免疫学は複雑すぎてなかなか頭に入ってきません。ブルーバックスの『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』は、生体に病原菌が侵入されてから生体内でおこる様々な免疫学的な事象をストーリーを追いながら説明してくれていて、とても理解の助けになります。免疫学の世界的な権威である日本人研究者らによって書かれているので、読んでいて安心感があります。この本を読んで得た知識をもとに、自分なりに再構成してみます。
細菌の生体内への侵入とマクロファージによる対応
転んで膝を擦りむiいたりした傷口から病原体(細菌)が侵入する。
マクロファージという名の細胞が細菌を食べる。その際、Toll-like receptor(TLR)によって細菌特有の構成物質(リポ多糖など)を認識して「活性化」する。
*マクロファージ(macrophage 大食細胞 だいしょくさいぼう macroは大きい、phageは食べるの意味)
活性化したマクロファージはサイトカインと呼ばれる物質を周囲に放出し、周りにいるマクロファージを「活性化」する。。余談だが、実はTLRはマクロファージに限らず全身のほぼすべての細胞で多少なりとも発現している。つまりマクロファージでなくても普通の細胞だっても、細菌などの病原体を認識して「警報」であるサイトカインを放出する。また、サイトカインの一種であるケモカイン(他の細胞を遊走させるサイトカインの呼称)を放出し、他の免疫細胞を呼び寄せると同時に血管の壁をつくっている血管内皮細胞同士の結合を緩める。これにより、血管の壁の隙間から、血液中に存在した免疫細胞が血中から血管壁を通り抜けて、傷口の近くの組織内に移動してくることができる。
好中球が応援にかけつける
マクロファージからのシグナルを受けて、血液中にいた好中球が血管の壁の隙間を通り抜けて、傷口付近へと集まってくる。
好中球は殺菌作用を持ち、細胞数も多数。病原体を倒して死んだ好中球の塊が「膿(うみ)」と呼ばれるものの実体。
樹状細胞による対応
マクロファージと並ぶ食細胞として、樹状細胞があります。樹状細胞もマクロファージとどうように、侵入者である細胞を食べてToll-like receptor(TLR)の働きで活性化します。マクロファージと大きくことなるのは、樹状細胞はいわゆる「自然免疫」の一員でありながら、いわゆる「獲得免疫」を発動するための司令塔である点です。つまり、自然免疫と獲得免疫とをつなぐ重要な位置にいる細胞なのです。
*TLRのように細菌特有の構造を認識する受容体のことを、パターン認識受容体と呼ぶ。
リンパ節で起こること(1):ナイーブヘルパーT細胞の活性化
活性化した樹状細胞は、その形を「樹状」に変え近くのリンパ節へ移動します。樹状細胞は食べた細菌のタンパク質をペプチドにまで分解し、MHCクラスIおよびMHCクラスIIという名前のタンパク質の上にこのペプチドを載せた状態で膜上にそれを提示します。樹状細胞の表面の膜状に提示された「MHCクラスI+ペプチド」と「MHCクラスII+ペプチド」とは、それぞれ異なる種類の細胞が認識します。「MHCクラスII+ペプチド」を認識するのがナイーブヘルパーT細胞、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞です。ナイーブという意味は、これまでに抗原刺激を受けたことがないという意味です。ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞、キラーT細胞はCD8陽性細胞とも言われます。CD4とCD8はそれぞれヘルパーT細胞とキラーT細胞を特徴づける膜表面上の分子で、MHCクラスIIの認識、MHCクラスIの認識にそれぞれが必要となります。
