条文の番号を覚える必要性
質問:弁理士試験に合格するためには、「29条は新規性!」と暗記してないとだめなの?
Gemini:「合格レベルに達するには、主要な条文番号の暗記は必須」です。なぜ暗記が必要なのか、そしてどうすれば楽に覚えられるか、その「カラクリ」を解説します。
1. なぜ「条文番号」を覚えないといけないの?
「法文集(試験で貸与される法律の本)」には索引がありません。しかし、暗記が必要な理由は「検索スピード」だけではないのです。
理由①:論文試験では「書く」必要があるから
これが最大の理由です。論文試験では、答えの文章の中に「条文番号」を明記しなければなりません。
(ダメな答案)
「この発明は新しいから、特許になる。」
(合格する答案)
「本願発明は、特許法第29条第1項各号のいずれにも該当しないため、新規性を有する。」
このように、「私の主張の根拠は、法律の〇条にあります!」と指し示すのが法律家の作法です。試験中、法文集は貸してもらえますが、いちいち「新規性は何条だっけ…」と探していたら、絶対に時間が足りずに不合格になります。
理由②:短答試験(マークシート)には法文集がないから
一次試験(短答)では、そもそも法文集を見ることが許されません。
「特許法29条の2の要件として、正しいものはどれか?」
という問題が出たとき、「29条の2=拡大先願」と脳内で変換できないと、問題の意味すら分からないのです。
2. 「辞書」ではなく「地図」で覚える
法律の条文は、「物語の時系列(タイムライン)」で並んでいます。これを「地図」として頭に入れると、細かい番号を忘れても「だいたいあの辺」と瞬時に検索できるようになります。特許法は、以下のような「製品(発明)の一生」の順に並んでいます。
| 章(エリア) | 条文番号の目安 | 内容(ストーリー) |
| 総則 | 1条~28条 | 定義とか、手続きの基本ルール |
| 特許要件 | 29条~38条 | 「どんな発明なら特許になるか?」 (一番大事!) |
| 審査 | 47条~63条 | 審査官がどうチェックするか |
| 特許権 | 66条~99条 | 特許になった後の権利の話 |
| 審判 | 121条~ | もめた時の話し合い(無効審判など) |
| 罰則 | 196条~ | 悪いことした時の罰 |
これを見てください。「29条(新規性)」や「39条(先願)」は、「特許要件(審査のスタートライン)」のエリアにありますよね?「特許を取りたい!審査してくれ!」という入り口の話だから、若い番号(29条あたり)にあるんです。逆に、「無効審判(123条)」や「後用権(176条)」は、「特許になった後のトラブル」の話だから、後ろの方(100番台)にあるんです。この「住所感覚」を持つことが、丸暗記を避けるコツです。
3. 実は「覚えるべき番号」は少ない
200条以上ある特許法ですが、即答できないとマズい「Sランク条文」は、実は20個くらいしかありません。それ以外は、「だいたい130条あたりかな?」とあたりをつけて、法文集をパラパラめくればOKです(論文試験の場合)。
【これだけは!絶対暗記リスト(Sランク)】
この5つだけは、電話番号だと思って今日覚えてしまいましょう。これだけで試験の5割は戦えます。
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29条:新規性・進歩性(基本中の基本)
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29条の2:拡大先願(ちょっと難しい先願)
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30条:新規性喪失の例外(うっかり発表しちゃった時の救済)
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36条:記載要件(願書の書き方ルール)
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39条:先願(早い者勝ちルール)
これらは、勉強していると「親の顔より見る」ことになるので、嫌でも覚えます。ご安心ください。
結論
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Q: 条文番号の暗記は必須か?
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A: 必須です。 特に論文試験の時間短縮のために不可欠です。
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Q: 暗記が苦手な自分にはつらい?
- A: 200個全部覚える必要はありません!まずは「特許要件の29条~39条」のエリアだけ覚えれば十分です。あとは「物語の順序(地図)」でだいたいの場所を把握すれば、法文集を素早く引けるようになります。
最初は「うわぁ…」と思いますが、不思議なもので、繰り返し問題を解いていると「あ、また29条か」と、スーパーの売り場の配置(卵は奥、野菜は手前)のように自然と体が覚えていきますよ。焦らずいきましょう!
