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免疫学のストーリーによる理解『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』

免疫学は複雑すぎてなかなか頭に入ってきません。ブルーバックスの『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』は、生体に病原菌が侵入されてから生体内でおこる様々な免疫学的な事象をストーリーを追いながら説明してくれていて、とても理解の助けになります。免疫学の世界的な権威である日本人研究者らによって書かれているので、読んでいて安心感があります。この本を読んで得た知識をもとに、自分なりに再構成してみます。

細菌の生体内への侵入とマクロファージによる対応

転んで膝を擦りむiいたりした傷口から病原体(細菌)が侵入する。

マクロファージという名の細胞が細菌を食べる。その際、Toll-like receptor(TLR)によって細菌特有の構成物質(リポ多糖など)を認識して「活性化」する。

*マクロファージ(macrophage 大食細胞 だいしょくさいぼう macroは大きい、phageは食べるの意味)

活性化したマクロファージはサイトカインと呼ばれる物質を周囲に放出し、周りにいるマクロファージを「活性化」する。。余談だが、実はTLRはマクロファージに限らず全身のほぼすべての細胞で多少なりとも発現している。つまりマクロファージでなくても普通の細胞だっても、細菌などの病原体を認識して「警報」であるサイトカインを放出する。また、サイトカインの一種であるケモカイン(他の細胞を遊走させるサイトカインの呼称)を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せると同時に血管の壁をつくっている血管内皮細胞同士の結合を緩める。これにより、血管の壁の隙間から、血液中に存在した免疫細胞が血中から血管壁を通り抜けて、傷口の近くの組織内に移動してくることができる。

好中球が応援にかけつける

マクロファージからのシグナルを受けて、血液中にいた好中球が血管の壁の隙間を通り抜けて、傷口付近へと集まってくる。

好中球は殺菌作用を持ち、細胞数も多数。病原体を倒して死んだ好中球の塊が「膿(うみ)」と呼ばれるものの実体。

樹状細胞による対応

マクロファージと並ぶ食細胞として、樹状細胞があります。樹状細胞もマクロファージとどうように、侵入者である細胞を食べてToll-like receptor(TLR)の働きで活性化します。マクロファージと大きくことなるのは、樹状細胞はいわゆる「自然免疫」の一員でありながら、いわゆる「獲得免疫」を発動するための司令塔である点です。つまり、自然免疫と獲得免疫とをつなぐ重要な位置にいる細胞なのです。

*TLRのように細菌特有の構造を認識する受容体のことを、パターン認識受容体と呼ぶ。

リンパ節で起こること(1):ナイーブヘルパーT細胞の活性化

活性化した樹状細胞は、その形を「樹状」に変え近くのリンパ節へ移動します。樹状細胞は食べた細菌のタンパク質をペプチドにまで分解し、MHCクラスIおよびMHCクラスIIという名前のタンパク質の上にこのペプチドを載せた状態で膜上にそれを提示します。樹状細胞の表面の膜状に提示された「MHCクラスI+ペプチド」と「MHCクラスII+ペプチド」とは、それぞれ異なる種類の細胞が認識します。「MHCクラスII+ペプチド」を認識するのがナイーブヘルパーT細胞、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞です。ナイーブという意味は、これまでに抗原刺激を受けたことがないという意味です。ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞、キラーT細胞はCD8陽性細胞とも言われます。CD4とCD8はそれぞれヘルパーT細胞とキラーT細胞を特徴づける膜表面上の分子で、MHCクラスIIの認識、MHCクラスIの認識にそれぞれが必要となります。

さて、ヘルパーT細胞もキラーT細胞も、T細胞受容体という名前の分子(T Cell Reseptor; TCR)を表面膜上に持っています。T細胞受容体の「可変部」は10億通り以上もの多様性があると言われており、一つのT細胞は、基本的に、その多様な構造のなかの一つの形だけを選んでつくられたTCR分子を発現しています。おなじ形のTCRを持ったT細胞は全身で100個程度しかないと言われています。問題は、今回侵入してきた細菌のタンパク質由来のペプチドを樹状細胞が提示したときに、提示されたペプチド(+MHC)とぴったりと結合できるT細胞と出会えるかどうかというところです。リンパ節で、樹状細胞は多数のT細胞と接触しながら相手を探すことになります。自分とぴったり合う相手を見つけるのは大変です。一か所に留まっているだけで出会えるとは限りません。樹状細胞やT細胞などの免疫細胞は、一つのリンパ節にずっととどまっているわけではなく、リンパ節を出てリンパ管に入り、静脈(血管)に入り、心臓を経由して動脈、末梢、リンパ管、リンパ節といった循環を常にしています。動き回ることで相手に出会う可能性を高めています。「リンパ節で」と書いてしまいましたが、外で動いている最中に出会うこともあるのでしょう。

ここからは、ヘルパーT細胞とキラーT細胞とで、それぞれ別イベントが並行して起きていきますので、まずはヘルパーT細胞についてみていきましょう。

ヘルパーT細胞の活性化

樹状細胞が提示するMHCクラスII+ペプチドと結合できるようなTCRを持っていたヘルパーT細胞は、活性化されます。ただし、この結合だけでは活性化の十分条件にはなりません。補助刺激分子として、樹状細胞が膜上に出しているCD80/86に、ヘルパーT細胞が表面膜上に出しているCD28が結合することが必要です。さらに、樹状細胞が放出するサイトカインをヘルパーT細胞が受け取ることも必要です。この3つが揃って初めてヘルパーT細胞が活性化させるのです。CD80/86の発現と、サイトカインの放出は、病原菌に遭遇して活性化した樹状細胞だけが起こしているものです。

この3条件が必要と聞くと、なんか複雑だなあと嫌気がさすかもしれませんが、その意義を考えてみると、このことが非常に興味深い、生物の巧妙さを示していることがわかります。というのは、樹状細胞は普段から自己の細胞の死骸なども食べているのです。自分が食べたタンパク質を分解してできたペプチドもMHCに載せて細胞表面に提示しています。しかし、普段、自己の体由来のタンパク質のごみ処理をしているだけだと、パターン認識受容体を介したシグナルを受けていないので「活性化」はしていません(特徴的な樹状になっていない)。活性化していないので、CD80/86を発現しておらず、サイトカインの放出もしません。しかし、たまたま自己抗体を認識してしまうT細胞が存在する可能性があります。その場合、MHCII+ペプチドとTCRが結合してしまうのですが、T細胞は活性化されなくて済むのです。つまり、確実に外来性の抗原を認識できたときだけT細胞が活性化するような仕組みになっているというわけです。

ちなみに、病原菌由来のタンパク質を分解してペプチドにまでしたとき、さまざまな種類のペプチドが生じます。ですから、ひとつの樹状細胞は、同一細菌由来の多数の種類のペプチドを提示していることになります。それらのそれぞれのペプチド(+MHC)を認識するT細胞たちが活性化させることになります。

話がややこしくなるのでここでは詳しい言いませんが、ナイーブヘルパーT細胞が活性するときに、実は3種類の活性化ヘルパーT細胞になる可能性があります。1型(Th1)、2型(Th2)、17型(Th17)の3種類です。Th17はだいぶあとに発見されものでIL-17を産生することから17という数字が呼称になっています。

