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ATPをなぜ大量につくって保存しておかないのか

激しい運動をするとATPは数秒で消費されるそうです。そのため運動を継続するためにはATPを再生する必要があり、そのためには筋細胞ではクレアチンリン酸がリン酸をADPに供与してATPを再生します。クレアチンリン酸も枯渇すると、グルコースからATPを産生するしかありません。

そんなに不便なら最初からATPを大量につくって貯蔵しておけないのか?という疑問が湧きます。

ATP分子はかさばるので貯蔵に向かないから

Quoraの掲示板の答えを読んで、なるほどと思いました。

ATPの分子量は507.18 g/molですが、それに対して、ATPが加水分解により作り出すエネルギーは7 kcal/molしかなくて、グラムあたりだと7/507.18 = 0.0138 kcalしかありません。糖質やタンパク質のエネルギーは4 kcal/g、脂質は8 kcal/gと言われていますので、重量あたりのエネルギー産生能はATPの場合、非常に小さいということがわかります。つまり、ATPという分子は、かさばるばかりで貯蔵には向かないというわけです。

  1. Why can’t ATP be stored? Quora

 

食品のカロリー表示が表すものは何か?

炭水化物は1gあたり4 kcalとされているそうです。

  1. 明日をつくる今日の食卓カロリーについて【基礎編】 大塚食品

グルコースC6H12O6として考えた場合、燃焼熱と合うのでしょうか。C6H12O6=12×6+12+18×6=192  グルコース1gが何モルに相当するかというと、 1/192 = 0.0052083モルです。モル当たりになおすと、4/0.0052083=768 kcal/mol です。ネットの数値とあまり合わないようですね。ヤフー知恵袋の計算だと、3.72kcalなので整数にしたことによる誤差みたいです。カロリー=燃焼熱ということみたいですね。実際にはそんなに効率よくエネルギーを取り出せてはいない(たしか4割くらいの効率)ので、人間が使えるエネルギーは少ないはずです。

  1. グルコース C6H12O6(s) 分子量:180.156 −ΔcHº = 2803.3 kJ mol−1 燃焼熱 ウィキペディア 
  2. グルコースの燃焼熱は 2800 kJ/mol(669 kcal/mol) グルコースの燃焼熱は 2800 kJ/mol(669 kcal/mol)
  3. グルコース1gが燃焼する時の熱量:グルコース1molの燃焼熱は2800kJ、669kcalなので、1g当たりは669÷180=3.72 kcal https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10240337260

 

参考サイト

  1. 食品表示基準における熱量の算出方法 http://www.mac.or.jp/mail/180501/03.shtml

 

ペントースリン酸回路の役割と重要性

ペントースリン酸回路とは

ペントースは五炭糖(炭素5個からなる糖)という意味で、アルデヒドをもつ糖(アルドース)の五炭糖はリボースケトン基をもつ糖(ケトース)の五炭糖はリブロースと呼ばれます。ペントースリン酸回路は、解糖系のグルコース6リン酸から「脇道」に入って、リブロース5‐リン酸、リボース5‐リン酸を産生し、C7,C3,C4化合物なども作り、解糖系の中間代謝物であるフルクトース6-リン酸になって解糖系を逆行して回路が閉じます。リブロース5‐リン酸やリボース5‐リン酸といったペントースリン酸をつくる回路というわけです。

ちなみに、https://www.osmosis.org/learn/Pentose_phosphate_pathwayの動画を見ていたら、pentose phospate pathwayの名前の由来は、five carbon sugre (pentose)と、NADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)をつくるからだと説明していましたが、「pentose phospate」は一語でしょう。ペントースリン酸回路の役割を覚えてもらうために、このような説明をしたのかもしれません。

  1. https://www.khanacademy.org/test-prep/mcat/biomolecules/carbohydrate-metabolism/v/pentose-phosphate-pathway この動画でも、ペントースリン酸回路の役割の覚え方として、ペントース→リボースリン酸合成、リン酸→NADPHのP という説明があります。ただしあくまでも覚え方、思い出す手掛かりというニュアンスでした。

