定同位体とがあります。例えば炭素では,12C(質量数12)と13C(質量数13)が安定同位体であり,14C(質量数14)が放射性同位体です。

安定同位体比分析の食品分野への応用

安定同位体比分析法の原理

同位体比は試料の起源や周囲の環境要因などによりわずかではあるものの変化します。

C4植物(トウモロコシやサトウキビなど)はC3植物(アカシヤ,レンゲ,クローバーなど)に比べて高い割合で13Cを取り込むことが知られています。

安定同位体比分析の食品分野への応用

安定同位体比の記法

炭素の安定同位体比は、国際的に定められた標準物質*に対する13C/12Cの偏差として以下の式で表します。

δ‰ = 1000 x (Rsample – Rstandard)/Rstandard

Rsample:試料中の13C/12C

Rstandard:標準物質中の13C/12C

炭素安定同位体比の標準物質:PDB (Pee Dee belemnite:アメリカ・サウスカロライナ州にあるPee Dee層から産出したイカの仲間 belemniteの化石に含まれる炭酸カルシウム)が用いられる。