活性化ヘルパーT細胞による現場の応援

リンパ節で活性化したヘルパーT細胞(Th1)は、現場のマクロファージが出したケモカインを頼りに、血中から出て外来の病原菌が侵入してきた現場に向かいます。実はマクロファージにも、樹状細胞ほどではないながらも、抗原提示機能があります。マクロファージが提示する「MHCクラスII分子+抗原ペプチド」を、活性化ヘルパーT細胞が認識できます。同じ病原菌由来のペプチドを樹状細胞が提示していて、それに反応できたヘルパーT細胞なので、マクロファージの中にも同じ抗原が提示された場合があるはずなわけです。さっきの樹状細胞との相互作用の3条件は、マクロファージに関しても当てはまります。つまり、MHCクラスII+ペプチドをTCRで認識、CD80/86をCD28 で認識、マクロファージから放出されたサイトカインの認識、の3条件がそろうと活性化ヘルパーT細胞(Th1)が今度はCD40L分子によってマクロファージを刺激します。受けて側のマクロファージはCD40という膜上の分子によりこのシグナルを受け取り、さらに、活性化T細胞からのサイトカインの放出も受けて、貪食能力がパワーアップします。

ここまでのストーリーで面白いのは、自然免疫の細胞であるマクロファージから始まって、獲得免疫を経由して、再び、マクロファージのパワーアップ(自然免疫)というところに行きついた点です。獲得免疫と自然免疫とは別々に働くものではなく、このように協調して働いているんですね。

活性化ヘルパーT細胞によるB細胞に対するヘルプ

さてリンパ節においてヘルパーT細胞が活性化しましたが、現場に向かって現場のマクロファージをヘルプするだけでなく、リンパ節においても非常に重要な仕事をします。それは、B細胞をヘルプすること。B細胞は、抗体を産生する細胞ですが、病原体に対する抗体を大量に生産するプラズマ細胞にB細胞が変化するためには、ヘルパーT細胞からのヘルプが必要なのです。B細胞はB細胞抗原受容体(B cell antigen receptor; BCR)という分子を膜表面に出しています。BCRは膜に結合している部分の外側は、抗体そのものです。傷口から侵入した病原菌のやその残骸はリンパの流れにのってリンパ節にも入ってきます。BCRも1000億通りの構造があるといわれており、特定の構造を持つBCRを一種類だけ、一つのB細胞が発現しています。ですから、たまたま病原菌由来のタンパク質をBCRで認識できるB細胞が存在するわけです。抗原からの刺激を過去に受けたことがないB細胞は、ナイーブB細胞と呼ばれます。

さて抗原となるタンパク質をBCRで認識したナイーブB細胞は、実は抗原提示機能を持っています。MHCクラスII分子に分解したペプチドを載せて、他の細胞にたいして提示するのです。つまりBCRでタンパク質全体を認識する一方で、その断片であるペプチドもMHCII分子とともに提示しているのです。このような抗原提示を、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)が認識するというわけです。すでに同じ病原体によって活性化ヘルパーT細胞は十分な数にまで増殖していますので、この病原体を認識したB細胞が提示する抗原を認識できる活性化ヘルパーT細胞は、増殖により十分な数存在すると考えられます。

さて、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)によるB細胞の活性化ですが、ここでもやはり複数の条件が必要になります。すなわち、B細胞が提示するMHCクラスII分子+ペプチドを活性化ヘルパーT細胞のTCRが認識すること、少しだけ活性化したことによってB細胞が発現したCD80/86をT細胞のCD28が認識することです。これらの条件が揃うと、T細胞はCD40Lによる刺激をB細胞にあたえ、B細胞はそれをCD40によって受け取ります。また、T細胞はサイトカインをB細胞に対して放出します。こうして、ナイーブB細胞は、活性化して、増殖し最終的にはプラズマ細胞に分化します。活性化したB細胞が、抗原に対する特異性の髙い抗体(IgG)を大量に生産するプラズマ細胞になるまでには、2つの大きな変化を伴います。ひとつが「親和性成熟」で、もうひとつが「クラススイッチ」です。

活性化B細胞からプラズマ細胞へ:親和性成熟とクラススイッチ

活性化B細胞は、そのBCRが抗原に反応できたからこそ、活性化したわけですが、実は抗原に対する結合の強さ(親和性)は非常に強いわけではありません。そこで、突然変異を可変領域内にランダムに導入することにより、もっと強力に抗原に結合できる抗体をつくるということをするのです。これを親和性成熟と呼びます。変異をランダムに入れるので、親和性が高まることもあればむしろ低くなることもあります。親和性が高くないものは、細胞死に追いやられます。この過程はリンパ節の中の「胚中心」と呼ばれる場所で起こります。その際、抗原を提示する役割を担うのが、濾胞樹状細胞(FDC)です。FDCは抗原を”ショーウインドウ”のように並べていて、B細胞がつくる抗体(IgG)の結合性をチェックします。

BCRの実体はIgMですが、クラススイッチというのは、Ig(免疫グロブリン)の型が遺伝子組み換えにより、例えばIgMからIgGへと変化することです。

抗体の働き方:中和とオプソニン化

食細胞のように、病原体を食べてしまうことによりやっつけるというのは話としてわかりやすいのですが、病原体を認識する抗体を作ったからといって、その抗体がどうやって的を倒してくれるのでしょうか。抗体の働き方には大きく分けて2つの種類があります。一つは、「中和」です。例えば、生体内に侵入してきた病原菌が毒となるタンパク質を産生していたとします。その場合、その毒に対する抗体が結合することにより、その毒が働けないようにしてくれることがあります(中和という)。抗体が結合したことで無毒化された毒は、食細胞が食べて処理してくれます。ウイルスの表面タンパク質に対する抗体も、ウイルスに抗体が結合した結果、そのウイルスが細胞表面に結合できないため感染できなくなります。もうひとつが「オプソニン化」です。抗原や病原体に抗体が結合すると、抗体の根元部分(Fc領域という)の構造が変化して、食細胞の膜表面にあるFc受容体と結合できて、食細胞が食べて処理してくれます。

マクロファージのような食細胞は、「自然免疫」に分類されます。しかし、今までみてきたように、「自然免疫」に分類される細胞と、「獲得免疫」に分類される細胞とは協同して、互いを刺激してパワーアップさせながら、外敵と戦っていたのでした。

さて、ここまではもっぱら病原菌の侵入を想定して、どんな免疫反応が生じるかを見てきました。また、リンパ節でヘルパーT細胞が活性化したあとの話しがずっと続いてきました。そこでは、もうひとつ、キラーT細胞にちょっとだけ言及しました。ここからは、キラーT細胞が主役となる免疫反応を見ていきましょう。キラーT細胞は、その名が示すように、相手をキル(殺す)することができます。

リンパ節に移動した樹状細胞は「MHCクラスII+ペプチド」を提示しているだけでなく、「MHCクラスI+ペプチド」も同時に提示しています。そして、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞(CD8陽性T細胞)です。MHCクラスIIはCD4陽性T細胞、MHCクラスIはCD8陽性T細胞で認識される仕組みは、CD4がMHCクラスIIを認識し、CD8がMHCクラスIを認識することができるからです。これらは、抗原提示部分ではない領域に結合します。どっちがどっちだったか混乱しないような覚え方として、「8の法則」がお勧めです。Ix8=8、IIx4=8と言う組みあわせです。