ペントースリン酸回路の役割

この回路では、次の2つの重要な役割が果たされる。役割の1つは、NADPHを産生することである。‥ペントースリン酸回路は、このような反応に必要なNADPHを産生するための最も主要な反応系である。ペントースリン酸回路のもう1つの役割は、核酸および各種ヌクレオチドの合成原料として必要なリボース5‐リン酸ribose 5-phosphateを産生することである。リボース5-リン酸はこの反応系でのみつくらる。(三輪・中『生化学』184~185ページ)

この教科書の説明はメリハリがあってわかりやすいと思います。

3つめの役割として、エリトロース4リン酸の産生(芳香環をもつアミノ酸の材料)を挙げている講義動画(↓)もありました。

Pentose Phosphate Pathway | Hexose Monophosphate Shunt Hussain Biology チャンネル登録者数 18.4万人 メンバーになる チャンネル登録 1575  GLYCOLYSIS PATHWAY : • Glycolysis Pathway

酸化反応経路

ペントースリン酸回路の前半部分、すなわちグルコース6-リン酸からペントース5リン酸が作られるところまでが、酸化反応になります。それ以降は酸化反応ではないようです。

ペントースリン酸回路が亢進している臓器・器官

The highest activity was found in lactating mammary gland and adipose tissue. Lung and liver showed to have a moderately high activity. Brain, kidney, skeletal muscle, and intestinal mucosa showed to have also a significant activity although less than other tissues. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10630623/

https://exchange.scholarrx.com/brick/pentose-phosphate-pathway

ビタミンDとは?構造、働き、欠乏症

ビタミンDとは

ビタミンDはビタミンという名前ではありますが実際の働きはホルモンで、カルシウムの恒常性に関与しています。血中カルシウム濃度が低下することにより、ビタミンDが産生され、カルシウムの貯蔵庫である骨の分解を促進してカルシウムを血中に放出させます。

ビタミンDの構造はコレステロールに似ており、ステロイドホルモンと同様に核内受容体に結合してカルシウム代謝に関係する遺伝子発現を誘導します。その結果、小腸上皮細胞ではビタミンDの作用により、カルシウムの取り込みを促進させます。

  1. ビタミン D と健康 ―カルシウム・骨の恒常性における役割― 特集号 『社会システム研究』 2017年 7 月 図 1 小腸カルシウム吸収機構 カルシウムの摂取量が不足している時や,妊娠・授乳中の様にカルシウム要求量が高い時は,能動的輸送機構が 働いてカルシウムは効率的に吸収される.

ビタミンDの活性型

ビタミンDは肝臓で25位の炭素が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンDになり、ついで、腎臓に行って1位の炭素も水酸化されて1,25ージヒドロキシビタミンDとなります。これが活性型で、作用を発揮します。

  1.  三輪・中『生化学』

ビタミンDの働き

性型ビタミンDは、腸管からのCaの吸収を高め骨の石灰化を促進して骨密度を増加させる(新陳代謝を高める)働きを有しています。(ビタミンDについて-特に骨粗鬆症薬としての活性型ビタミンD製剤について- 2017.1.6 中国中央病院)

  1. Vitamin D and the Kidney: Two Players, One Console Int. J. Mol. Sci. 2022, 23(16), 9135; https://doi.org/10.3390/ijms23169135 Figure 1. Systemic effect of vitamin D. Ca, calcium; P, phosphorus; PTH, parathyroid hormone. この図がわかりやすいかも。
  2. 25-Hydroxyvitamin D(3) suppresses PTH synthesis and secretion by bovine parathyroid cells C S Ritter 1, H J Armbrecht, E Slatopolsky, A J Brown Kidney Int . 2006 Aug;70(4):654-9. doi: 10.1038/sj.ki.5000394.

ビタミンD欠乏症

ビタミンDが欠乏すると、骨軟化症(osteomalacia)になります。成長期の骨軟化症は特に、「くる病(rickets)」と呼ばれます。

  1. Vitamin D and Bone

骨の構造

骨の構造は、鉄筋コンクリートの建物に例えると理解しやすいです。鉄筋に相当するのがコラーゲンなどの繊維で鉄筋の周りを固めるコンクリートに相当するのがヒドロキシアパタイト(水酸化リン酸カルシウム Ca5PO4 3(OH))です。Ca2+が5個で正電荷が10、PO4はマイナス3なのでー3x3=-9 OHはもちろんー1合わせてプラマイゼロ。電荷の数を考えると示性式が覚えやすくなります。