さて、ヘルパーT細胞もキラーT細胞も、T細胞受容体という名前の分子(T Cell Reseptor; TCR)を表面膜上に持っています。T細胞受容体の「可変部」は10億通り以上もの多様性があると言われており、一つのT細胞は、基本的に、その多様な構造のなかの一つの形だけを選んでつくられたTCR分子を発現しています。おなじ形のTCRを持ったT細胞は全身で100個程度しかないと言われています。問題は、今回侵入してきた細菌のタンパク質由来のペプチドを樹状細胞が提示したときに、提示されたペプチド(+MHC)とぴったりと結合できるT細胞と出会えるかどうかというところです。リンパ節で、樹状細胞は多数のT細胞と接触しながら相手を探すことになります。自分とぴったり合う相手を見つけるのは大変です。一か所に留まっているだけで出会えるとは限りません。樹状細胞やT細胞などの免疫細胞は、一つのリンパ節にずっととどまっているわけではなく、リンパ節を出てリンパ管に入り、静脈(血管)に入り、心臓を経由して動脈、末梢、リンパ管、リンパ節といった循環を常にしています。動き回ることで相手に出会う可能性を高めています。「リンパ節で」と書いてしまいましたが、外で動いている最中に出会うこともあるのでしょう。
ここからは、ヘルパーT細胞とキラーT細胞とで、それぞれ別イベントが並行して起きていきますので、まずはヘルパーT細胞についてみていきましょう。
ヘルパーT細胞の活性化
樹状細胞が提示するMHCクラスII+ペプチドと結合できるようなTCRを持っていたヘルパーT細胞は、活性化されます。ただし、この結合だけでは活性化の十分条件にはなりません。補助刺激分子として、樹状細胞が膜上に出しているCD80/86に、ヘルパーT細胞が表面膜上に出しているCD28が結合することが必要です。さらに、樹状細胞が放出するサイトカインをヘルパーT細胞が受け取ることも必要です。この3つが揃って初めてヘルパーT細胞が活性化させるのです。CD80/86の発現と、サイトカインの放出は、病原菌に遭遇して活性化した樹状細胞だけが起こしているものです。
この3条件が必要と聞くと、なんか複雑だなあと嫌気がさすかもしれませんが、その意義を考えてみると、このことが非常に興味深い、生物の巧妙さを示していることがわかります。というのは、樹状細胞は普段から自己の細胞の死骸なども食べているのです。自分が食べたタンパク質を分解してできたペプチドもMHCに載せて細胞表面に提示しています。しかし、普段、自己の体由来のタンパク質のごみ処理をしているだけだと、パターン認識受容体を介したシグナルを受けていないので「活性化」はしていません(特徴的な樹状になっていない)。活性化していないので、CD80/86を発現しておらず、サイトカインの放出もしません。しかし、たまたま自己抗体を認識してしまうT細胞が存在する可能性があります。その場合、MHCII+ペプチドとTCRが結合してしまうのですが、T細胞は活性化されなくて済むのです。つまり、確実に外来性の抗原を認識できたときだけT細胞が活性化するような仕組みになっているというわけです。
ちなみに、病原菌由来のタンパク質を分解してペプチドにまでしたとき、さまざまな種類のペプチドが生じます。ですから、ひとつの樹状細胞は、同一細菌由来の多数の種類のペプチドを提示していることになります。それらのそれぞれのペプチド(+MHC)を認識するT細胞たちが活性化させることになります。
話がややこしくなるのでここでは詳しい言いませんが、ナイーブヘルパーT細胞が活性するときに、実は3種類の活性化ヘルパーT細胞になる可能性があります。1型(Th1)、2型(Th2)、17型(Th17)の3種類です。Th17はだいぶあとに発見されものでIL-17を産生することから17という数字が呼称になっています。
活性化ヘルパーT細胞による現場の応援
リンパ節で活性化したヘルパーT細胞(Th1)は、現場のマクロファージが出したケモカインを頼りに、血中から出て外来の病原菌が侵入してきた現場に向かいます。実はマクロファージにも、樹状細胞ほどではないながらも、抗原提示機能があります。マクロファージが提示する「MHCクラスII分子+抗原ペプチド」を、活性化ヘルパーT細胞が認識できます。同じ病原菌由来のペプチドを樹状細胞が提示していて、それに反応できたヘルパーT細胞なので、マクロファージの中にも同じ抗原が提示された場合があるはずなわけです。さっきの樹状細胞との相互作用の3条件は、マクロファージに関しても当てはまります。つまり、MHCクラスII+ペプチドをTCRで認識、CD80/86をCD28 で認識、マクロファージから放出されたサイトカインの認識、の3条件がそろうと活性化ヘルパーT細胞(Th1)が今度はCD40L分子によってマクロファージを刺激します。受けて側のマクロファージはCD40という膜上の分子によりこのシグナルを受け取り、さらに、活性化T細胞からのサイトカインの放出も受けて、貪食能力がパワーアップします。
