産婦人科領域の代表的な癌についてまとめます。
産婦人科領域の代表的な癌:総合まとめ
1. 子宮頸癌(Cervical Cancer)
病態と機序
- 主に**子宮頸部の扁平上皮と腺上皮の移行帯(SCJ)**から発生
- 組織型:扁平上皮癌(約70%)、腺癌(約25%)、腺扁平上皮癌など
- 発癌機序:高リスク型HPV(特にHPV16, 18, 31, 33, 45, 52, 58)の持続感染 → ウイルス癌タンパクE6/E7がp53とRb(pRB)を分解・不活化 → 細胞周期制御の破綻 → 異形成(CIN)→ 上皮内癌 → 浸潤癌へと多段階進展(通常10年以上)
リスク因子
高リスクHPVの持続感染、若年での性交開始、複数の性的パートナー、喫煙、免疫抑制(HIV、移植後)、長期経口避妊薬使用、多産、低栄養(葉酸欠乏)。
病勢進行(FIGO 2018)
- I期:子宮頸部限局
- II期:子宮を超えるが骨盤壁・膣下1/3に達しない
- III期:膣下1/3進展、骨盤壁進展、水腎症、または骨盤・傍大動脈リンパ節転移(IIIC)
- IV期:膀胱・直腸粘膜浸潤、または遠隔転移
層別化治療戦略
- IA1期:円錐切除(妊孕性温存)あるいは単純子宮全摘
- IA2-IB1, IIA1:広汎子宮全摘+骨盤リンパ節郭清。妊孕性希望ならIA2-IB1の一部で広汎子宮頸部摘出術(trachelectomy)
- IB3, IIA2, II-IVA期(局所進行癌):**同時化学放射線療法(CCRT:シスプラチン併用外照射+小線源治療)**が標準
- 新規パラダイム:高リスク局所進行癌(FIGO 2014 IB2-IIB N+ または III-IVA)に対し、KEYNOTE-A18試験でpembrolizumabをCCRTに併用することで有意なPFS改善が示された。2024年1月にFDAがStage III-IVAに対してpembrolizumab+CCRTを承認し、第2回中間解析では全生存期間も有意に改善した
- 再発・転移:プラチナ+パクリタキセル+ベバシズマブ±pembrolizumab(PD-L1陽性)。2次治療以降にはtisotumab vedotin(抗TF抗体薬物複合体)も登場
予防
HPVワクチン(9価ワクチンが主流)と検診(細胞診±HPV検査)の併用で90%以上予防可能であり、産婦人科腫瘍学の中で最も予防可能な癌。
2. 子宮体癌(Endometrial Cancer)
病態と機序
近年は組織学的二分類(タイプI/II)からTCGA/ProMisEに基づく分子分類へとパラダイムシフト。2013年TCGAが4つの分子サブタイプを提唱し、2023年FIGO病期分類にも分子分類が組み込まれた。
TCGA/ProMisE分子分類
分子分類はPOLE focused sequencingとMMRタンパク・p53のIHCを組み合わせ、4サブタイプ(POLEmut、MMRd、p53abn、NSMP)に分類される。
| サブタイプ | 頻度 | 特徴 | 予後 |
|---|---|---|---|
| POLEmut(超変異型) | 約7% | POLE exonuclease domain変異、超高TMB | 極めて良好。5年RFSは100%に近い |
| MMRd(高頻度変異型) | 約30% | MLH1/MSH2/MSH6/PMS2欠損、Lynch症候群関連 | 中間 |
| p53abn(コピー数高型) | 約15% | TP53変異、漿液性癌・癌肉腫の多くを含む | 不良 |
| NSMP(コピー数低型) | 約50% | 上記以外、類内膜癌G1-2が主 | 多様 |
リスク因子
エストロゲン過剰曝露(肥満、未産、早発初経・遅発閉経、PCOS、無拮抗エストロゲン療法、タモキシフェン)、糖尿病、高血圧、高齢、Lynch症候群(生涯リスク40-60%)。