リンパ節で起こること(2):ナイーブキラーT細胞の活性化

樹状細胞とキラーT細胞との相互作用に関しては、ヘルパーT細胞のときとほとんど同じです。樹状細胞が提示する「MHCクラスI分子+抗原ペプチド」を、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原受容体(TCR)が認識する(そのようなTCRを持ったナイーブキラーT細胞とたまたま出会う)。樹状細胞のCD80/86とT細胞のCD28が結合する。

これまで度々登場した活性化ヘルパーT細胞ですが、ナイーブキラーT細胞が結合している樹状細胞に、活性化ヘルパーT細胞も結合しているはずです。その場合、ヘルパーT細胞(Th1)からキラーT細胞へ、サイトカインが放出されます。ヘルパーT細胞は、上で説明したマクロファージ(Th1)やB細胞(Th1およびTh2)へのヘルプだけではなく、実にキラーT細胞の活性化をもヘルプ(Th1)するのでした。まさにヘルパーという名にふさわしい活躍ぶりです。活性化したキラーT細胞は増殖してその数を増やし、戦いに向かいます。どこにどうやって?かというと、やはりケモカインを頼りに移動します。

最初は病原菌が生体内に侵入したというシナリオでストーリーを始めました。しかし、外敵は病原菌に限らず、細胞内に入り込むウイルスや細胞内に入り込む特別な病原菌(細胞内寄生細菌)もいます。キラーT細胞は、このような細胞を殺すのに有効な手段となります。ウイルスなどに感染した細胞は、パターン認識受容体によりそれを感知し(ウイルス由来のRNAを認識するTLRなどによる)、インターフェロンなどのサイトカインを放出し、全身に臨戦態勢を整えます。インターフェロンの効果としては、MHC分子の促進があります。感染した細胞はMHCクラスI分子にウイルス由来の抗原ペプチドを載せて提示します。活性化キラーT細胞は、このような感染細胞に対してアポトーシスを誘導することにより殺します。

キラーT細胞を補完するナチュラルキラー(NK)細胞の働き

活性化キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞などを認識して細胞死(アポトーシス)を誘導できるのでした。その際にMHCクラスI分子+ペプチドが必要でした。ところが、ウイルスに感染した細胞は、MHCクラスI分子の発現量が減少することがあります。そうなると、キラーT細胞が有効に働けません。その穴を埋める働きをしてくれるものとして、「自然免疫」に属する細胞の一種である、ナチュラルキラー(NK)細胞があります。NK細胞は、ウイルス感染のせいでMHCクラスI分子の発現量が低下していてCD80/86(もしくはNKG2Dリガンド)を発現している細胞を認識して、この細胞にアポトーシスを誘導します。

Th1,Th2,Th17の働き

さて、以上で、細菌やウイルスが生体内に侵入してきたときに免疫系でどのような応答が起きるのかの概略がつかめたと思います。ヘルパーT細胞に関してはTh1の役割が主でした。3種類のヘルパーT細胞Th1,Th2,Th17については、免疫学や炎症の研究内容の紹介では頻出することなので、引き続き『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』で紹介されていた内容を、ここにまとめておこうと思います。

Th2の働きは3つあります。一つ目はTh1と同じでB細胞を活性化させてIgGを放出させること。2つめは、B細胞を活性化させてIgEを放出させること。3つめが、好酸球の活性化です。

IgEも親和性成熟を経ます。B細胞が分化してできたプラズマ細胞からIgEが放出されると、マスト細胞(肥満細胞)にIgEの根元が結合します。抗原がIgEに結合すると、マスト細胞はヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンの作用で粘液が増量します。これは寄生虫の排除がもともとの目的だと考えられているそうです。しかし、鼻や目の粘膜でこのシステムが”誤作動”したものが花粉症の実体なのではないかとのこと。

好酸球はTh2からだされるサイトカインの刺激によって、寄生虫を排除するための物質を放出するのだそうです。

Th17は末梢においてサイトカインを放出し、ケモカインの放出を促します。それにより好中球を集結させます。またTh17は腸管上皮細胞にむけてサイトカインを放出し、これにより腸管上皮細胞から抗菌ペプチドを分泌させます。

Th1,Th2,Th17がどのように生体内で分化するかについてはまだわからないことが多いようです(この本の出版年は2014年)。in vitro実験でわかっている分化誘導物質は、

IL-12 → Th1

IL-4 → Th2

IL-6 + TGFβ → Th17

だそう。Th17が発見するまでは、Th1とTh2の働きかたの割合(Th1/Th2バランス)で、病態などを説明することが盛んに行われていましたが、Th17が発見されたことにより、Th1/Th2バランスを考えなくてもTh17の働きとして説明できてしまうことなどもあって、Th1/Th2バランスという考え方は下火になったようです。

本書では、外敵の種類によってTh1,Th2,Th3の役割をまとめています。

Th1  排除すべき対象:ウイルス、細胞内寄生細菌 産生するサイトカイン:IFNγ,IL-2,TNF-α

Th2 排除すべき対象:寄生虫 産生するサイトカイン:IL-4, IL-5, IL-10, IL-13

Th3 排除すべき対象:細胞外細菌、真菌 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

 

自然リンパ球

本書の免疫のストーリーには自然リンパ球は一切登場しませんでした。しかし、最近発見された自然線リンパ球について紹介されていました。非常に興味深いことに、上のTh1, Th2, Th3と産生するサイトカインが見事に対応しています。炎症という病態を引き起こしているのはサイトカインですが、今まで病態の説明としてTh1,Th2,Th17を考えてきたけれども実は自然リンパ球から放出されるサイトカインによって説明できることも多いのではないかという提言があります。

自然リンパ球グループ1 産生するサイトカイン:IFNγ

自然リンパ球グループ2 産生するサイトカイン:IL-5, IL-13

自然リンパ球グループ3 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22

さて、この本は以上で外敵が侵入してきたときに何がおこるのかのストーリーの解説が完結したのですが、話はそこで終わらず、免役応答がどのように制御されているのか、腸管免疫の話、自然炎症、がんといった話題にも触れられていて盛りだくさんです。

これらの話も大変わかりやすい解説なので、別の記事で改めて紹介したいと思います。

難解でつまらない生化学を面白く教える方法・学ぶ方法とは?