ここまでのストーリーで面白いのは、自然免疫の細胞であるマクロファージから始まって、獲得免疫を経由して、再び、マクロファージのパワーアップ(自然免疫)というところに行きついた点です。獲得免疫と自然免疫とは別々に働くものではなく、このように協調して働いているんですね。
活性化ヘルパーT細胞によるB細胞に対するヘルプ
さてリンパ節においてヘルパーT細胞が活性化しましたが、現場に向かって現場のマクロファージをヘルプするだけでなく、リンパ節においても非常に重要な仕事をします。それは、B細胞をヘルプすること。B細胞は、抗体を産生する細胞ですが、病原体に対する抗体を大量に生産するプラズマ細胞にB細胞が変化するためには、ヘルパーT細胞からのヘルプが必要なのです。B細胞はB細胞抗原受容体(B cell antigen receptor; BCR)という分子を膜表面に出しています。BCRは膜に結合している部分の外側は、抗体そのものです。傷口から侵入した病原菌のやその残骸はリンパの流れにのってリンパ節にも入ってきます。BCRも1000億通りの構造があるといわれており、特定の構造を持つBCRを一種類だけ、一つのB細胞が発現しています。ですから、たまたま病原菌由来のタンパク質をBCRで認識できるB細胞が存在するわけです。抗原からの刺激を過去に受けたことがないB細胞は、ナイーブB細胞と呼ばれます。
さて抗原となるタンパク質をBCRで認識したナイーブB細胞は、実は抗原提示機能を持っています。MHCクラスII分子に分解したペプチドを載せて、他の細胞にたいして提示するのです。つまりBCRでタンパク質全体を認識する一方で、その断片であるペプチドもMHCII分子とともに提示しているのです。このような抗原提示を、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)が認識するというわけです。すでに同じ病原体によって活性化ヘルパーT細胞は十分な数にまで増殖していますので、この病原体を認識したB細胞が提示する抗原を認識できる活性化ヘルパーT細胞は、増殖により十分な数存在すると考えられます。
さて、活性化ヘルパーT細胞(Th1およびTh2)によるB細胞の活性化ですが、ここでもやはり複数の条件が必要になります。すなわち、B細胞が提示するMHCクラスII分子+ペプチドを活性化ヘルパーT細胞のTCRが認識すること、少しだけ活性化したことによってB細胞が発現したCD80/86をT細胞のCD28が認識することです。これらの条件が揃うと、T細胞はCD40Lによる刺激をB細胞にあたえ、B細胞はそれをCD40によって受け取ります。また、T細胞はサイトカインをB細胞に対して放出します。こうして、ナイーブB細胞は、活性化して、増殖し最終的にはプラズマ細胞に分化します。活性化したB細胞が、抗原に対する特異性の髙い抗体(IgG)を大量に生産するプラズマ細胞になるまでには、2つの大きな変化を伴います。ひとつが「親和性成熟」で、もうひとつが「クラススイッチ」です。
活性化B細胞からプラズマ細胞へ:親和性成熟とクラススイッチ
活性化B細胞は、そのBCRが抗原に反応できたからこそ、活性化したわけですが、実は抗原に対する結合の強さ(親和性)は非常に強いわけではありません。そこで、突然変異を可変領域内にランダムに導入することにより、もっと強力に抗原に結合できる抗体をつくるということをするのです。これを親和性成熟と呼びます。変異をランダムに入れるので、親和性が高まることもあればむしろ低くなることもあります。親和性が高くないものは、細胞死に追いやられます。この過程はリンパ節の中の「胚中心」と呼ばれる場所で起こります。その際、抗原を提示する役割を担うのが、濾胞樹状細胞(FDC)です。FDCは抗原を”ショーウインドウ”のように並べていて、B細胞がつくる抗体(IgG)の結合性をチェックします。
BCRの実体はIgMですが、クラススイッチというのは、Ig(免疫グロブリン)の型が遺伝子組み換えにより、例えばIgMからIgGへと変化することです。
抗体の働き方:中和とオプソニン化
