医学の土台としての生化学
医学を理解するためには生化学の知識は必須です。なぜなら、人間が生きているということはとりもなおさず生体内で生化学の反応が起きているということであり、その生化学反応のバランスが崩れたときに病気になるからです。生化学反応のバランスを崩す要因はいろいろありえます。化学反応を触媒する酵素の遺伝子が欠損していたり、栄養のバランスが悪かったり、必要なビタミンが不足していたり、病原菌に感染して病原菌が産生する毒素が特定の生化学反応を阻害していたり、遺伝学的な要因などにより生化学反応を調節する細胞内情報伝達機構に異常が生じていたりと言った具合です。
看護学に必要な生化学
看護師は医師とともに医療を実践する立場にあります。与薬するときにその薬の作用機序を患者さんに聞かれて答えられるにこしたことはありません。万が一の投薬ミスなどに気付くためにも薬の作用機序、すなわちどんな生化学反応に影響を及ぼすのかを知っていたほうがよいでしょう。
- 事例で学ぶくすりの落とし穴 [第1回] 看護師に求められる与薬の知識とは 連載 柳田 俊彦 2020.07.27 医学界新聞 医学書院
- What is the role of biochemistry in medicine? Quora
- A New Approach to Teaching Biochemistry to Nursing Students 1981
体の中の変化を分子の変化として捉えるのが「生化学」です.生化学を学ぶと,体の中で起こるさまざまな反応を,分子レベルで説明することができます.さらに,疾病の症状が起こるメカニズムも説明できるので,生化学は疾病の治療とも密接にかかわっています.‥ 生化学の知識があれば,なぜ発熱するのかといった症状や,熱を下げるにはどうしたらよいかという治療の方針まで理解できます.つまり生化学を勉強することは,ヒトの体の中で起こっていることを理解するもっとも効率のよい方法なのです.(石堂一巳『生化学』2022年1月)
日常生活と生化学との関係
What you are is what you eat.という言葉があります。自分が食べたものが自分の体になるということです。どんなものをどれくらいの量食べればいいのか?その答えは生化学が教えてくれます。
参考
生化学biochemistryとよばれる学問分野は、歴史の長い生物学biologyや医学medicine (or medical science)と化学chemistryという異なる学術領域をミックスさせた学際的な出自をもつ、比較的あたらしい分野です。ちなみに、生化学分野おいて歴史的も内容的にも最も有名な学術雑誌The Journal of Biological Chemistryの創刊は1905年です。生化学では、生体のもつ分子(生体分子)の化学構造を決定し、生体中で起こっている化学反応(生化学反応)をひとつひとつあきらかにしてゆくことを勃興当時の中心テーマとしていました。やがて、生化学反応をつかさどる酵素enzymeの本体がタンパク質であることがわかってくると、タンパク質を分離・解析して、タンパク質の機能をあきらかにすることも大きなテーマとなってきました。そして、タンパク質の設計図は遺伝子が担うことも知られるようになり、生化学反応と遺伝子との関連をみいだしてしていくことも生化学が取り組む重要な課題となってきています。(https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-biochem/3263-2013-02-25-07-34-02.html)