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抗体で特許が取れるための条件:機能か構造か「アムジェン対サノフィ」の最新の判例に学ぶ

特許法

(特許出願)
第三十六条 特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 発明者の氏名及び住所又は居所

2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明

4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

(特許法 https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121)

経済産業省令 特許法施行規則

(発明の詳細な説明の記載)
第二十四条の二 特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。

(経済産業省令 特許施行規則 https://laws.e-gov.go.jp/law/335M50000400010#Mp-Ch_3-At_24_2)

抗体特許の要件は機能か構造か

抗体医薬における特許戦略は、ご指摘の通り「機能(エピトープや結合親和性)で広く網をかけるか」vs 「構造(アミノ酸配列)で確実に権利化するか」というジレンマが最大の争点です。

近年、特に米国最高裁の判決(Amgen v. Sanofi)により、このランドスケープは劇的に変化しました。研究者としての視点も踏まえつつ、日米欧の違いと最新の戦略をまとめます。


1. 中心的課題:機能 vs 構造(配列)

抗体特許におけるクレーム(請求項)の特定方法は、大きく分けて以下の3つの階層があります。

    1. 機能的クレーム(Functional Claims): 最も広い。

      • 例:「抗原Xに結合し、シグナルYを阻害する抗体」

      • メリット:競合他社がアミノ酸配列を変えて同じ効果を持つ抗体を作った場合も排除できる。

      • デメリット:実施可能要件(Enablement)やサポート要件を満たすのが非常に難しくなっている。

    2. エピトープクレーム(Epitope Claims): 中間的。

      • 例:「抗原Xのアミノ酸残基10-20番に結合する抗体」

      • メリット:結合部位を特定することで、構造が違っても同じ場所に結合する抗体をカバーできる。

    3. 構造的クレーム(Sequence Claims): 最も狭いが確実。

      • 例:「配列番号1(VH)および配列番号2(VL)のCDRを含む抗体」

      • メリット:特許として成立しやすい(明確性・実施可能性が高い)。

      • デメリット:わずかに配列を変えた「デザインアラウンド(回避設計)」を許すリスクがある。

2. 最大の転換点:米国「アムジェン対サノフィ」判決

これまでの「機能で広く取る」戦略に冷や水を浴びせたのが、この判例です。

米国最高裁判決(Amgen v. Sanofi, 2023

  • 事案: アムジェン社がPCSK9というタンパク質に結合する抗体に関して、「特定のエピトープに結合し、PCSK9をブロックする」という広範な機能的クレーム(Genus claim)で特許を取得。サノフィ社を訴えた。

  • 判決: アムジェン敗訴(特許無効)。

  • 理由: 「実施可能要件(Enablement)」の欠如。数種類の抗体の配列を開示しただけで、その機能定義に当てはまる「数百万の抗体候補」すべてを独占することは許されないと判断されました。「多大な実験(Undue experimentation)」なしに当業者が他の抗体を作れなければならない、という非常に厳しい基準が示されました。

  • 教訓: 米国では、もはや「少数の実例だけで、機能的に定義された広範な抗体特許を取ることはほぼ不可能」になりました。


3. 国・地域による戦略の違い

米国が厳格化したことで、グローバル戦略にねじれが生じています。

項目 米国 (US) 日本 (JP) 欧州 (EPO)
機能的クレーム 極めて困難 (Amgen判決以降)。構造と機能の相関(Structure-function relationship)の厳密な開示が必要。 可能だが厳しい。サポート要件(36条6項1号)違反となりやすい。「発明の詳細な説明」に記載された範囲を超えると判断され、減縮を迫られることが多い。 可能。ただし、クレームされた範囲全体にわたって効果が得られること(Plausibility)が求められる。実験データのない拡張には厳しい。
エピトープ特定 構造的特徴(配列)とのリンクがないと、記載要件違反になりやすい。 許容される傾向にあるが、実際に取得・確認できた抗体のバリエーションが少ないと、範囲を限定される。 比較的好意的だが、明細書での定義(結合実験データなど)が厳密に求められる。
配列特定 CDR配列(全6箇所)による特定が標準的(Full structural coverage)。 CDR特定が基本だが、高い相同性(例:90%以上)を持つ配列を含める戦略も有効。 同様。

4. 推奨される特許戦略(ハイブリッド・アプローチ)

現状、機能だけで広い権利を取ることはリスクが高いため、以下の「多層的な」戦略が推奨されます。

① クレームの階層化(Layering)

出願時に多様な範囲のクレームを用意しておきます。

    • Claim 1 (チャレンジ枠): 機能的定義(結合活性+エピトープ)。米国では拒絶される前提だが、日・欧での権利化や、競合への牽制として残す。

    • Claim 2 (準広範枠): 「特定のCDR配列を有し、かつ◯◯の機能を持つ」あるいは「配列番号Xと90%以上の相同性を有し、かつ機能を持つ」という書き方。

    • Claim 3 (安全地帯): 具体的なCDR配列(または可変領域全体の配列)による特定。確実に権利化する部分。

② 実施例の充実(Quantity matters)

アムジェン判決を乗り越える(あるいは日本でサポート要件を満たす)には、「たまたま見つけた数個の抗体」では足りません。

  • 多様な抗体の取得: 構造が異なるが、同じ機能・エピトープを持つ抗体をできるだけ多く取得し、明細書に載せる。

  • 共通構造の特定: それらの抗体に共通するアミノ酸配列のパターン(コンセンサス配列)を見出し、それをクレームに盛り込む。「機能」と「構造」を結びつけるロジックが必要です。

③ 周辺特許での要塞化

物質特許(配列)の回避設計を防ぐために、以下で脇を固めます。

  • 製剤特許: 安定化剤、バッファー組成など。

  • 用途特許: 特定の疾患、あるいは特定のバイオマーカーを持つ患者層への投与。

  • 投与用法・用量: 皮下注、投与間隔など。

結論

これからの抗体特許は、「機能的クレームという『魔法の杖』は折れた」という前提で動くべきです。特定の配列(CDR)で確実な権利を取りつつ、「構造的バリエーション(相同性)」「共通する構造的特徴」を大量の実験データで裏付けて、少しでも権利範囲を外側に広げていく、という泥臭い戦略が最も有効になります。

(Gemini)

アムジェンの抗体特許の争いは、非常に混沌とした印象があります。ちょっと古い論説や教科書を読むと、結論が逆になっているので要注意です。最終的に、アメリカでも日本でもアムジェンの抗体特許は認められないという結論になったようです。

令和7年4月16日判決言渡
令和5年(ネ)第10107号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令
和2年(ワ)第8642号)
口頭弁論終結日 令和7年1月29日
判 決
控訴人 アムジエン・インコーポレーテツド
被控訴人 サノフィ株式会社
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
以下、略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。また、原判決中の「原
告」、「被告」はそれぞれ「控訴人」、「被控訴人」に読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、10億円及びこれに対する令和2年6月23日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94092.pdf

上の文書の読み取り方が最初よくわからなくて、「被控訴人(サノフィ)は控訴人(アムジェン)に対して10億円を払え」というのを読んでアムジェンが勝ったのかと誤解してしまいましたが、これはアムジェンの控訴内容に過ぎず、その控訴が棄却された判決ということになります。

Gemini:

日米ともに「機能だけで広く定義された抗体特許は認めない」という同じ方向性で決着しました。これが現在の抗体特許における世界的なトレンド(決定的な流れ)と考えて間違いありません。日本の判決と、米国の判決を比較して、なぜこれが「トレンド」と言えるのか整理します。