  1. 水酸化リン酸カルシウム(ウィキペディア)
  2. 知っておきたい骨のしくみと骨粗鬆症 ビル に例えると、コラーゲンなどのタンパク質が梁(骨組み)で、カルシウムを主体とするミネラル分がコンクリートにあたります。

骨の形成と吸収(分解)

  1. 知っておきたい骨のしくみと骨粗鬆症 完成しているように見える大人の骨でも、「作っては壊す」「壊してまた作る」という入れ替え作業が絶えず行われているのです。若い人では約2年で、高齢者でも約5年で全身の骨が新しいものに入れ替わるとされています(*2)。

電子伝達系(酸化的リン酸化)をどう捉えるか

グルコースのエネルギー代謝でATPが多量に産生されるのは、電子伝達系においてです。炭水化物からエネルギーを取り出すのに、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系と3つの全く異なるシステムが登場して、正直、あまりの複雑さに頭が混乱してしまいました。もうこれは、自然界はこんな巧妙な方法を編み出したんだと驚嘆して受け入れるしかないのでしょう。

大雑把にとらえると、グルコースという分子をつくる原子間の結合(つまり、電子の位置エネルギー)が、組み替えられて二酸化炭素と水になり(つまり、電子の位置エネルギーが一番低い状態にになり)、そのエネルギーの差が、取り出されるわけです。グルコースをもし本当に火をつけて燃やしてしまうと、一挙に大量の熱が発生してそのエネルギーは熱という形態だとなんの役にもたちません。そこで、ちまちまと段階的な化学反応によってエネルギーを取り出していこうというわけです。解糖系でもATPが2当量できますが、ほとんどはクエン酸回路で還元型の電子運搬体をつくり(NADHとFADH2)、これらの電子運搬体が電子伝達系に電子を渡すことで、電子伝達系の複合体の中を電子がポテンシャルエネルギーの勾配を「下り降りて」、その位置エネルギーの差の分で、プロトン勾配にさからってプロトンを輸送しているだけです。そしてプロトン勾配として蓄えられたエネルギー(ミトコンドリア膜電位)を利用して、ADPと無機リン酸をつかって、ADPをリン酸化してATPをつくっています。

ポイントをかいつまむと、炭水化物は酸化され(=電子がヒドリドイオンすなわちH-として奪われ)、電子(すなわちヒドリドイオン)を受け取ったNAD+やFADが還元型(NADH, FADH2)となって「電子運搬体」の役割を果たして、電子伝達系の複合体I,III,IVに渡し、複合体が「電線」として働いて電子がその中を流れて、プロトンをくみ出して、プロトン勾配として蓄えられたエネルギーを利用して(プロトンが勾配によって流入するときのエネルギーを利用して)ATPを作ります。

 

高校や大学の生物の授業で多分説明を受けたのだと思いますが、こんなことが起きているなんて全然想像もつかず、理解できていなかったと思います。

電子伝達系の複合体は電線

複合体は電位差のある地点同士をつなぐ電線に過ぎないと捉えると、物理の電流がする仕事と同じことになり、理解ができます。

電子伝達系と呼ばれるものがその名の通り電子を伝える(electrontransfer)系であるならば,そこは電流の通路ということになる.電流の通路の典型的なものは電線である.電子伝達系というと何か摩訶不思議な構造物を想像するであろうが,これは絶縁物で被われた何の変哲もない電線であると思えばいいつまり,内膜を貫いて電線があると思えばいい.このことを明確に表現している文を目にしたことは未だにない.(「生理学ものがたり」第 2 回 電子伝達系とミトコンドリアの膜電位 滋賀医大名誉教授 北里 宏 日生誌 Vol. 69,No. 12 2007

下の説明は非常に明解でわかりやすいと思いました。電子伝達系はまさに、「電線」として描かれています。

有機物の酸化分解反応と酸素の還元反応という2つの化学反応をリンクさせ、そこから電気化学エネルギーを取り出しているのです。これは、負極の化学反応と正極の化学反応をリンクさせ、その間の電位差分のエネルギーを得る電池と同じ構造です(図を参照)。細胞の中で有機物の酸化により放出された電子は、ミトコンドリア内膜の電子伝達系(負極と正極をつなぐ電線)を経て、酸素に渡されます。(東京薬科大学 生命科学部 生命科学部 学科紹介 応用生命科学科 キーワード解説 生体エネルギー