生化学の授業は退屈でつまらないと一般に思われています。生化学の面白さとは何でしょうか?どうすれば生化学を楽しく学ぶ/教えることができるのでしょうか。

  1. Making Sense of a Biochemistry Learning Process and Teacher’s Empathy: Computer-Supported Collaborative Learning Using Emoji Symbols Dana Sachyani and Ilana Ronen
  2. 講義で考え方を伝えるのは可能か?
  3. Practical Tips on Teaching Biochemistry 2016/12/06 How to arouse students’ desire to learn biochemistry

翻訳(mRNAからタンパク質へ)

DNAは4つの塩基アデニン、グアニン、シトシン、チミンの並び順によって情報をコードしています。DNAの情報はmRNAへ転写されます。その際、チミンの代わりにウラシルが使われます。そしてmRNAからタンパク質に翻訳されるわけですが、DNAの4つの塩基の順番がどうやって、20種類からなるアミノ酸配列であるタンパク質へと変換されるのでしょうか。

4種類の塩基一つ一つに意味があるとしたら、4つのものしか表せません。

仮に、塩基2つの並び順で何種類をラベルできるかと考えると、4×4=16種類となります。アミノ酸は20種類あるので、まだ足りません。

塩基3つの並び順が何種類あるかというと、4x4x4=64通りになります今度は20よりもずっと大きい数字になりました。とりあえず、64種類のものを20種類に対応させることは可能です。実際、重複するものもあって塩基3つの並び順により、特定のアミノ酸へ対応関係が生じているということが研究により明らかになりました。これは遺伝暗号の解読として極めて意義の大きなものであったのでノーベル賞授賞の対象となりました。下の動画は、ノーベル賞を受賞した3人のうちの一人マーシャル・二ーレンバーグ(Marshall Warren Nirenberg、1927年4月10日 -2010年1月15日 )のインタビュー。

A Conversation with Dr. Marshall Nirenberg

  1. マーシャル・ニーレンバーグ(ウィキペディア)
  2. Deciphering the Genetic Code: The Most Beautiful False Theory in Biochemistry – Part 2
  3. Deciphering the Genetic Code (ACS)

上の動画のインタビューでニーレンバーグが話していますが、遺伝暗号はヒトでもマウスでもカエルでも魚でも植物でも酵母でもバクテリアでも同じものが使われています。これは驚くべき大発見であり、バクテリアと人が同じ遺伝暗号を使ってDNAからタンパク質を作っているという事実は、ヒトとバクテリアは別々にこの世に誕生したのではなく、ヒトもバクテリアもその他の種も全ての生命は共通の祖先を持っていて、進化の過程で種が分かれたという仮説に合うものです。人間とばい菌が同じ祖先をもつなどということはにわかには信じられませんが、DNAからタンパク質をつくる際の遺伝暗号が同一というのは、このトンデモ仮説に対する強力な証拠と言えます。

非古典的 MHC クラス I 分子とは

免疫学の教科書をみると、主要組織適合性抗原MHCにはMHCクラスIとMHCクラスIIの説明が詳細で、非古典的 MHC クラス I 分子に関して言及があっても、あまり詳細ではありません。それはつまり研究の進展が他よりも遅かったということだと思います。

MHCクラスI分子やMHCクラスII分子がペプチドを提示するということを免疫学の教科書で読んだときに、タンパク質以外の物質の認識はどのように行われるのか疑問に思いました。その答えが、まさにこの「非古典的 MHC クラス I 分子」でした。非古典的 MHC クラス I 分子のあるものは脂質を提示し、またあるものは糖鎖を提示するというのです。自然界はなんと巧妙にできているのでしょう。

クラスIファミリー全体を見渡すと、古典的クラスI分子は少数であり、非古典的と称されるクラスI分子の方がはるかに多い。近年、非古典的クラスI分子の機能解析が飛躍的に進展し、その多様な機能が明らかになってきた。非古典的クラスI分子のなかには、特殊な抗原提示機能をもつもの、ナチュラルキラー細胞の活性を制御するもの、Fc レセプタ
ーとして機能するもの、脂質代謝鉄輸送など免疫とは無関係な機能をもつものなどが知られている。(非古典的 MHC クラス I 分子の多様な機能日本組織適合性学会 平成23年度・認定 HLA 検査技術者講習会) 

多型性が低く,限られたペプチドおよび非ペプチドを結合する(またはペプチド提示能を持たない)クラス I 分子を非古典的クラス I 分子と呼ぶ。

非古典的クラスI分子の種類:提示する抗原 受容体

  1. HLA-E:HLA クラス I シグナルペプチド NKG2/CD94 由来のペプチド
  2. HLA-F:不明  LILR?
  3. HLA-G:ペプチド  LILRB1,LILRB2,LILRA3,KIR2DL4
  4. CD1a,1b,1c:糖脂質  T 細胞上の TCR
  5. CD1d:糖脂質  NKT 細胞上の TCR
  6. CD1e:提示しない  不明
  7. MICA,MICB:なし  NKG2D

HLA の立体構造と免疫制御受容体の分子認識機構 Major Histocompatibility Complex 2016; 23 (2): 80–95)

 

CD1は第1染色体に位置する遺伝子で、多型性はない。HLAクラスI様の分子で、ペプチドではなく脂質や糖脂質を抗原として提示する。ヒトCD1分子は、CD1a、1b、1e、1d、1eの5つのアイソフォ ームを持ち

MICA/B(MHC class I chain-related gene A/B)は、第6染色体のHLA領域に存在する遺伝子である。HLA分子ほど多くはないが多型性であり

HLA以外の抗原提示分子 日本組織適合性学会)

  1. 特殊なT細胞とクラス1b分子 新しい認識系の存在 RADIOISOTOPES 45, 827 (1996)
  2. Sieling, P. A., Chatterjee, D. et al. CD1-Restricted T Cell Recognition of Microbial Lipoglycan Antigens. Science 269: 227-230. (1995).
  3. Beckman, E. M., Porcelli, S. A. et al. Recognition of a lipid antigen by CD1-restricted αβ+ T cells Nature 372: 691-694. (1994).

細胞内情報伝達系によるエネルギー代謝経路の調節

代謝経路が細胞内情報伝達機構によって制御されている(可能性がある)例を示した論文を纏めておきます。細胞内情報伝達機構が代謝酵素の活性を制御しているかもしれませんし、胞内情報伝達機構と相互作用することで、代謝酵素が代謝以外のこれまで知られていなかった役割を持っている可能性もあります。

  1. A non-canonical role for pyruvate kinase M2 as a functional modulator of Ca2+ signalling through IP3 receptors Biochimica et Biophysica Acta (BBA)  Volume 1869, Issue 4, April 2022, 119206
  2. Phosphoenolpyruvate Is a Metabolic Checkpoint of Anti-tumor T Cell Responses 2015年
  3. Essential Regulation of Cell Bioenergetics by Constitutive InsP3 Receptor Ca2+ Transfer to Mitochondria 2010年

rasの活性のオンとオフはどのように制御されているのか?GEFとGAPの役割

Rasスーパーファミリー

Gタンパク質のGは、GTPのGで, G proteinsGTP-binding proteinsの略です。そして、GプロテインはGTPase活性を持ちます。Gタンパク質にはαβγの3量体からなるタイプと、単量体で働く低分子量Gタンパク質と呼ばれるファミリーとがあります。Rasは低分子量Gタンパク質のほうに属します。ちなみにRasはスーパーファミリーを形成していて、そのスーパーファミリーの名前でもあります。そしてRasスーパーファミリーは5つのファミリーからなります。そのファミリーの一つもRasというわけ。

The Ras superfamily (>150 members in humans) is divided into five main families based on sequence identity and function: Ras, Rho, Rab, Arf, and Ran. (Ras superfamily GEFs and GAPs: validated and tractable targets for cancer therapy? 2010年)

Rasの活性をオン、オフにするメカニズム

RasはGTP結合タンパク質であり、GTPase活性があるわけで、Rasが機能する際にはGTPを分解してGDPにし、その際の自由エネルギーの変化分が利用されるのかと漠然と思っていました。しかし、GTP結合型が活性型、GDP結合型が不活性型という記述を読んで、わからなくなってしまいました。そのあたりをハッキリ説明した論文があったので、その部分を紹介します。

Ras superfamily proteins possess intrinsic guanine nucleotide exchange and GTP hydrolysis activities. However, these activities are too low to allow efficient and rapid cycling between their active GTP-bound and inactive GDP-bound states. GEFs and GAPs accelerate and regulate these intrinsic activities.