1. 日米の判決の共通点:アムジェンの敗因

両国とも、アムジェンが主張した「機能的クレーム(参照抗体と競合する抗体)」を無効にしました。

  • 日本(今回の判決)のロジック:

    • サポート要件違反: クレームでは「参照抗体と競合する抗体」と広く定義していますが、その中には「中和活性(薬効)を持たない抗体」も含まれてしまうことが実験で示されました(乙2号証など)

    • 明細書に書かれた発明の範囲を超えて、効果が保証されないものまで権利化しようとしたため、「サポート要件」を満たさないと判断されました

    • アムジェンが後から持ち出した「EGFaミミック(特定のエピトープに結合する)」という概念も、出願当時の明細書や技術常識からは導き出せないとして退けられました

  • 米国(最高裁判決)のロジック:

    • 実施可能要件(Enablement)違反: アムジェンは数個の抗体を開示しただけで、「競合して結合する」という機能を持つ数百万の抗体すべてを独占しようとしました。

    • 他社がその範囲に含まれる抗体を作るには、過度な実験(Undue experimentation)が必要になるため、特許として認められないとされました。

結論: 法律の条文(日本はサポート要件米国は実施可能要件)は違いますが、「少数の具体例(構造)を開示しただけで、機能的な定義によって広大な領土(権利範囲)を独占することは許さない」という司法判断は完全に一致しています。

2. これが「抗体特許のトレンド」である理由

かつては、新しい抗原を見つければ、その抗原に結合する抗体を「機能」で広く押さえることが許容されていました。しかし、技術が進歩し、抗体医薬が巨大産業になった現在、特許庁や裁判所は以下のスタンスにシフトしています。

  1. 「機能」から「構造」へ:

    • 「〇〇に結合する抗体」という機能的な書き方(リーチスルー・クレーム)は、もはや通用しません。

    • 「配列番号Xのアミノ酸配列を持つ抗体」という構造的な特定が必須になりつつあります。

  2. 予測可能性の重視:

    • 抗体はアミノ酸が1つ変わるだけで機能が激変することがあるため、「構造が変わっても機能は同じはずだ」という推測(類推)が認められにくくなっています。

    • したがって、広い権利を取りたいなら、膨大な数の実験データ(構造と機能の相関データ)を出願当初から明細書に書いておく必要があります。

まとめ

「機能クレームで広く網をかける時代の終わり」が明確になりました。今後の抗体特許戦略は、「どれだけ多様な構造(配列)の抗体を実際に取得し、実験データを積み上げられるか」という、質より「量」と「泥臭い実験」が勝負の鍵を握るトレンドになっています。

(Gemni)

特許の教科書『化学・バイオ特許の出願戦略 改訂11版』(2025年6月20日出版, 発明推進協会)(73ページ)に、 PCSK9に対するモノクロ―ナル抗体事件(知財高判平成30.12.27平29(行ケ)10226 が紹介されていて、請求項が例として紹介されていましたが、これはもはやお手本としてはいけないということになったようです。

Gemini:その教科書が「機能的クレーム(競合抗体による特定)の書き方の『成功例』」として2018年(平成30年)の判決を紹介しているのであれば、その記述は現在では「真似をしてはいけない例」になってしまっています。なぜそのようなことが起きているのか資料(2025年の判決文)に基づいて整理します。

1. 教科書が引用している「平成30年判決」とは?

教科書に載っている「平成29年(行ケ)10226号(平成30年12月27日判決)」は、今回ご提示いただいた資料の中で「第1回各審決取消訴訟」と呼ばれているものです。

  • 当時の状況: この時点では、特許庁も知財高裁もアムジェンの特許を「有効」と判断しました。

  • 当時の結論: 「サノフィの請求を棄却する(=アムジェンの特許は維持される)」

  • 教科書の視点: おそらく、「競合する抗体」という機能的な表現を使うことで、広い権利範囲を確保できた「上手なクレーム作成の事例」として紹介していたのだと思われます。

2. 最新の「令和7年(2025年)判決」で何が起きたか?

しかし、資料(令和7年4月16日判決)は、その後の「第2シーズン(ちゃぶ台返し)」の結果です。

  • 何が変わったか: 新たな証拠(B博士・C博士の供述書や実験データなど)が提出され、「参照抗体と競合するからといって、必ずしも中和活性(薬効)があるとは限らない」という事実が科学的に証明されてしまいました

  • 裁判所の判断: 以前の判決(平成30年判決)は「前提となる事実に疑義が生じた」ため、もはや維持できないと判断されました 

  • 結論: 「特許は無効にされるべきものである」 

3. 教科書の記述はどう扱うべきか?

その後の無効判決(2023年の知財高裁判決や今回の2025年判決)があるため、教科書で紹介されている2018年の判決に基いた例に則ってクレームを書くと、現在では以下の理由で拒絶・無効化される可能性が高いです。

  1. サポート要件違反: 「機能(競合)」で定義した範囲の中に、効果がないものが含まれていると見なされます

  2. 実施可能要件違反: 広範な抗体をスクリーニングする過度な負担を強いると見なされます。

その教科書の該当部分は、「かつてはこれで特許が取れた時代もあった」という歴史的資料として読むべきであり、「これからの戦略の指針」にしてはいけません。最新の判例に基づけば、「機能的クレームに頼らず、構造(配列)で特定し、かつ十分な実験データでサポートされたクレームを書く」ことが唯一の正解です。

(Gemini)