下の総説(同じ薬科大の先生の論文)でも同様の図がありました。

呼吸鎖電子伝達系はいわば細胞内の電線として機能し,生物はその電線に電流を流すことによってエネルギーを取り出しているとも言える.(微生物の発電 高妻 篤史 東京薬科大学生命科学部 日本物理学会誌 Vol. 71, No. 5, 2016)

こういう説明は概念がつかみやすいと思いますが、生化学の教科書を見てもあまりこういう説明の仕方は見当たらないように思いますので、この解説論文は貴重だと思いました。下のウェブサイトでも同様の説明がなされていました。

ミトコンドリアでNADHがもつ過剰な電子は「呼吸酵素複合体(電子伝達系)」を通じて酸素分子へ流れることでATP合成のためのエネルギーに変換されるが、その様子は電池のマイナス極から+極へ電子が流れる様子と似ている。電池ならマイナス極と+極が電線でつながれてその間にある電球が光ったりする。ミトコンドリアでは電子伝達系の複合体(鉄などの金属原子を含むので、電線のように電子が流れる)が「電線と電球を一体化したもの」に相当する。電球はエネルギーを光のエネルギーに変えるが、電子伝達系の複合体は水素イオンをミトコンドリア内膜の内側から外側へ輸送することによって「水素イオン濃度の差」というエネルギーに変える。(Column1__細胞とエネルギーの結びつき – https://home.hiroshima-u.ac.jp/naka/wiki/wiki.cgi)

電子運搬体と電線(複合体)

電子運搬体であるNADHが複合体Iに電子を渡し、電子は複合体Iの中をながれてユビキノンに電子を渡します。複合体II(コハク酸脱水酵素)が産生する電子運搬体FADH2も電子をユビキノンに渡します。ユビキノンは複合体III(シトクロムc還元酵素)に電子を渡します。電子は複合体IIIの中を流れ、こんどはシトクロムcに電子が渡ります。シトクロムcは電子を複合体IVに渡します。電子は複合体IVの中を流れて最後は酸素分子に渡されて、水が産生されます。

 

シトクロムP450とは

シトクロムP450とは

シトクロムはほとんど全ての生物種がもっている酵素で、酸素分子を用いて有機物を酸化することができます。還元型で一酸化炭素が結合したときに450nmの吸収の極大を持つことからこう名付けられました。ヘムを持つたんぱく質で、多様性があり多数のファミリーに分類されまています。

  1. タンパク質の高次構造形成過程における プロリン残基の役割:シトクロムP450 の場合 生物物理 41(4), 181-185(2001)

生物にとっての異物、毒物や、薬などの代謝に関係しています。

ChatGPTによる説明

https://chat.openai.com/chat で質問してみました。What is cytochrome P450? 以下、その答えです。

Cytochrome P450 (CYP450) is a family of enzymes that play a crucial role in the metabolism of many drugs, toxins, and endogenous compounds in the human body. These enzymes are found in many tissues, including the liver, lungs, kidneys, and intestines, and are involved in the oxidation of organic substances.

CYP450 enzymes are responsible for the breakdown of a wide range of substances, including pharmaceutical drugs, hormones, and environmental toxins. They are important in drug metabolism because they can change the chemical structure of drugs, often making them more water-soluble and easier for the body to eliminate.

There are many different types of CYP450 enzymes, each with a unique structure and substrate specificity. These enzymes are identified by a specific number, such as CYP1A2 or CYP3A4, and are regulated by various factors, including genetics, diet, and environmental factors. Because of the important role that CYP450 enzymes play in drug metabolism, they are often the target of drug-drug interactions, which can affect the effectiveness and safety of medications.