症状・進行
- 主症状:閉経後不正性器出血(最重要警告徴候)
- 進行:子宮筋層浸潤 → 頸部・付属器浸潤 → 骨盤・傍大動脈リンパ節転移 → 腹腔内播種・遠隔転移
- 漿液性癌や明細胞癌では原発巣が小さくても播種・転移を起こしていることがある
層別化治療戦略
手術:筋膜外単純子宮全摘+両側付属器切除が基本。2023年版ガイドラインで筋膜外単純子宮全摘出術が標準術式と明記された。リンパ節郭清は再発リスクで判断、近年はセンチネルリンパ節生検が普及。
術後補助療法(再発リスク群別):
- 低リスク(類内膜G1/2かつIA期):経過観察
- 中・高リスク:化学療法(TC療法:パクリタキセル+カルボプラチン)±放射線
分子分類に基づく個別化:
- POLEmutは予後良好で、術後治療省略の安全性がPORTEC-4、TAPER試験で前向きに評価中
- p53abnは高悪性度で化学放射線療法が標準。一部はHER2阻害薬やPARP阻害薬が有効な可能性
- MMRd:免疫療法の良い適応
進行・再発癌:
- MMRd/MSI-H:pembrolizumab、dostarlimab単独
- pMMR:lenvatinib+pembrolizumab、化学療法+dostarlimab(RUBY試験)など、ICI併用が標準化
妊孕性温存:類内膜癌G1かつIA期(筋層浸潤なし)に限り、高用量MPA療法を適応。
3. 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌(Ovarian/Fallopian/Peritoneal Cancer)
病態と機序
これら3者は同一スペクトラムとして扱われる。**上皮性卵巣癌(EOC)が約90%**を占め、組織型は以下:
| 組織型 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 高異型度漿液性癌(HGSC) | 約70% | TP53変異がほぼ全例。BRCA変異/HRD多い。卵管采が起源とされる |
| 子宮内膜様癌 | 約10% | 子宮内膜症を背景。MMRd、CTNNB1、PTEN変異 |
| 明細胞癌 | 約10%(日本で多い) | 子宮内膜症背景。ARID1A、PIK3CA変異。化学療法抵抗性 |
| 低異型度漿液性癌 | 約5% | KRAS/BRAF変異、緩徐進行 |
| 粘液性癌 | 約3% | KRAS変異、しばしば消化管転移と鑑別 |
その他:胚細胞腫瘍(若年女性)、性索間質性腫瘍(顆粒膜細胞腫など)。
リスク因子
- 遺伝性:BRCA1(生涯リスク40-60%)、BRCA2(10-30%)、Lynch症候群、RAD51C/D、BRIP1
- 排卵回数の増加(未産、不妊、早発初経・遅発閉経)
- 子宮内膜症(明細胞・類内膜癌)
- 高齢、ホルモン補充療法
- 防御因子:経口避妊薬、多産、卵管結紮、母乳育児
症状・進行
**「サイレントキラー」**と呼ばれ、症状が乏しく約70%が進行期で発見される。腹部膨満、腹水、消化器症状、腹痛など非特異的。腹腔内播種が主進展経路で、大網・腹膜・横隔膜・骨盤臓器に拡がる。
FIGO病期分類
- I期:卵巣・卵管限局
- II期:骨盤内進展
- III期:骨盤外腹腔内進展または後腹膜リンパ節転移
- IV期:遠隔転移(実質肝転移、胸水細胞診陽性など)
層別化治療戦略
手術:完全摘出(R0)を目指す根治的減量手術(debulking surgery)。残存腫瘍量が予後に直結。進行癌では術前化学療法(NAC)後にinterval debulking surgeryも選択。
初回化学療法:プラチナ+タキサン(TC療法、3週ごと6サイクル)。進行癌ではベバシズマブ追加。