Alternation between the active GTP-bound and inactive GDP-bound states of the small GTPase is controlled by guanine nucleotide exchange factors (GEFs), which stimulate the exchange of GDP for GTP, and by GTPase activating proteins (GAPs), which terminate the active state by stimulating GTP hydrolysis. In their GTP-bound state, small GTPases bind effectors to activate biochemical processes. (Ras superfamily GEFs and GAPs: validated and tractable targets for cancer therapy? 2010年)

やはり通常の説明通り、GTP結合型が活性あり、GDP結合型が活性なしで、GTP型からGDP型へ移行するのは、GTPとGDPの交換ではなく、GTPの加水分解でした。ただしGTPase活性を高めるためにGAPタンパク質というプレーヤーが存在していました。また、GDP結合型からGTP結合型への意向はGEFタンパク質というプレーヤーが関与していました。

なぜGEFとGAPが必要かというと、上で説明されていますが、もともとRasが持っているGTPase活性や、GDP-GTP交換活性は弱すぎて、効果的に働かないからだそうです。助けが必要なわけですね。

Rasの活性のオフからオンへの切り替えは、GEFがGDPをGTPに交換することによって達成され、Rasno活性のオンからオフへの切り替えは、GAPの働きによってRasのGTPase活性が発揮されてGTPが加水分解されてGDPになることによって達成されるということのようです。

これですっきりしました。

guanine nucleotide exchange factor;GEF

  1. グアニンヌクレオチド交換因子(ウィキペディア)低分子量Gタンパク質は単量体で働き、Small GTPaseともいわれる。GEFが活性化するGTP結合タンパク質は、このタイプのGTP結合タンパク質である。
  2. Grb2 Is a Negative Modulator of the Intrinsic Ras-GEF Activity of hSos1 2006年
  3. Ras蛋白質のGDP/GTP交換因子mouse Sos1の機能解析 1998 Ras GEFとしてはCdc25,Sdc25,Ras-GRF,Sosなどが見出されている。
  4. Sos/K-Ras 結合を介して Ras シグナル伝達を制御する新しい低分子阻害剤 CYTOSKELETON NEWS 2014年7月号

 

参考

  1. ras類 似 低 分 子 量GTP結 合 タ ン パ ク質 ,rho遺 伝 子 物 , と ボ ツ リヌ スC3酵 素 1992年

細胞内情報伝達経路 IP3/Ca経路 を英語で説明した文章例 論文2個

複雑な細胞内情報伝達経路を英語で簡潔に説明するのは容易ではありませんが、論文のイントロなどを書くときには必要となります。IP3/Ca経路を説明した英語の文章を見てみます。

 

論文 Calcium Signaling 1995 レビュー論文

  1. Two receptor classes, the G protein-coupled receptor class of seven transmembrane-spanning receptors (GCRs) and the receptor tyrosine kinases (RTKs), release InsP3 via the pathways shown in Figure la.
  2. GCRs activate phospholipase Cβ (PLCβ), while RTKs stimulate phospholipase Cγ (PLCγ ) to convert phosphatidylinositol (4,5)-bisphosphate (PtdlnsP2) into InsP3 and diacylglycerol.
  3. InsP3 acts as an intracellular second messenger by binding to the specialized tetrameric InsP3 receptor that spans the endoplasmic reticular membrane
  4. and triggering release of Ca 2+ from the ER.

次の文例は、シグナル経路が3つに分岐することを簡潔に説明しています。また、説明しつつまだわかっていないことにも言及しています。

論文 Inositol Trisphosphate Mediates a RAS-Independent Response to LET-23 Receptor Tyrosine Kinase Activation in C. elegans 1998年

  1. Receptor tyrosine kinases (RTKs) and their cognate ligands are often used in multiple tissues within an organism to mediate distinct functions.
  2. Activated vertebrate RTKs typically stimulate multiple downstream effectors, including RAS, phosphatidylinositol-3-kinase (PI3K) and phospholipase Cγ(PLCγ).
  3. Activation of the RAS/MAPK pathway is necessary and sufficient for mitogenesis in certain systems
  4. while PI3K function is involved in transformation and membrane ruffling as well as other phenotypes.
  5. Activation of PLCγ promotes release of intracellular calcium through production of the second messenger inositol trisphosphate (IP3), but the in vivo role of calcium in eliciting mitogenesis is unclear and appears to vary among cell types and RTKs.

 

その他の参考論文

  1. Essential Regulation of Cell Bioenergetics by Constitutive InsP3 Receptor Ca2+ Transfer to Mitochondria 2010年

 

がん遺伝子とは

がんの原因は、細胞が無節操に増殖してしまうことにあります。つまり、細胞増殖の制御を司るタンパク質がもしDNAの変異により常時活性型になったりすると、常に細胞増殖シグナルが出続けてがんになってしまうというのが、発がんの一つのシナリオです。

がん遺伝子ras

がん遺伝子とは、変異したときにがん化を促進するような遺伝子のことで、代表的なものにrasがあります。rasには3種類あり、k-ras, h-ras, n-rasの3つの遺伝子があります。

  1. Drugging the undruggable Ras: mission possible? 2014
  2. 16 APRIL 2015 がん遺伝子産物Rasへの再挑戦  発がんに大きく関わるRasタンパク質。これを標的とする治療薬は、30年に及ぶ探求にもかかわらずまだ見つかっていない。
  3. 最多の発がん遺伝子を標的とした治療応用に期待 RAS遺伝子変異による発がんに関わる新たなメカニズムとその弱点を発見し核酸医薬による新規治療を提唱ーNature誌に論文発表ー2022月3月3日国立研究開発法人国立がん研究センター 2021年に初めて米国で、日本では2022年に一部のKRAS遺伝子変異(KRAS G12C変異:コドン12番目のグリシン[G]がシステイン[C]に変わる)のあるがんの増殖を特異的に阻害する画期的な薬が承認されました。
  4. RAS遺伝子変異(KRAS及びNRAS) 中外製薬 KRAS遺伝子の変異は膵がんの95%以上に確認されるほか、大腸がん、肺がん、多発性骨髄腫、子宮体がんなどでも多く確認されます。NRAS遺伝子の変異は、悪性黒色腫や多発性骨髄腫で多く確認されています。
  5. 遺伝子変異に合わせたがん治療とは ー 代表的な遺伝子変異 RAS遺伝子変異とは 中外製薬
  6. Targeting the Mitogen-Activated Protein Kinase RAS-RAF Signaling Pathway in Cancer Therapy 2012年 In normal quiescent cells, Ras is bound to GDP and is inactive (“off” state), while upon extracellular stimuli, Ras bind to GTP (“on” state), which has an extra phosphate group than GDP.