集合知って凄いですね。

ミトコンドリア膜電位について

多くの精神疾患でミトコンドリア機能障害の関与が示唆(MedicalTribune)というニュース記事が出ていました。

ミトコンドリアの二大機能として、細胞のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)の産生カルシウムイオンの取り込みがあり、いずれもミトコンドリア呼吸鎖の活動によって生じるミトコンドリア膜電位により駆動されることから、精神疾患との関連を検討するには、ミトコンドリア呼吸鎖の活性をin vivoで測定することが重要となる。(MedicalTribune

ミトコンドリア膜電位ってどうやって作られていて、どれくらいの大きさなのでしょうか。

ミトコンドリアは自らを充電すると同時に,蓄えたエネルギーを使って仕事をする.この充電のメカニズムは化学結合のエネルギーを電位差という形に変換するもの

燃焼の際に得られるエネルギーは,ミトコンドリアでまずNADHという分子の中に高エネルギー電子の形で閉じ込められる.

ATPを盛んに合成することは電位差を小さくする方向に働くので,もしATPをあまり合成しないまま水素イオンを内側から外側へ移動させ続けると電位差は大きくなり続け,やがて電子伝達から得られるエネルギーでは膜電位に逆らって水素イオンを移動させることができなくなる.(単一ミトコンドリアの膜電位計測

ミトコンドリアにおけるATP産生のメカニズムの発見

1950年代から60年代にかけて,多くの生化学者が酸化と燐酸化とを結び付ける高エネルギー中間産物を水溶液中に探し求める努力を続けたが,見るべき成果を挙げることは出来なかった.(「生理学ものがたり」第2回電子伝達系とミトコンドリアの膜電位

酸化と燐酸化とを結び付ける高エネルギー中間産物があるはずという仮説が間違っていたので、研究がドツボにはまったという、正しい仮説に基づいて研究しないといけないという好例だと思います。

硫黄(S)を含む化合物の結合に関して(混成軌道の種類)

SF6

六フッ化硫黄(SF6)は無色無臭で空気よりも思い気体です。硫黄原子の電子の軌道は、主量子数1,2,3に対応してK殻、L殻、M殻とありますが、硫黄は原子番号16なのでK殻(1s)に2個、L殻(2s, 2px, 2py,2pz)に10個電子が入っていて、のこり6つが、M殻に存在します。

  1. 電子核(ウィキペディア)

M殻の電子の軌道は、3s, 3p(3個), 3d(5個)で、電子が3sに2つ、3pxに2つ、3pyと3pzにそれぞれ1個ずつ入ります。

ーーーーー5d

ーーー3p

ー3s

  1. 化学 I 分子と化学結合(第6回)functfilm.es.hokudai.ac.jp

これが基底状態。励起状態になって、3sの電子の1つと、3pxの電子の1つが5d軌道にそれぞれ1つずつ入ると(3s)1(3p)3(5d)2の6個の軌道に一つずつ電子が存在することになり(不対電子)、これらの軌道が混成することで6個の等価な軌道が新たに作られます。これにより硫黄は「手」が6つ持てて、他と化合物を形成します。

  1. SF6とはどんなものか その応用と性質
  2. 4.多電子原子の電子軌道(周期表の理解へ)chem.nara-wu.ac.jp
  3. 本当の原子半径によって 電気陰性度を説明できる。 biglobe.ne.jp/~kcy05t

フッ素Fの原子番号は9で、電子は1s, 2s, 2px, 2py までは2個2入り、2pzに一個入ります。不対電子が1つなので、「手」は一本で他と結合します。これでSF6がつくられる仕組みが説明されました。

  1. 六フッ化硫黄 ウィキペディア

原子価とは

  1. 原子価 ウィキペディア 。基準には水素をとり、水素原子を1価とする 各元素の原子価には電気的な正負の区別をつけたほうが便利であり、元素の電気陰性度が正負の区別の目安となる。たとえば、水素原子の原子価を正の1価とすれば、酸素、塩素の原子価はそれぞれ負の2価、1価である。しかし、多くの元素は同時に正負の両原子価を示すことがある。たとえば、塩素の負原子価は塩化水素の結合から1価のみであるが、過塩素酸HClO4では塩素の原子価は正原子価7となる。このように、各元素の原子価はかならずしも一定の値をもたない。硫黄(いおう)の場合も同様で、硫化水素H2Sから負原子価は2価であるが、正原子価は2価、4価、6価をとりうる。
  2. 高校化学基礎5分でわかる!原子価とは TryIt 原子価とは 「原子の手の数」 のことです。 「手」とは不対電子の数でしたから、 「原子価=不対電子の数」 となります。