食細胞のように、病原体を食べてしまうことによりやっつけるというのは話としてわかりやすいのですが、病原体を認識する抗体を作ったからといって、その抗体がどうやって的を倒してくれるのでしょうか。抗体の働き方には大きく分けて2つの種類があります。一つは、「中和」です。例えば、生体内に侵入してきた病原菌が毒となるタンパク質を産生していたとします。その場合、その毒に対する抗体が結合することにより、その毒が働けないようにしてくれることがあります(中和という)。抗体が結合したことで無毒化された毒は、食細胞が食べて処理してくれます。ウイルスの表面タンパク質に対する抗体も、ウイルスに抗体が結合した結果、そのウイルスが細胞表面に結合できないため感染できなくなります。もうひとつが「オプソニン化」です。抗原や病原体に抗体が結合すると、抗体の根元部分(Fc領域という)の構造が変化して、食細胞の膜表面にあるFc受容体と結合できて、食細胞が食べて処理してくれます。
マクロファージのような食細胞は、「自然免疫」に分類されます。しかし、今までみてきたように、「自然免疫」に分類される細胞と、「獲得免疫」に分類される細胞とは協同して、互いを刺激してパワーアップさせながら、外敵と戦っていたのでした。
さて、ここまではもっぱら病原菌の侵入を想定して、どんな免疫反応が生じるかを見てきました。また、リンパ節でヘルパーT細胞が活性化したあとの話しがずっと続いてきました。そこでは、もうひとつ、キラーT細胞にちょっとだけ言及しました。ここからは、キラーT細胞が主役となる免疫反応を見ていきましょう。キラーT細胞は、その名が示すように、相手をキル(殺す)することができます。
リンパ節に移動した樹状細胞は「MHCクラスII+ペプチド」を提示しているだけでなく、「MHCクラスI+ペプチド」も同時に提示しています。そして、「MHCクラスI+ペプチド」を認識するのがナイーブキラーT細胞(CD8陽性T細胞)です。MHCクラスIIはCD4陽性T細胞、MHCクラスIはCD8陽性T細胞で認識される仕組みは、CD4がMHCクラスIIを認識し、CD8がMHCクラスIを認識することができるからです。これらは、抗原提示部分ではない領域に結合します。どっちがどっちだったか混乱しないような覚え方として、「8の法則」がお勧めです。Ix8=8、IIx4=8と言う組みあわせです。
リンパ節で起こること(2):ナイーブキラーT細胞の活性化
樹状細胞とキラーT細胞との相互作用に関しては、ヘルパーT細胞のときとほとんど同じです。樹状細胞が提示する「MHCクラスI分子+抗原ペプチド」を、ナイーブキラーT細胞のT細胞抗原受容体(TCR)が認識する(そのようなTCRを持ったナイーブキラーT細胞とたまたま出会う)。樹状細胞のCD80/86とT細胞のCD28が結合する。
これまで度々登場した活性化ヘルパーT細胞ですが、ナイーブキラーT細胞が結合している樹状細胞に、活性化ヘルパーT細胞も結合しているはずです。その場合、ヘルパーT細胞(Th1)からキラーT細胞へ、サイトカインが放出されます。ヘルパーT細胞は、上で説明したマクロファージ(Th1)やB細胞(Th1およびTh2)へのヘルプだけではなく、実にキラーT細胞の活性化をもヘルプ(Th1)するのでした。まさにヘルパーという名にふさわしい活躍ぶりです。活性化したキラーT細胞は増殖してその数を増やし、戦いに向かいます。どこにどうやって?かというと、やはりケモカインを頼りに移動します。
最初は病原菌が生体内に侵入したというシナリオでストーリーを始めました。しかし、外敵は病原菌に限らず、細胞内に入り込むウイルスや細胞内に入り込む特別な病原菌(細胞内寄生細菌)もいます。キラーT細胞は、このような細胞を殺すのに有効な手段となります。ウイルスなどに感染した細胞は、パターン認識受容体によりそれを感知し(ウイルス由来のRNAを認識するTLRなどによる)、インターフェロンなどのサイトカインを放出し、全身に臨戦態勢を整えます。インターフェロンの効果としては、MHC分子の促進があります。感染した細胞はMHCクラスI分子にウイルス由来の抗原ペプチドを載せて提示します。活性化キラーT細胞は、このような感染細胞に対してアポトーシスを誘導することにより殺します。
キラーT細胞を補完するナチュラルキラー(NK)細胞の働き