 

MAPK経路を英語で説明する5個の文例(論文)RAS-RAF-MEK-ERK

MAPK経路は、その名Mitogen-activated protein kinaseが示す通り、細胞外からのシグナル(増殖因子など)を受けた細胞が、細胞増殖に向かうための細胞内情報伝達経路として使われるほか、細胞の分化においても働くことがあることが知られています。また、ストレス応答の際の細胞内情報伝達経路としても働きます。細胞増殖、細胞分化、ストレス応答といった全くことなる生命現象を状況に応じて同じ経路が担っているのは不思議に思います。

MAPKシグナル経路の研究

MAPK(マップキナーゼ)経路の研究は、日本人研究者による貢献も大きかった分野です。

  1. 後藤由季子教授が2020年秋の 紫綬褒章を受章 「MAPキナーゼ経路」の同定は、生命体の成り立ちを理解するという生命科学の基礎として根源的な発見であったと同時に、「MAPキナーゼ経路」の異常活性化が癌化につながることから医学的社会的インパクトも大きなものでした。
  2. 分化能を失った神経系前駆細胞が、再びニューロンを作り出した! 細胞は、外からの情報に従ってMAPキナーゼ経路を活性化させ、核内にシグナルを伝えます。私は、研究の過程で、このシグナルが細胞の増殖だけでなく、分化にも関わっていることを見出しました。同じシグナル伝達経路を利用しながら、細胞が状況に応じて巧妙に応答を変えることに、驚きと感動を覚えました。

MAPKは何の略?

MAPK(マップキナーゼ)が何の略かというと、microtuble-associated protein kinase(MAPを基質とするキナーゼ)の略だと自分は理解していたのですが、今ではmitogen-activated protein kinaseの略だとされているようです。

Mitogen-activated protein kinases, originally known as microtubule-associated protein (MAP) kinases, are activated in response to a variety of stimuli. ‥ Initially, MAP kinase stood for microtubule-associated protein kinase because microtubule-associated proteins such as MAP2 are excellent substrates of MAP kinases (23). (Parkin Protects Dopaminergic Neurons against Microtubule-depolymerizing Toxins by Attenuating Microtubule-associated Protein Kinase Activation(2009))

教科書によってはMAPKのことをMAPキナーゼと書いてあるものがありますが、これはMAPを基質とするキナーゼという初期の研究の名残りでしょう。新しい略からすると、言葉の切れ目としては、Mitogen-activagedプロテインキナーゼということのはずですから。古い論文を見るとmitogen-activated MAP kinaseという言い方もされています。これは別々の研究者が別々の動物種で研究を行っていて、実は同一の細胞内情報伝達経路を調べていたという歴史的事情によるものです。

The protein kinase MAP kinase, also called MAP2 kinase, is a serine/threonine kinase whose activation and phosphorylation are induced by a variety of mitogens, and which is thought to have a critical role in a network of protein kinases in mitogenic signal transduction. ‥ Here we show that a Xenopus kinase, closely related to the mitogen-activated mammalian MAP kinase, is phosphorylated and activated during M phase of meiotic and mitotic cell cycles, and that the interphase-metaphase transition of microtubule arrays can be induced by the addition of purified Xenopus M phase-activated MAP kinase or mammalian mitogen-activated MAP kinase to interphase extracts in vitro.(In vitro effects on microtubule dynamics of purified Xenopus M phase-activated MAP kinase(Nature paper in 1991))

  1. A Mitogen-activated Protein (MAP) Kinase Activating Factor in Mammalian Mitogen-stimulated Cells Is Homologous to Xenopus M Phase MAP Kinase Activaton(JBC paper in 1992)(PDF) . Two related MAP kinases of 43 kDa (ERK1) and 41 kDa (ERK2) are activated in mammalian cells.

ERKは何の略?

ERKは、extracellular signal‐regulated kinase です。その他の登場人物も挙げておきます。

SOS:son of sevenless

Grb2:growth factor receptor bound protein 2

ウィキペディアをみるとMAPK経路は哺乳類では細胞増殖におけるシグナル経路として有名ですが、植物ではストレス応答の際に使われる細胞内情報伝達系のようです。

Since ERK1 and its close relative ERK2 (MAPK1) are both involved in growth factor signaling, the family was termed “mitogen-activated“. With the discovery of other members, even from distant organisms (e.g. plants), it has become increasingly clear that the name is a misnomer, since most MAPKs are actually involved in the response to potentially harmful, abiotic stress stimuli (hyperosmosis, oxidative stress, DNA damage, low osmolarity, infection, etc.). (Mitogen-activated protein kinase Wikipedia)

MAPK経路のことは、MAPKの哺乳類バージョンがERKなので、MAPK/ERK経路とも呼ばれます。ここのスラッシュ(/)の意味は、「同一のものに対する別称」ということです。もしくは、Ras-Raf-MEK-ERK経路とも呼ばれます。

  1. MAPK/ERK pathway (Wikipedia)

ERKはMAPK、MEKはMAPKK(マップキナーゼをリン酸化するキナーゼ)、RafはMAPKKK(マップキナーゼをリン酸化するキナーゼをリン酸化するキナーゼ)、RasはRafを活性化する因子です。研究の過程で次々とMAPKをリン酸化する酵素MAPKKをリン酸化する酵素MAPKKKが見つかっていったのは、圧巻でした。

自分は今まで知りませんでしたが、場合によってはMAPKKKK(MAP4K)なるものまであるみたいです。

These cascades transmit signals through sequential activation of three to five layers of protein kinases known as MAPK kinase kinase kinase (MAP4K), MAPK kinase kinase (MAP3K), MAPK kinase (MAPKK), MAPK and MAPK-activated protein kinases (MAPKAPK). (ERK/MAPK signalling pathway and tumorigenesis(2020))

 

細胞外からシグナルがきて受容体に結合し、エフェクター分子を経て、MAPK経路の分子が次々とリン酸化により活性かされていき最後は遺伝子発現制御に至るこの多段階のステップを英語でどのように簡潔に文章表現できるのでしょうか。いくつかの例文を見ていきたいと思います。

論文例1

論文:RAF1 amplification drives a subset of bladder tumors and confers sensitivity to MAPK-directed therapeutics (2021)

  1. RAF is activated by small GTPases of the RAS superfamily, including HRAS, NRAS, and KRAS.
  2. Activated RAF (MAP3K) activates MEK (MAP2K),
  3. which in turn activates ERK (MAPK).

論文例2

別の例。これはMAPKから始めて、遡って説明していますが、順序が入り乱れていて、多少冗長な文章にも思えます。

論文 Regulation of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Infectivity by the ERK Mitogen-Activated Protein Kinase Signaling Pathway(1999)

  1. The mitogen-activated protein (MAP) kinases ERK1 and ERK2 (also known as p44/42 MAPK and hereafter referred to as MAPK) are central components of signal transduction pathways activated by diverse extracellular stimuli.
  2. MAPK itself is activated by phosphorylation on threonine and tyrosine residues by the MAPK kinase (also known as MEK).
  3. The best understood mechanism for activation of MAPK is via activation of Ras by growth factor receptors or tyrosine kinases.
  4. Activation of Ras induces Raf-1 targeting to the membrane,
  5. leading to activation of Raf,
  6. which then phosphorylates and activates MEK.
  7. Ras-independent mechanisms have also been implicated in activation of MAPK.
  8. Activation of MAPK occurs during the G0/G1 transition and may be required for progression through the cell cycle.