酸化還元反応とは

酸素が結合するのが酸化、もしくは水素が取られるのが酸化、もしくは電子を取られるのが酸化という習い方をしたように思います。

酸素と結合することがなぜ電子を奪われたことになるのか

水素と結合していた炭素は、お互いの電気陰性度が同程度なので共有結合によって共有されている電子対がどちらかの原子に偏って存在しているということはありません。それに対して、相手が変わって炭素が酸素が結合したときには酸素は電子を引っ張る力が強い(電気陰性度が大きい)ので、酸素と結合した炭素にしてみれば、共有電子対をつくっても全体としては酸素原子のほうに電子が分布した状態になり、電子を取られた状態になっているというわけです。

酸化の定義がなぜ電子が奪われること、または、水素が奪われることなのか

酸化の定義として2つの言い方を同時に習うと、どっちなの?同じなの?なぜ同じなの?という疑問が湧きます。自分の理解としては H → H+ + e- と分けて考えられるのでHが引き抜かれるのと電子が奪われるのが同じです。例えばアルコールの酸化の場合

CH3CH2OH → CH3CHO + 2H で水素が2個引き抜かれていますが、

2H =2H+ + 2e- と考えれば電子が2個奪われたともいえます。

酸化還元について考えると、”水素原子”は”水素イオン”(H+)と電子(e-)に等価である(H原子=H+ + e-)ことを知っておくことは重要である。

(マクマリー生化学反応機構 第2版 106ページ)

酸化数

酸化された還元されたというのをわかりやすくするために「酸化数」というものが考えだされました。電気陰性度が小さい水素(原子価1)の酸化数は+1電気陰性度が大きい酸素(原子価2)はー2です。電気陰性度が大きい窒素(原子価3)の酸化数はー3です。また、分子全体の酸化数の合計は0.例えばメタンCH4ですと、水素の酸化数が+1で4個あるので、メタンの炭素の酸化数はー4になります。メタンが完全に酸化されて二酸化炭素CO2になると、酸素の酸化数がー2なので二酸化炭素の炭素の酸化数は+4になります。変化としては、ー4から+4に酸化数が増加しました。「酸化数の増加」=酸化された ということになります。

  1. https://www.nhk.or.jp/kokokoza/kagakukiso/assets/memo/memo_0000002069.pdf
  2. https://www.daido-it.ac.jp/~yocsakai/qa008.html

同じ原子同士が結合しているときは酸化数の寄与はありません。炭素―炭素結合間に関しては酸化数は数えません。例えばプロパンCH3CH2CH3のそれぞれの炭素原子の酸化数を考えてみると、同種原子からの酸化数計算の寄与はないので、結合している水素(酸化数+1)だけから計算して、それぞれー3,-2,-3となります。真ん中の炭素は酸化数がー2であって、のこり2つの炭素原子とは酸化数が異なっているということになります。

別の例を考えると、過酸化水素水H2O2の場合は、水素の酸化数は+1ですが、酸素原子は他方の酸素原子とも結合しているので、自分が結合している水素の酸化数のみ考慮して、酸素の酸化数はー1になります。

結合している相手への酸化数の寄与はその結合に関して0になるような値と考えればいいのではないでしょうか。

  1. https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14239225319

酸化数の考え方を使うと、有機化合物の場合、水素を奪われた炭素は酸化数が+1増加(か相手によってそれ以上)するので「酸化された」(酸化数が増加した)とわかります

酸化数の定義

化学における酸化数の定義をちゃんと見ておきます。以下の通りでした。

酸化数 (oxidation number )

(a ) 原 子 X と原子 Y の 結合に お い て ,Y の 方が よ り陰 性で あれ ば ,両 原子問 に あ っ て 結合に 関与 し て い る と考え られ る電子 はすべ て Y に 与 え られ る 。 た だ し陰性 の大小は“ 電気陰性度”(表 4 )に よ っ て 判定 され る。
(b ) 化合物中におけるO原子 の酸化数は 一2 とする (た だ しF2Oと過酸化 物 M2(I)O2,のばあいを除く)。
(c ) 化合物中にふくまれ るH原子 の酸化数は +1とす る (ただし金属水素化物のばあいを除く)。
(d ) 元素のままの状態における酸化数はゼロで あ る 。
(e ) 中性分子中にふくまれる各原子の酸化数を総和した値はゼロである 。
(f ) イオン中にふくまれる各原子 の酸化数総和 はイオンの 荷電数(符号をふくむ )に 等 し い 。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakukyouiku/15/1/15_KJ00003479165/_pdf/-char/ja