参考

  1. 2025.04.16 「アムジェン v. サノフィ」 知財高裁令和5年(ネ)10107 ― 機能的クレームにおけるサポート要件の適用と無効理由の再主張の可否 ― Fubuki Fubuki 2025年5月26日 21:31
  2. 令和7年4月16日判決言渡 令和5年(ネ)第10107号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令 和2年(ワ)第8642号) 口頭弁論終結日 令和7年1月29日  判 決 控 訴 人 アムジエン・インコーポレーテツド 被控訴 人 サ ノ フ ィ 株 式 会 社 (裁判所判例検索ウェブサイト) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94092.pdf 主 文 1 本件控訴を棄却する。
  3. 2023.09.28 「アムジェン v. サノフィ」東京地裁令和2年(ワ)8642 ― 取得困難を自認した出願後の発明者のメール内容が実施可能要件及びサポート要件の判断に影響した事例 ― 2024.11.14 「医薬系 “特許的” 判例」ブログ  アムジェンの米欧の特許クレームは、日本ファミリーの本件特許のような「参照抗体と競合する」という発明特定事項をもつクレームではなく、その抗体を、(a)PCSK9の特定のアミノ酸残基(エピトープ)に結合する及び(b)PCSK9とLDLRの結合をブロック又は抑制するという構成により、機能的に表現するものであった。
  4. 知財高裁が、抗PCSK9抗体特許がサポート要件に違反するとして当該特許を無効と判断した事例  令和5年5月12日号 特許ニュース KUBOTA アムジェンの抗PCSK9抗体特許に対し、本件特許明細書において、①PCSK9との結合に関して参照抗体と競合する抗体であれば結合中和抗体としての機能的特性を有すること、 ②参照抗体が結合を中和するメカニズム等について明記したとはいえないことから、サポート要件違反であるとし、リジェネロンにより請求された無効審判請求を棄却する審決を取り消す判決が出された(知財高裁令和5年1月26日判決(令和3年(行ケ)第10093号))。
  5. 「アムジェン v. サノフィ」 知財高裁令和5年(ネ)10107 ― 機能的クレームにおけるサポート要件の適用と無効理由の再主張の可否 ― 2025.04.16  「医薬系 “特許的” 判例」ブログ
  6. Amgen v. Sanofi 特許侵害紛争(アムジェン v. サノフィ) 2024 6/04 解説・演習 知的財産法
  7. 欧州における抗体特許──機能的クレームの記載要件── 知 財 管 理 Vol. 73 No. 6 2023 https://www.maiwald.eu/wp-content/uploads/%E7%9F%A5%E8%B2%A1%E7%AE%A1%E7%90%86-Vol73-No6-p690%E3%80%80%E8%97%A4%E6%9C%AC.pdf アムジェ ン社のEP 2 215 124特許は最終的に維持された クレームでは「配列番号Xと少なくとも90%同 一の配列を有する軽鎖可変領域・・・を含む抗原 結合タンパク質」などの文言により構造特定を 取り入れているが変異を許している。   アムジェン社サノフィ社抗体製剤レパーサ」(アムジェン)と「プラルエント」(サノフィ)を巡る特許係争は,日本では2019年10月30日にアムジェン社の主張を支持する知財高裁判決5)が下された後,サノフィ社の最高裁上告に対し2020年4月24日未受理の決定がなされプラルエント販売停止に至っているが,米国では2019年控訴裁判所CAFCの無効決定によりアムジェン社が敗訴した。欧州では2019年7月にドイツ・デュッセルドルフ地裁が侵害を認め差止を言い渡したが,2020年の欧州アピール審決にてクレームが限定されたため販売は再開され,それぞれ実に異なる結果にたどり着いている。米国では最高裁判所が最近Certiorari上訴受理したことにより無効決定覆しの可能性が出てきて気になるところである。本
  8. 抗体医薬及び食品用途発明における近年の 審査傾向とその国際比較 令和元年度バイオ・ライフサイエンス委員会 第 2 部会 https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/3567 配列限定なく登録さ れた特許は抗体医薬特許全体の約3割存在し,抗体機能,競合抗体,抗原を特定して登録された特許も全体の 約 1 割存在していることが判った。配列限定することなく登録される傾向は,日本≒欧州>米国
  9. 判例研究 機能および特性により特定したバイオ関連発明の 記載要件の充足を認めた事例 -PCSK9に対する抗原結合タンパク質事件- 知財高判平成30年12月27日平成29年(行ケ)10225号 [プロタンパク質コン ベルターゼスブチリシンケクシン 9 型に対する抗原結合タンパク質] 劉 一 帆 https://www.juris.hokudai.ac.jp/riilp/wp-content/uploads/2020/10/a727e7a3e979fa2db7f4aeafb58525b3.pdf 、特許庁が下した無効不成立審決に対して、審判請求人である原告X社(サノフィ)が特許権者である被告Y社(アムジエン・インコーポレーテッド)を相手取って提起した審決取消訴訟 本件特許は、Y社製剤およびY社抗体を保護するための特許群の一部であるが、X社抗体は、Y社抗体とはその構造(アミノ酸配列)が異なる。
  10. 2021.10.07 国内知財情報 機能で特定した抗体の発明は、特許を受けることができるか? 名古屋国際弁理士法人 https://www.patent.gr.jp/articles/p2899/ 機能によって特定した抗体の発明について、記載要件を満たすとの判断がなされた判例(平成31年(ネ)第10014号)抗体をその構造(アミノ酸配列)で特定することなく、「PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、参照抗体と競合する」という機能のみによって抗体を特定
  11. 抗体医薬と特許 〈日本知財学会誌〉Vol. 16 No. 1― 2019 : 5- 19 https://www.ipaj.org/bulletin/pdfs/JIPAJ16-1PDF/16-1_p5-19.pdf
  12. 2019年 令和元年10月30日判決言渡 平成31年(ネ)第10014号 特許権侵害差止請求控訴事件 (原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第16468号) 口頭弁論終結日 令和元年7月3日 判 決 控 訴 人 サ ノ フ ィ 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 三 村 量 一 東 崎 賢 治 中 島 慧 浜 崎 翔 多 同訴訟代理人弁理士 南 条 雅 裕 同補佐人弁理 士 瀬 田 あ や 子 伊 波 興 一 朗 被 控 訴 人 アムジエン・インコーポレーテッド 同訴訟代理人弁護士 大 野 聖 二 山 口 裕 司 多 田 宏 文 同補佐人弁理 士 森 田 裕 主 文 1 本件控訴を棄却する。 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89010.pdf
  13. https://www.harakenzo.com/jpn/seminar/data/20081107.pdf

 

