HLA抗原遺伝子の多様性とMHC分子の構造 日本人に多いハプロタイプ

iPS細胞を再生医療の分野に応用する試みとして、眼科領域ではiPS細胞由来の角膜上皮移植が試みられているそうです。

  1. iPS細胞で角膜上皮を安全に再生可能first-in-human臨床試験 2023年02月15日 MedicalTribune 再生医療用にストックしたHLAホモドナー由来iPS細胞(他家iPS細胞)を用いることで、短期間に低コストで均質のシートが作製できる

ハプロタイプとは

HLA遺伝子第六染色体短腕部分にあり、クラス1に所属するA、B、C遺伝子、クラスⅡに所属するDP、DQ、DR遺伝子がある。まとまった【クラスⅠ(A-B-C)-クラスⅡ(DP-DQ-DR)】をハプロタイプという。A、B、C遺伝子、DP、DQ、DR遺伝子は、例えばA座について、A1、A2、A3……と数十種類の型(アリル)があり、それは、B、C遺伝子、DP、DQ、DR遺伝子も同様にそれぞれ数十種類の異なるアリルがある。そのためハプロタイプの組み合わせは、数万通りの多様性を生む。父方から一つハプロタイプ、母方の1つのタイプのハプロタイプを持ち、計2つのハプロタイプが一対になって一つのセットを形成する。両親それぞれから同じアリルを受け継いだ場合、例えばA座について、A1A1、A2A2、A3A3……のような組み合わせの細胞を「HLAホモ接合体」と言い、「HLAヘテロ接合体」の人に移植しても免疫拒絶反応が起こりにくいと考えられている。(ゲノム編集による HLA遺伝子改変がiPS再生医療の鍵か? 2020.03.27 セツロテック)

  1. HLA 推定アレル一覧表(JSHI)2022年度版

ハプロタイプは理解できたとして、遺伝子A、B、Cや遺伝子DP、DQ、DRからできるポリペプチドによってできるMHCクラスI分子やMHCクラスII分子はどのような構造をしているのでしょうか。

  1. 造血細胞移植のための HLAガイドブック (日本赤十字社HLA委員会, 日本造血細胞移植学会)
  2. 日本組織適合性学会講習会テキスト集
  3. 2021年度認定HLA検査技術者講習会テキスト 基礎知識
  4. HLA検査に必要な最低限のHLA知識 (1)HLAの基礎 2021/1/23 ベリタスWeb講演会 中島文明
  5. HLA検査に必要なHLAの礎知識(2)2021/4/17 ベリタスWeb講演会 中島文明 DRA 顕著な多型なし    DQA1 DPA1 多型あり
  6. 臓器移植における組織適合性検査の意義 2020 臨床的には、この全てを検査することは不可能なので、class IとしてAとB,class IIとしてDRが検査される
  7. 2019年度認定HLA検査技術者講習会テキスト HLAの基礎知識
  8. 平成24年度認定HLA検査技術者講習会テキスト
  9. HLAと抗体 2006年
  10. HLAの検査法
  11. HLA HLAってなにってなに?第28回血液学を学ぼう!2019.4.22

 

MHCクラスI分子の構造

MHCクラスI分子は、45kDaの大きさのペプチド鎖と12kDaの大きさのペプチド鎖(β2ミクログロビン)からなる二量体です。クラスI遺伝子A、B、Cは45kDaのペプチドをコードしており、ハプロタイプの説明にあるように遺伝子が3種類、さらにそれぞれの遺伝子で数十種類のアレルがあります。その一方で、β2ミクログロビンは、別の染色体上にあり、遺伝子A,B,Cからできるペプチド鎖に共通して用いられます。

つまり一つの細胞の中では、父親由来の染色体6番と母親由来の6番染色体のそれぞれにMHCクラスI遺伝子A,B,Cがあるので、合計6種類のMHCクラス1分子の45kDaペプチドが存在することになります。

  1. Lippincott Illustrated Reviews: Immunology 3rd Edition 69ページ

MHCクラスII分子の構造

クラスIIMHC分子は、ほぼ同じ大きさと形をもつα鎖とβ鎖からなる二量体です。遺伝子DP,DQ,DRのそれぞれがα鎖とβ鎖をコードする遺伝子を持っています。またα鎖とβ鎖の組み合わせは、DP内、DQ内、DR内だけであって、DPのα鎖とDQのβ鎖といった組み合わせはありません。ただし、父親由来の6番染色体と母親由来の6番染色体があるわけですが、αが父親由来のDPから、βは母親由来のDPからという組み合わせは許されています。