活性化キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞などを認識して細胞死(アポトーシス)を誘導できるのでした。その際にMHCクラスI分子+ペプチドが必要でした。ところが、ウイルスに感染した細胞は、MHCクラスI分子の発現量が減少することがあります。そうなると、キラーT細胞が有効に働けません。その穴を埋める働きをしてくれるものとして、「自然免疫」に属する細胞の一種である、ナチュラルキラー(NK)細胞があります。NK細胞は、ウイルス感染のせいでMHCクラスI分子の発現量が低下していてCD80/86(もしくはNKG2Dリガンド)を発現している細胞を認識して、この細胞にアポトーシスを誘導します。
Th1,Th2,Th17の働き
さて、以上で、細菌やウイルスが生体内に侵入してきたときに免疫系でどのような応答が起きるのかの概略がつかめたと思います。ヘルパーT細胞に関してはTh1の役割が主でした。3種類のヘルパーT細胞Th1,Th2,Th17については、免疫学や炎症の研究内容の紹介では頻出することなので、引き続き『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』で紹介されていた内容を、ここにまとめておこうと思います。
Th2の働きは3つあります。一つ目はTh1と同じでB細胞を活性化させてIgGを放出させること。2つめは、B細胞を活性化させてIgEを放出させること。3つめが、好酸球の活性化です。
IgEも親和性成熟を経ます。B細胞が分化してできたプラズマ細胞からIgEが放出されると、マスト細胞(肥満細胞)にIgEの根元が結合します。抗原がIgEに結合すると、マスト細胞はヒスタミンなどを放出します。ヒスタミンの作用で粘液が増量します。これは寄生虫の排除がもともとの目的だと考えられているそうです。しかし、鼻や目の粘膜でこのシステムが”誤作動”したものが花粉症の実体なのではないかとのこと。
好酸球はTh2からだされるサイトカインの刺激によって、寄生虫を排除するための物質を放出するのだそうです。
Th17は末梢においてサイトカインを放出し、ケモカインの放出を促します。それにより好中球を集結させます。またTh17は腸管上皮細胞にむけてサイトカインを放出し、これにより腸管上皮細胞から抗菌ペプチドを分泌させます。
Th1,Th2,Th17がどのように生体内で分化するかについてはまだわからないことが多いようです(この本の出版年は2014年)。in vitro実験でわかっている分化誘導物質は、
IL-12 → Th1
IL-4 → Th2
IL-6 + TGFβ → Th17
だそう。Th17が発見するまでは、Th1とTh2の働きかたの割合(Th1/Th2バランス)で、病態などを説明することが盛んに行われていましたが、Th17が発見されたことにより、Th1/Th2バランスを考えなくてもTh17の働きとして説明できてしまうことなどもあって、Th1/Th2バランスという考え方は下火になったようです。
本書では、外敵の種類によってTh1,Th2,Th3の役割をまとめています。
Th1 排除すべき対象:ウイルス、細胞内寄生細菌 産生するサイトカイン:IFNγ,IL-2,TNF-α
Th2 排除すべき対象:寄生虫 産生するサイトカイン:IL-4, IL-5, IL-10, IL-13
Th3 排除すべき対象:細胞外細菌、真菌 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22
自然リンパ球
本書の免疫のストーリーには自然リンパ球は一切登場しませんでした。しかし、最近発見された自然線リンパ球について紹介されていました。非常に興味深いことに、上のTh1, Th2, Th3と産生するサイトカインが見事に対応しています。炎症という病態を引き起こしているのはサイトカインですが、今まで病態の説明としてTh1,Th2,Th17を考えてきたけれども実は自然リンパ球から放出されるサイトカインによって説明できることも多いのではないかという提言があります。
自然リンパ球グループ1 産生するサイトカイン:IFNγ
自然リンパ球グループ2 産生するサイトカイン:IL-5, IL-13
自然リンパ球グループ3 産生するサイトカイン:IL-17, IL-22
さて、この本は以上で外敵が侵入してきたときに何がおこるのかのストーリーの解説が完結したのですが、話はそこで終わらず、免役応答がどのように制御されているのか、腸管免疫の話、自然炎症、がんといった話題にも触れられていて盛りだくさんです。
これらの話も大変わかりやすい解説なので、別の記事で改めて紹介したいと思います。