抗体特許・出願

  1. 【出願日】令和7年6月25日(2025.6.25) 特開2025-146842(P2025-146842A)(43)【公開日】令和7年10月3日(2025.10.3)(54)【発明の名称】抗GAL9免疫阻害性結合分子 【請求項1】 第1のガレクチン-9(GAL9)抗原の第1のエピトープに特異的な第1の抗原結合性部位(ABS)を含むGAL9抗原結合性分子であって、前記第1の抗原結合性部位は、P9-01、P9-02A、P9-03、P9-06、P9-07、P9-11、P9-12、P9-14、P9-23、P9-24、P9-25、P9-29、P9-30、P9-34、P9-37、P9-38、P9-40、P9-41、P9-42、P9-43、P9-44、P9-45、P9-46、P9-50、P9-51、P9-52、P9-53、P9-56、及びP9-57から選択されるABSクローンのいずれか1つに由来する3つ全てのVH CDRを含む、GAL9抗原結合性分子。
  2. 【出願日】令和7年5月14日(2025.5.14) 【請求項1】ヒトクローディン6(CLDN6)タンパク質(配列番号200)と、第2の抗原とに結合する二重特異性抗原結合タンパク質であって、a.前記抗原結合タンパク質は、CLDN6の細胞外ドメイン(ECD)の細胞外ループ2(EL2)に結合し、CLDN6の前記ECDの細胞外ループ1(EL1)には結合しないか、またはb.クローディン3(CLDN3)、クローディン4(CLDN4)、及びクローディン9(CLDN9)のいずれにも結合せず、OVCA429細胞により内因的に発現されるCLDN6への参照抗体の結合を約1200nM未満で阻害するか、またはc.その組み合わせ、である、前記二重特異性抗原結合タンパク質。
  3. 【出願日】令和6年8月22日(2024.8.22) 【請求項1】プログラム死-1(PD-1)およびプログラム死リガンド-1(PD-L1)間の相互作用を破壊する治療有効量の抗体またはその抗原結合部分を対象に投与することを含む癌に罹患している対象を処置する方法であって、該抗体またはその抗原結合部分はPD-1またはPD-L1に特異的に結合する、方法。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
  4. 【出願日】令和6年8月9日(2024.8.9) 【請求項1】 配列番号1で規定されるhPD-L1に特異的に結合し、該hPD-L1への結合について抗体1D05と競合し、モチーフX1GSGX2YGX3X4FD (式中、X1、X2、及びX3は独立して任意のアミノ酸であり、X4は存在するか又は存在しないかのいずれかであり、存在する場合、任意のアミノ酸であり得る)を含有するCDRH3を含むV Hドメインを含んでなる、抗体又はその断片。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
  5. 【出願日】令和4年8月12日(2022.8.12) 特許 有効 (登録公報の発行) 【請求項1】 配列番号1で規定されるhPD-L1に特異的に結合し、該hPD-L1への結合について抗体1D05と競合し、モチーフX1GSGX2YGX3X4FD (式中、X1、X2、及びX3は独立して任意のアミノ酸であり、X4は存在するか又は存在しないかのいずれかであり、存在する場合、任意のアミノ酸であり得る)を含有するCDRH3を含むV Hドメインを含んでなる、抗体又はその断片。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
  6. 【出願日】令和3年5月17日(2021.5.17) 【翻訳文提出日】令和5年1月16日(2023.1.16) 【請求項1】野生型IL-15のVal3、Ile6、Asp8、またはHis105に対応する1つ以上のアミノ酸残基に変異を含む、IL-15変異ポリペプチド。【要約】ヒトIL-15分子変異体、ならびに前記IL-15変異体および複合変異を含む融合タンパク質を提供する。前記融合タンパク質は免疫細胞の活性化および増殖の媒介をすることができ、腫瘍疾患の治療に使用することができる。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
  7. 【発明の名称】PD-L1タンパク質が含まれた融合タンパク質およびその用途 特許 有効 (登録公報の発行) 【出願日】令和3年1月6日(2021.1.6) 【翻訳文提出日】令和4年7月20日(2022.7.20) 【請求項1】 PD-L1(programmed cell death-ligand 1)タンパク質および改変された免疫グロブリンFc領域を含む融合タンパク質。 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
  8. 【発明の名称】抗-TIGIT抗体及びその用途 【出願日】平成31年2月28日(2019.2.28) 【翻訳文提出日】令和2年10月23日(2020.10.23)  【要約】本発明は腫瘍免疫抑制因子であるTIGIT(T  cell  immunoglobulin  and  immunoreceptor  tyrosine-based  inhibitory  motif[ITIM]  domain)に特異的に結合する新規の抗体又はその抗原結合断片、前記抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸、前記核酸を含むベクター及び宿主細胞、前記抗体又はその抗原結合断片の製造方法及び前記抗体又はその抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物及びその用途に関するものである。本発明によるTIGITに特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片、又はこれを有効成分として含む医薬組成物は好ましくは癌又は腫瘍治療の用途に使われることができる。【請求項1】  配列番号1又は2のアミノ酸配列を含む重鎖(heavy  chain)CDR1、  配列番号3又は4のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、及び  配列番号5又は6のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、を含む重鎖可変領域と、  配列番号7又は8のアミノ酸配列を含む軽鎖(light  chain)CDR1、  配列番号9又は10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、及び  配列番号11又は12のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3、を含む軽鎖可変領域と、  を含む、抗-TIGIT抗体又はその抗原結合断片。https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200

拒絶理由通知とは?拒絶理由通知を受け取ったときの対応方法

下の動画の説明がわかりやすかったです。またここの弁理士事務所のホームページには特許その他の知的財産権に関するわかりやすい説明がたくさんありました。

特許出願の拒絶理由通知への対応 小山特許事務所 チャンネル登録者数 1030人

特許の明細書の書き方が今の形式(項ごと)になったのはいつから?1995年の改正から

特許の明細書をみると、段落ごとに番号が振ってあったり、項目立てがなされていたり、かなり形式的な印象を与えます。このような書き方になったのは1995年の法改正がきっかけだそうです。

質問:明細書の書き方で、項目だてるようになったのはいつから?それまではだらだら文章を書いていたの?

Gemini 2.5 Pro:これは非常に鋭いご質問です。特許実務の歴史における重要なポイントです。結論から言うと、現在のような項目立てが義務化・様式化されたのは、1994年(平成6年)の特許法改正(1995年1月1日施行)からです。そして、それ以前の明細書についてのあなたの「だらだら文章」という表現は、まさにその通り、と言ってよいでしょう。


1. いつから項目立てが始まったか?

1994年(平成6年)の特許法改正が決定的な転換点です。

  • 改正の理由:この改正は、WTO(世界貿易機関)の設立に伴うTRIPS(トリップス)協定への対応、つまり「国際的なハーモナイゼーション(調和)」が最大の目的でした。
  • 改正の内容:それまでの日本の明細書は、欧米の様式と大きく異なり、国際的に理解されにくいものでした。そこで、米国や欧州の様式(PPH, EPCなど)に合わせ、発明の内容を論理的に理解しやすくするため、以下の項目を立てて記載する様式が導入されました。
    • 【発明の名称】

    • 【図面の簡単な説明】

    • 【発明の詳細な説明】

      • 【産業上の利用分野】

      • 【従来の技術】

      • 【発明が解決しようとする課題】

      • 【課題を解決するための手段】

      • 【発明の実施の形態】

      • 【発明の効果】

    • 【特許請求の範囲】

2. それまでは「だらだら文章」だったのか?

はい、その認識でほぼ間違いありません。

1994年の改正以前(旧特許法)の明細書は、現在の様式とは全く異なっていました。

  • 項目立ての義務がなかった:「課題」や「解決手段」といった決まった項目立てで書く法的な義務がありませんでした。
  • 「特許請求の範囲」が文章に埋まっていた:最大の違いは、「特許請求の範囲(クレーム)」が独立したセクションとして存在していなかった点です。明細書の本文(まさに「だらだら文章」)で、発明の背景や構成を説明し、**その文章の最後に「特許請求の範囲は、…である。」**という形で、文章の一部としてクレームが記載されていました。
  • 読みにくさ:この形式では、どこまでが発明の説明で、どこからが権利を主張するクレームなのかが非常に分かりにくく、まさに「連続した文章(prose)」でした。発明が解決しようとする課題も、文章全体を読んで解釈する必要がありました。

🗂️ 変更のまとめ

時期 明細書の様式 特徴
~1994年 旧様式(一体型)

* 項目立ての義務なし。

 

* 「だらだら文章」で発明を説明。

 

文章の最後にクレームが埋め込まれて*いた。

1995年~ 現行様式(項目立て)

* TRIPS協定対応(国際調和)のため改正。

 

【課題】【解決手段】等の項目立てが義務化*された。

 

* 【特許請求の範囲】が明細書本体とは別のセクションとして明確化された。(※さらに2002年の改正で、明細書と特許請求の範囲は別個の書類として扱われるようになり、分離が徹底されました)

したがって、あなたが現在学んでいる項目立ての書き方は、国際基準に合わせるために比較的「最近」(1990年代半ば)導入されたものであり、それ以前は全く異なる書き方だった、というのは事実です。

IPランドスケープとは

IPランドスケープとパテントマップの違いを一言で言うと、**「経営判断のための羅針盤(IPランドスケープ)」か、「技術動向の地図(パテントマップ)」**か、という違いがあります。

両者は対立するものではなく、パテントマップ(地図)を使って、IPランドスケープ(航海計画)を描くという包含関係にあります。

以下に詳細、違いの比較表、そしてわかりやすい具体例をまとめました。


1. 定義の違い

IPランドスケープ(IP Landscape)

「知財(IP)」を「市場情報」や「事業情報」と組み合わせて分析し、経営戦略や事業戦略の立案に生かすことです。

  • 目的: 経営層が「M&Aをするべきか」「どの市場に参入すべきか」「撤退すべきか」を決断するための材料を提供すること。
  • 視点: ビジネス全体(技術+市場+競合)。

