転写調節因子は、凝集したクロマチンにも結合できる?

転写調節因子がクロマチンに結合できるかという問題は、ヌクレオソームの「閉じた」状態と「開いた」状態の区別、そしてパイオニア転写因子という特殊なクラスの存在が鍵になります。

## 基本的な構図

凝集したクロマチン(ヘテロクロマチン的な高度に凝縮した状態、あるいはヌクレオソームに巻きついた状態)は、多くの転写調節因子にとって**物理的な障壁**になります。

典型的な転写因子は、DNAの認識配列が自由(naked DNA)であるか、少なくともヌクレオソーム表面に露出している必要があります。ヌクレオソームのコアにDNAが巻きついていると、塩基のメジャーグルーブ・マイナーグルーブへのアクセスが立体的に制限され、ヒストン八量体に面した側の配列はほぼ結合不可能になります。したがって「普通の転写因子は閉じたクロマチンには結合しにくい」というのが原則です。

## ただし、パイオニア転写因子(pioneer transcription factor)は例外

ここが面白いポイントです。**パイオニア因子**と呼ばれる一群は、ヌクレオソームに巻きついたままのDNA、あるいは閉じたクロマチンの標的配列に**最初に結合できる**特殊な能力を持ちます。代表例:

– **FoxA**(肝臓の分化で古典的に研究された。ヒストンH1に似たwinged-helixドメインでリンカー領域に結合)
– **GATA因子**
– **Oct4, Sox2, Klf4**(山中因子。体細胞をiPS細胞へリプログラミングする際、閉じたクロマチンに最初にアクセスする能力が本質的)

これらは結合後にヌクレオソームを動かしたり、クロマチンリモデリング複合体やヒストン修飾酵素を呼び込んだりして、その領域を「開いた」状態に変え、後続の通常の転写因子が結合できる足場を作ります。つまり**クロマチンを開く先駆け(pioneer)**という名前の由来です。

## 整理

三段階で理解すると伝わかりやすいと思います。

第一に、DNAがむき出し(プロモーター・エンハンサーが開いている)なら通常の転写因子が結合する。第二に、ヌクレオソームに巻きついていても表面に部分的に配列が露出していれば結合できる因子がある。第三に、完全に閉じた領域には、まずパイオニア因子が結合してリモデリングを誘導する、という順序です。

なお、「凝集したクロマチン」という語が、ヌクレオソームレベルの話なのか、HP1などによる高度に凝縮したヘテロクロマチン(構成的ヘテロクロマチン)を指すのかで答えが変わります。前者ならパイオニア因子が突破口になりますが、後者の安定なヘテロクロマチンは一般にパイオニア因子でもアクセスが困難で、まずヒストン脱メチル化など抑制マークの除去が必要になることが多いです。