実際の出題のされ方
「第◯条の内容を答えよ」というクイズ形式そのものが出るわけではありませんが、「29条の2といえばアレのことだよね?」という前提で会話が進むのが、弁理士試験(特に短答と口述)のリアルな姿なんです。具体的にどんな風に出題されるのか、「絶望」ではなく「対策」に変わるように、実際の出題パターンをお見せします。
1. 短答試験(マークシート)での出かた
~「タイトル」として登場する~
実際の問題文は、こんな感じで始まります。
【実際の問題文のイメージ】
『特許法第29条の2の規定に関し、次のうち、正しいものはどれか。』
出願人が同一である場合でも、適用される。
- 発明者が同一である場合は、適用されない。…(以下略)
怖ろしいことに、問題文には「拡大先願」という言葉は一言も書いてありません。「29条の2」という記号を見て、瞬時に脳内で「あ、拡大先願の話ね!」と変換できないと、選択肢の〇×が判定できないのです。これが、「主要な条文番号は暗記しないと試合にならない」と言われる理由です。
2. 口述試験(面接)での出かた
~これが一番怖い!~
最終試験である口述試験では、面接官といきなりこんな会話が始まります。
面接官: 「では、特許法第29条の2の規定についてお伺いします。この規定の趣旨を述べてください。」
受験生: (えっ…29条の2って何だっけ…新規性だっけ…先願だっけ…)「えーと…」
面接官: 「……。(無言の圧力)」
ここで「拡大先願のことですね!」と即答できないと、その場で沈黙が続き、不合格のリスクが一気に高まります。法文集を見せてもらえる場合もありますが、基本的には「主要条文は覚えてきて当然だよね?」というスタンスで質問が飛んできます。
3. でも、安心して!「人間の脳」は適応します
これを聞くと「自分には無理だ…」と思うかもしれませんが、大丈夫です。私たち受験生は、数字を「数字」として覚えているわけではないのです。「固有名詞(ニックネーム)」として認識しています。例えば…
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「セブンイレブン」 と聞いて、「7と11の数字」とは思いませんよね?「コンビニ」という概念が浮かびますよね。
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「AKB48」 と聞いて、48という数字の意味より「アイドルグループ」と認識しますよね。
それと全く同じ感覚になります。
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「29条の2」 → 数字ではなく、「カクダイセンガン」という名前のキャラクターに見えてくるんです。
勉強を始めたばかりの今は「ただの無機質な数字」に見えると思いますが、何度も何度もテキストで「29条の2(拡大先願)」という文字を見ているうちに、「ああ、またアイツか」と、親戚のオジサンの顔のように馴染んできます。
結論
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Q. 「29条の2については…」という問題は出る?
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A. ガンガン出ます。
- 対処法: 丸暗記しようと力む必要はありません。「29条の2」は、この業界の「超有名アイドル(センター)」なので、勉強を進めれば、嫌でも顔と名前(番号と内容)が一致するようになります。
今は「へぇ、そんなに有名な番号があるんだ」くらいに思っておいて、まずは「中身(概念)」の理解に集中して大丈夫ですよ!
合格に必要な暗記すべき条文の数は
安心してください。「全部で200条あるうちの、トップ15」くらいを押さえれば、まずは合格ラインです。今から挙げる「メジャー条文」は、毎日使うので自然と覚えます。覚悟を決めていただくために、「これだけは番号で言えないとマズいリスト」を公開します。
【Sランク】 番号即答必須リスト
特許要件(29条周辺)以外で、プロが「番号」で呼ぶのはコイツらです。
1. 手続き・補正(審査の途中の話)
ここが一番出ます。特に「17条の2」は親の顔より見ます。
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第17条の2: 補正(願書を書き直すこと)。
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「17の2によれば~」と、受験生は呼吸するように言います。
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第41条: 国内優先権。
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「自分の過去の出願をベースに、新しい内容を盛り込む」制度。超重要かつ超複雑。
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第44条: 分割出願。
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「特許の一部を切り分けて、別の特許として出す」こと。
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2. 拒絶理由(ダメ出し)
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第49条: 拒絶の理由。
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審査官が「お前の特許はここがダメだ!」と言うためのリスト。「49条〇号に該当する」という言い方をします。
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3. 侵害・権利(ケンカの話)
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第68条: 特許権の効力。
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「業として特許発明の実施をする権利を専有する」という、特許権の定義そのものです。
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第70条: 技術的範囲。
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「どこからどこまでが俺の権利か?」を決める条文。
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第101条: 間接侵害。
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「完成品じゃないけど、部品を売っただけでも侵害になる?」という話。「101条問題」と言えばこれ。
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第104条の3: 無効の抗弁。
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「俺の特許を侵害だと言うけど、そもそもお前の特許、無効だろ?」と裁判で言い返す必殺技。
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4. 審判(話し合い)
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第121条: 拒絶査定不服審判。
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審査官にNOと言われたけど、納得いかない時の不服申し立て。
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第123条: 無効審判。
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ライバルの特許を消すための手続き。
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「覚えなくていい」条文も山ほどある
逆に言うと、これら以外は「なんとなくあの辺」で大丈夫です。
例えば:
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第1条(目的): 「産業の発達」とか書いてあるだけ。番号は覚えるまでもない。
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第47条、48条(審査官の資格): 誰も気にしません。
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第196条(罰則): 「懲役10年以下」とか書いてありますが、試験で「何条か?」とは聞かれません。
効率的な覚え方:語呂合わせよりも「セット」で
丸暗記がつらい場合、「対立構造(セット)」で覚えると脳に定着しやすいです。
今回あなたが学んだ知識を整理すると、もうこんなに覚えられていますよ。
| セット名 | 条文番号 | 内容 |
| ライバルの攻撃セット | 123条 vs 104条の3 | 「無効審判」で攻めるか、「裁判所」で反論するか。 |
| 出願の修正セット | 17条の2 | 内容を直す(補正)ときのルール。 |
| 出願の分裂・合体セット | 44条 & 41条 | 分けるのが44条(分割)、合体させるのが41条(優先権)。 |
| 救済四天王(攻略済) | 79, 80, 112の3, 176 | あなたが詳しくなった「先使用権」たち。 |
結論
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Q:暗記すべきは、29~38条あたりだけで十分?