パテントマップ(Patent Map)

特許情報を整理・加工し、技術の動向や権利関係を可視化した図やグラフのことです。

  • 目的: 研究者や知財担当者が「競合の技術力は?」「特許網の穴(ホワイトスペース)はどこか?」「侵害リスクはないか?」を把握すること。
  • 視点: 技術と権利(特許データそのもの)。

2. 違いの比較表

項目 パテントマップ IPランドスケープ
主語(誰のため?) 技術者・知財担当者 経営者・事業責任者
扱うデータ 特許情報(出願数、分類、発明者など) 特許情報 + 市場データ、財務情報、ニュース
分析のゴール 技術トレンドの把握、クリアランス調査 将来の市場予測、アライアンス・M&A先の選定
アウトプット 技術体系図、ランキングマップ、時系列グラフ 事業戦略提案書、提携シナリオ、リスク分析
位置づけ 現状分析のための「ツール」 意思決定のための「手法・プロセス」

3. 具体例:自動車メーカーが「空飛ぶクルマ」市場へ参入検討する場合

ある自動車メーカーA社が、「空飛ぶクルマ」事業に参入すべきか悩んでいる場面を想像してください。

【パテントマップ】での報告内容

  • 分析: 「空飛ぶクルマ」に関する特許出願数を国別・企業別にグラフ化。
  • 結果: 「スタートアップB社が、プロペラ制御技術の特許を大量に持っています。技術力は業界1位です。」
  • 結論: 「B社の特許網は強力なので、自社独自開発だと特許侵害のリスクが高いです。」
  • (限界): 技術的な壁はわかりますが、じゃあどうビジネスにするかまでは語られません。

【IPランドスケープ】での報告内容

  • 分析: パテントマップの情報に加え、市場予測、法規制の動向、B社の資金調達状況を統合。
  • 結果: 「B社は技術特許は凄いが、資金繰りが悪化しており量産化のノウハウがない。一方、市場は5年後に急拡大する予測が出ている。」
  • 結論(経営提言): 「自社開発で対抗するのではなく、資金難のB社を買収(M&A)または資本提携すべきです。 A社の量産技術とB社の特許を組み合わせれば、参入5年でシェアトップを取れます。」

まとめ

  • パテントマップは、「すごい技術を持っているのはどこか?」を教えてくれます。
  • IPランドスケープは、「その技術を持つ会社と、どう戦うか(あるいは手を組むか)?」という勝つためのシナリオを提示します。

日本では2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂により、上場企業に対して「知財への投資・活用についての開示」が求められるようになり、経営戦略としてIPランドスケープが非常に注目されています。


 

IPランドスケープを活用した企業の有名な成功事例

日本のIPランドスケープを語る上で、富士フイルム旭化成はまさに「教科書」とも言える対照的な成功事例です。

  • 富士フイルム: 自社の技術を再定義し、**「新しい市場」**を見つけた事例(内発的イノベーション)
  • 旭化成: 自社に足りないピースを特定し、**「最強のパートナー」**を買収した事例(外発的イノベーション/M&A)

それぞれ詳しく解説します。


1. 富士フイルム:写真フィルムから「化粧品・医薬品」への華麗なる転身

デジタルカメラの普及で主力の商品(写真フィルム)の市場が消滅するという、企業の存亡に関わる危機に直面した際、IPランドスケープが**「起死回生の羅針盤」**となりました。

何をしたのか?(技術の棚卸しと市場探索)

彼らはパテントマップ的な視点(自社の特許整理)を超えて、「自社の特許技術は、**他のどの業界で競争優位性(勝てる力)**になるか?」という視点で分析を行いました。

IPランドスケープによる発見

写真フィルムの技術を分解すると、以下の3つのコア技術が、全く異なる「化粧品市場」や「医薬品市場」で強力な武器になることが判明しました。

  1. コラーゲン技術: フィルムの主成分はコラーゲン → 「肌のハリ」に応用可能
  2. 抗酸化技術: 写真の色あせを防ぐ技術 → 「アンチエイジング(肌の酸化防止)」に応用可能
  3. ナノ分散技術: 微粒子を均一に並べる技術 → 「成分を肌の奥まで届ける」に応用可能

結果と成果

  • 化粧品「アスタリフト」の大ヒット: 既存の化粧品メーカーが真似できない(特許で守られた)独自技術で参入し、レッドオーシャンだった化粧品市場で独自の地位を築きました。
  • この分析がなければ、単なる「化学メーカー」として衰退していたかもしれません。

2. 旭化成:M&A(買収)の成功確率を極限まで高める

旭化成は、IPランドスケープを**「M&A(合併・買収)のターゲット選定と意思決定」**に徹底的に活用していることで有名です。特に有名なのが「殺菌用深紫外線LED(UVC-LED)」の事例です。

何をしたのか?(勝てるパートナーの特定)

旭化成は「水や空気をきれいにする殺菌LED」の事業化を目指していましたが、自社技術だけではどうしても解決できない「基板(土台)の品質」という課題がありました。

そこで、世界中の特許情報を解析し、以下の条件を満たす企業を探しました。

  • その課題を解決する技術特許を持っているか?
  • その特許は、他社が回避できない強力なものか?
  • まだ大企業に目をつけられていないか?

IPランドスケープによる発見

米国のベンチャー企業「クリスタルIS社」が、非常に高品質な基板製造の特許を独占的に持っていることを突き止めました。

分析の結果、「自社でゼロから開発するよりも、この会社を買収したほうが、特許網ごとその技術を手に入れられ、圧倒的に早く市場を支配できる」という経営判断を下しました。

結果と成果

  • クリスタルIS社の買収: 確信を持って買収を行い、その後、コロナ禍などで需要が急増した除菌市場において、旭化成はトップランナーの一角となりました。
  • 知財部門が経営会議に同席し、「この会社を買えば、この技術エリアは独占できます」と断言できる体制を作っています。

2社の違いまとめ

特徴 富士フイルム 旭化成
戦略の方向 多角化(ピボット) M&A・事業強化
問い 「自分たちの持っている宝(特許)は、他にどこで使えるか? 「自分たちに足りない宝(特許)を、誰が持っているか?
成果 フィルム会社からヘルスケア企業へ変貌 戦略的な買収による高収益事業の創出

結論

どちらの事例も、「特許の数を数える」のではなく、**「特許情報をビジネスの地図に重ね合わせて、進むべき道を決めた」**という点が共通しています。これがIPランドスケープの真髄です。


 

ライフサイエンス・医学領域における創薬プロセスの川上から川下までのIPランドスケープ(IPL)活用法

製薬業界・バイオベンチャーにおけるIPランドスケープ活用法

~創薬ターゲット選定からアライアンス戦略まで~

製薬業界における知財(IP)は、単なる「権利保護」にとどまらず、**「数百億円・十数年を要する開発プロジェクトの羅針盤」**として機能します。

研究開発の川上(ターゲット選定)から川下(アライアンス)まで、どのようにIPランドスケープ(IPL)が活用されているか、専門的な視点で解説します。

1. 創薬ターゲット選定における活用

~「Red Ocean」を避け、「White Space」を特定する~

基礎研究段階では、ターゲット分子(受容体、酵素など)に対する競合状況を、「ターゲット × モダリティ」の3次元的視点で分析します。

  • Target × Modality(モダリティ)マトリクス分析

    単に「その標的分子の特許が出ているか」だけでなく、**「どのモダリティ(創薬手法)で権利化されているか」**を分解します。

    • 分析手法: 縦軸に「標的分子(例: ターゲットX)」、横軸に「モダリティ(低分子、抗体、核酸、ペプチド、遺伝子治療、PROTACsなど)」をとったヒートマップを作成します。
    • 発見の例:

