脂質の運搬方法:キロミクロン、VLDL、LDL、HDLの役割

水に溶けない脂質の運搬には特別な工夫が必要であり、生体内では「リポタンパク質」と呼ばれる、タンパク質、脂質からなる複合体により血液中を運ばれます。リポタンパク質には、大きさや中身の成分などによっていくつかの種類に分けられています。

キロミクロン

食事由来(すなわち消化吸収した小腸由来)の脂質を運ぶのは、キロミクロンというリポタンパク質です。キロミクロンの構成成分は、90%程度がトリアシルグリセロールです。キロミクロンが血中を移動する間に、血管内皮細胞の表面にあるリポタンパク質リパーゼ(LPL)がキロミクロンの中のトリアシルグリセロールを脂肪酸とグリセロールに分解します。遊離した脂肪酸(遊離脂肪酸)の運搬役は血清アルブミンです。遊離脂肪酸は、中性脂肪、肝臓、筋肉などに取り込まれて中性脂肪が合成されます。

VLDL

食事由来の脂質を運ぶのは、キロミクロンだったのに対し、肝臓由来の資質を運ぶのが、VLDLです。これらは一緒に覚えておくと、混乱しなくて済みます。

肝臓は中性脂肪を血中に放出しますが、そのときのリポタンパク質がVLDLです。VLDLとIDLとLDLはものとしては連続的で、血流に乗って移動していくときに血管内皮細胞の表面にあるリポタンパク質リパーゼ(LPL)の働きにより内容物である中性脂肪がグリセロールと脂肪酸に分解されて、内容物が減っていき成分の比率が変わっていき、大きさも小さくなっていくにしたがって、名称が、VLDL→IDL→LDLと変わっていくのです。LDLになると主要な中身はコレステロールエステルになっています。そして末梢でコレステロールエステルが取り込まれて、コレステロールになって利用されます。

VLDLが肝臓から分泌されるのは食事直後と食間のどちらでしょうか?

脂質の栄養に関する記述である.正しいのはどれか.(第27 回(2013 年),83

 食後には,貯蔵脂肪の分解が促進される.
 食後には,血液中のVLDL が減少する.
 絶食によって,血液中のキロミクロンは増加する.
 絶食によって,血液中の遊離脂肪酸は増加する.
 絶食によって,ケトン体の合成は減少する.

管理栄養士国家試験対策|化学同人 https://www.kagakudojin.co.jp/special/kokushitaisaku/1_05-01.html

 

解説を見ると、答えは4番目でした。選択肢の2番は、正しくすると、「食後には、血液中のVLDLが増加する」ということです。

集中講義生化学319ページ~を見ると

「食餌中の脂質や肝臓で合成された脂質は、、どのように、どこへ運ばれるか?(リポタンパク質(1):キロミクロン/VLDL)」という章ですが、

食事をとると肝臓はTGとコレステロールを合成し始める。肝細胞で合成されたTGは、ミクロソームトリグリセリド輸送タンパク質(MTP)で小胞体内に運ばれ、別経路で運ばれたコレステロールとともにアポリポタンパク質apoB100と融合して超低比重リポタンパク質(VLDL)を形成し、血液中へ分泌される。

とあります。つまり、食後にはVLDLが上昇するわけです。

他の資料をみると、一見逆のような記述も見られます。「食後」というのがどの時間スケールなのかが良くわかりませんが。

Following a meal, pancreatic insulin secretion into the portal vein acutely inhibits VLDL secretion. While the mechanism is complex and incompletely understood, insulin acutely inhibits apoB synthesis, reduces microsomal transfer protein (MTP) expression, and enhances apoB100 degradation (Figure 2). Insulin suppression of both apoB synthesis and secretion has been demonstrated in isolated human and rat hepatocytes, and is associated with increased apoB100 degradation. https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/very-low-density-lipoprotein

末梢から肝臓へ脂質を運ぶHDL

肝臓から末梢へ脂質を運ぶのがVLDLおよびその成分が途中で変化して名称も変化したIDL, LDLですが、逆に、末梢から肝臓に脂質を運ぶのはHDLです。肝臓から末梢にコレステロールを運ぶLDLは「悪玉コレステロール」と呼ばれるのに対して、末梢から肝臓にコレステロールを運ぶHDLは「善玉コレステロール」としばしば呼ばれています。

  1. 脂質代謝と高脂血症 水谷 尚 ペット栄養学会誌/13 巻 (2010) 1 号 総説