自然リンパ球とは
近年の研究から,生体,特に粘膜組織において,抗原受容体をもたないリンパ球が数多く存在することが明 らかとなり,粘膜バリア機能の維持や感染初期応答などの粘膜免疫におけるキープレーヤーとして注目されてい る.これらのリンパ球はリンパ球系共通前駆細胞(Common lymphoid progenitor; CLP)を起源とし,細胞質が 乏しいリンパ球様の形態をもつことから自然リンパ球 (Innate lymphoid cell; ILC)と命名された(1).今日ILC と呼ばれる細胞群は,1975年に発見されたウイルス感染細胞や腫瘍細胞に対する障害活性をもつNK(Natural Killer)細胞(2),1997年に発見されリンパ組織形成に重 要なLTi(Lymphoid Tissue inducer)細胞(3)やその近縁細胞(4, 5),2001年に報告されたIL-25依存的にTh2免疫応答を誘発する非T非B細胞(6)をはじめ2010年以降発見されたNH(Natural Helper)細胞(7)やNuocyte(8)な どを包含する概念である.現在,ILCは機能的な観点か ら1型,2型,3型に分類されている.さらに,「NK細胞はILCではあるが,細胞障害活性をもつという点で 1‒3型のILCとは区別される」との概念が定着してきた(9).一方,ILC同様に迅速な応答を起こすリンパ球としてインバリアント鎖をもつMAITやiNKT細胞,γδT 細胞,natural IgMを産生するB1細胞や脾臓辺縁帯に存在するMarginal Zone (MZ) B細胞が知られ,免疫初期 応答における重要性が報告されている.これら非典型的 T細胞,B細胞はILCとは別にinnate lymphocyteと呼 ばれることもあるが,日本語の自然リンパ球はILCなら びにinnate lymphocyte両方の概念を含んでおり,しば しば混乱を招く.本稿では自然リンパ球としてILCのみ を紹介し,innate lymphocyteは他稿を参照していただ きたい.(自然リンパ球(ILC: Innate Lymphoid Cell)の役割 澤 新一郎 化学と生物 Vol. 53, No. 2, 2015)
抗原特異的な受容体を発現し獲得免疫で働くT細胞、B細胞に対し、抗原受容体を持たず自然免疫で働くリンパ球をInnate lymphoid cells (ILC)と呼ぶことが定着してきた。3つのサブセットに分類されるILCの中でもILC2は、寄生虫感染やアレルギー性疾患で発現するIL-25やIL-33によって活性化し、IL-5やIL-13などの2型サイトカインを産生することで寄生虫感染に対して急速な防御反応を示し、一方でアレルギー症状を悪化させる原因細胞となることが明らかになっている。(2型自然リンパ球が関与する多様な疾患 学友会セミナー:2018年06月26日 東京大学医科学研究所)
抗原レセプター を持たないリンパ球にはNK細胞のほかに自然リンパ球(ILCs:innate lymphoid cells)がある。ILC1はインターフェロンγを,ILC2はIL-5,IL-13を,ILC3は IL-17ないしIL-22を産生して機能を果たす。(獲得免疫と自然免疫)
自然リンパ球の発見
当時大学院生の茂呂和世さんが、腹腔の腸管膜辺りを観察したときに、これまでに報告のないリンパ球細胞の集積を見つけました。研究テーマを探していた彼女は、この集積を調べてみることにしました。細胞表面のマーカータンパク質を調べると、教科書に載っていない新しいタイプのリンパ球が含まれていたのです。最初は、リンパ球の前駆細胞で未分化なのだと考えました。それで分化するのではと2年間調べましたが、何の細胞にも分化しなかったのです。Th2型サイトカインの発現が高いことが分かり、また細胞を刺激すると、多量のIL5とIL13を産生したのです。この細胞は、寄生虫感染の初期(感染後約2日目)からIL5やIL13を分泌し、Th2細胞が働き始めるまで、寄生虫を攻撃していることが分かったのです。この細胞は抗原特異的受容体を持たないことから、自然免疫の細胞と考えられ、ナチュラルヘルパー細胞と名付けました。(自然リンパ球の開拓者 小安 重夫 Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140117)
最近,新たな白血球として,「自然リンパ球」と呼ばれる細胞集団が発見されました。最近の研究で,自然リンパ球の活性化がアレルギー疾患や自己免疫性疾患,がんなどに関係しているらしいことがわかってきましたが,まだまだはっきりしない点が多く,さらなる研究が必要 です。(当院にて2013年1月から2018年12月の間に生体検査または手術を受けられた患者さんへ ― 「自然リンパ球関連疾患の探索研究」について ― 京都大学 kuhp.kyoto-u.ac.jp)
ILC2は腸間膜に存在するリンパ球集積 ”Fat associated lymphoid cluster (FALC)”で発見され、当初NH(ナチュラルヘルパー)細胞と名付けられました。 (大阪大学免疫学フロンティア研究センター)
自然リンパ球の分類
グループ1に属するILCはインターフェロンγおよび TNFに代表される 1型サイトカイン群を産生し、NK細胞およびILC1を含む。
グループ2に属するIL-4, IL-5, IL-9, IL-13のような2型サイトカイン群を産生する。 ILC2は寄生虫に対する2型サイトカイン応答に決定的な役割を示す。
グループ3に属するILCは IL-17A または IL-22 を産生する能力により特徴付けられる。ILC3、およびリンパ組織誘導細胞 (lymphoid tissue-inducer (LTi) cells)を含む。(自然リンパ球 ウィキペディア)
自然リンパ球に関するレビュー論文
- The expanding family of innate lymphoid cells: regulators and effectors of immunity and tissue remodeling Hergen Spits & James P Di Santo Nature Immunology 28 November 2010 ; volume 12, pages21–27(2011) https://www.nature.com/articles/ni.1962
参考
- 自然リンパ球とアレルギー 松本健治 アレルギー65(3):153-158