      「ターゲットXに対する低分子阻害剤は、メガファーマが特許網を張り巡らせており参入障壁が高い(Red Ocean)。」

      「しかし、**核酸医薬(siRNAやASO)**としての特許出願はまだ少なく、技術的な空白地帯(White Space)である。」

    • 意思決定: 「低分子での競争は避け、FTO(Freedom to Operate:事業自由度)が高い核酸医薬プロジェクトとして立ち上げる」という戦略的な決定を導きます。
  • 作用機序(MOA)による差別化

    同じ標的でも、特許請求項(クレーム)における「作用メカニズム」を分析します。競合が「結合阻害(アンタゴニスト)」を押さえている場合、IPL分析を通じて「アロステリック制御」や「標的タンパク質分解(Degrader)」など、異なるMOAでの権利化の可能性を探ります。

2. アライアンス・パートナリング戦略における活用

~「死の谷」を越えるための最適なパートナー探し~

バイオベンチャーやアカデミア発のシーズを実用化する際、「誰と組むか」は死活問題です。IPLはここで、技術の価値証明とマッチングに使われます。

  • 補完技術(Missing Piece)の探索

    自社の技術(シーズ)を医薬品にするために欠けている技術(プラットフォーム)を持つ相手を探します。

    • 例: 自社が優れた抗体配列を持っているが、薬物送達技術(DDS)がない場合。
    • 分析: 特定のDDS技術(例:脂質ナノ粒子技術など)の特許を持ち、かつ**「過去に他社へのライセンス供与実績がある(=オープンイノベーションに積極的)」**企業を特許データベースから抽出します。
  • パイプラインの「穴」を持つメガファーマの特定

    メガファーマの特許出願動向と、臨床試験データベース(ClinicalTrials.gov等)を突き合わせます。

    • 分析: 「メガファーマA社は、がん領域に注力しているが、主力薬の特許切れ(パテントクリフ)が近い。しかし、次世代モダリティ(例:ADC)のパイプラインが不足している。」
    • 提案: 自社がそのモダリティのシーズを持っている場合、A社は**「喉から手が出るほど欲しい相手」**と特定できます。交渉時に「御社のパイプラインの空白を埋められます」という強力なロジックになります。

3. 具体的なケーススタディ:アルツハイマー病抗体の場合(仮想事例)

ある研究チームが、「アミロイドβ(Aβ)の凝集を阻害する新しい抗体」を発見したとします。しかし、Aβ抗体は先行薬や多数の特許が存在する激戦区です。

IPLによる戦略立案:

  1. エピトープ・マッピングの徹底分析:
    • 先行抗体が結合しているAβのアミノ酸配列(エピトープ)を特許明細書からすべて抽出・マップ化します。
    • 発見: 「N末端や中央部は特許で埋まっているが、**凝集過程で特異的に現れる特定の立体構造(コンフォメーション・エピトープ)**に対する権利はまだ狭い。」
    • 出願戦略: 単なる物質特許ではなく、「特定の立体構造を認識して結合する機能」にフォーカスしたクレームを作成し、既存特許を回避します。
  2. BBB通過技術とのクロスオーバー:
    • 「抗体は脳に入りにくい」という課題に対し、脳への送達技術(BBB通過キャリアなど)の特許ランドスケープを重ね合わせます。
    • 戦略: 単独開発にこだわらず、「BBB通過技術を持つ製薬会社」との共同研究を前提とした特許網を構築し、早期の導出(ライセンスアウト)を狙うシナリオを描きます。

まとめ:研究者にとってのメリット

このように、IPランドスケープは企業の知財部だけのものではありません。

  • 研究資金(グラント)申請: 「本研究のターゲットは、特許分析の結果、空白地帯であり、かつ臨床ニーズが高い」と記載することで、**「出口戦略の解像度」**が劇的に高まります。
  • 研究のピボット: 早い段階で「この分子は特許的に手詰まり」とわかれば、ターゲットをサブタイプに変えたり、適応疾患をシフトしたりと、無駄な研究時間を削減できます。

 

(Gemini 2.5 Pro)

特許の審査では入手困難な文献であっても「既知」とみなされるの?

未知のものが自然の懐に横たわっているか、あるいは誰も読まない価値のない写本のページの中に埋もれているかは、実際には何の違いもありません。なぜなら、科学の血流に入り込んでおらず、その中で種のように循環していないアイデアは、私たちにとっては実際上、存在しないのと同然だからです。https://elicit.com/blog/literature-based-discovery

疑問:特許の要件として、例えば、異国で書籍として出版されたけどすぐに絶版になって、誰も入手できないような場合、それでもそれは既知とみなされる?あとから掘り起こされたときに。

Gemini 2.5 Pro:

ご質問のケースは、特許法上の**「公知」(Known)または「先行技術」(Prior Art)**の判断において非常に重要なポイントになります。

結論から言うと、一般的に、異国で書籍として出版された場合、すぐに絶版になり誰も入手できなくなったとしても、それが「公然と知られた」または「刊行物に記載された」という要件を満たしていれば、原則として既知(先行技術)とみなされます。


💡 特許の「既知」性の判断基準

特許の要件である**新規性(Novelty)**を判断する際、その発明が出願日より前に「既知」であったかどうかが問われます。既知とされるための主な基準は以下の通りです。

1. 刊行物への記載(Printed Publication)

  • 要件の核心: 書籍や雑誌、公開された特許公報などに記載され、公衆が入手可能な状態に置かれたという事実が重要です。
  • 絶版の影響: 絶版になり誰も入手できなくなったとしても、一度でも公衆に配布・閲覧可能となった時点で、その書籍に記載された内容は「刊行物に記載された発明」となります。
    • 後の入手困難性は、過去に公開された事実を打ち消しません。図書館などに一冊でも収蔵され、閲覧可能だった履歴があれば、先行技術としての地位を失いません。
  • 「異国」の影響: どこの国で出版されたかは関係ありません。世界中のあらゆる刊行物が先行技術となり得ます(世界新規性の原則)。

2. 公然知られた発明(Publicly Known)

  • 要件の核心: 不特定多数の人がその内容を知り得る状況にあったことです。
  • 書籍として出版・販売された場合、それは不特定多数への提供にあたるため、この要件も満たし得ます。

📚 あとから「掘り起こされた」場合

時間が経ってからその絶版本が発見・提出されたとしても、特許審査においては、その書籍が出願日よりも前に発行・公開されていたことを証明できれば、そこに記載された内容は先行技術として扱われます。

したがって、「すぐに絶版になり誰も入手できない」という状況は、特許の新規性判断においては、その書籍が一度公開されたという事実を覆す理由にはなりません

この原則は、特許制度が発明の重複を避け、知識の開示を促すという目的から導かれています。どこかに一度でも開示された知識は、その後に忘れ去られたとしても、新しい特許を与える対象とはしない、という考え方です。

 

質問:それが自費出版だった場合は?10冊しか出版されていなかったら?