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A: 残念ながら、17条の2、41条、44条、123条あたりも必須です。
- アドバイス:一気に覚えようとしないでください。「特許要件(29条)」がわかっていないと、そもそも「補正(17条の2)」の意味がわかりません。勉強の進度に合わせて、「新しいボスキャラが登場したな」くらいの感覚で、1つずつクリアしていけば大丈夫です。
特許法だけじゃなく商標法とか著作権法とかも?
「はい、その通りです。」……ですが、絶望するのはまだ早いです!全部が全部、特許法と同じレベルで覚える必要はありません。「暗記の濃度(濃さ)」が法律によって全然違うんです。ざっくり言うと、「特許法と商標法はガチ暗記。あとは流しでOK」というのが、合格者のリアルな感覚です。効率よく脳のリソースを配分するために、「科目別・暗記レベル」を解説します。
1. 暗記レベルMAX:【商標法】
~特許法に並ぶ「もう一人のラスボス」~
残念なお知らせですが、商標法だけは、特許法と同じくらい、いや、それ以上に条文番号が重要です。
なぜなら、商標法には「第3条(識別力)」と「第4条(不登録事由)」という、受験生全員が呪文のように暗唱する「超・巨大条文」があるからです。
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第3条: 「普通名称はダメ」「慣用されているマークはダメ」などのリスト。
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第4条: 「国旗はダメ」「他人の名前に似てたらダメ」「公序良俗違反はダメ」など、なんと1号から19号まであります。
試験では「これは商標法4条1項11号に該当するからダメ!」と、「号数(枝番)」まで即答できるレベルが求められます。
結論: 商標法は、主要な番号(特に3条、4条、50条など)の暗記からは逃げられません。ここが第二の山場です。
2. 暗記レベル中:【意匠法】
~特許法の「弟分」なのでラク~
意匠法(デザインの法律)も番号は大事ですが、特許法と構造がソックリなので、新しく覚えることは少ないです。
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特許法の「29条(新規性)」→ 意匠法では「3条」
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特許法の「29条の2(拡大先願)」→ 意匠法では「3条の2」
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特許法の「39条(先願)」 → 意匠法では「9条」
このように、「特許法でいうアレは、意匠法だと何番?」という「変換テーブル」を頭に入れるだけで済みます。ゼロから覚える必要はないので、特許法をマスターしていれば半分終わったようなものです。
3. 暗記レベル低:【実用新案法】
~ほぼ「特許法のコピペ」~
実用新案法は、条文のほとんどが「特許法の第〇条を準用する(コピーして使う)」と書いてあるだけです。
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「実用新案法 第〇条 $\rightarrow$ 特許法 第〇条を準用する」
と覚えるだけなので、固有の番号を覚える必要はほとんどありません。特許法の知識がそのまま使えます。
4. 暗記レベル特殊:【著作権法・不競法】
~番号よりも「キーワード」~
この2つは、条文の数が膨大だったり、定義が抽象的だったりするので、「第何条か?」というピンポイントな出題頻度は下がります。
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著作権法:
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「30条(私的使用のための複製)」 などの「権利制限規定(ここからここまでならパクってOK)」のエリアだけは重要ですが、それ以外は「著作者人格権」などの言葉の意味がわかれば戦えます。
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不正競争防止法:
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「2条(定義)」 が全てです。ここだけ異常に長いですが、ここさえ押さえればあとはオマケです。
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まとめ:あなたの脳への負担グラフ
これからの学習ロードマップはこんな感じです。
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特許法(いまここ): 【負担度 100】
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一番しんどい。でもこれが「法律の共通言語(ベース)」になる。
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実用新案法: 【負担度 5】
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「特許法と同じ」で終了。
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意匠法: 【負担度 40】
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「特許法の弟分」として、違う部分(特有の制度)だけ覚える。
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商標法: 【負担度 90】
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ここだけ要注意! 全く違うルール(ブランド保護)なので、新しい番号の暗記が必要。
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条約・著作権・不競法: 【負担度 30】
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重要ポイントつまみ食いでOK。
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結論
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Q. 全部覚えなきゃいけないの?
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A. いいえ。「特許法」と「商標法」の2つだけがメインです。あとは「流用」や「要点のみ」でなんとかなります。
今は「特許法という一番巨大な山」を登りきれば、あとは下り坂や低い丘が待っています。「特許法の30個」さえクリアできれば、あとの法律は「あ、これ特許法でやったアレに似てるな」と楽に覚えられますよ!安心してください。