  1. Lippincott Illustrated Reviews: Immunology 3rd Edition 70ページ
  2. HLA-DRA Also known as HLA-DRA1. HLA-DRA is one of the HLA class II alpha chain paralogues.
  3. HLA-DRB1 Also known asSS1; DRB1; HLA-DRB; HLA-DR1B. HLA-DRB1 belongs to the HLA class II beta chain paralogs. The class II molecule is a heterodimer consisting of an alpha (DRA) and a beta chain (DRB), both anchored in the membrane.

ということは、アレルが全部異なっている場合には、2x2x3=12通りのMHCクラスII分子が一つの細胞内で発現していることになりますかね。

ちなみに兄弟でどれくらいHLAが一致する可能性があるかというと、父親からどちらの6番染色体をもらうかで2通り、母親から母親がもっている6番染色体のどちらをもらうかで2通りあるので、組み合わせは2x2=4通りになります。

ハプロタイプの実際のデータが下のリンクから得られます。

  1. Haplotype Frequency

臓器移植

  1. わが国のHLA不適合血縁者間造血幹細胞移植の現状  2012年

HLAハプロタイプと疾患リスク

疾患 関連を示すHLA型 患者集団中の
頻度(%)
一般集団中の
頻度(%)
オッズ比
強直性脊椎炎 HLA-B27 83.3 0.5 1056.3
ベーチェット病 HLA-B51 B*51:01 59.4 13.6 9.3
ナルコレプシー
HLA-DR2 DRB1*15:01 100 12.4 1372.7
HLA-DQ6 DQB1*06:02 100 12.4 1372.7
関節リウマチ
HLA-DR4 DRB1*04:05 58.8 24.7 4.4
HLA-DQ4 DQB1*04:01 58.8 24.7 4.4
1型糖尿病
HLA-B54 B*54:01 44.1 14 4.8
HLA-DR4 DRB1*04:05 56.6 24.7 4
多発性硬化症
(眼神経、脊髄型)
HLA-DPw5 DPB1*05:01 93.6 61.8 9
    1. (転載元:https://hla.or.jp/about/hla/ 表の一部を転載)
  1. Genetic Variation Within the HLA-DRA1 Gene Modulates Susceptibility to Type 1 Diabetes in HLA-DR3 Homozygotes Diabetes. 2019 Jul; 68(7): 1523–1527. Published online 2019 Apr 8. doi: 10.2337/db18-1128 PMCID: PMC6609989 PMID: 30962219
  2. Genome-wide association study and meta-analysis find that over 40 loci affect risk of type 1 diabetes Nat. Genet., 41 (6) (2009), pp. 703-707, 10.1038/ng.381
  3. Localization of type 1 diabetes susceptibility to the MHC class I genes HLA-B and HLA-A Nature, 450 (7171) (2007), pp. 887-892, 10.1038/nature06406

再生医療用同種iPS細胞ストックの作製

  1. 再生医療用同種iPS細胞ストックのドナーリクルートについてDonor recruitment of allogeneic iPS cell repository for regenerative medicine齋藤 潤京都大学iPS細胞研究所・臨床応用研究部門 iPS 細胞の製造および品質管理には多くの時間とコストがかかるため, 多種多様なHLA型を網羅することは難しい。そこで京都大学iPS細胞研究所では、HLA-A, -B, -DRの3座においてホモ接合体のドナー(国民の約2%)から樹立した複数のiPS細胞株を樹立し、将来の細胞移植医療に利用可能な医療用iPS細胞ストックを確立することを計画している。‥ HLA(3座)ホモ・ドナー由来のiPS細胞を50株樹立し, ストックとして供給できれば, 国民の7割へ3座一致により拒絶反応のリスクを低減した移植が可能と試算される。‥

iPS細胞ストックに関する関連論文

  1. A clinical-grade HLA haplobank of human induced pluripotent stem cells matching approximately 40% of the Japanese population JANUARY 13, 2023 Med