論文例3

別の論文。ここではRASが主役で書かれています。RAS-RAF-MEK-ERKのカスケードですが、途中のMEKが省かれています。

論文 Inhibition of Ras/Raf/MEK/ERK Pathway Signaling by a Stress-Induced Phospho-Regulatory Circuit(2016)

  1. The three-tiered RAF/MEK/ERK kinase cascade functions as an essential effector cascade required for Ras GTPase signaling in normal and disease states.
  2. Signal transmission through the cascade begins when members of the Raf family are recruited from the cytosol to the plasma membrane, where they bind directly to active GTP-Ras.
  3. Binding to Ras induces conformational changes that promote Raf dimerization,
  4. which in turn mediates kinase activation through an allosteric mechanism that often involves B-Raf/C-Raf heterodimers.
  5. Once activated, Raf initiates the sequential phosphorylation events that ultimately result in ERK activation
  6. and the downstream phosphorylation of key substrates required for a specific response.

論文のフォーカスがどこかによって、書き方ががらりと変わる例でした。

さてRasはそもそもどうやって活性化するのかという点にこれまで触れてきませんでしたが、Rasの上流のプレーヤーたちまで含めた説明をしている論文を紹介します。チロシンキナーゼ(protein tyrosine kinase;PTK)活性を持つ受容体の種類は、チロシンキナーゼ型受容体と呼ばれますが、リガンドが結合するとチロシンキナーゼ型受容体は自らをリン酸化します。するとSH2ドメインを持つアダプター分子であるGrb2が、受容体に結合します。Grb2には、Ras特異的グアニンヌクレオチド交換因子(Ganinenucleotide exchange factor; GEF)の一つであるSOSが結合します。RasはGDPと結合した不活性状態にもともとありますが、Grb2-SOS複合体にRas-GDPが結合すると、GDPがGTPに交換されて、活性型すなわちRas-GTPになります。

  1. rasの活性のオンとオフはどのように制御されているのか?GEFとGAPの役割

このあたりまで説明した論文を紹介します。

論文例4

論文 Positive- and negative-feedback regulations coordinate the dynamic behavior of the Ras-Raf-MEK-ERK signal transduction pathway (2009)

  1. Typically, it is initiated by the growth-factor-induced recruitment of the SOS-Grb2 complex to the plasma membrane.
  2. The SOS-Grb2 complex catalyzes the transformation of an inactive GDP-bound form of Ras (Ras-GDP) into its active GTP-bound form (Ras-GTP).
  3. Ras-GTP binds the Raf-1 kinase with high affinity,
  4. which induces the recruitment of Raf-1 from the cytosol to the cell membrane.
  5. Activated Raf-1 phosphorylates and activates mitogen-activated protein kinase kinase (MEK),
  6. a kinase that in turn phosphorylates and activates mitogen-activated protein kinase (MAPK).

次の論文での説明は、起こる過程を記述するのに、番号を振って、セミコロンで続けることにより、1文で書ききっています。

論文例5

論文 Optogenetic actuator – ERK biosensor circuits identify MAPK network nodes that shape ERK dynamics(2022年)

  1. Upon binding of their cognate growth factors (GFs), RTKs activate a complex signaling cascade with the following hierarchy:
  2. (i) recruitment of adaptor molecules such as GRB2 ;
  3. (ii) control of the activity of RAS GTPases through Guanine nucleotide exchange factors (GEFs) and GTPase activating proteins (GAPs);
  4. (iii) triggering of a tripartite RAF, MEK, ERK kinase cascade
  5. that is further regulated by a variety of binding proteins; and
  6. (iv) ERK‐mediated phosphorylation of a large number of substrates.

 

4種類のMAPK経路

細胞内情報伝達機構は複雑で、登場人物が非常に多くて、しかも動物種や発見者の研究グループなどによって命名方法が勝手気ままで統一性がないため、理解するのが本当に大変です。MAPK経路と一言でいっても、実際にはいろいろな種類があるようです。元祖MAPKと言えば、MAPK/ERK1/ERK2のことですが、MAPKの種類によって4つに分類されています。

Four MAPK cascades have been defined based on the components in the MAPK layer: ERK1/2, c-Jun N-terminal kinase (JNK), p38 MAPK and ERK5. (ERK/MAPK signalling pathway and tumorigenesis(2020))

MAPK経路の他の経路とのクロストーク

細胞内情報伝達機構は様々な種類がありますが、いろいろなレベルで互いにクロストークしているのが普通です。MAPK経路の役割は多彩です。

The MAPK/extracellular signal-regulated kinase (ERK) pathway is a convergent signaling node that receives input from numerous stimuli, including internal metabolic stress and DNA damage pathways and altered protein concentrations, as well as through signaling from external growth factors, cell-matrix interactions, and communication from other cells.(The MAPK pathway across different malignancies: A new perspective 2014年)

 

その他の参考論文

  1. Regulation of Ras Exchange Factors and Cellular Localization of Ras Activation by Lipid Messengers in T Cells 2013年
  2. Regulation of Small GTPases by GEFs, GAPs, and GDIs 2013年

 

JAK-STAT経路を英語で説明する5個の文例(論文)

細胞情報伝達経路にはいろいろありますが、その中の一つが、JAK/STAT経路と呼ばれるもの。サイトカイン(インターロイキン2など)や増殖因子がその受容体に結合すると、受容体はリガンドとの結合により二量体になります。すると受容体の細胞質の領域にJAKタンパク質が結合します。JAKはチロシンリン酸化酵素で、近傍のJAKのチロシン残基をリン酸化します。リン酸化されたJAKは受容体のチロシン残基をリン酸化します。すると、受容体のリン酸化チロシンの部位にSTATタンパク質が結合します。すると、受容体に結合したSTATの特定のチロシン残基が、JAKによりリン酸化されます。リン酸化されたSTATは2量体をつくり細胞質から核へと移行してDNAの特定の領域に結合し、遺伝子発現制御に関与します。

箇条書きにしてみると、

  1. リガンドが受容体に結合
  2. 受容体が2量体化
  3. JAKが受容体に結合
  4. JAKが近傍のJAKをリン酸化
  5. リン酸化JAKが受容体をリン酸化
  6. 受容体のリン酸化部位にSTATが結合
  7. リン酸化JAKがSTATをリン酸化
  8. リン酸化STATが2量体をつくって核へ移行
  9. リン酸化STAT2量体がDNAに結合して遺伝子発現制御

というわけ。

参考資料

  1. リッピンコット免疫学原書2版 78ページ

JAK-STAT経路を英語で説明する5個の文例(論文)

細胞内情報伝達経路を英語で説明するのは、なかなか難しいです。あれがこうなると、これがこうして、それによってこれがこうなって、結果として何がどうなってどうするみたいなことを英語で延々と説明しなければなりません。どんなふうに説明すればいいのか、例文を集めておきたいと思います。全部真似するのはアウトですが、部分的にこの言い回しは使わせてもらうというのはアリでしょう。