酸化反応とエネルギーとの関係

電子を取られる酸化反応がなぜ自然に起こるのかというと、電子にしてみれば、位置エネルギーが高い状態から、位置エネルギーが低い状態に移るからです。例えるなら、机の上に置いたコップは、机の下つまり床の上に置かれたときよりも、机の高さ分の位置エネルギーを持っているわけで、机の支えがなくなったら床にむかって落ちていきます。

化学実験における燃焼(酸化)と生体内における”燃焼”(酸化)との違い

酸素が存在する条件下で炭化水素や糖などを燃やして酸化し、二酸化炭素と水にする反応は、実験室でおきようが生体内で起きようが、反応物と生成物(最終的な)だけ見ると全く同じです。違いは何かというと、活性化エネルギーを得るために火をつけて(高温にして)燃やすということは、生体ではできないことです。何しろ体温が37度なのですから。そこで一気に酸化するのでなく部分的に部分的に、段階的に酸化していきます。それぞれの化学反応は酵素が司るのでそれぞれの反応の活性化エネルギーも小さくなっています。よって体温の温度で反応を進めることができるわけです。

また、一気に酸化して熱エネルギーを貰っても使いようがないので、ちょっとずつ酸化してATPを作ります。実際にはNAD+やFADといった「還元剤」を使ってエネルギーを一度NADHやFADH2といった還元型の物質に蓄えておき、それらをさらに酸化してエネルギーを取り出していくわけです。

The biological oxidation reactions occur in a stepwise fashion using not O2 directly, but rather less potent oxidizing agents like NAD+ and FAD.

Jakubowski Fundamentals of biochmistry II: Bioenergetics and metabolism (LibreTexts) 17.2: OXIDATION OF FATTY ACIDS 17.2.1:INTRODUCTION page 306

上のLibreTextsの教科書の説明は明解で理解しやすいと思いました。

化学反応のエネルギーと仕事

エネルギーはいろんな形態をとるので、別の例で考えてもいいはずで、例えで考えるとわかりやすいです。位置エネルギーが高いところから位置エネルギーが低いところに移動して、その分、運動エネルギーになります。運動エネルギーをもったコップは、何か他のものを動かしたり仕事ができます。

電子も同様で、電気的な位置エネルギーがたかいところから低いところに移動する間に、その差となるエネルギーを使ってほかの何かの仕事ができる、もしくはそのエネルギーを他のものに与えるというわけ。

  1. 12.1: Introduction to Redox (LibreText Chemistry) Electrons in an organic redox reaction often are transferred in the form of a hydride ion – a proton and two electrons. Because they occur in conjunction with the transfer of a proton, these are commonly referred to as hydrogenation and dehydrogenation reactions: a hydride plus a proton adds up to a hydrogen (H2) molecule.
  2. Lecture 15B – Electron Reduction Potentials Thomas Mennella チャンネル登録者数 1.2万人 酸化還元電位の表の見方、共役させたときの電位差とギブス自由エネルギーとの関係
  3. WHAT IS THE REDOX POTENTIAL OF A CELL? CELL BIOLOGY BY THE NUMBERS
  4. 酸化還元反応 (eng.hokudai.ac.jp/)
  5. Microbial electron transport and energy conservation – The foundation for optimizing bioelectrochemical systems FIGURE 3
  6. 標準電極電位とは?電子のエネルギーと電位の関係から解説 電池の情報サイト

コレステロールとは?役割、種類など

コレステロールの発見と命名

コレステロール(choresterol)という名前は、、chole (胆汁 bile)とstereos (固い solid)、-ol(アルコールであること、つまり水酸基をもつ)という言葉から作られた造語で、このように名付けられたのは発見のいきさつに由来しています。フランスの化学者ラフランソワ・プルティエ・ド・ラ・サール (François Poulletier de la Salle 1719-1788)が、胆石に含まれる成分として1769年にコレステロールを発見しました。