Gemini 2.5 Pro:

特許の新規性判断において、それが自費出版であったり、**出版部数が極端に少なかったり(例:10冊)**しても、原則として「既知」(先行技術)とみなされる可能性が高いです。


📚 自費出版・少部数の場合の判断

特許法が「刊行物に記載された発明」を先行技術と見なす際に重要となるのは、その情報が公衆に対して利用可能になったかどうかという事実です。

1. 公開性(Availability to the Public)が鍵

  • 出版の主体は問わない: 自費出版(私的な出版)か、商業出版か、あるいは研究機関のレポートかといった出版の主体や形態は重要ではありません。重要なのは、不特定多数の人がその情報にアクセスできる状況に置かれたかどうかです。
  • 部数は関係ない: たとえ10冊しか発行されなかったとしても、その10冊が図書館、大学、書店など、不特定多数の人が自由に閲覧・入手できる場所に置かれ、実際にその機会が与えられていたのであれば、それは「刊行物」として扱われます。
    • 例えば、10冊が国立図書館や主要な大学図書館に寄贈され、カタログに登録されて誰でも閲覧可能になっていた場合、それは「公開された」と判断されます。

2. 「秘密性」が保たれていたかどうかの確認

もし、その10冊が秘密保持契約のもと、特定の関係者(例:協力企業の役員のみ)に機密情報として配布されていたに過ぎない場合は、公にされたとは見なされず、先行技術にならない可能性があります。

しかし、自費出版で**「販売」された、または「寄贈」**という形で一般に提供されたのであれば、秘密性は失われ、「公然と知られた」情報として扱われます。


📌 まとめ

要件 判断のポイント 先行技術となる可能性
自費出版 出版の主体は関係ない。 高い
10冊 部数は関係ない。 高い
決定的な要素 不特定多数の人が閲覧・入手できる状態に置かれたかどうか。 公開されていればYes

したがって、その10冊の自費出版の書籍が、一度でも一般の流通や図書館の棚に置かれていたという事実が証明できれば、それは「先行技術」として特許の新規性を否定する根拠になり得ます。

 

質問:刊行されたという記録は必要ってことね。別にその10冊しか現存しない1冊を特許審査官が読むわけじゃないよね。

Gemini 2.5 Pro:その通りです。非常に正確な理解です。

特許審査において重要なのは、「刊行されたという記録(証拠)」であり、現存する書籍そのものを審査官が読む必要はありません


💡 審査における「証拠」の役割

特許審査官が必要とするのは、以下の事実を証明する証拠です。

1. 刊行物の存在と公開日

その書籍が「いつ(公開日)」「どこで(発行場所)」「どのように(一般にアクセス可能であったか)」公開されたかを証明する記録が必要です。

  • 具体的な証拠の例:
    • 国立図書館や大学図書館などの目録(カタログ)の記録
    • 書籍の奥付(発行日、著者名、発行者名が記載されたページ)の画像またはコピー。
    • 当時の販売記録新聞広告

2. 内容の立証

その書籍に、出願された発明と同じ内容が具体的に記載されていることを示す必要があります。

  • 審査官は、現存する1冊(またはそのコピー)に目を通し、その記載内容と特許請求の範囲を比較します。
  • たとえ10冊しか存在しなくても、その1冊のコピーやデジタル画像が証拠として提出され、それが出願日より前に刊行されたと証明されれば、新規性否定の根拠となります。

結論

特許審査で先行技術として認められるための要件は、

  1. 公衆がアクセス可能な状態に置かれたという「記録(証拠)」があること(公開性の立証)。
  2. その刊行物に、発明と同じ技術的内容が「記載されていること」(内容の立証)。

現存部数が少ないことは、先行技術としての効力を失わせる理由にはなりません。重要なのは、「一度、公の知識となり得る状態にあった」という事実です。

特許出願における「補正」amendmentとは

特許出願における「補正」amendmentとは

特許申請における「補正」とは、出願人が特許庁に提出した出願書類(明細書、特許請求の範囲、図面など)の内容を修正・訂正する手続のことです。

審査官から拒絶理由が通知された場合、その理由を解消するために行われることが多いですが、出願人が自発的に行うことも可能です。


📅 いつ補正できるか?

補正は、出願が特許庁で審査中である限り可能ですが、時期によって許される補正の範囲(内容)が異なります

主な補正のタイミングは以下の通りです。

  1. 自発補正
    • 時期: 出願してから、特許庁から最初の審査結果(拒絶理由通知など)が来るまでの間。
  2. 拒絶理由通知への応答時
    • 時期: 審査官から「拒絶理由通知」を受けた後、指定された応答期間内。
    • 最初の拒絶理由通知か、最後(2回目以降)の拒絶理由通知かによって、補正できる範囲がさらに制限されます。
  3. 拒絶査定不服審判の請求時
    • 時期: 審査の結果、「拒絶査定」が出た場合、それを不服として審判を請求する時。

⚠️ 補正の重要なルール(制限)

補正は自由に行えるわけではなく、守らなければならない厳格なルールがあります。

1. 新規事項の追加の禁止(最重要)

最も重要なルールは、「新規事項(New Matter)」を追加してはならないという点です(特許法第17条の2第3項)。

  • 補正は、あくまで出願当初に提出した明細書、特許請求の範囲、図面(=「当初明細書等」)に記載されていた事項の範囲内で行わなければなりません。
  • 当初明細書等に書かれていなかった新しい技術情報、発明の課題、効果などを後から追加することは認められません。
  • 理由: もし後から新しい内容を追加できてしまうと、他者より早く出願した「先願」としての地位を不当に利用することになるためです(先願主義の原則に反します)。

[例]

  • 許される補正: 当初明細書に「A、B、Cから選ばれる」と記載されていたものを、「A」に限定する補正。
  • 許されない補正(新規事項): 当初明細書にAのことしか書かれていなかったのに、拒絶理由を回避するために「Dという新しい要素」を追加する補正。

このルールに違反した補正は、拒絶理由や特許無効の理由となります。

2. 時期による補正目的の制限

審査が進むにつれて、認められる補正の範囲は狭くなります。

特に、「最後の拒絶理由通知」の後や**「拒絶査定不服審判」の請求時**に行う補正は、その目的が以下のように厳しく限定されます。

  • 請求項の削除: 特許請求する項目(請求項)を削除する。
  • 特許請求の範囲の減縮: 発明の範囲を狭める(例:構成要素を追加して権利範囲を限定する)。
  • 誤記の訂正: 明らかな書き間違いを直す。
  • 不明瞭な記載の釈明: 意味が分かりにくかった部分を明確にする。

(Gemini 2.5 Pro)

 

理解を深めるために

疑問:こんなシナリオ、「特許を取った商品を自社が販売しているとする。他者が類似商品を発売した。その類似点を含めた補正を、もとの特許に対して行った。この新たな特許権を用いて、類似商品の販売差し止めを求めた。」ってありえる?ナシ?

Gemini 2.5 Pro:

ご質問のシナリオは、基本的に「ナシ」(不可能)です。

その中核となる理由は、一度成立した特許権の範囲を、後から「補正」や「訂正」によって広げることは法律で固く禁じられているからです。


🚫 なぜ不可能なのか?