以下、シグナリングの過程(受容体への結合、リン酸化、核移行など)ごとに区切って箇条書きにしました。そのため文を必要に応じて分解してあります。

下の論文では、要所要所に全体像を説明する文や細かいファミリーメンバーの説明が織り交ぜられています。

Roles for the interleukin-4 receptor and associated JAK/STAT proteinsin human articular chondrocyte mechanotransduction(2006)

  1. IL4 exerts its biological actions by binding to a heterodi-meric receptor complex, the IL4 receptor (IL4R), present on the cell surface.
  2. Two functional IL4R subtypes have beenidentified; the Type I IL4R consists of IL4Ra and common gamma (gc) subunits whilst the Type II IL4R is composed ofIL4Ra and IL13Ra1 subunits.
  3. Binding of IL4 to IL4Ra sub-unit
  4. leads to receptor dimerisation by recruitment of the second receptor subunit
  5. and the subsequent activation of the Janus kinase/signal transducers and activators of transcription (JAK/STAT) pathway.
  6. The JAKs are cytoplasmic receptor-associated tyrosine kinases that were first implicated in cytokine-stimulated signalling pathways.
  7. To date four members of the JAK family have been identified: JAK1,JAK2, JAK3 and Tyk2.
  8. In contrast to JAK1, JAK2 and Tyk2,which are ubiquitously expressed and can associate with a number of cytokine receptor subunits, JAK3 has been shown to be selectively associated with the gc subunit.
  9. Receptor dimerisation is associated with autophosphorylation and transphosphorylation of JAKs.
  10. Activated JAK proteins further phosphorylate the IL4R,
  11. allowing recruitment of SH2 domain-containing STATs,
  12. which are subsequently phosphorylated by the activated JAKs.
  13. Once phosphorylated, STATs form homo or heterodimeric complexes
  14. that translocate to the nucleus
  15. where they can regulate transcription of specific genes.
  16. STAT6 functions as a critical mediator of IL4-stimulated gene activation.

文の構造やキーワードを見てみます。

A(過程) leads to B (過程)by C (過程)and subsequent D(過程)

A(過程)is associated with B(過程)

A(分子)further posphorylate(動作) B(分子), allowing C(過程)

A(分子)動詞(動作)that 動詞(過程)where 動詞(役割)

leads toやallowingは次の動作が起こることを説明するのに頻出するキーワード。subsequentやfurtherといった形容詞や副詞も次の順番を表す言葉。興味深いのは、that節やwhere節を使うことにより、順に起こる過程を説明できることだと思います。

別の論文を紹介します。

The role of JAK-STAT signaling pathway and its regulators in the fate of T helper cells(2017 )の説明(一部省略しています)

  1. Type I- and II receptors are constitutively associated with JAKs.
  2. The binding of ligand (cytokine) to its receptor
  3. causes receptor dimerization
  4. and subsequently, JAKs are activated following close proximity.
  5. These activated JAKs initiate trans-phosphorylation on specific tyrosine residues (also named transactivation),
  6. generating docking sites for recruitment of latent cytoplasmic transcription factors known as STATs.
  7. Unphosphorylated STATs (Off) reside in the cytoplasm.
  8. If phosphorylation of STATs (On) and STAT dimerization occur upon activation of JAKs,
  9. phosphorylated STATs abandon docking sites on the receptors.
  10. Therefore, they translocate to the nucleus
  11. and bind to specific DNA sequences
  12. either to activate or suppress gene transcription.

変化に富んだ語彙で、読みやすいです。

A(過程) causes B(過程) and subsequently C(過程)

A (分子)initiate B(過程), generating C(状態)

A (動作 文)to B(動詞 家庭)

ここで特徴的だと思ったのは、「結果」を表すto不定詞の用法が使われている点です。to不定詞も、ああなったら、こうなったという一連の流れを作るのに使える表現です。

もう一例。

The molecular details of cytokine signaling via the JAK/STAT pathway(2018)

  1. Each cytokine binds to a specific receptor on the surface of its target cell.
  2. These receptors contain intracellular domains which are constitutively associated with members of the JAK (Janus Kinase) family of tyrosine kinases.
  3. JAKs are inactive prior to cytokine exposure
  4. however binding of cytokine to its receptor induces their auto-activation by transphosphorylation.
  5. Once activated, JAKs phosphorylate the intracellular tails of the receptors on specific tyrosines
  6. which in turn act as docking sites for members of the Signal Transducers and Activators of Transcription (STAT) family of transcription factors.
  7. Receptor-localized STATs are then phosphorylated by JAK
  8. which leads to their disassociation from the receptor and translocation to the nucleus,
  9. where they drive the expression of cytokine-responsive genes,
  10. often leading to proliferation and/or differentiation.

これも見事に情報を含ませて書かれています。

in turnやthenといった語句が、2つの事柄の順序関係を示すのに使われています。変化を表すための、lead toはこのての文章には必須の語句ですね。

また別の論文の例も紹介します。

Tuning the Cytokine Responses: An Update on Interleukin (IL)-4 and IL-13 Receptor Complexes (2018)

  1. The Jak kinases, associated with γc (Jak3), IL-4Rα (Jak1), or IL-13Rα1 (Tyk2, Jak2),
  2. will auto- and cross-phosphorylate each other,
  3. resulting in their activation and the subsequent tyrosine (Y) phosphorylation of critical Y residues in IL-4Rα chain.
  4. Upon phosphorylation, the Y residues in the intracellular domains of IL-4Rα serve as docking sites for SH domains of intracellular signaling molecules.
  5. STAT6 and IRS molecules, in particular, become activated on these tyrosine residues in response to the activation of the type I IL-4 receptor.
  6. Once activated, STAT6 molecules homodimerize
  7. and translocate to the nucleus
  8. where they bind specific accessible DNA sequences, for example, on the CD23 promoter in human B-cells and on the arginase1 enhancer in mouse macrophages (25, 26).

この論文ではかなり細かい情報まで含めて書かれていました。細胞外からのリガンドから書き始めるとだらだらと長くなりがちですが、このように情報伝達経路の途中に位置するJAKから書き始めることにより、簡潔な表現が可能になっているように思います。

resultingやsubsequent、become ~ in response to、といた言葉が使われています。

もっと簡潔に表現した別の論文も紹介。

The JAK/STAT signaling pathway: from bench to clinic(2021)

  1. JAKs are noncovalently associated with cytokine receptors,
  2. mediate tyrosine phosphorylation of receptors,
  3. and recruit one or more STAT proteins.
  4. Tyrosine-phosphorylated STATs dimerize
  5. and are then transported into the nucleus through the nuclear membrane
  6. to regulate specific genes

この論文の表現は、非常に簡潔ですが、情報がギューッと圧縮された印象を受けます。ここまで簡潔に書けるものなのかと感銘を受けました。

mediate、then、to 不定詞(結果用法)程度しか使っていなくてあとは普通に何が起こるのかを示す動詞を使っているだけなのですが、実に簡潔にまとめています。

その他の参考論文

  1. The JAK-STAT Pathway at Twenty