ステレオが「固い」の意味?と思うかもしれませんが、日本語でも ステレオタイプ=固定的な考え という意味で使われています。

  1. History in medicine: the story of cholesterol, lipids and cardiology Vol. 19, N° 9 – 13 Jan 2021 Kuijpers Dr. Petra M.J.C. Kuijpers European Society of Cardiology (ESC)

コレステロールの生合成

コレステロールの合成経路の始まりはアセチルCoAです。アセチルCoA(炭素2つ)が2つ組み合わされてアセトアセチルCoAになります(炭素4つ)。アセトアセチルCoA(炭素4つ)にアセチルCoA(炭素2つ)がさらに結合してヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMG-CoA)(炭素6個)になります。このあとHMG-CoA還元酵素により還元、脱炭酸により炭素5個からなるイソペンテニル二リン酸(isopentenyl diphosphate, IPP)になります。この反応がコレステロール生合成の律速段階であり、HMG-CoA還元酵素阻害剤スタチンは非常に有名な薬です。なぜイソペンテニル二リン酸の略号がIDPでなくIPPなのかというと、旧名がisopentenyl pyrophosphate(IPP)だったからで、略号だけはいまだに使われているということのようです。IPPと、その異性体であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)が結合して炭素10個からなるゲラニル二リン酸(GPP)ができます。GPPにIPPがついて炭素15個からなるファルネシル二リン酸になり、それが2量体になって炭素30個のスクアレンになります。スクアレンが環状になってラノステロールをへてコレステロールになります。

  1. マクマリー生化学反応機構122ページ
  2. Condensation of Acetyl-CoA to HMG-CoA Wikimedia Commons
  3. Aldol reactions in metabolism Khan Academy アセチルCoAエノラートの説明など。手描きなのに見やすい。

 

コレステロール合成の阻害薬スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

スタチンは、コレステロール合成の律速段階であるHMG-CoAの還元を司るHMG-CoA還元酵素の阻害薬であり、いわゆる悪玉コレステロール(多すぎると、動脈硬化を起こして心筋梗塞や脳梗塞を発症させる恐れがある)として有名な低密度リポプロテイン(LDL)の血中濃度を低下させる作用を持ち、冠動脈疾患の予防と治療に世界じゅうで広く使われている高脂血症治療薬です。

スタチンの発見

スタチンが発見された経緯は、研究が進むのがいかに一筋縄にはいかないものかがわかってとても興味をそそられます。

  1. 1971年(昭和46年)遠藤章氏、コレステロールの律速段階の反応を司る酵素「HMG-CoA還元酵素」の阻害物質の探索研究を開始。2年間で菌類(カビとキノコ)約6000種の培養液を調べて阻害活性物質ML-236Bを発見。
  2. ML-236Bはin vitro実験で強い活性を示すも、ラットを用いたin vivo実験で効果が見いだされず、会社が研究を打ち切りを決定。
  3. 遠藤章氏はここであきらめずに、もともと血中コレステロールが高いメンドリを実験動物として用いた場合に、ML-236Bが血中コレステロールを下げることを見出し、ビーグル犬を用いても同様の結果を得て、ML-236Bプロジェクトを会社が再開。
  4. 1976年 家族性高コレステロール血症(FH)ホモ接合体細胞と健常人の培養細胞を用いた実験を開始。
  5. 1978年11月 慶應義塾大学で臨床試験(フェーズ1)開始
  6. 1979年(昭和54年)1月1日 遠藤章氏は三共を離れ、東京農工大学農学部助教授に
  7. 1987年(昭和62年) 米国でロバスタチン承認
  8. 1989年(平成元年) 三共がプラバスタチンを販売開始
  9. 2005年 スタチン製剤の売上合計が年間約3兆円を記録

参考

  1. 遠藤章ウェブサイト(http://endoakira.com/)
  2. 平成の30年間に世界で一番使われた薬【平成の医療史30年◆スタチン編】 2019年5月31日 平成の医療史30年 m3.com
  3. 動脈硬化のペニシリン“スタチン”の発見と開発 遠藤章先生に聞く
  4. スタチンの誕生 遠藤章 日農誌 2016
  5. スタチンの発見者,遠藤章氏に聞くインタビュー 2014.06.16 医学界新聞
  6. ラスカー賞に遠藤章・東京農工大特別栄誉教授 2008/9/15 けむすて

 

コレステロールに関する参考サイト

  1. コレステロール(ウィキペディア)