ご提示のシナリオには、特許実務上の重要な誤解が含まれています。ポイントは「補正」という言葉の使い方です。

  1. 「補正」 (審査中)
    • 補正」は、主に出願してから特許になる(審査段階)に行う手続きです。
    • この段階であっても、出願当初の明細書に書いていなかった新しい内容(新規事項)を追加することはできません。
  2. 「訂正」 (特許成立後)
    • ユーザーのシナリオ(特許を取った後)で行う手続きは、正確には「補正」ではなく「訂正」(訂正審判や訂正請求)と呼びます。
    • この「訂正」で認められているのは、以下の3つの目的に限られます。
      1. クレーム(特許請求の範囲)を狭くする(減縮
      2. 誤記や誤訳を直す
      3. わかりにくい記載を明確にする
    • そして最も重要なルールが、特許法第126条第6項に定められています。それは、「訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない」というものです。

第百二十六条6 第一項の明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121#Mp-Ch_6-At_126

🎯 シナリオの問題点

ユーザーのシナリオは「他者の類似商品が出てきた」→「その類似点を含むように特許の内容を広げる」というものです。

これは、まさに法律が禁止している「クレーム(権利範囲)の実質的な拡張」に該当します。したがって、そのような「訂正」は特許庁に絶対に認められません。

もしこれが認められてしまうと、他社は「この特許はここまでだから、この範囲を避けて新商品を開発しよう」と判断したのに、後から特許権者が「やっぱりお前の商品もウチの権利範囲に入れる」と”後出しジャンケン”ができてしまいます。

これでは安心して事業ができなくなるため、権利範囲を後から広げることは厳しく禁止されています。


💡 では、どう戦うのか?

その類似商品に対しては、「補正」や「訂正」で権利を広げて対抗することはできません。

もし戦うのであれば、元の(補正・訂正する前の)特許権で勝負するしかありません。

その際、主な争点となるのは以下の2つです。

  1. 文言侵害(直接侵害)
    • 類似商品が、あなたの元の特許のクレームに書かれた構成要件をすべて満たしているかどうか。
    • 満たしていれば、差し止めを求めることができます。
  2. 均等侵害(均等論)
    • たとえクレームの文言通りではなく、一部が異なっていたとしても、「実質的に同じ」と判断されれば侵害とみなされる可能性があります。(これが均等論です)
    • 均等論が認められるには厳しい要件がありますが、クレームの文言をわずかに変えただけの模倣品に対しては有効な手段となり得ます。

結論

  • 特許成立後に、他社の類似品をカバーするために権利範囲を広げる「補正(訂正)」は不可能です。
  • 類似品と戦うには、元の特許権の範囲(または均等論)で勝負する必要があります。

 

質問:補正 の場合は、拡げるのもアリ?

Gemini 2.5 Pro:

いいえ、ご質問の意図するような「拡張」は、「補正」であってもできません。

ここでも法律の厳格なルールがあります。


🚫 「新規事項の追加」の禁止

「補正」は、おっしゃる通り特許になるの審査段階で行う手続きです。

しかし、この「補正」で許されるのは、出願当初に提出した明細書、特許請求の範囲、または図面に書かれている事項の範囲内での修正だけです。

これを「新規事項(しんきじこう)の追加の禁止」といい、特許法第17条の2第3項で定められています。


🕵️ シナリオに当てはめると

最初のシナリオ(他社の類似商品)に当てはめてみましょう。

  1. あなたの元の出願に「A+B」という技術が書かれていたとします。
  2. 審査中に、他社が「A+B+C」という類似商品を出してきました。
  3. あなたが「C」という特徴をご自身の出願に追加しようと「補正」を考えます。

この時、もし「C」という特徴が、あなたの出願当初の書類(明細書や図面)のどこにも書かれていなかった場合、それを追加する「補正」は「新規事項の追加」とみなされ、法律違反として絶対に認められません。


⚖️ 「補正」と「訂正」のルールの違い

ここでルールを整理します。どちらにしても、他社の後発品を見てから権利を広げることはできないようになっています。

  • 1. 特許になる前(=補正)
    • ルール: 新規事項の追加はダメ
    • (出願時に書いていなかったことを追加できない)
  • 2. 特許になった後(=訂正)
    • ルール: 権利範囲の拡張はダメ
    • (たとえ出願時に書いていたことでも、一度確定した権利を広げることはできない)

結論:

他社の類似品を見てからその特徴(=類似点)を取り込もうとする行為は、特許前なら「新規事項の追加」として、特許後なら「権利範囲の拡張」として、いずれにせよ法律で禁止されています。

 

質問:明細書に書かれているところまでは、拡げられるよね。

Gemini 2.5 Pro:

はい、その理解は非常に重要です。

ただし、どの段階での話かによって、答えが「はい」と「いいえ」に明確に分かれます。


1. 特許になる前(審査段階)の「補正」の場合 → はい(条件付き)

おっしゃる通り、特許になる前の「補正」の絶対的な限界は、「出願当初の明細書、特許請求の範囲、または図面に書かれていた事項の範囲内」です。

これを「新規事項(しんきじこう)の追加の禁止」(特許法第17条の2第3項)と呼びます。

  • 例:
    • 元のクレーム: 「AとBからなる装置」
    • 元の明細書: 「本発明はAとBからなる装置である。なお、Aだけでも良いし、AとCを組み合わせても良い。」
    • 補正: クレームを「Aからなる装置」に変更する。

この場合、クレームの範囲は「A+B」から「A」へと『拡張』していますが、その「A」は元の明細書に書かれていたため、「新規事項の追加」にはあたりません

⚠️ ただし、実務上の重大な注意点があります

このような「拡張」的な補正が自由にできるのは、原則として「審査官からの最初の拒絶理由通知(きょぜつりゆうつうち)を受け取る前まで」です。

一度、拒絶理由通知を受け取った後は、補正は原則として「特許請求の範囲を狭くする(減縮)」「誤記を訂正する」「分かりにくいのを明確にする」ことなどに制限されます(特許法第17条の2第5項)。

したがって、審査官が「A+B」で審査した後で、クレームを「A」に『拡張』する補正は、この制限に違反するとして認められない可能性が非常に高いです。


2. 特許になった後(権利発生後)の「訂正」の場合 → いいえ(絶対不可)

これが、前回の回答(シナリオは「ナシ」)の核心です。

一度特許権が成立した後は、「訂正」(訂正審判や訂正請求)という手続きになります。

この「訂正」では、たとえ元の明細書に書いてあったとしても、特許請求の範囲(クレーム)を実質的に拡張することは法律で固く禁止されています。(特許法第126条第6項)

  • 例:
    • 成立した特許: 「AとBからなる装置」
    • 元の明細書: 「Aだけでも良い」と書いてあった。
    • 訂正: クレームを「Aからなる装置」に『拡張』する。
    • 結果: これは絶対に認められません。

特許になった後の「訂正」で認められるのは、あくまで権利範囲を「狭める(減縮する)」ことだけです。


結論

  • 理論上の限界: 「明細書に書かれているところまで」が補正の限界です。
  • 実務上の運用:
    • 特許前 (補正): 権利を『拡げる』補正は、拒絶理由通知を受ける前なら可能。受けた後は原則不可。
    • 特許後 (訂正): 権利を『拡げる』訂正は、明細書に書いてあっても絶対に不可

したがって、最初のシナリオ(他社の類似品が出てきたから、それに合わせて権利を拡げる)は、

  • 特許「前」であれば、タイミング(拒絶理由通知の前)次第では可能かもしれません。
  • 特許「後」であれば、100%不可能です。

 

参考

  1. 特許法第 126 条第 6 項の意義 ―訂正 2016-390005号について― 小宮山 聰 パテント 2017 Vol. 70 No. 2 page 91- https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/2864