維持療法(PARP阻害薬がパラダイムシフト): 合成致死性(synthetic lethality)の概念に基づき、HRR欠損(BRCA変異、HRD)腫瘍でPARP阻害が著効。
ASCOガイドラインでは、新規診断のIII-IV期EOCで一次プラチナ化学療法に完全/部分奏効を示した高異型度漿液性または類内膜EOC全例にniraparib維持療法を推奨。BRCA1/2の生殖細胞系列または体細胞病的バリアントを有する患者にはolaparib、ゲノム不安定性を持つ患者にはolaparib+bevacizumabが推奨される。
ネットワークメタアナリシスでは、BRCA変異陽性ではolaparib+bevacizumabが最大のPFS利益を示し、BRCA陰性/HRD陽性でも同様。BRCA陰性/HRD陰性ではPARP阻害薬の利益は限定的。
SOLO-1試験ではBRCA変異陽性患者でolaparibの長期OSが未到達で、プラセボ群75.2か月に対しHR 0.55と顕著な改善。
バイオマーカー検査の重要性:
- BRCA1/2(生殖細胞系列+体細胞)
- HRD検査(GIS:genomic instability score)
- これらにより治療を層別化
再発例:プラチナ感受性なら再プラチナベース、PARP阻害薬維持。プラチナ抵抗性は単剤治療+ベバシズマブ、抗FRα-ADC(mirvetuximab soravtansine、FRα高発現症例)など。
遺伝性の予防:BRCA変異キャリアにはRRSO(リスク低減卵管卵巣摘出術)を35-40歳以降に推奨。
4. その他の婦人科癌
外陰癌(Vulvar Cancer)
- 主に扁平上皮癌。**HPV関連型(若年)とHPV非関連型(高齢、苔癬硬化症背景、p53変異)**の二経路
- 治療:広汎外陰切除+鼠径リンパ節郭清(センチネル生検が普及)。進行例はCCRT
膣癌(Vaginal Cancer)
- 稀(婦人科癌の1-2%)。HPV関連扁平上皮癌が大半
- 治療は放射線療法中心
絨毛性疾患(Gestational Trophoblastic Disease)
- 胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌、胎盤部位腫瘍を含む
- hCGが優れた腫瘍マーカーで、進行癌でもメトトレキサート/EMA-COなど化学療法による治癒率が高い
子宮肉腫
- 平滑筋肉腫、子宮内膜間質肉腫、未分化肉腫など。化学療法・放射線への感受性が低く予後不良。手術が中心。
共通する現代的潮流
- 分子プロファイリングによる個別化医療:体癌のTCGA分類、卵巣癌のHRD/BRCA、頸癌のPD-L1
- 免疫チェックポイント阻害薬の標準治療化:頸癌、体癌、MSI-H腫瘍全般
- PARP阻害薬による合成致死性の臨床応用:卵巣癌で確立、体癌・頸癌へ拡大中
- 抗体薬物複合体(ADC)の登場:tisotumab vedotin(頸癌)、mirvetuximab(卵巣癌)
- 妊孕性温存治療の普及:早期癌で適応拡大
- HPVワクチンによる頸癌の根本的予防
まとめ
| 子宮頸癌 | 子宮体癌 | 卵巣癌 | |
|---|---|---|---|
| 主機序 | HPV持続感染 | エストロゲン過剰/分子4型 | HRR欠損(BRCA/HRD) |
| 好発年齢 | 30-50代 | 50-60代(閉経後) | 50-70代 |
| 早期症状 | 不正性器出血 | 閉経後出血 | 乏しい(進行発見多) |
| 検診 | 細胞診/HPV | 確立されず | 確立されず |
| 一次予防 | HPVワクチン | 体重管理 | RRSO(BRCA陽性) |
| 標的治療 | ICI、抗TF-ADC | ICI、HER2、PARP | PARP、Bev、抗FRα-ADC |
(執筆:Claude Opus 4.7)