意匠法
(意匠原簿への登録)
第六十一条 次に掲げる事項は、特許庁に備える意匠原簿に登録する。
一 意匠権の設定、移転、信託による変更、消滅、回復又は処分の制限
二 専用実施権の設定、保存、移転、変更、消滅又は処分の制限
三 意匠権又は専用実施権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の制限
2 意匠原簿は、その全部又は一部を磁気テープ(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録して置くことができる物を含む。以下同じ。)をもつて調製することができる。
3 この法律に規定するもののほか、登録に関して必要な事項は、政令で定める。
短答式問題
【意匠】6
日本を指定締約国とするハーグ協定のジュネーブ改正協定の規定による国際出願に係る
国際登録に関し、次のうち、正しいものは、どれか。
3 国際登録を基礎とした意匠権を目的とする質権の設定、移転、変更、消滅又は処分の
制限は、国際登録簿に登録されたところによる。
解き方・考え方
結論:×
考え方のステップ
① まず「国際登録簿で管理されるもの」を押さえる
国際登録簿はWIPO国際事務局が管理する帳簿で、そこに記録されるのはハーグ協定**16条(1)**に列挙された事項だけ:所有権の変更(=移転)、名義人の氏名・住所変更、放棄、限定、無効…など。
ここに 質権は入ってない。質権は各国国内法上の担保物権で、WIPOは一切関知せえへん。これが一番の決め手。
② 質権は「国内」の話やと気づく
意匠権を目的とする質権の設定・移転・変更・消滅・処分の制限は、意匠法61条1項3号で国内の意匠原簿に登録する事項。効力は意匠法36条で準用する特許法98条(登録=効力発生要件)で処理される。国際登録簿は出てこうへん。
③ 商標の類似規定と横断比較してダメ押し
「国際登録簿に登録されたところによる」って文言は、実は商標法68条の27第2項から持ってきたやつ。でもその対象は:
| 対象 | 国際登録簿による? |
|---|---|
| 更新・移転・変更(信託除く)・消滅 | ○(商68条の27②) |
| 質権 | ✕(規定なし) |
| 信託による変更 | ✕(商標原簿。68条の27②かっこ書) |
商標ですら質権は「国際登録簿による」の対象外。意匠も当然同じ発想。
④ そもそも条文が存在しない
意匠法の特例(60条の6〜60条の24)を見ても、質権について「国際登録簿に登録されたところによる」なんて条文はない。60条の13=設定登録の特例、60条の14=消滅、60条の17=放棄の特例…と並んでるけど、質権は素通り。
ひっかけの構造
この問題、「27条1項3号(=質権の設定・移転…の列挙)」+「商68条の27②の文末(=国際登録簿に登録されたところによる)」を合体させて作った合成問題やね。それっぽい部品を貼り合わせると、読んだ瞬間「あれ、なんかどっかで見た文言や」となって○にしてしまう。
立法趣旨で覚えとくなら一本:「質権=国内の担保物権やからWIPOは管理せえへん。国際登録簿の管理事項はハーグ16条が天井」。これさえ握っとけば、特・実・意・商どこで聞かれてもブレへん。
質権は各国国内法上の担保物権
「質権は国内」って、なんでそうなるか、順に説明する。
① 質権はそもそも「民法上の担保物権」
質権って、もともと民法が定める担保物権やんか(民法342条〜)。「金貸すから、お前の権利を担保に入れとけ」っていう、債権者と債務者の間のお金の話。意匠権を質に入れるってのは、その意匠権を担保に融資受ける、みたいな国内の金融取引。
これは条約が作った概念ちゃう。各国の私法(日本やったら民法+意匠法)が独自に作ってる制度。だから「どこの国の質権か」は、その国の法律次第。フランスに質権があるか、あるとして要件どうか、なんてハーグ協定は知らんし、決められへん。
② ハーグの国際登録簿が扱うのは「登録という対象物」だけ
WIPOの国際登録簿が管理するのは、ハーグ16条(1)に列挙された事項に限られる:
- 所有権の変更(移転)
- 名義人の氏名・住所の変更
- 放棄
- 限定
- 無効
- 規則で定める関連事項
質権、入ってへんやろ。つまりWIPOには質権を記録する仕組みも権限もない。条約が「これだけ扱う」と決めてる枠の外、ってこと。
③ 「国際登録を基礎とした意匠権」は、中身は日本の意匠権
ここが核心。意匠法60条の14第2項で定義されとるけど、これは国際出願ルートを通って日本で設定登録された日本国の意匠権。生まれ方が国際ルートなだけで、できあがったモノは普通の日本の意匠権=日本法上の財産。
日本の意匠権に質権を設定するんやから、
- 登録先は国内の意匠原簿(意匠法61条1項3号)
- 効力は意匠法36条で準用する特許法98条(登録=効力発生要件)
- 物上代位とかも国内法(特96条準用)
…全部日本法の中で完結する。WIPOの出番ゼロ。
なんで移転は国際、質権は国内?っていう疑問への先回り
「でも移転(所有権変更)は国際登録簿に載るやん、なんで質権は載らへんの?」と思うはずやから先に潰しとく。
- 移転=誰が登録の持ち主かが変わる話。これは国際登録という対象物そのものの帰属の変化で、全指定国に一発で効くから、WIPOが中央管理する必要がある(ハーグ16条(1)(i))。
- 質権=持ち主は変わらん。所有権の下に乗っかる「担保の重し」で、特定の国の特定の債権者との関係でしか意味を持たへん。条約が中央管理する必要がない層の話。
イメージで言うと、幹(国際登録)の持ち主と存続はWIPOが台帳で管理するけど、日本で生えた枝(日本の意匠権)に巻きつく担保のツタは、日本の庭の中の話、って感じ。
整理すると「国内」の根拠は二段構え:
- 質権という制度自体が条約じゃなく各国私法の産物(民法)
- その質権がかかる対象(国際登録を基礎とした意匠権)が、中身は日本の意匠権で、登録も効力も日本法(意匠法61条1項3号・36条準用98条)で動く
やから「国際登録簿に登録されたところによる」は当てはまらん、っていう①の問題に戻れるわけや。
(Claude Opus 4.8)